対話で地球の文脈を共創し、つながりを実現する
昨年2023年11月11日、12月2日、23日に、地球講座 The COREをオンラインで実施しました。クライストチャーチ(ニュージーランド)、クアラルンプール、スランゴル(マレーシア)、京畿道、水原(韓国)、上海(中国)、滋賀、福岡(日本)、ブリティッシュコロンビア(カナダ)の9つの都市から集まった16名の高校生・大学生が参加し、未来の地球について考えました。
前回7月7日に実施した地球講座 The LIVE(https://www.tjf.or.jp/information/14337/)では、オンラインでつながることで遠く離れた人の存在も身近に感じ、さらにさまざまな地域の人たちと同じ惑星にともに在るという感覚(共在感)を得ることができました。一方で、参加者それぞれの状況・環境への慮り(context awareness)を十分に醸成するには対話の時間が十分でなかったこと、については今後の課題となりました。
そこで、日数、期間を拡大して、参加者間はもちろん講師・ナビゲーターと参加者の間の対話環境を整えることで、地球を文脈にしたつながりの実現を目指すプログラムを企画しました。
プログラムの流れ
1日目 地球の目線でみて考える
最終日の発表テーマ「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」にむけてまず、プログラムの世界観を共有するために、デジタル地球儀「SPHERE」(以降、「SPHERE]とする)とそのコンテンツの一部を紹介しました。つづくアイスブレイクのあと、地球の目線について考える時間をもちました。
ナビゲーターのNPO法人ELPの高梨氏からは、地球の文脈をとらえるために必要な地球の目線について解説してもらいました。
”例えば、地球温暖化は、人の目線では課題として捉えられますが、地球の目線では、地球の歴史の一部分にすぎません。なぜなら地球46億年の歴史の中で、もっと寒い時期(氷河期)や、もっと二酸化炭素の濃度の濃い時代もあったからです。また、雨や地震など、生活上の不都合または災害として捉えるのは人の目線で、地球の目線でみれば常にどこかでみられる星にとってはあたりまえの鼓動であり胎動なのです。”
最後に「地球の目線で見たら、考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの身近な出来事」を4つ目の課題として提示し、後日Slackに提出するように伝えました。加えて、課題4の内容やそこから自分が考える「自分の地球」をマインドマップに書き出すタスクを5つめの課題としました。課題4,5は冒頭に共有した発表にむけた対話のための準備として課しました。
2日目 グループで「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」について話しあう
Zoomに集合した参加者スタッフ全員が、順番に声をかけながら自分の好きな食べ物を紹介するというアイスブレイク活動をおこなった後、3つのグループにわかれました。グループの名前は宇宙船地球号1、2、3としました。
グループに分かれてからは、それぞれが課題4「地球の目線でみたら考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの身近な出来事」と課題5の「自分の地球のマインドマップ」を自己紹介としてシェアしました。
参加者から提出された「地球の目線で見たら、考えたら、いつもと違って感じられそうなあなたの身近な出来事」(一部抜粋)
・中国では、二十四節季という季節の変化を記録する伝統的な方法があります、今週の水曜日は『立冬』という節季です、つまり冬に入ったという意味です。しかし、その日はとても暖かくて全然寒くありませんでした。ところが、この二、三日で急に寒くなったのです。地球の目線で見たら、人の歴史を越えた時間軸で、気候の変化の時なのかもしれません。温暖化はますます厳しくなる感じがします。
・今週私は修学旅行で韓国の済州島に行ってきました。飛行機の中で都市を見ながら、「地球にとって私たちはどれだけ小さな存在なのかな」って思いました。私たちの目線では大きく見えることが地球にとってはとても小さなことかもしれませんね。そして私たちには別々に見えることも地球の目線では全部繋がっているのかもしれません。
・よく、「人間のせいで」環境が悪くなっていっていると言われるけど、地球の目線でみれば「人間のおかげで」何もなかったただの惑星がここまで発展したと考えられるのではないかなと思いました。もちろん環境を荒らすのはよくないと思うけど、地球が地球らしく自由にこの宇宙に存在することが大事だと思います。
・地球の目線で見て考えると、私たちが普段からやってる環境を改善させるための運動(例えばSDGsとかそれの対策など)も人間目線で作られていて人間への利益を考えて作られているものだなと思いました。
・マレーシアの東海岸に住んでいる私の友人の中には、毎年洪水を経験している人もいて、田舎に住んでいる人のほとんどが小さなボートを持っています。 本当に大変なことなんです。 しかし、地球の視点では、地球にとってモンスーンは大したことのないあたりまえのことのようにみえます。 地球はただくしゃみをしているだけです。
