感性と知性で地球を見て、考えて、対話する
6月22日(土)に、東京都千代田区麹町のLIFULL Tableにて開催された「地球講座 The LIVEー地球の仲間とであい、地球の今をつたえあい、地球の未来を紡ぐ」は、感性と知性を重ねて地球について深く考え、対話し、地球大の関係力に意識的になることをめざしました。
スケジュール
このプログラムは、以下の3部構成で進行しました。
第1部: 写真と色から地球をイメージする
参加者はそれぞれ身近な地球の写真を通じて地球の姿を捉え、色でイメージを共有しました。これにより、言葉による説明よりも先に感性的な交流が促進されました。
第2部: ローカルニュースとグローバルな視点の解説
Zoomを介して、クアラルンプール、上海、ソウル、北京、マニラの各都市の青少年がレポーターとして講座に参加しました。レポーターはそれぞれの地域の地震、大雨、煙害のニュースを伝え、それを受けて講師がデジタル地球儀SPHEREを使用してグローバルな視点から解説しました。また、レポーターによる各地の日の入り前の空模様を中継で共有しました。
第3部: 未来の地球を想像し共有する
参加者は「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」というテーマでグループでアイデアを準備し、発表しました。第1部でそれぞれが連想した色とキーワードをかけ合わせながら、グループで未来の新たな地球像を発想する活動をおこないました。
第1部 写真と色から地球をイメージする
導入アクティビティ①:地球を色でイメージする
参加者はまず、身近な地球の風景を感じることからスタートしました。事前に全員に提出してもらった「身近な地球の風景」の写真を全員分眺め、それぞれの写真から何を感じるか、言葉で説明する前に、色でイメージを共有しました。
138色の色鉛筆を用意し、感じた色を探し、塗っていきます。色を混ぜたり、枠をはみ出したり、塗り方は自由です。感性で捉えた地球像に正解不正解はありません。皆がそれぞれのイメージを受け止めることからはじめたことが、その後の参加者間のコミュニケーションを円滑にするきっかけとなりました。
写真を見て感じた色からワードを連想し、それをかけあわせて、新たなワードを書き出します。最後に出てきたワードを「マイキーワード」とし、更にそこから思い浮かぶ色(「マイキーカラー」)を塗ることで、言葉にするのが難しい感覚までアウトプットできるようにしました。
参加者それぞれがイメージしたワード、カラーと、事前提出した写真を用いて自己紹介したあと、グループにわかれて別の参加者のイメージとかけあわせて「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」のアイデアをふくらませました。
導入アクティビティ②:色相環を使ってイメージの遠い色を探す
グループで未来の地球へのアイデアを考える際に利用したのが色相環です。グループ内の「マイキーカラー」を、色相環の図を使って、最も遠い色の組み合わせを探し、各「マイキーカラー」にひもづくキーワードをつないで、対話しながらアイデアをふくらませました。この活動を通じて、参加者は個々の視点を超えて共通の目標に向かって大胆に発想し、アイデアを練ることができました。
第2部 ローカルニュースとグローバルな視点の解説
現地レポートと講師による解説
レポーターによるローカルニュースは、以下の内容でした。
1.2023年12月に発生した、ダバオ沖のM7.6の地震と、甘粛省と青海省の境界でのM6.2の地震(マニラ、上海からのレポート)
2.2023年7月に発生した、忠清北道清州市の豪雨被害と、北京市・河北省の大雨(ソウル、北京からのレポート)
3.2023年9月末から10月にかけて発生したクアラルンプールの煙害(クアラルンプールからのレポート)
マニラ、上海のレポーターからのローカルニュース:
マニラのレポーターのニカさんからは、昨年12月3日にダバオ島沖で発生したM7.6の地震に関する報告がありました。この地震により8315世帯が被災し、39万9765人が影響を受け、3人が亡くなり79人が負傷したと報告されました。マニラは地震が頻発する地域であり、政府は住民を災害から守るための建築基準を設けています。また、ニカさん自身も非常口の確認や家具の転倒防止策、緊急キットの準備などに意識を向けていることが紹介されました。
続いて上海のレポーターのちーきさんからは、同じ時期に中国内陸部で発生した地震のニュースが届きました。甘粛省では117人が死亡し、781人が負傷し、20万7000棟以上の住宅が損壊したと報告されました。青海省でも34人が死亡し、198人が負傷し、12人が行方不明となったと伝えられました。2008年の四川大地震後、中国は5月12日を全国防災減災デーと定め、上海市では市民に「市民防災手帳」を配布するなど、防災意識の向上に努めていることが紹介されました。
