2022年1月23日、「日露高校生パフォーマンス交流」成果発表会をオンラインで実施し、50名の方々にご見学いただきました。発表会では、交流プログラムに参加した日露の高校生19名が3チームにわかれ、『100万回生きたねこ』(佐野洋子作・絵、講談社)をアレンジして作成した動画作品3本を上映しました。
できあがった3作品は、同じ絵本をもとにしながらも、視点も手法もまったく違うものでした。
1本め、チーム「にゃんКот」の作品は、『100万回生きたねこ』のサブキャラとして登場する白猫を主人公にしたもので、飼い主から嫌われて野良猫になり、誰も愛したくないと思っていた白猫が「100万回生きたねこ」の愛を受け入れ、幸せな生活を送ったというストーリーでした。
2本め、チーム「City Cats」は『100万回生きたねこ』のその後のストーリーを想像し、飼い主のことを愛せなかった「100万回生きたねこ」が野良猫として生まれ変わって白猫と出会った後、子猫も生まれ、家族思いの父猫になっていくというものでした。
そして3本めは、チーム「Creativity」によるもので、人を主人公にして、手に猫の痣をもった男性が3回生まれかわったそれぞれの生を描き、3回めの人生では人を愛する姿を描きました。 実写とアニメを組み合わせたり、粘土でつくった人形とアニメを組み合わせたりするなど、それぞれのチームメンバーの得意なことをいかして、日露2言語で楽しめる作品に仕上げました。
*3本の動画作品はこちらからご覧いただけます。
https://vimeo.com/690799861/623ababd79
対話を重ねて
交流が始まる前に、参加者は各自で『100万回生きたねこ』を読み、11の質問に答えていました。質問は、自分が好きな登場人物は誰か、この絵本が伝えているメッセージは何か、そのメッセージについてどう思うか、など本を深く理解するためのものでした。参加者が絵本から受け取っていたメッセージとして、「大切なものはなくしてから気づくこと」「愛されることより愛すことの大切さ」「人間のエゴ」「相手の立場になって初めて分かる感情があるということ」「自由に生きることの素晴らしさ」「愛が人を助けること」などがあがっていました。
これらの回答をふまえ、各チームで発信したいメッセージは何か、原作をどうアレンジするのか、動画作品ではどういった手法を用いるのかなど対話を重ねていきました。オンラインで画面越しながら、顔をあわせて作業ができるのはたったの5回。会えない間はSNS上で、チームごとに戯曲の内容や動画での表現の仕方、素材の作成や収集などについて盛んに意見交換を行いました。
動画作品から受け取ったメッセージ
発表会後に見学者の方々が回答してくださったアンケートや寄せられた声をいくつかご紹介します。
・どの作品も、日本とロシアの空気を纏い、あまり見たことのない色合いの素晴らしい作品だと思いました。
・3作品とも力作でした。どの作品にも根底に流れているのは、愛だと感じました。絵本が伝えたいこともそうだと思っているので、本からの手紙をちゃんと受け取り、読み込み、さらに自分たちの作品に進化させていました。しかもチームで。感じたことを書くだけではまだ半分。それを戯曲にして、さらにそれぞれの母語で深め、イラストと粘土、映像、音楽、ナレーションで表現し、さらに中間発表でブラッシュアップして、発表に至った経緯を考えると、それを受け取った私は感謝でしかありません。それぞれの高校生のネット上に見えてこない時間にも思いを馳せました。
・参加者の皆さんの多様な個性の渦を見た気がしました。ストーリーに心があったかくなりました。
・3作品とも着眼点が違っていてそれぞれの独創性が素晴らしかったです。どこに着目するかについて、日露の高校生たちが意見をすり合わせていく過程は大変だったと思います。皆が積極的に取り組んだ様子が伝わってきて心から感心しました。
・どの作品からも、ティーンエイジャー特有の初々しくも豊かな感性が伝わってきました。
特に、3つめの作品は「死」をテーマにしていましたが、ティーンエイジャーらしい危うさや脆さ、葛藤が表現されていると感じました。また、「死とは生と地続きで、今をどう生きるか?」ということも考えさせられました。
