社会との関わりをうむプロジェクト
社会との関わりをうむプロジェクト
2012.10.22
"Making a Difference"プロジェクトを始めてみてわかったことは、生徒たちがテーマに関して問題の設定をすることがとても難しいことだ。
これは日本語以前の問題である。ある生徒はゴミ問題をテーマにした。そして、ゴミをきちんと捨てるようにポスターを作ると言う。そこで、どうしてそのテーマにしたのかを聞いてみると、
「東京はゴミで困っていると思うから」と言う。
「ゴミのどんなことで困っていると思うの? リサイクルが進んでいないとか?」と私。
「あー、わかりません」と生徒。
「君のうちの周りでは何か困っていることがある?」
「いいえ、ありません」
「ニュースか何かで見たことはある?」
「いいえ、ありません。よくわかりません」
困った......。このままでは何も進まない......。
とにかく「今東京のゴミ問題は何か?」ということから始めなくてはならない。
すると、生徒が
「じゃ、東京都のホームページを見てみます」と言う。
よしよし、まずは事実を把握するところからだ。Englishと小さく書いてあるところに気づく前に、「ごみ」という言葉に気づかせて、そこを開かせる。
「あー、先生、漢字がたくさんでーす! 読めませーん」と生徒が頭を抱える。すぐにあきらめようとする生徒に、「勉強した漢字もたくさん入っているよ。」と言って気持ちをへこませないようにする。
こういうところこそ、わかる範囲で意味を推測するいいチャンスだ。どうしても知らなければならない言葉は教えて、あらかじめ用意した語彙リストノートにメモさせ、それ以外はなんとか意味を想像させる。おそるおそる読み進めている生徒を優しく(ドキドキしながら)見守っていくうちに、だんだん内容がわかってくるのが表情でわかる。最後は必要な情報を得たようだ。
「ほら、全部漢字が読めなくても、大切なことはわかったね」
毎回の授業ではみんながどんな問題を私に突きつけてくるか、怖くもあり、楽しみでもある。自分の作ったレッスンという安心できるレールはないが、彼らの作ったレールに乗って、生徒達がどんなふうに課題を進めるかを見守っていくのはおもしろい。私も一緒に様々な問題を考えさせられるからだ。今度、生徒にどうして先生になったのかと聞かれたら、「みんなと一緒に考えるのが楽しいから」と答えよう。
稲原教子 | |
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アメリカンスクールインジャパン高等部日本語教師 | |
生徒たちが社会に出たときに必要な力は何か、そのために日本語の授業でどんなことができるのかを常に考え、ファシリテーターとして生徒の力を引き出すために、いろいろな活動を授業に取り入れている。青山学院大学文学部教育学科卒業。同大学大学院教育行政学専攻博士課程前期修了。教育学修士。ベトナム、ハノイ工科大学日本語センター主任教授。1998年より現職。共著に『ドラえもんのどこでも日本語』(小学館)がある。 |