竹村氏によるグローバルな解説:
過去にはスマトラや東日本で大きな地震が起こり、それに伴う津波が地球の裏側まで到達しました。これらの波はゆっくり広がっているように見えますが、実際には時速700キロで移動します。SPHEREを通じて見れば、これは日本だけでなく地球全体の津波として見えますね。
地球では世界中で大地震が発生していますが、どこでも起こるわけではありません。地震はプレートの境界で起こる現象です。プレート同士がぶつかり、地球の表面が隆起していく様子が、プレートテクトニクスの理論によって説明されています。
ところで地震や火山噴火は単なる「災害」でなく、「恵み」をもたらすこともあります。例えば、新たな大地を形成し鉱脈を生み出します。この地球の「災い」と「恵み」の両面をどうクリエイティブに捉え、新しい文明を築いていくかが、今、私たちが直面する課題です。
プレートテクトニクスの理論が確立されたのはわずか40~50年前であり、わたしたちはこれらの地球観をもとに新しい文明をデザインする世代として、ここから新たなスタートを切るべきです。
ソウル、北京のレポーターからのローカルニュース:
ソウルのレポーターのえりかさんからは、2023年7月15日に発生した豪雨による地下車道トンネル区間の浸水事故が報じられました。この事故により14名の方が亡くなり、9名が負傷しましたと報告されました。気候変動による洪水リスクが増大しており、適切な対策の必要性が強調されました。えりかさん自身も、雨の日は地下車道を避けて迂回するように変えたことを紹介しました。
北京のレポーターのおうさんからは、過去140年で最多の降水量を記録し、北京市と隣接する河北省で11人が亡くなり、約4万5千人が被災した大雨の報告がありました。おうさんは実際に北京の豪雨を体験し、また河北省の友人が住む涿州市(たくしゅう‐し)でも被害があったことを伝えました。これらの体験から、天候異常への関心と防災意識の高まりが語られました。
竹村氏によるグローバルな解説:
今の季節(夏至のころ)、東アジアでは四つの気団に挟まれた地域に前線が形成されます。SPHEREを見ると、この前線に沿って雲が連なっているのがわかります。この地域は雨が集中する傾向にあります。最近は海水温が上昇し、海の水が蒸発して雨雲が発達するため、雨の量が増加しています。その結果、雨の降り方がより激しくなっています。
日本は急峻な地形が多いため、雨が集中して洪水や渇水の被害が多発する地域でした。しかし、人々は水田を作り、水の流れを緩やかにすることで洪水を減らし、水を貯めて利用可能な状態にしました。東京では、30年前から都内各地に天水を集めるタンクを設置し、低地に流れる雨の量を減らす取り組みが行われてきました。このようにして、水の被害を抑えながら使える水を増やし、日本は水の豊かな国と呼ばれるようになったのです。
水は天から与えられたものではなく、人間が地球と協力して築き上げたものです。人間の力で自然と共生し、良好な自然環境を作り出してきたことを忘れてはなりません。クリエイティブに取り組むことで、洪水や渇水の問題を解決できる可能性があります。自然との調和を考えることが、未来の持続可能な社会を築く鍵です。
クアラルンプールのレポーターからのローカルニュース:
クアラルンプールのレポーターのマルさんから、2023年9月から10月にかけてクアラルンプールで発生した煙害のニュースが届けられました。この煙害は、主に火山噴火や工場、車両から放出される廃棄ガス、そして森林火災が原因で発生したことが報じられました。具体的には、インドネシアの森林火災が影響を与えたとされ、当時は外出時にはマスクを着用し、在宅時には空気清浄機が欠かせない状況だったと伝えられました。
竹村氏によるグローバルな解説:
SPHEREは、人工衛星で観測された森林火災の様子を映し出すことができます。映像をみるとシベリアでも温暖化の影響で森林火災が発生していることがわかります。地球温暖化は地球全体が暑くなる現象です。どこで出したCO₂も世界中に影響を与えてしまう地球目線で見て考えなければならない現象です。かつて問題になった公害のような地域が限定されたローカルな課題ではありません。人類がはじめて経験するグローバルな環境問題で、地球目線が必要な課題です。
レポートの煙害が発生したのは、2023年10月でした。2023年は、ペルー沖で大規模なエルニーニョ現象が発生した年です。例年、この時期のペルー沖の海水は冷たく、逆に東南アジア地域の海水はあたたかくなって水蒸気化し、一帯にたくさんの雨をもたらします。ところがこの年、ペルー沖の海水があたたかかったため、東南アジアの海水はつめたくなり、この地域に雨をもたらす雲が発生しませんでした。結果、いつまでたっても森林火災が収まらず、煙害の被害が大きくなったと考えられます。
