TJFは2020年8月15日(土)、16日(日)、22日(土)、23日(日)、30日(日)、連続5回の日程で、多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿」2020夏プログラムをオンラインで実施しました。インド、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、中国、日本、フィリピン、ロシア、アフリカ地域などにルーツや在住経験を持つ多様な高校生20名(日本から15名、海外から5名)が参加しました。
対面合宿の中止とオンライン合宿へのチャレンジ
2020年3月に計画されていた東京合宿は、全国一斉休校のなか、実施できる状況ではありませんでした。そして、2020年8月に計画されていた広島合宿も断腸の思いで中止を決定したのはゴールデンウイーク明け。感染不安が広がり、行動制限がかかるなか、何とか閉塞感を打開し、高校生が安心できる交流プログラムが作れないかと、数週間にわたってアーティストの方々と相談を重ねました。そして、成功できる約束は誰もできないけれど、オンラインでの実施にチャレンジしてみよう、と決めたのは5月の末。それから2ヵ月をかけて、毎週1回のペースでオンライン企画会合を行ってゼロからプログラムを作りつつ、同時に募集を行い、事前交流のためのSNSグループを立ち上げ、8月の本番を迎えることができました。
プログラムの目的と概要
オンライン合宿とこれまでの対面合宿と異なる点は、これまでの演劇ワークショップ中心のプログラムではなく、身体表現、造形表現、音やリズムをテーマにしたワークショップが中心でした。しかし、その目指すところはこれまでの合宿と変わらず、「若い世代が協力して一人ひとりの個性を尊重し、多様性に富み、創造力をはぐくむ社会を創れるようになること」です。芸術的な手法を用いた交流活動を通じて、具体的に以下のことを目指しました。
- ことばと身体で自分を表現する力を伸ばす
- 創造性を刺激し合い、異なる他者を理解する力を伸ばす
- 協働し、バックグラウンドの違いを超えてコミュニケーションを図る力を伸ばす
- 参加者が多様性を自ら体感し、そのことを尊重するマインドを育む
オンラインならではの良さ
一方で、オンラインならではのメリットも生かしました
- どこに住んでいても、どんな文化的ルーツであっても、オンラインでつながれる
- 遠く離れていても、多様な高校生仲間と一緒に作品が創れる
- プロの芸術家(ダンサー・振付家、舞台音楽家、美術家)や映像の専門家に指導や助言をしてもらえる
- それぞれの場所で日常を送りながら多文化を体験し、自分の世界を広げることができる
- 参加者が協力して創る作品を動画にして多くの人に見てもらえる
- さまざまなIT機器やコミュニケーションツール、録音・録画・編集アプリを駆使してパフォーマンス作品を創るので、ITスキルも高められる
いざ、本番!
8月15日(土)初日
朝9時、オンライン合宿がスタート。現地時間、朝3時のサンクト・ペテルブルク在住の参加者を含め、世界各地、日本各地からの20名の高校生が、造形の事前課題でもある創作仮面でZOOM画面に登場!色も形もユニークな作品ばかりで、場を和ませ、初対面の緊張を和らげました。そのあと、体をほぐすゲーム、名前を覚えるゲーム、リズム遊び、自分のポーズづくりなどの活動を行いました。最後にはまた課題が出され、今後の予定と最終日に成果発表を行うことを告げて終了。
8月16日(日)二日め
カメラの前でウォーミングアップ。そのあと、4グループ×5人に分かれ、身体表現(ダンス)、音楽表現(音やリズムを用いた音楽づくり)、造形表現(美術と動画のコラボ)、学活(チームビルディング)のワークを交互に一巡したあと、最終日の発表会に向けてのグループの作品創りについて話し合いました。
初めて知り合った国内外の高校生がたまたま同じグループになり、クラウド上で、そして限られた時間の中で、クリエイティブな内容についてディスカッションするのは容易ではありません。互いのことをゆっくり知り合いながら、チームでどんな作品を創りたいか、アイディアを出し合いました。ネット接続の問題も頻発し、全チームが落ち着いて話し合いができたわけではありませんでしたが、高校生たちの適応力の高さと柔軟な発想で目標に大きく近づけました。ここから1週間、山ほどの課題に、SNSを通じて交流しながら、高校生たちはどのように取り組んでいくのか、ハラハラ、どきどきしながら、見守る運営チームでした。
