地球の目線で見たら考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの日常の出来事はなんだろう?
3回目のThe LIVEは、七夕の夜に、クライストチャーチとクアラルンプール、滋賀、ソウル、上海の5つの都市をオンライン(Zoom)でつなぎました。インタラクティブ地球儀「SPHERE」(以下「SPHERE」)を使って地球を感じ、地球の目線で見て考える時間となりました。今回は、「地球の目線で見たら考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの日常の出来事は何だろう」という問いを先に立てて講座に臨みました。
スケジュール
オンライン(Zoom)でつながった各地の特派員からのレポートとSPHEREを活用した講師による解説で地球上の様々な現象について共有し、グループ活動を行いました。
日の入りの空をリレーする
今回は、クアラルンプール、滋賀、ソウル、上海の4つの都市の夜の様子が届きました。遠く離れた場所から集まった参加者たちも、都市が夜をリレーしているような地球の営みを感じることができました。私たちは、この星に共に存在しているのだという実感(共在感)を得ることができました。
特派員による現地レポートと竹村眞一氏の解説
特派員のレポートは、大きくまとめると以下の内容でした。
1.2023年1月ニュージーランド・オークランドのサイクロン被害と、新しい年の始まりを祝うマオリの祭り「マタリキ」
2.2023年3月のマレーシア・ジョホール州の洪水と、2022年8月の日本・滋賀県の大雨
3.2022年8月の韓国・ソウルの洪水と、2023年6月の中国・長江中下流の豪雨 それぞれのローカルなニュースを受けて、講師の竹村眞一氏(文化人類学者)の解説で、地域的な事象を地球の目線で捉えなおすという構成で進行しました。
1 「夏至・七夕、冬至・正月。」
クライストチャーチからのレポート:
特派員だんさんからは、現在のクライストチャーチの様子と今年1月に発生したニュージーランド・オークランドのサイクロン被害についてのレポートがありました。そして、特派員みかさんからは、ニュージーランドの祝日にもなっているマオリの新年のお祭り「マタリキ」(MATARIKI)が紹介されました。マタリキは冬至を迎えたあと、少しずつ日が長くなり始める時期に、東の空に輝き始める昴(プレアデス星団)のことで、先祖とつながり新たな年の恵みを祈るマオリの文化という説明がありました。
竹村氏による解説:
北極では6月末にほとんど日が沈まない白夜になる一方、南極ではほとんど日が昇らない極夜になる様子をSPHEREで確認しました。北半球と南半球を問わず、冬至(北半球は12月末、南半球は6月末)のお祭りは、日が長くなり始める地球の様子にあわせて開催されます。そして、新たな年に豊かな恵みがあるようにと願うというのは他の地域のお祭り(クリスマスなど)とも共通していると解説されました。
高梨氏による解説:
七夕は、星にまつわる日本のお祭りで、実はマタリキによく似た風習であることが紹介されました。日本には、冬至を過ぎた1月を新たな年の始まりとし、夏至を過ぎた7月を1年の残り半分という節目の日として大切にしてきた歴史があります。中国にルーツを持ちながら、日本の気候環境や風習と結びついて独自に発展していった七夕を例に、地域軸や時間軸で世界を比較してみること、地球の目線で世界を眺めることの意義が伝えられました。
竹村氏による解説:
地球の目線で夜の移ろいを見ることは、太陽と地球の関係を表していることがわかります。そして地球の様子と私たちの文化には深いつながりがあることがよくわかります。
2.2023年3月のジョホール州の洪水と、2022年8月の滋賀県の大雨
クアラルンプール、滋賀県からのレポート:
まず、クアラルンプールの特派員さぶりなさんからは、今年2月28日から3月1日にかけて降り続いた大雨の影響でマレーシア・ジョホール州の16の河川で危険水位を超えたこと、避難者82,000名、死者4名の被害が報告されました。洪水発生以降、人々の日常生活にも影響があり、ニュースや警報のチェック、非常時持ち出し品の用意、避難場所の確認などの自己防災意識が高まっていることが伝えられました。 つづいて、日本・滋賀県の特派員くまさんからは、昨年8月5日の局地的な大雨の影響で氾濫した高時川(琵琶湖流入河川)の様子が報告されました。身近に感じる変化として、琵琶湖の水位が低いことなどが伝えられました。また、最近知ったこととして、人の手により琵琶湖の水位を調整して人々の暮らしが守られるようになった一方、湖が増水し氾濫することで、外敵の少ない周囲の田んぼで産卵していた琵琶湖固有の生き物にとって繁殖しにくい状況になっていることが紹介されました。
竹村氏による解説:
この季節、日本に雨をもたらす雲(水蒸気)はインドから中国の南方、そして韓国を経て日本にまでやってきていることが地球目線でみるとわかります。地球目線でみないと中国の天気も、日本の天気も正確にはわからないのです。天気図をみると、4つの気団(揚子江気団、オホーツク気団、熱帯気団、小笠原気団)が拮抗して停滞し、その間に流れ込む水蒸気によって中国、韓国、日本にまでのびる前線(梅雨前線)のもと、雨がもたらされるということがわかります。
滋賀からのレポートにあったように、川や湖も私たち人間の呼吸のように水かさを増減させています。自然の呼吸を大切にしなければ生態系の持続可能性はありえないことがわかります。人の築いた田んぼは、氾濫した川や湖の水を吸収する天然のダムの役割を果たして人の命を守り、同時に川や湖に生きる生物の繁殖の場として機能し、虫や魚の命を育んできました。また、オーストラリアやアメリカの先住民は火入れで小さな面積を焼いて森を管理することで、小さな山火事が、次の山火事の火止めの役割を果たして大きな山火事を防いでいることがわかっています。人が適切に自然に手を加え、関与していくことは、よりよい自然を作りあげることに繋がるのです。人は自然にとって害悪にしかならない存在ではなく、地球と共に創造してより良い未来を築いていくことができるのです。
