「聖地」をつくれ!
vol.3
【番外編】「聖地」に行こう!
野瀬亘理(のせわたり)、福岡県在住 小野口太一(おのぐちたいち)、福岡県在住
2016.06
©中才知弥
野瀬さん(右)と小野口さん
2014年に大学に入ってアニメ研究会を立ち上げた野瀬さん。そして昨年、入学してすぐに研究会のメンバーになった小野口さん。アニメと"聖地"めぐりの魅力を語る。
聖地めぐりの魅力
Q:昨年の学園祭でアニメ研究会は「聖地」について発表していましたね。どこに行きましたか。それまでにも「聖地」めぐりをしたことはありますか。
野瀬:昨年、アニメ研究会のメンバー9人で、TVアニメ『響け!ユーフォニアム』の舞台、京都の宇治に行きました。ぼくはこれが初めての聖地めぐりでした。
小野口:私は高校生のときに友だちと2人で『たまゆら』(佐藤順一監督)の舞台、広島県竹原に行ったのが初めてです。福岡を朝一番の電車で出発すると、昼ごろには竹原に着くので、行きやすかったんです。そのあと高校の卒業旅行で友だち6人と、JRの「青春18きっぷ」を使って東京、埼玉に行きました。目的地は、いろいろなアニメの舞台となっている秋葉原や、話題になった作品『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の秩父でした。
もともと私も友だちも鉄道が好きなので、電車に乗ることがいちばんの目的でした。でも、どうせ行くなら「聖地」に行こうっていうことになったんです。
*青春18きっぷ:新幹線・特急・急行を除くJR列車の1日乗り放題のチケット。
©中才知弥
Q:聖地めぐりの魅力って何でしょうか。
野瀬:アニメに出てきたのと同じ風景を写真に撮ることで、その作品のなかにいるような感覚を味わったり、作品に近づく感じがするところですね。それからふだんは行かないようなところに行けるのも魅力ですね。例えば、京都の中心には行っても宇治にはなかなか行かないですよね。実際行ってみると、すごくいいところでした。
アニメ効果で地域が潤う
Q:どこが舞台になっているかはどうやって調べるんですか。自分で探したりしますか。
野瀬:すでに行ったことのある人がまとめている情報を、ネットで探すことが多いです。あとは、自治体が公開している情報とか。
小野口:自分で探す楽しみというのもありますけど、地元の人じゃないと気づかないことが多いんですよね。どこまで自分で探して、どこから人の情報に頼るかはとても難しいです。自治体がバックアップしているところは探しやすいのですが、それも良し悪しで。大洗や竹原のように成功して、観光客でにぎわっているところもありますけど、失敗例があるとも聞きます。
野瀬:ぼくは、自治体とアニメの聖地が結びつくのにはけっこう賛成ですね。自治体がいろいろと案内をつくってくれると、初心者には行きやすいですし。それにアニメ効果でその地域が経済的に潤うからいいと思います。関西や関東では盛り上がっているところがけっこうあるんですけど、九州はあんまりないんですよ。九州を舞台にした作品を作ってもらいたいですね。
小野口:自分がよく知っている地域が舞台になると嬉しいですよね。ぼくの自宅近くも実は『スケッチブックfull collor's』という作品の舞台になっていて、今日も通ってきました。でも、聖地めぐりが本当に盛り上がるための条件は、当のアニメが盛り上がる以外にないんですよね。
いろいろな見方を知るのはおもしろい
©中才知弥
Q:そもそもアニメ研究会を立ち上げたのはなぜですか。
野瀬:大学になかったからです。高校ではアニメの話ができる雰囲気があまりなかったので、大学ではアニメを観たり、感想を言い合えるような場がほしかったんです。大学に入学した年の7月ごろ、友だちと2人で立ち上げました。2年めになるころには7人も部員が増え、ようやく研究会らしい活動ができるようになりました。
Q:アニメ研究会ではどんな活動をしていますか?