・3つの作品はそれぞれ個性があり、どれもクオリティーが高く泣きそうになりながら視聴していました。自分たちで絵も描いて、曲も作って、演じて、編集して動画を作成したとお聞きし、さらに驚きました。遠隔で日本語とロシア語を使ってこのように交流ができるというのは本当に素晴らしいと思いました。
・Team Creativity(3本め)の作品がよかったです。抽象的なほうが異なる他者間で互いを推し量る姿勢にさせてくれるんじゃないかと思いました。
・1本めの白猫の視点からの動画が、個人的に、とっても感動して涙が出てしまいました。でも、きっと結果よりも、そのプロセスが印象深いものとなって参加者の皆さんの心を豊かにするのだろうと思います。
・日ロ関係においてどのような作品になるかの不安を持っていました。でも、高校生のコミュニケーションは素晴らしいと出来上がった作品をみて感心しました。
・大好きな絵本を取り上げておられるので、もうそれだけで興味津々でした。ロシアの学生さんとの交流ということにも興味がありました。期待以上に学生さんたちからポジティブなエネルギーをいっぱいもらいました。
・全作に共通していたのは「愛」でした。愛すること、愛されること、思うこと、思われること…私自身の生活の中で、そういう会話をする機会があまりないでのこうした動画作品で、高校生の思いを知ることができると、私の子育てを鏡のように映すことができます。しかも今回は、国境を越えて完成させた結晶のような作品を通して知ることができました。ありがとうございます。どの子もたくさんの人に愛されて、幸せになってほしいです。
・自分以外に関心がないこと、死への恐れがないことはすなわち生への執着もないこと、それが他者への関心や愛情を通して変わることを、それぞれのグループがそれぞれに解釈してストーリーに落とし込んでいるように感じて感心した。
・主人公以外を主人公として物語を作っていく手法や物語の主旨を重点的に描いていく手法も昔からありますが、チームで纏めていく素晴らしさを再確認できました。
・どのグループもみなさん「やりきった!」という自信と達成感が表情やことばにあふれていて素晴らしかったです! 初めましてのグループで短期間で協力して、さらにことばの壁も越えて1つの作品を作るのは大変なことだと思いますが、高校生のみなさんにとって忘れがたい経験になったのだと感じました。同じ時間を共有した“仲間”、グループの交流が続いてほしいなと思います。
・「大切なひとと食べるごちそうが世界でいちばんおいしいんだよ!」って素敵だなと改めて思いました。
・今回の作品は、どのチームも生に対してポジティブに捉えていて、社会への期待も感じました。このような生徒たちが出て行く社会を、我々大人が整備していく役割を担っていると思うと、襟を正すような気持ちになりました。
・彼ら彼女らが未来をつくっていく。この交流が続くことを強く願います。
参加者の声
交流初日には、不安と緊張を表情に浮かべていた参加者でしたが、対話を繰り返し、自分の役割と責任を全うして、チームごとにオリジナルの作品を作り上げたことで、成果発表会で見せた表情が自信に満ちていたことが印象的でした。プログラム終了後、振り返りシートを使って今回の交流経験を総括してもらいました。「この交流を一言/ワンフレーズで表すとどんなことばになりますか?」という質問に対して次のような回答がありました。
多様性、Интересно(おもしろい)、世界は広いが世界は狭い!、ひたすら楽しい!!、チャンス、協力、思い出、Creativity、交流、締める、貴重な経験と楽しさ、信じられないほど難しいがおもしろい、経験、有益な体験
(担当:長江・千葉)
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* TJFの「ウクライナ侵攻に関する抗議声明」はこちらをご覧ください。
事業データ
日露高校生パフォーマンス交流2021
2021年12月11日、12日、25日、26日、2022年1月9日、1月23日(発表会)
オンライン(Zoom)
TJF
日本9名、ロシア10名、計19名の高校生
柏木俊彦(演出家・俳優)
水内貴英(美術家)
山泉貴弘(映像ディレクター)