「自分の地球」マインドマップ
全員で再び合流した後、最終日の発表テーマが「未来の地球―こんな地球にしてみたい」であることをあらためて確認しました。まず、個人のマインドマップをきっかけにグループ全体で共有するマインドマップ「わたしたちの地球」をつくりながら仲間と協力して未来の地球を表現するようにしました。高梨氏からは未来の地球を考える際、人間は自然の一部であり、人間の立場から世界をみることと、自然の立場から世界を眺めることを往還させながら考えてみることが重要だとアドバイスがありました。
グループに分かれた参加者は、それぞれの未来の地球のイメージを並べたり重ねあわせたりしながら、どのような「わたしたちの地球」にしてみたいかアイデアを広げました。最後に途中経過を全体と共有し、他チームからのコメントを参考に内容を見直したり、発表方法を再検討をしたりしました。グループマインドマップと発表「未来の地球 ‐こんな地球にしてみたい」(案)は1週間後を期限に提出する旨を伝えて、この日のスケジュールを終えました。
グループマインドマップ
3日目 仲間と共創した「未来の地球」を発表する
最終日の午前中、宇宙船地球号1から3の順に、これまで仲間と対話しながら共創した未来の地球に関する途中経過を、グループマインドマップと共に報告しました。各報告を受けて、文化人類学者の竹村眞一氏がSPHEREを活用し、新たな視点から参加者の更なる発想を促しました。竹村氏の視点を取り入れながら、グループはより大胆に未来の地球を構想し、発表に向けて資料を作成したり、台本を考えたりしました。
昼休みをはさんで、いよいよ発表会を開催しました。宇宙船地球号1は、ファストファッションと地球環境問題というキーワードを組み合わせ、未来の地球に関するアイデアを広げました。独自のアプローチとして、「地球さん」という地球を擬人化したキャラクターを生み出し、「未来の地球 ‐こんな地球にしてみたい」を描きました。この物語仕立ての発表は、聴衆の関心を引くユニークなものとなりました。
宇宙船地球号2は、下から順に「愛があり、推せる地球」「新しいことに抵抗がない地球」「壁がなく、成長、共存できる地球」、そして先端に「平和」というキーワードをクリスマスツリーの飾りにみたてたイラストをあしらい、成長する地球を表現しました。
宇宙船地球号3は、地球の目線と人の目線をいったりきたりしながらいろいろな生物の気持ちや考えを世界化でき(広げ、繋げ)、バランスのとれた地球をVISIONに掲げました。実現のための方策として、以下の3つを提案しました。
・癒しになる景色、地球の情報をパートナーシップで、世界化(共有)すること
・情報、景色、多様性を広げること
・地球の存在が自分の存在の延長線上にあることを意識すること
メッセージ
発表のあと、竹村氏から参加者へむけて以下のメッセージが贈られました。
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宇宙船地球号1の参加者にむけて
地球って人間がわかることばでかたってくれるわけではありません。だから人間がわかることばにして伝えてくれるひとが必要です。地球を三人称で表現して「守れ」と呼びかけるのではなく、地球に語らせるということをやっていってほしいと思います。
発表の中の、CO2とかゴミがない地球をというところはさらに学びを深めてもらえたらと思います。なぜならCO2は毒ガスではないからです。本来この世を循環しているものです。何か、CO2が有害なものかのように「減らせ減らせ」といわれますがやや語弊のある言い方だと思います。大事なのはバランスです。急激な変化やバランスを崩すものはよくありません。
宇宙船地球号2の参加者にむけて
発表のモチーフはクリスマスツリーでしたが、冬至は、太陽の死と再生の時期なんです。日のさす時間がどんどん短くなってまるで太陽が死んでしまったかのように感じる時です。北欧などまったく日が昇らない極夜を迎える地域では特にそう感じられるでしょう。太陽の死と再生にキリストの死と復活を重ねあわせ生まれたのがクリスマスの習慣です。
だからちょうど今、生まれ変わりの時なのです。地球は守るものではなく更新(アップデート)していくべきものです。私たちの身体の細胞も死んではあたらしく生まれかわっています。あるものをずっと守るというのは生命の在りかたではありません。生命も地球も壊して生まれ変わるから強いのです。ずっと同じでありつづけるというのは変化に弱いのです。でも自分をつくりなおしつづけているものは変化に適応できるのです。そういうことを話すのにクリスマスはちょうどいい時でした。
宇宙船地球号3の参加者にむけて
地球は自分の延長だというメッセージがすばらしかったです。先ほどSPHEREでみたように私たちの感覚神経が地球スケールに拡張しつつあります。つまり私たちは地球の体温や体調を感じられるようになってきたのです。それが可能になる世代の地球との関わり方、地球とのパートナーシップを是非みなさんに持ってほしいと思います。
