石森広美(宮城県仙台二華高等学校教諭)
はじめに
複雑多様化するグローバル社会においては、異文化を有する人と議論する能力や未知の困難に前向きに向かうチャレンジ精神、複雑に絡みあう諸課題を思考し、その解決を目指そうとする行動力を備えた人間形成が目指される。また、昨今活発に議論されている「グローバル人材」においても、幅広い教養、コミュニケーション能力、課題発見・解決能力、リーダーシップ、創造力、倫理観などが強調されている。こうした二十一世紀型スキルやグローバル意識の育成は今日の学校教育の喫緊の課題であり、外国語の授業にも新たな役割が与えられることになる。
本稿では、グローバルな視野や多様なものの見方、寛容や共生の姿勢を育む視座から、自分と社会とのつながりを考えながら、より良い世界の構築を目指して展開される生徒参加型のグローバル学習の重要性について述べたい。
英語教育とグローバル教育
多くの人にとって、初めての外国語となる「英語」の授業は、世界へ目を向ける入り口となるものである。したがって、英語の授業において英語学習とグローバル学習を有機的に結合させ、人権・平和・環境などのグローバルイシュー(地球的課題)への生徒の関心を高めるよう工夫することにより、グローバル意識を育てることが可能となる。育てたいグローバル意識とは、「グローバルイシューの理解と探究」「多様性、文化的相違の尊重・受容」「ローカルとグローバルのつながり」「参加・協力・行動」の四つの要素を根幹としたものである※注1。
外国語(英語)科の目標は、外国語(英語)によるコミュニケーション能力の育成である。これは、会話力とは異なり、人と人とを結ぶコミュニケーション能力である。英語の授業で育成すべき総合的コミュニケーション能力の構成要素には、言語能力や方略能力などの運用能力のみならず、異文化受容や共感的理解などの態度・姿勢や世界の様々な事柄についての知識や考えも含まれる※注2。
以上を踏まえると、英語教育は言語運用能力の養成とともに、地球市民としての対話と共生を押し進める営みを包む。したがって、授業構想の際には、グローバルな視座でより良い未来創造に向かうコミュニケーション能力の育成を目指す必要がある。
グローバルイシューを導入した英語授業展開例─コミュニケーション英語Ⅰの事例―
近年の検定教科書が取り扱うグローバルな内容の豊かさから、教師の着眼点や切り口次第で英語の教科書はグローバル学習の題材の宝庫となる。例えば、世界で起こっている諸問題と私たちの暮らしとのつながりに気づかせたり、当事者意識を持って物事を考えさせたりするような仕掛けである。コミュニケーション英語の教科書は、持続可能な開発と環境問題、紛争と平和、フェアトレード、水危機、命、ボランティア活動など、グローバルで良質な題材に富んでいる。そうした題材を十分に活かし切れていない教師が多いと推察されるが、これを単に新出単語や構文、文法を教えるだけの道具にするにはもったいない。グローバルイシューについての理解を深めさせ、問題の背景や解決法を考えさせる内容重視の教授法(CBI やCLILなど)により、生徒がグローバルな教養と自分の考えを持てるように支援したい。また、内容について深く考えさせ、意見を求めることは、思考力や表現力の伸長にもつながる。
例えば、コミュニケーション英語Ⅰ(Genius 大修館書店)のLesson1 の“A Village of One HundredPeople ”は、世界を百人の村に縮めてみたときに浮き彫りになる世界情勢や貧富の格差などを紹介している。主な言語材料は、to 不定詞や形式主語のitの用法である。構文や文法の用法を含めながら言語活動を行う際、Lesson 1 の内容を踏まえて、例えば It is very important for every child to have a school education. / To live without safe drinking water is impossible. It is necessary for us to have access to fresh water. といった意味のある文章を書いたり読んだりさせることができるだろう。
今年の春に筆者が行った高校一年生の授業実践の一場面を例として紹介したい。教科書のテキストを用い、次のような発問により、生徒のグローバル意識の高揚を図った。【C参照】
C
テキスト
Most children go to primary school, but not everyone can reach the last grade.
教師による発問(1):
Why can’t everyone reach the last grade? Why do you think they drop out?
テキスト
Will you be surprised to hear that fifteen adults in my village cannot read or write?
教師による発問(2):
If you cannot read, what difficulties would you face?
(話し合わせて回答)
これらの活動では、発問して生徒に考えさせ、相互に意見交換させて全体で発表し、教師からフィードバックを与えた。さらに、投げかけた問いに対する補足情報(世界の現状)を提供した。そうした活動によって、生徒のグローバル意識は確実に高まっていくものと思われる。また、レッスンのまとめの活動では、問いについての自分の意見をまとめ、発表させて総括した。【D参照】
授業展開においては、「地球市民としてのコミュニケーション能力を育む」という観点から、教師は教材が発するグローバルなメッセージや内容に意識的に踏み込んでいく工夫と努力が必要とされる。そうすることにより、語学力もグローバル意識も相乗的に高まっていく。
D
テキスト
Questions:What surprised you most about the story? Why? What will you do about it?
〈実際の生徒の回答例〉
① I was surprised that the poorest fifty in the village share only 1 % of the wealth, I think that people living in the village are not fair. I think people should live in the world equally.
② I was surprised that they don’t get enough safe drinking water because I have enough safe drinking water every day. I think that Japanese can teach them the skills to make wells.
③ I was surprised that three children in the village will not to live to see their fifth birthday because I thought children usually live without difficulties. I want to tell this problem to many people. If more people know this problem, we can volunteer for children. For example we can gather money to make good conditions for children to grow up in.
さいごに
私自身、これまで世界中の人々との出会いを通して人生を豊かにし、グローバルイシューについても主体的に学び、グローバル教育そして国際協力の実践を積み重ねてきた。グローバル学習は、新たな視点や思考、価値を生み出すきっかけとなる。さらには、学習意欲を高める効果もある。生徒の次のようなコメント(2014年5月)はこの点の証左を示している。【E参照】
生徒に直接的な異文化交流やグローバルイシューに直面する経験を日常的に持たせることは、困難な面がある。だからこそ、日々の授業が、生徒たちにとって少しでもグローバルな社会とつながる時間と空間でありたい。そして、異なる文化圏の人々が話す多様な言語や文化的多様性にも視線を向けさせつつ、英語(外国語)の授業が生徒の豊かな学びを促し、世界の平和と共生に少しでも役立つものでありたいと願う。
E
I have never thought about the problem, because it is very natural for us to go to school and to get drinking water in Japan. So, I think I should be thankful and study more about the world.
注1 石森広美著『グローバル教育の授業設計とアセスメント』(学事出版、2013年)
注2 村野井仁著『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』(大修館書店、2006年)
その他の資料
Fisher, S., & Hicks, D. (1985). World Studies 8-13: A Teacher’s Handbook. Edinburgh: Oliver & Boyd.
Pike, G., & Selby, D. (2001) In the Global Classroom1, In the Global Classroom2. Pippin Pub Ltd.(パイク・セルビー 小関一也監修・監訳『グローバル・クラスルーム』明石書店、2007年)
日本国際理解教育学会編著『グローバル時代の国際理解教育』(明石書店、2010年)
※事業報告書『CoReCa2013-2014』(2014年10月発行)に掲載。所属・肩書きは掲載時のもの。