「デコ」で気持ちを伝える
vol.3
父、「キャラ弁」を作る
荒尾圭(会社員、二児の父)
2014.08.26
「日本のおもしろさを再発見して世界に伝える」をミッションとする明治大学国際日本学部のゼミとTJFがコラボしました。
ゼミ生が「アイドルは好きですか?」と「気持ちを伝えるデコ」の二つのテーマに分かれて取材、執筆した記事をお届けします。
取り組んだ学生の声
「デコ」って何? 知っているつもりだったのに、話し合うなかでどんどん定義がゆらいで焦りました。いろいろなデコを、「込められた想い」を軸に切り取ってみました。
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「キャラ弁」はキャラクター弁当の略で、商品やアニメなどのキャラクターを食材で再現し、かわいらしく盛りつけたお弁当のこと。デコレーションした弁当という意味で「デコ弁」ともよばれる。日本だけでなく海外でも、多くの人が家族や自分のために作るようになった。そんな、食べるのがもったいないほどかわいいお弁当をわが子二人に作る父親、荒尾圭さんが「キャラ弁」作りの醍醐味と食への思い、家族との時間について語る。
うちは上の子が8歳で小学校2年生、下の子は5歳で保育園に通っています。3年前に妻と死別しまして、会社勤めをしながら自分ひとりで育てています。朝夕の食事は僕が作って、昼は、学校も保育園も給食です。昼にお弁当をもたせるのは、夏休みと冬休みに上の子を学童保育(注1)に預けるときと、運動会や遠足などイベントのときです。
学童のお弁当は、子どもたちが休みのあいだ毎日作るので、あまり手をかけていられません。朝、15分くらいでさっと作って詰めます。前の晩のおかずを取っておいて品数をふやすこともあります。手のこんだ、かわいい「キャラ弁」を作るのはイベントのときです。
特に秋は、学校、保育園、学童、それぞれに運動会や遠足がありますから、今年は9月から11月にかけて6回ほど作ったと思います。普通のお弁当と違って、キャラクターの顔を作るのに海苔を細かく切ったりしてかなり手間がかかるので、仕上げるのに一時間弱はかかります。
(注1)主に小学校1年生から3年生を対象とする公営または民営の保育サービス。放課後や学校の長期休暇期間中に利用する。小学生は授業の終わる時間が午後早いため、両親とも自宅外で働いている場合などは帰宅しても保護者がおらず、子どもだけで留守番をすることになる。それを避けるため、安全や教育上の理由からこのサービスを利用する家庭が多い。
左上:息子からのリクエストで保育園の遠足に作った「マリオ」弁当。
右:娘の遠足のために作った「ふなっしー」弁当。ふなっしーは千葉県船橋市のご当地キャラクターで、市の特産品である梨の妖精。
左下:娘の遠足に作ったお弁当。キャラクターは日本で多くの人が使っているインスタントメッセンジャー「LINE」の「ムーン」と「ベアー」。
目や口の形に海苔を切り抜くパンチを使ったり、小さなハサミで細かな線を切り取る。
妻と交代で作るはずが......
キャラ弁を初めて作ったのは、上の子が幼稚園に入園したときです。週に4日給食があり、水曜日だけはお弁当を持って行く日でした。まだ妻がいた頃で、相談して毎週交代で作ることにしました。もともと週末の食事は僕が作ることも多く、家事は分担していたので自然な流れでしたね。
最初の週は、妻が「じゃあ、あなた作ったら」って(笑)。子どものお弁当を作るのは初めてですから、どんなものを作るかいろいろ考えましたよ。テレビや雑誌で、今どきは子どものためにキャラ弁というものを作ると見たことがあったので、面白そうだからこの機会にちょっとやってみようかと「しまじろう」(注2)を作ったんです。娘は、びっくりした、という感じでしたね。まぁそれなりに喜んでくれました。それより、幼稚園で「パパがこんなお弁当を作ったんだって!!」と、ものすごい反響だったらしくて......。何だか引っ込みがつかなくなって、というか調子に乗って、「次も俺やるわ」と何週か続けて作りました。しばらくして妻が、今週は自分が作ると言って、キャラ弁ではない普通のお弁当を持たせたんです。ちゃんと手をかけて作った、かわいらしいお弁当だったんですよ。それなのに、子どもが幼稚園のお友達だか先生だかに、今日はお父さんは具合でも悪かったのかというようなことをきかれたんだそうです(苦笑)。それで妻はちょっと拗ねまして「来週からあなたが作ってよ」と......。「マジか!この弁当作りが続くのかよ」と思いましたが、まぁ、もともと好きで始めましたし、週に一回早起きすればいいだけでしたので、それほど苦ではありませんでした。
(注2)しまじろう
幼児向け通信教育教材のキャラクター
http://www.shimajiro.co.jp/
さてこれはなんのキャラクターでしょう?