8月22日(土)三日め
ウォーミングアップで体をほぐしたあと、映像編集のミニレクチャー。そして、前回から分かれた4グループでそれぞれ作品編集をしました。素材は1週間かけて各自が創ってきたもの。グループリーダーを中心に話し合い、全体の作品編集、パーツとなるダンス編集、音楽編集の担当者を決め、話し合いで決まった方向性のもと、足りないパーツを作成したり、持ち帰ってさらに自宅作業を重ねました。
8月23日(日)四日め
恒例のウォーミングアップでは、手だけでなく、足までほぐすところから始めました。四日めにもなると、ファシリテーターの無茶ぶりにもみんなちゃんとついてきてくれました。飼い猫までカメラに登場。オンラインだからこそ、それぞれの日常が垣間見ることができました。
この日のメインは、中間発表と作品の改善でした。はじめて互いのグループの作品を見た参加者たちは、大いに刺激を受け、そのあとのグループ活動では、自分たちの作品のグレードアップについて話し合いを深めました。これまでは、グループ内での交流が中心だったため、この日は他のグループの人をよく知るための活動も入れました。
8月30(日)最終日
いよいよ最終発表会の日。参加した高校生の保護者、学校の先生、多文化共生に取り組むNPOや学習支援団体の関係者の方々を含む60名近い視聴者を得て、オンライン発表会を行いました。発表会では、主催者から合宿のプログラムを紹介したあと、4チームの作品、各作品に関わったメンバー、それぞれの見どころ紹介をつなげた24分間の動画を上映しました。続いての振り返りの会も公開し、視聴者に参加高校生たちの生の声も聴いていただきました。
視聴者アンケートの結果
60名近い参加者のうち、45名の方々からご回答をいただき、たくさんのコメントが寄せられ、主催者、運営チーム一同は大変励まされました。以下、抜粋してご紹介します。
視聴された皆さんから
一様に作品のクオリティの高さ、発想の豊かさ、高校生の感性のすばらしさ、編集上の創意工夫、音楽のユニークさ、美術効果などを高く評価していただき、その裏にある高校生たちの苦労や努力、思いを感じ取り、話し合い・認め合い・協力し合った結果として受け止めてくださった方が多くいらっしゃいました。「個性が光っている」「シンプルに感動した」「楽しかった」「心揺さぶられました」「2回も鑑賞しました」「作品がどのようなものになるのか、という期待が大きかったですが、想像をはるかに上回る作品になっていて非常に驚いています。」などのお言葉をいただきました。
生徒を推薦した学校の先生から
「自校の生徒ので申し訳ありませんが、特にGくんグループが印象的でした。全体的には踊る時の生徒の表情がすごく印象的でした。明るい、なにか楽しそう、夢中になっている、やってみようと気持ちが伝わってくるような感覚になりました。」と愛情溢れるコメントを寄せてくださいました。
参加生徒の保護者の方から
「試験勉強そっちのけで熱心に取り組んでいました。とても楽しそうでした」「発表会に参加できなかった学校の先生たちに後日発表動画を見ていただいたら、よかったよ、とたくさん声をかけられて、とてもうれしそうでした」と、合宿の中、合宿後のご家庭での様子をメールで教えてくださいました。
振り返りの会も視聴された方から
高校生の生の声を聴いて、高校生たちの達成感や一体感、成長を感じ取った声が多く寄せられました。
- 高校生たちの顔が誇らしげに見えた。
- 「みんなのアイディアをくっつけると、すごいものができる」というDくんの感想が印象的でした。
- 大勢の方が聞いている中でも、ひとりひとり、自分の思いをしっかり言葉にして表現している事も素晴らしい。4日間でしっかり信頼関係が出来て、表現力もついたんだろうなと感じました。
- 言語能力に関わらず、話すのが得意な人、あまり得意でない人、編集作業、音作りの各課題が得意な人等々、チームの中でそれぞれが役割を自然に担って活動をしていたことが分かりました。また、ネット環境、時差や多忙な高校生活の中、頑張っていたことがよく理解できました。貴重な経験になったことでしょう。