野瀬:毎週の活動としては、一人ひとりPCを持ってきて、自分で好きなアニメを観た後、感想をシェアしたりしています。教室のスクリーンを使用してみんなで同じアニメを観るときもあります。また、月に1回は、自分が好きな作品を紹介するプレゼンテーションをやっています。プレゼンがきっかけになって、それまで興味のなかったジャンルのアニメを観て好きになることもあります。ぼくにとってロボットアニメがそうでした。自分の好きなものばかりを観ていると、偏ってしまうので、いろいろなアニメを知るいいきっかけになっています。
小野口:同じ作品を見て、おもしろいという意見と、つまらないという意見を突き合わせると、新たな視点が見えてくることがあります。
ぼくはネットで、場面や登場人物に込められた意味や意図を探したり考えたりするサイトが好きでよく見ます。一瞬しか映らないシーンにいろんな意図が詰め込まれているときもあります。これがアニメのおもしろいところだと思いますね。アニメは実写と違って、すべてを作るからそういうことができるんですよね。
野瀬:使われている音楽にもそれは感じます。例えば、『エヴァンゲリオン』(ヱヴァンゲリヲン 新劇場版 庵野秀明監督)の主人公が戦う場面で、懐かしい曲「今日の日はさよなら」とか「365歩のマーチ」、「翼をください」とかが使われています。戦闘を意識するようなかっこいい音楽ではなく、逆のイメージをもつ音楽を使うことで、どんな意図が隠されているんだろうとか考えますよね。
アニメは子どもだけが楽しむものではなかった
©中才知弥
Q:いつ、どんなアニメを観て、はまっていったんですか。
野瀬:中学生のときに観た『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版』です。主人公が自分と同じぐらいの年で、思春期ならではの葛藤や悩みを描いていたので、すぐに感情移入できました。それまでアニメといったら、ドラえもんとかポケモンといった子ども向けのイメージしかなかったのが、ただ楽しいだけではなくて、すごく考えさせられるものだったのが驚きでした。
小野口:私も中学生のときに同じ『ヱヴァ』でアニメにはまりました。そのあとは『東のエデン』がすごく記憶に残っています。これは社会派のアニメで、医療問題や老人介護など日本が抱えている問題を取り上げていて、社会に蔓延する不安感のようなものを描いているんですよね。ハッピーエンドはないですし。内容的に深いし、考えさせられるんです。
野瀬:ぼくも基本的には重いテーマを扱っているアニメが好きだったんですけど、いろいろと見ていくうちに楽しいアニメも好きになりました。特に、部活モノのアニメですね。例えば、『けいおん!』とか『響け!ユーフォニアム』とか。
けいおん!
http://www.tbs.co.jp/anime/k-on/
響け!ユーフォニアム
http://anime-eupho.com/
Q:部活モノが好きだったのはなぜですか? 自分の体験と重ね合わせたんですか?
野瀬:ぼく自身は部活には入っていなかったんですよ。だから、見て疑似体験するというか、実際に同じことをやってみたりしていました。例えば、『けいおん!』を見てギターを弾いてみるとか......。
大学でサークルをつくったこと自体、部活体験をしたいという思いからなんです。仲間といっしょに何かをするっていう......。それと、同じアニメを見ても人によって見方はいろいろなんですよね。だからいろんな人が集まることで、見方が広がるんじゃないかと思うんです。
小野口:ぼくは、中学でも高校でもアニメについて友だちとわいわい話ができる環境はありました。それでもサークルで何かやりたいなという気持ちがありましたね。
写真提供:アニメ研究会
アニメはコミュニケーションの手段になる
写真提供:アニメ研究会
Q:アニメ研究会を立ち上げたこととか、アニメ好きということに対して周りのイメージはどうですか。
野瀬:実はいろいろ言われるだろうって思ってたんです。でも、実際は、サークルを立ち上げたことのほうに注目してくれて、「サークル立ち上げたんだ、すごいね」っていう反応だったので、すごく嬉しかったですね。
でも世間的には、アニメ好きに対してはあんまりいいイメージがないですから。例えば、ニュース報道で、犯人がスポーツ好きだったらとりたてて取り上げられないのに、アニメ好きだとそのことが強調されたり......。
小野口:あるあるある。批判が変なところにいくんですよ。
「聖地」めぐりが最近すごく取り上げられるようになりましたけど、よくよく考えると目新しいものじゃないです。韓国のドラマ「冬のソナタ」で日本から韓国に大量にファンが押し寄せたことがありますよね。あれだって聖地巡礼です。もっと前の映画でいえば、「ローマの休日」だって舞台になっているところは観光地になってるじゃないですか。ただ違うとしたら、アニメは架空の舞台で架空のストーリーというイメージがあるから、舞台が実在することにギャップがあって、マスコミでよく取り上げられるんだと思います。
野瀬:オタクというのがまだまだマイナスイメージで捉えられてますよね。でも、アニメが好きな人は意外と多かったりするんです。バイトでいっしょに働いている人の携帯電話の待ち受け音がアニメの曲で。それで話しかけて仲良くなりました。こうやって、アニメがコミュニケーションの手段になりうるんです。だから変な偏見をもたないでほしいと思っています。
©中才知弥