作り上げていく楽しさ
キャラ弁を作るようになって以来、日頃から、テレビにうちの子の好きそうなキャラクターが出てくると「これはお弁当にしやすい顔だな」なんて考えながら観ているんですが、どんなお弁当にするか具体的に考え始めるのは作る一週間ほど前からです。キャラ弁を作る方たちの中には、ご飯をキャンバスに見立てて、海苔で絵を描いて、ものすごくリアルにキャラクターを再現する方もいますよね。僕は、あそこまでやると寝る時間がなくなりますから、おにぎりをベースにして、もうちょっとシンプルな、下絵までは描かなくて済むようなキャラクターを選んでいます。
作るキャラクターを決めたら、どんな食材をどう組み合わせればそのキャラクターに似せられるか頭をひねります。たとえば、目の白いところを作るなら、白い蒲鉾やゆで卵の白身が使えるので、どっちで作ったほうが上手に早くできるか考えて、試してみるんです。もちろん、食べておいしいかどうか、材料が無駄にならないかどうかも大切です。最近では、キャラ弁を作るのに便利な、ご飯に色をつけるためのカラーふりかけとか、海苔を目鼻の形に切り抜くパンチとか、専用の材料や道具もいろいろ売っているので活用しています。他の人が作ったものを見てテクニックを参考にすることもありますよ。
「キャラ弁はいつも、朝、子どもたちがまだ寝ている間に作るので、こうやって一緒に作ったのは実は初めてかもしれません。」娘さんに手伝ってもらいながらピカチューの顔を仕上げる荒尾さん。
思ったように仕上げるには、手先が器用であるにこしたことはないでしょうが、それよりも、時間をかけて細かい作業をする根気があるか、イメージしたものを形にするだけのやる気がわくかどうかじゃないかと思います。僕は、工作をしたり絵を描いたり、手を動かしてなにか作ったりするのが子どものころから好きで、何か作りはじめると、ああでもない、こうでもないといろいろ工夫して、納得がいくまでのめりこむところがあるんです。キャラ弁は、自分なりに考えて作りあげていくから、発想の勝負みたいなところがありますよね。それが楽しいのかもしれません。あとは、材料を買ってきて、下準備をして、朝の限られた時間で仕上げられるように段取りしていく、そのプロセス自体も好きです。僕は、元々そういうことにやりがいを感じるほうで、家族旅行に行く時にも、何時に出発してどこでご飯を食べるか、朝から晩までの計画を立てて、旅のしおりも作って、妻に旅行の予定をプレゼンしたりしていましたから......(笑)。子どもたちのイベントの日にキャラ弁を作るのは、僕にとってもイベントなんだと思います。
完成したら、それはもう、すごい達成感ですよ!できあがったのを携帯で写真に撮って「あぁ、いいのができたな~!」なんて自画自賛して、しめしめと自己満足にひたっています。もちろん僕にもしょうもない自己顕示欲がありますから、人に見せて喜んでもらったり、すごいねって驚かれたりするのはとっても嬉しいですよ。でも、どうしてキャラ弁づくりにここまでハマるのか、改めて考えてみると、やはりイメージしたものを自力で作りあげたという嬉しさが大きいからかもしれないと思います。まぁ、たまにだからできるんですよ。人から見たら、こんなことに手間暇かけてアホらしいでしょうし......。自分は単に物好きなだけだと思っています。
子どもたち二人分のお弁当が完成!