ポイント
1.気象や気候は、地球目線でみなければわからない
2.人が適切に自然に関与していくことは、よりよい自然をつくることにつながる。人間は、地球にとって害悪にしかならない存在ではなく、地球と共創してよりよい未来を築いていくことができる
3.2022年8月のソウルの洪水と、2023年6月の長江中下流の豪雨
ソウル、上海からのレポート
ソウルの特派員ゆんさんから、昨年8月8日に大雨の影響で発生したソウル市内カンナムの浸水事件について報告がありました。1時間に145ミリの大雨の影響で、カンナム駅など複数の地下鉄駅が浸水したり、マンホールのふたが外れて人や物が水の渦に流されたりして、命を失った方もいました。事件以降、雨の日はマンホールを避けて通るようになったり、なるべく地下鉄に乗らないようにしたり、天気予報を細かく確認したりするようになったと自身の意識と行動に変化があったことが伝えられました。
つづいて、上海の特派員しいえいちさんからは、今年5月26日に、5月の過去最高気温を更新し36.6℃を記録したことと、長江中下流域で豪雨が頻発していること、テレビのニュースで呼びかけられている注意事項(山や川から離れること、低い場所から離れること、高圧線や鉄塔から離れること、川を渡らないこと)が紹介されました。急な雨が増えて傘を持って出かける人が増えたという身近な変化も伝えられました。
竹村氏による解説:
地球温暖化が進むと、洪水で水が多すぎたり、干ばつで水が少なすぎたりと、極端な気象現象が増える傾向があります。特に北極やヒマラヤなど氷に覆われた地域は影響を受けやすく、ヒマラヤの氷が溶けることで長江やメコン川、ガンジス川の流れに影響が及ぶことが示されています。地球温暖化は、気温だけでなく水ストレスを引き起こし、世界の食料生産に影響を与える問題でもあります。しかし、パリ合意で目指す気温上昇を2度以下に抑え込むことが成功すれば、真鍋淑郎氏のデータに基づく地球温暖化のシミュレーションの結果は前向きになります。私たちの決断と努力によって未来は変えられるのです。地球の目線で地球温暖化の二つの違う未来を見比べることで、私たちが今何をすべきか、何ができるかがわかってきます。
ポイント:
3.地球の目線で地球温暖化の二つの違う未来(シミュレーション)を見比べることで、私たちが今何をすべきか、何ができるかがわかる。
グループワーク「地球の目線で見たら考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの日常の出来事ってなんだろう」
高梨氏による「地球の目線」解説:
地球の目線で考えるためには私たち、人の目線がどのようなものであるかをまず考える必要があります。雨の日に溜息をつくことがありますが、それは私たちが「人の世界」のなかで暮らしているから湧き上がる感情です。地球は人類に敵意など抱いていないので、「地球によるしっぺ返し」や「自然が牙をむく」といった表現も「人の目線」による見方です。だからこそ、「地球の目線」で考えることで、これまで見えなかった人の可能性や地球の可能性を拡げるきっかけになるのではないでしょうか。」
参加者の発言:
講座を聞いて印象に残った言葉として、「地球温暖化」や「洪水」「天気の変化」などが挙げられました。講座に参加する前からよく聞いていた言葉が、より印象的に聞こえたり、講座に参加してあらためて印象が変わったりした理由はさまざまでした。また、「自然に人の手を加えることが必ずしも悪いことばかりではなく、よりよい自然に貢献することもある」という話にも印象が残ったという声もありました。
「地球の目線で見たら考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの日常の出来事ってなんだろう」という問いに対しては、北半球の今暑い地域の参加者と南半球の今寒い地域の参加者とのやり取りを通じて、「衣替え」という習慣を地球目線で振り返ってみたときにいつもと違って感じられたとか、温暖化の影響による食糧の不作が紛争の原因になったという話を聞いて、問題の背景を地球目線で探ることを意識したなど、気づきを共有しました。
メッセージ
最後に参加者に向けて、講師の竹村氏より以下のメッセージが贈られました。
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「人の営みは、やり方次第で自然にとっての害悪になったり、よりよい自然に貢献したりします。では、なんのために人間という大型動物(微生物まで含めると地球上の生物の中では大型)が80億もいるのでしょう。地球上に存在する大型動物の体重の合計に人や人が飼育する家畜が占める割合は98%とされています。つまり地球は人の影響力がとても大きい惑星といえるのです。地球温暖化のふたつのシミュレーションからも、地球における人の力の大きさを確認できたのではないでしょうか。人間なんて地球に比べたら小さな存在だというのはとても古い発想です。100年前、人の交通手段だった2頭立ての馬車が、現代では200馬力の自動車です。人はこの100年で、100倍の力を手にしてきたのです。人間の力は決して小さくないのです。地球の現在と未来を可視化してみることもできるようになりました。みなさんは、地球の未来をよくするような作業に参加できる可能性を持った世代です。ワクワクして生きましょう!