- 国境を超えたつながりが、創造という共通の目的を通して生徒間に生まれた、という点が非常に感慨深く、このプロジェクトの要となるひとつの要素であると感じました。
オンライン交流プログラムに興味があった方から
視聴者には、オンライン交流プログラム自体の運営方法やその効果について知りたいという目的で参加した方が多くいらっしゃいました。実際に参加してみて、オンライン交流の可能性を大いに感じたようです。
- オンライン交流の「可能性」に気付かされました。また、発表方式につきましては、教員として学ばされるものが多かったです。
- さまざまな場所からアクセスしている様子をみて、オンラインならではのダイバーシティを感じました。オンライン上だけではなかなかコミュニケーションをすることは難しかったと思いますが、1人1人が殻を破り、考えを共有しようとしていたのだろうと感じました。
- 言葉がなく、表現だけのパフォーマンスでどのようなことが伝えられるのかを見てみたいと思い、参加しましたが、とても興味深かったです。
- オンライン開催ということで、高校生の反応や、どのようにコーディネートされたのか知りたかった。振り返りの発表を聞いて、担任のみなさんが素晴らしいし、高校生の関係性の変化が見れて興味深かったです。
参加高校生へのアンケート結果
一番楽しかったことは何か
ウォーミングアップのワーク、話し合い、動画作品を創ったこと、新しい経験、様々なバックグラウンドを持つ友達と話せたこと、いろいろな表現方法に触れたことなどが挙げられました。
一番うれしかったことは何か
動画が完成したとき、作品に調和が生まれた時、新しい出会いや新しいつながり、自分が作った音楽や動画が作品の一部になったこと、国境を超えたこと、発表会に来てくれた先生に「よかったよ」と言ってもらえたこと、自分たちの完成動画を見ること、合宿が終わっても連絡を取り合っていること、などが挙げられました。
一番難しかったことは何か
課題に取り組むこと、編集、言葉の壁を超えたコミュニケーション、画面越しで仲良くなることや話し合うことが挙げられました。
一番困ったことは何か
試験期間と重なったこと、実際に会えないこと、課題が多かったこと、アプリ、みんなに迷惑かけたこと、自分から壁を作ってしまったこと、時差などが挙げられました。
参加する前の目標は何か
友だちを作ること、やり遂げること、知らなかった自分の能力を引き出すこと、芸術を楽しむこと、人見知りを克服すること、殻を破ること、積極的に発言することが挙げられ、ほとんどの参加者はその目標を達成できたと自己評価していました。
多様な高校生からどんな刺激を受けたか
この合宿の主要目的と深く関連する質問につき、みんなの回答をご紹介します。
- 私の所属しているチームにはたまに言語でつまずく時がありましたが、自分が翻訳したので問題なく話し合いを続けられました。翻訳して相手に伝わった時の達成感があって、この感覚が好きだなって思いました。
- いろんな言語を勉強して、他の国でも住んでみたいなと思いました。
- 海外に住んでいて感じたことはないが、やっぱり日本以外の人とオンラインでできるのはとても面白いと感じた。
- 母国語以外の言語を話している時があり、英語や他の興味がある言語を話せるようになりたいなと思いました。
- 始めはこの合宿をあまり楽しんでいなかったです。しかし、その楽しくないのは自分から楽しもうとしていないのだとグループのメンバーを見て思い、課題に対して一生懸命に向き合うと楽しくなりました。
- 今までに旅行とかをあまりしていなかったので、今回初めて違う県の友達や海外の友達ができて、自分の新たな関係が作れたし、これから連絡をとったりするなかで、今までできなかったいろんな発見が出来ると思うので、とっても刺激になりました!!
- いろんな国の人が日本語で繋がれることに感動しました。
- いろんな人の価値観を学べた。世界は広くていろんな人がいて、いろんなやりたいこととか好きなことがあって、、、普通は関わらない人達と活動することは前向きな刺激ばかり与えてくれました!
