川妻篤史(桐蔭学園教諭)
「自分の考え方と周りの考え方の違いがあり、とても参考になった」「クラスのみんなの意見を本人の口から聞けたのがおもしろかった」「自分の考えていたのと先生の考えが違った」「毎回思うが、いろいろな考え方や見方がある。自分にはない考え方や意見を取り入れて、日常生活にも生かしたい」「意見が分かれてしまい大変でした」
これらは生徒たちの振り返りの言葉です。私は、今年度より高一現代文の授業でアクティブラーニングを取り入れ、授業が「教え込み」の場から「学び合い」の場に変わったと実感しています。以前は、授業参加を促すために指名カードを用いてできるだけ多くの生徒を指名しようとしていました。しかし今ではその指名カードも、使う機会がほとんどありません。何よりも驚いたのは、生徒たちの反応の変化です。昨年度まではただ座って話を聞いているだけでした。
しかし、今は違います。生徒たちが私の解説に「あ~、なるほど」「え~、それは考えつかなかった」と感想を口に出すようになったのです。
なぜアクティブラーニングか?
昨年度、教務主任として学内の授業を見て回りました。そのなかで痛感させられたことがあります。
英語の授業で、関係代名詞but について教員が丁寧に解説している場面でした。正直、生徒たちは退屈そうでした。授業後、授業担当者に単刀直入に聞いてみました。関係代名詞の一般的な用法を使えるよう指導したほうがいいのではないか、と。返ってきたのは、テストに備えて丁寧に解説しておかなければという回答でした。
知識を問う問題が多い入試にも対応できるよう、教員は丁寧に解説します。しかし、その丁寧さが生徒たちの自発性を奪います。自発的に学べない生徒たちのために教員はさらに解説を丁寧に加えなければならなくなります。これはまさに負のスパイラルです。
そんな折、溝上慎一教授の講演を聞き、アクティブラーニングが負のスパイラル脱却の糸口になると私は確信しました。
ペアワーク、グループワーク、そして振り返り
溝上教授のアドバイスは、まず授業にペアワークを取り入れてみるということでした。私は、音読の場面でやってみました。向き合って一文ずつ交代で読み進めます。聞いてもらえる相手がいるのが励みになるようで、読み間違いを指摘し合う場面も見られ、教え合いのいい機会になります。
高一現代文では、要約作成のために段落を三〇字程度の一文にまとめる課題を行います。私はこのときグループワークを取り入れています。グループワークで要約の中心となる一文を段落中から探すのです。まずは個人で考えます。そのとき、グループで話し合えるよう根拠もメモするよう指示します。その後、グループで話し合います。課題の内容によっては答えを絞らせないときもありますが、ここでは一つの答えに絞り込むよう指示します。そのときには、社会に出ればチームで一つの答えを出さなくてはならないこともあるという話をします。グループの答えは「まなボード」で黒板に貼り出し、いくつかのグループにその答えを導いた根拠を発表してもらいます。「まなボード」とは、手軽に持ち運べ、黒板に貼りつけることもできるホワイトボードのことです。発表中は、生徒から質問が飛び出したり、説得力のある発表があれば「お~」といった歓声が上がったりします。最後に、私の答えを述べ簡単な解説をして終わります。
毎時間、振り返りができるよう「ワークシート」を配付し記入させています。これは授業内容をメモするノートも兼ねており、個人やグループの思考が記録できるようになっています。ノートを「思考の作戦基地」と位置づけ、考えたことをどんどん書きとめるよう指導しています。振り返りとして、次の二つの質問をします。「『学び』があったか」「時間が短く感じられたか」。生徒たちは◎・○・△・×の四段階で自己評価します。このシートは回収し、私自身の振り返りの材料にしています。
これまでになかった苦労も
ペアワークやグループワークで一番困るのは、ペアやグループになじめない生徒への対応です。教室にはペアワークを行うときの心構えが書かれた「ペアワークの原則」を掲示しています。活動にうまく参加できない生徒がいるペアやグループには、この掲示を指さして、そっと声をかけるようにしています。
以前に比べ授業の進みが遅くなったことも悩みの種です。ペアワークやグループワークには時間がかかります。これを補うために、毎時間「現国通信」を発行し、授業で扱えなかった詳しい解説を書くようにしました。読んで済ませることができるものは、それで済ませるようにしています。これにより板書と説明の時間を大幅に短縮できるようになりました。また、授業で紹介できなかった生徒たちの意見も掲載しています。
今後の課題
今後の課題は、アクティブラーニングを通じて自発的な家庭学習につなげていくことです。家庭学習が充実すれば、進度の遅れを補うことも可能です。
さらに、教材と発問の研究がこれまで以上に重要になってくると考えています。ペアワークやグループワークでは、数多く発問することができないので、さまざまな「学び」につながる質の高い発問を研究していくことが不可欠です。教員同士で教材研究のアクティブラーニングを行うことも考えています。
また、生徒をどのように評価するのかという問題もあります。現在、溝上教授のアドバイスを受けながら、ルーブリック評価の導入に向けて研究を進めています。
中学一年のアクティブラーニング導入では、高校生への導入にない難しさがあることもわかってきました。中学生になると、小学校では習わなかった新たな概念が数多く登場します。中学一、二年は、こうした概念をしっかりと身につけていく基礎養成期であり、こうした概念を自力で活用できる段階にはまだ至っていません。そうしたなかで、ペアワークやグループワークを深い「学び」へつなげるのは非常に困難です。しかも、中学一年生は、対人関係の構築が高校生に比べて未熟です。ペアワークやグループワークで、対人関係のトラブルが生じないよう配慮しながら授業を進めていかなければなりません。アクティブラーニングが「活動あって学びなし」にならないよう、発達段階に合わせてどのように導入していけばいいか検討を進めています。
※事業報告書『CoReCa2014-2015』(2015年8月発行)に掲載。所属・肩書きは掲載時のもの。