参加者からの声とプログラムのこれから
本事業は、世界の青少年の「グローバル」に対する理解を国際から地球へと更新し、地球の目線で異なる他者とつながる機会を提供することを目的としています。2023年度は、まず昨年同様、短い時間の中で参加者が、この星に共に在ると感じる「共在感」を体験できることをめざしました。
特派員や世界の同世代の60名が、世界各地の日の入りの様子を一緒に味わったり、講師の解説を通じて各地のローカルなニュースをグローバルに捉え直したりしながら、参加者は地域や国を越えて地球の目線で世界を観る体験をしました。
プログラム後のアンケートで、参加者から地球の目線に関する次のような感想が寄せられました。
「リアルタイムで動いている様子を見られることに驚き、この地球に住んでいるんだという、地球とのつながりを深く感じました。」
「地球の目線で環境問題をみるのは、非常に興味深いものでした。」
「地球の目線で考えることについてより詳しく知ることができたので参加してよかった」
「人の視点を地球の視点に変えると物事の見方が変わったことがおもしろかった」
「地球の問題を人間からの視点ではなく地球からの視点で見ることも重要だと思いました」
「地球目線からみるということで新たに分かることもあったので、他に地球目線から見て何があるのか調べてみたいと思った。」
「地球の目線をもつことができました」
「今回のプログラムに参加して、日常の様々なことへの見方が変わりました。」
「明日から地球の目線で考えて生活を送りたいです!」
「戦争の原因が地球環境にあるというのは考えたことがなかったので初めて学んで面白いと感じた。」
「グループアクティビティでグローバルな目で見たものについて話すのは楽しかったです。」
「人間が活動することは環境にとって悪い影響を及ぼすだけでなく、良い影響を及ぼすこともできるという話が興味深かった。」
「世界のつながりを感じることができて、良い経験になりました。」
「もっと深い内容のものに参加したいです。」
「受講してよかったなと本当に思っています。」
「とても楽しく参加させていただきました!また参加したいです!」
短い時間の中、いままで経験したことのない目線で世界が見られるようになるのは簡単ではありません。しかし、「地球の目線」という見方を体験し、体験したことを同世代で共有することで、参加者は国境や人種、国籍など現実世界にあるさまざまな境界を越えて、地球の未来(私たちの未来)について一緒に考えたり、創造したりできるようになります。更に、地球についての学びや気づきの実感値が深まるような交流の機会がもてたら、私たちをつなぐあらたな文脈が醸成される可能性があるのではないでしょうか。
本年度は、12月23日(土) 10:00から15:00の予定で地球講座 The COREというタイトルのプログラムを予定しています。地球の目線で、答えのない課題について探索的に対話しながら、わたしたちの未来を共創する場をひらきたいと考えています。対象の中高生年代のみなさんには、是非参加していただけたらと思います。
(事業担当:中野敦、森亮介)
事業データ
地球講座 The LIVE「夜のリレー」クライストチャーチ・クアラルンプール・滋賀・ソウル・上海をつなぐ150分
2023年7月7日(金)18:00-20:30
オンライン会場(Zoom)
TJF
特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)
竹村眞一 /特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)代表、京都芸術大学教授
高梨集 /特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)
だん(クライストチャーチ・ニュージーランド)
みか(クライストチャーチ・ニュージーランド)
さぶりな(クアラルンプール・マレーシア)
くま(滋賀・日本)
ずいお(滋賀・日本)
ゆん(ソウル・韓国)
しいえいち(上海・中国)
古田小桜[ファシリテーター]
ハビブウラファティマ美弥[ファシリテーター、英語逐次訳]
山岸笑璃[ファシリテーター]
53人*<日本の中高生、中国の高校生、韓国の中高生、マレーシアの高校生>
*70人の中高生から応募(日本:41人【うち中学生は7人】、韓国:14人、中国:9人、マレーシア:6人)があり、当日は53人(日本:33人、韓国:9人、中国:5人、マレーシア:6人)が参加しました。