プログラムのこれからと参加者からの声
地球講座 The COREは、「SPHERE」を活用して自分と他者、ローカルとグローバル、過去と未来などスタンスをかえて世界をとらえながら地球の目線を獲得し、参加者・専門家との対話を通じて未来の地球を描きながらつながりの実現をめざすプログラムでした。
今回は、対話で相互に理解を深める作業に力点を置かず、参加者それぞれの異なる感性、感覚、視点を並べて重ね、地球をテーマに未来を共に描くことに焦点を当てました。これまで「違い」とは、関係構築において乗り越えなければならない課題と見ることが多かったと思います。しかし、「違い」は参加者にいつもと違う思考を促し、新たなアイディアを育みます。さらに対話を重ねることでアイディアは参加者をつなぐ文脈になります。一緒に描いた未来の地球が、文脈となってグループの仲間を繋ぐ物語となるのです。「違い」は繋がりの実現における可能性であり希望なのです。
「グローバル社会」と呼ばれるようになって久しいですが、地球という舞台で全ての人と理解を前提に関係を構築するのは非常に困難です。「分かりあえなさ」を前提に「違い」を認識し、その上で繫がりを築いていくという姿勢が求められているのではないでしょうか。国際文化フォーラムはこれからも、地球という舞台で多様な他者とのつながりを実現する地球の文脈づくりに取り組んでいくつもりです。
プログラム終了後によせられた参加者からの声(一部抜粋)
・学校とかで使うような地球儀ではなく、ある時の状況を表したりすることができる地球儀を使って色々なことについて話をきいたり考えたりしたことが楽しかったです。
・今まで学校で習っていないようなことを考える機会がたくさんあって深い時間になったと思います!
・普段話すことが出来ないような海外の人たちと色々な話を共有できてとても楽しかったです。こんな地球にしたい!という話題で今の地球に必要なものや改善点を話し合う時、グループの子で今まで聞いたことないような言葉が出てきて面白かったです。
・地球を色々な視点で見ることが出来ました。今まではどうしても地球中心に考えようとしても人間の目線が入っているなと改めて感じました。竹村先生の地球がとても面白かったです。もっとたくさんの地球について知りたいなと感じました。
・地球についての意見や理解を表現することも、コメントやそれについてのさらなる情報を受け取ることもできました。私は世界中のプラスチック廃棄物の生産のトピックに興味がありました。東南アジアがプラスチック廃棄物の最大の生産者の1つであることを理解していたので、それについてもっと知りたいと思いました。また、グローバルな北と南の間のプラスチック廃棄物の取引について研究を始めました。
・地球とのパートナーシップを形成し、地球を自分自身の地球と見なすという考えがとても興味深かったです。
・チームに分かれてアクティビティを進めたのが良かったです!スタッフの助けを借りて、私はよりスムーズで楽しい活動をすることができたようにおもいます。そして、プログラムが終了した後、一緒にチャットするのがとても楽しかったです
チームメンバーと話をして、将来のために何をすべきかについて意見を共有するのは楽しかったです。私は私たちの地球が温室効果によって傷つけられているという抽象的な考えを持っていましたが、私は講義を数回聞いて意見を共有し、私たちの地球の悪い変化にもっと興味を持ち、環境運動に興味を持ちました。
新しい地球を見るのは楽しかったし、世界中の人々と話すのは楽しかったです。さまざまな視点で環境保全の概念を考えることができることに気づき、それに関連するトピックに興味を持つようになりました。
皆が最後の発表にむけてやりとりしたのが面白かった。人間の平和と人間と自然の共存に興味がわきました。
(事業担当:中野敦、森亮介)
事業データ
地球講座 The CORE
2023年
11月11日(土曜日)10:00-12:000
12月2日(土曜日)10:00-12:000
12月23日(土曜日)10:00-15:000
オンライン会場(Zoom)
TJF
特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)
竹村眞一 /特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)代表、京都芸術大学教授
高梨集 /特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)
朝田航太 [サポーター、韓国語逐次通訳]
古田小桜 [サポーター、アイスブレイクファシリテーター]
山岸笑璃 [サポーター、英語逐次通訳]
稲福彩 [英語逐次通訳]
古小高紗那 [英語逐次通訳]
イジユ [韓国語逐次通訳]
佐々木愛理 [韓国語逐次通訳]
洪櫻芝 [中国語逐次通訳]
樊林佩 [中国語逐次通訳]
三浦明子 [中国語逐次通訳]
15人*<日本の高校生、中国の高校生、韓国の高校生、マレーシアの高校生大学生、ニュージーランドの大学生>
*日本:6人、韓国:3人、中国:3人、マレーシア:2人、ニュージーランド:1人)が参加しました。