公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

「しょうがない」を乗り越えろ!―【中編】構造を理解し、介入ポイントを見つける

問題や状況の構造を捉え、どこにどのような働きかけをすれば目的にあった変化を起こせるかを考えるためのツールがループ図です。長年ものごとを考えるときのツールとして活用してきたテンダーさんに、ループ図の考え方と書き方について手ほどきをしてもらいました。

ループ図の基本的な書き方

1) ある問題や状況について、そこで起こっている要素を思いつく限り書き出しながら、因果関係のある要素を矢印でつないでいく。
2) 因果関係のある二つの要素が、同じ方向に作用する場合は「同」(あるいは「+」)、逆の方向に作用する場合は「逆」(あるいは「−」)と書き込む。

テンダーさんが説明用に書いた「ゴミからものを作る」ループ図をご覧ください。


「人々がプラごみ(プラスティックごみ)を拾う量」が増えると、プラごみを使った「商品数」が増え、「売上金額」が増えます。すると、より性能のいい「加工道具への投資」ができるようになり、道具がそろうと「商品のバリエーション」が増えていきます。商品の種類が増えると、より魅力的な商品写真が撮れるようになるなど「広報力」があがり、そうすると「ワークショップ」の依頼が増えます。ワークショップ参加者が増えると「マネする人の数」が増え、そうするとまた「人々がプラごみを拾う量」が増えるところに戻ってきます。

このように、ある要素からそれによって派生する要素へと矢印でつないでいきます。

このときに、たとえば、「人々がプラごみを拾う量」が増えた結果として、プラごみを使った「商品数」が増えています。両方の要素とも増えていくので「同方向」に作用すると考え、「同」(あるいは「+」)と書き込みます。

一方、「人々がプラごみを拾う量」が増えた結果起こる別の要素として、「街のプラごみの量」は減ります。これは前者が増えたのに対し、後者は減少傾向に作用するので「逆方向」と考えます。「街のプラごみの量」が減った結果、「人々のポイ捨てのしやすさ」が減るのは、両方とも減少傾向なので「同方向」です。

ループ図を書くと、「ゴミからものを作る」ということがどういう連鎖を起こし、全体としてどのような構造になっていくかについて、自分の認識を明らかにすることができます。

レバレッジポイントを探す

下のループ図は、参加者の日常的な困りごとの「学校の忘れ物が多い」を題材にしつつ、ループ図とはどういうものかを説明するためにテンダーさんが仮の要素も加えながら作成したものです。

  


  

テンダーさん 「こっからが話の本筋で。どこに介入するといちばん小さな力で全体を変えられるかを考えるの。これをレバレッジ(てこ)と言います」

そのためには、目的がなにかを明確にする必要があります。たとえば、忘れ物をなくすことで「高い評価を維持したい」ということが本当の目的だとしたら、忘れ物をゼロにしようとするのではなく、忘れ物のことが取り沙汰されないくらいおもしろい別の取り組みをすることで評価を上げることも考えられるとテンダーさんは言います。

ちなみに、ループ図を書いていって、もし矢印がたくさん集中するところがあれば、そこには重要な意味があることが多いそうです。

自己強化ループ

たとえば、オリンピックで選手が勝つとスポンサーがつきます。スポンサーがつけば入ってくるお金が増えます。お金が増えるといいトレーニングができ、いい装備が手に入ります。いいトレーニングをして、いい装備があると、勝つ可能性が上がります。逆に、オリンピックで負けると、スポンサーがつかず、お金が入ってこなくなり、いいトレーニングもできずいい装備も手に入れられなくなる。そうすると負ける可能性が高くなります。

  


  

前者は勝ち続けるループとなり、後者は負け続けるループとなります。どちらも同じパラメータ(「スポンサー」「お金」「良いトレーニング・良い装備」など)で構成されていますが、「勝ち」「負け」のどちらが入力されるかで、それぞれのループを強化し続けます。

これを「自己強化ループ」といいます。そして、ポジティブな自己強化ループとネガティブな自己強化ループが結びついたものを、「強者はさらに強くなる」システム原型*だとテンダーさんが説明します。
  
  

全員に意思があって、それぞれがよかれと思ってやっているからこそ、システムで考えることが重要になります。

このケースでは、たとえば、勝ち続けている人が勝てないように「ルールを変える」という方法も考えられます。「ルールを変える」と「強さの定義」が変わります。柔道の国際ルールが変わって日本の選手が前ほど勝てなくなったのはそういうことです。ただ、これは、権力をもつ人だけができる方法です。それに、これまで勝ち続けてきた人にとっては理不尽な話です。

テンダーさんは、ここでも、なにをどう変えるかは目的によると説明します。もし、みんなが同じぐらいのレベルで競いあって勝負するほうがおもしろいからそういう競技にしたいという目的だったら、スポンサーを禁止にするとか、あるいは、みんなでお金をどう分配するか話しあって、たとえば負けた選手から順番にお金を割り振っていく仕組みをつくるという方法も考えられます。

*スポーツ、経済、環境などのようにシステムが異なっていても共通してよくみられるパターン

構造が見えてから始める

テンダーさんの説明を聞いて、自分の卒業後の進路をテーマにループ図の作成にトライする高校生もいました。一回ではなかなかコツをつかみきれない様子の中高生たちに、テンダーさんは「家に帰ったらぜひ書いてみて。ループ図書けたほうが圧倒的に有利だよ」と伝えていました。なにかをしようとするときに、システムがどうなっているか見えてから始めるのと、見えないままやろうとするのではまったく違うとテンダーさんは言います。

最初の「ゴミからものを作る」ループ図でも、「マネをする人」が増えて「人々がプラゴミを拾う量」が増えると、素材に対する知識が不足したまま、有害物質が発生する塩化ビニルなどを溶かして使う人が出てくる可能性があります。そうすると、具合が悪くなる人が出てきて(「トラブル」)、プラスティックを溶かしてものをつくるのは危ないという動き(「カウンタームーブメント」)が起きてくると予測がつきます。あらかじめあらゆることを考えておけば、最初からリスクを減らす対策もしておけます。

ループ図は、「自分はこういうふうに世界を見ている」ということを人と共有するときにも役立ちます。テンダーさんは、たとえば、誰かといっしょにイベントをする時には、まずそれぞれループ図を書いて共有しておくことを勧めます。同じものごとでもそれをどう捉えているかは人によって違っていたりするので、お互いが見たり考えたりしている世界観を共有しておくことで、その後がとても楽になるそうです。

  


  

*ループ図について詳しく知りたい方は、テンダーさん推薦の『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』(枝廣淳子他著、東洋経済新報社)をご覧ください。

「『しょうがない』を乗り越えろ!―【後編】ゴミからものをつくるとなにが起きるのか」に続く

(事業担当:室中直美、宮川咲)

事業データ

「しょうがない」を乗り越えろ! 構造を理解し解決を配置するシステム思考実践―ゴミ拾いで稼ぐには

期日

2019年11月9日(土)

場所

TJF事務所

主催

TJF

講師

テンダー(小崎悠太)さん・環境活動家、ダイナミックラボ運営
https://sonohen.life/

参加者

中高校生15名