- 他の国の高校生と出会って、みんなの日本語はすごかったです、びっくりしました。自分がもっと頑張らないといけないと刺激を受けました。
- 自分と同じ年齢や下の年齢の人たちがたくさんいて、いろんなアイディアを持っていて、自分がこれがいい!一番!と思っているものでも周りの人からの意見でさらに良いものになった。だから、違う文化背景の人たちのアイディアにもっと耳を傾けて、また何か世界中の人と作品作りをしたい。
- 住んでいる地域は違うけどみんな年が近いし学校の友達といるような感じだった。色々な将来の夢が聞けてよかった。
- I found it really interesting and fun to talk to the other student and learn about their lives since they’re so different to mine.
- 自分には気づかなかった発想や、考え方があり、世界は広いんだなと感じました。世界は繋がっているからこそ同じように感じることもあり、多文化だからこそ気づけたこともあったと思います。今回の合宿では自分の殻を破れたと同時に自分の視野の幅も広くなったと思います。
- 色々な文化を知ることができた、その中でも同じ場所に住んでいる人もいれば考え方が違う人もいて良かった。
- It was good to meet people with different backgrounds and to see images from them.
- I was really happy to make friends that weren’t part of my current social circle. It was interesting to meet people from different backgrounds, cultures and with ideas.
- いろんな国から来た人が多くてびっくりしました。人に対する偏見を変える機会になりました。また自分が好きな言語をスムーズに喋ることを見て私ももっと努力して日本語や違う言語を学びたいと思いました。
- 国によって、学校のカリキュラムも違えば使えない携帯のアプリもあり、本当に興味深かった。
参加高校生は、全員、この合宿を後輩に勧めたいと書いてくれて、そして、この合宿の経験を以下の一言で表現してくれました。20人分の一言から、高校生たちの思いを汲み取っていただければ幸いです。
- 達成の喜び
- RESPECT
- 友情
- 学
- とてもいい人たちに出会いました。
- カラフル
- 探
- Only One(オンリーワン)です!!
(この経験も、自分達が作った作品も、これからの関係も、この合宿は1回しかなかったから、オンリーワンにします!!) - 創造
- Sparkle
- 外国人と交流したら、視界が広がる。
- Supercalifragilisticexpialidocious
(とっても良いという意味もあるのですが、一言では表せないほど濃い経験!という意味でこのとても長い単語を選びました。) - 発見
- gratifying
- Odyssey
(私のグループの題名でもあった言葉です、この合宿はまず参加しようとする意思、勇気が必要ですが、参加すると様々なバックグラウンドをもつ方に触れ合えてそこから自分の大冒険が始まると思ったからです!) - 自由
- communication
- Interesting
- あい(愛でもありながら会いでもある)
- 最高
(オンライン)「パフォーマンス合宿」2020秋プログラムの実施に向けて
夏プログラムの参加者、関係者の方々のご好評につき、今年度で2回目となる秋プログラムを実施いたします。実施の日時は下記の通りです。
2020年11月15日(日)、22日(日)、28日(土)、29日(日)及び2020年12月12日(土)、28日(月) 計6回
※上記全6回のうち、12月12日(土)は内部の中間発表、12月28日(月)は、保護者、教師、NPO関係者の方々を招いた最終発表会を行う予定です。
詳細は「パフォーマンス合宿」ウェブサイトをご参照ください。
(事業担当:長江春子、宮川咲)
事業データ
多言語・多文化交流(オンライン)「パフォーマンス合宿」2020夏プログラム
2020年8月15日(土)、16日(日)、22日(土)、23日(日)、30日(日) 計5回
各自の場所からオンラインで参加
田畑真希(振付家・ダンサー)
棚川寛子(舞台音楽家)
水内貴英(美術家)
山泉貴弘(映像ディレクター)
永井マイケル(2018年度参加者、大学生)
三浦万奈(大学院生)
インド、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、中国、日本、フィリピン、ロシア、アフリカ地域などにルーツや在住経験を持つ多様な高校生20名(日本から15名、海外から5名)