おいしいものをちゃんと食べてほしい
実は、最初のころは要領が分からず、見かけがかわいいばかりで実際には子どもにとって食べにくいようなお弁当を作ってしまったこともあるんです。食べようと手に取ったらボロボロと崩れてしまったらしくて、かなり食べ残して持って帰って来たことがあり、反省しました。お弁当ですから、食べるものなんですよね。当たり前ですが、それを忘れちゃいけないんだと思っています。
健康のことを考えると、子どもたちには好き嫌いをせずにいろんなものを食べてほしいので、お弁当に限らず、日頃から食事はできるだけ和食を中心に、栄養に気をつけて作るようにしています。僕はマラソンをするのですが、体重が1キロ増えるとタイムが3分遅くなると一般に言われていまして、自分の食べるものもある程度は気をつかっていますので、そういったことはあまり苦にならないです。
料理するようになったのは小学生のころです。炒飯など簡単なものでしたが、いろいろ工夫して作っていました。子ども雑誌の付録に小学生クッキングブックというような冊子がついてきたことがあるんですが、それを見て、ラーメンの汁に片栗粉でとろみをつけた「あんかけ風ラーメン」を作ったこともありました。高校時代には受験勉強の夜食を自分で作りましたし、学生時代は一人暮らしだったので自炊していました。個人経営の小さな居酒屋で調理のアルバイトをして、いろいろ新しい料理を覚えたりもしました。いまも、実は唐揚げに凝っていて、人のレシピを見たりテレビ番組を参考にしたりして、味付けや使う粉を変えたり、揚げ方を工夫したり、いろいろ実験して楽しんでいます。
自分自身が、そうやって食べることを楽しむほうなだけに、子どもたちにもおいしいものをちゃんと食べさせてあげたいという気持ちが強いです。「パパの料理が好き」って言ってくれるとうれしいなと思うし、食べるもののことで、あまり子どもに寂しい思いをさせたくないですしね。僕は、たまたまですが料理ができますので、まぁ、自分にできることは子どもたちにしてやりたい、というところです。
一緒に作って食べる楽しさを
上の子は2年生になって、包丁を使いたがったりするようになりました。少し、料理に興味を持ち始めたみたいです。バレンタインデーにはチョコを手作りしたいとか言うんですよ!最近の小学生は大人っぽいなと思いました。男の子に渡すの?と思うと、父親としてはちょっと複雑ですけど...。子どもが自分でやるといったって、まだ、結局ほとんど僕が作りますからね(笑)
日頃の夕食の支度を子どもに手伝わせるとどうしても時間がかかってしまうので、平日は一緒に台所に立つのは難しいのですが、休みの日には3人で焼きそばを作ったりします。この間ちらし寿司を作ったときは、子どもたちに材料を全部渡して好きなように盛りつけてもらいました。僕は関西出身なので、子どもたちにもタコ焼きくらいは仕込んでおかなきゃと思っていまして、鉄板の上でひっくり返すやりかたを教えて「あとは2人で焼いてね~!」って任せたこともありました。この子たちも、いつか大きくなったとき、一緒に作って食べて楽しかったなって思い出してくれればいいですね。
キャラクターの顔のつくり方
◎パーツを作る
①海苔
キャラクターの目や口など、細かい線を描くのによく使うのが海苔(写真右)です。
顔の形のパンチ(写真左)やナイフなどで切り取って使います。
パンチに海苔をはさんで押すと目や口の形にくり抜くことができます。
三角系に切ったのりをV字にカットし、クマのキャラクターの鼻と口の線を作っています。
②カマボコ
顔の白い部分を作るのによく使われるのがカマボコです。中身の白い部分だけをハサミで切り抜いて、クマのキャラクターの鼻と口の白いところを作っています。
③フリカケ
近年はキャラ弁を作る人が増えたのでご飯に色をつけるためのフリカケが売られています。
クマの顔をピンク色にするために、フリカケと鰹節でご飯を着色しています。
はごろもフーズ「デコふり」
http://www.hagoromofoods.co.jp/recipe/decofuri/
④薄焼きシート
卵シートを花型に抜いています。薄焼き卵はフライパンがあれば簡単に作ることができ、家庭料理にもよく使われます。キャラ弁作りが流行するようになってからは既製品が販売されるようになりました。クマの耳や飾りの花をたまごの薄焼きシートで作っています。
キューピー「たまごや野菜の薄焼きシート」
http://www.kewpie.co.jp/obentou/tamago/
◎パーツを組み合わせる
作り上げたパーツを組み合わせて顔を描きます。細かい作業にはピンセットを使います。
できあがったクマの顔型のおにぎりをお弁当箱に詰めます。
卵シートを型抜きした花を添えてできあがり!
(インタビュー:2012年12月)