地球は人とくらべれば1000万倍の大きさですが、自分の体調同様に、地球の体調を感じるための地球儀がみなさんにはあります。みなさんはその地球とコミュニケーションできるはじめての世代なのです。自分の身を守るだけじゃなくて、地球とコミュニケーションし、街をどうつくるかを考える。これがみなさんの宿題です。
夜をリレーする
今回は、東京、マニラ、ソウル、上海、クアラルンプール、北京の順に6つの都市の日の入り前の空の様子がZoomの画面を通じて届けられました。SPHEREに映し出される現時刻の昼夜境界線とあわせて、世界各地のレポーターが中継する空の様子は、私たちがこの星に共在していることを感じさせてくれるものでした。
第3部 未来の地球を想像し共有する
グループワークと発表「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」
世界各地のレポーターのローカルなニュースと、SPHEREを活用した講師のグローバルな解説を聞いてから、導入のアクティビティでイメージした「未来の地球」を再度グループで対話し、アイデアを重ねました。写真からイメージした個々のキーワードと色をきっかけに、グループで考えた「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」と、それに対する個々の想いを色で表現し、発表しました。
しあわせグループが考えた未来の地球ーこんな地球にしてみたいのアイディア
「差別なく人と協力して自然とお祭りを楽しめる地球」
グループに持ち寄られたキーワードは「秋に散歩」「キラキラ」「虹」「青春」。いずれも平和を連想できるものだった。そこから、どんなときに平和を感じるのかを考えてみた。そしてその平和は、どんな状況・環境で守られるのか考え、大切にしたいことを並べた。
色によるイメージと想い
・黄色と水色。黄色はダイヤっぽくて希望を表現し、水色は明るくて良いと思って選びました。
・青。ぱっとみて好きな色だったこと、こんな地球だったら今よりももっと地球が好きになれるとおもったのがきっかけです。
・深緑。グラデーションで薄い緑から深い緑になっています。環境、自然、森がどんどん多くなっていくことを願って選びました。
プテラノドングループが考えた未来の地球ーこんな地球にしてみたいのアイディア
「母なる大地が日常の一部になる地球」
「母なる大地」と「日常」というキーワードから生まれた。母なる大地は非日常な感じ。でも日常、身の回りに溢れているような状態をイメージした。SPHEREがあれば、離れた地域の森とか海とかを身近に感じることができる。SPHEREのような地球儀が普及したら自分たちの身の回りにないものも日常の一部のように感じられるのではないか。そうなったら地球について話したり考えたりしつづけられると考えた。
色によるイメージと想い
・深い緑。今身近にない母なる大地が将来自分たちの身の回りにある存在になればと思って選びました。
・明るめの黄緑。一人ひとりが母なる大地を日常の一部と考えて洪水や地震などを考えて一人ひとりが成長できたらいいなと思い選びました。
・明るめの黄緑。理由は、今の日常生活と母なる大地はあまり関わりがないからです。これから先の関わりが、親しくて身近な存在になればと思ってこの色にしました。
・一番深い緑。理由は、母なる大地の深みを表現したかったからです。
「プテラノドン」
日常生活でよく見かける鳥を、地球の本来の姿であるときに空を飛ぶものとして思い浮かべたら、そして鳥の本来の姿はなんだろうと考えたら、プテラノドンが出てきた。現在ではドローンが配達などに利用されているが、将来、いろいろなものを届けて世の中を便利にするものを想像した。
色によるイメージと想い
・紫。紫は夢という感じ。夢があるなと感じて表現しました。
・黄色。恐竜は小さい子が好きなイメージ。ワクワクして明るい感じで選びました。
・深い青。プテラノドンは昔の生き物だけど、アイデアは未来のための考え。未来と昔をかけ合わせたイメージカラーです。
・茶色。茶色は日常に近い色、日常に溶け込んでいる色。プテラノドンが日常に溶け込めばいいなと思って選びました。
発表「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」は、出会ったばかりの仲間と、それぞれの多様な地球のイメージを尊重して受け止め、重ねながら大胆に未来の地球を発想することで形作られました。昨年12月に実施した地球講座 The COREでは異なる印象のことばをつないでその先を描くだけでしたが、今回はことばとともに、常に色による表現を欠かさないようにしました。一見似通ったことばでも、色の違いがことばに込められた想いが多様であることを教えてくれます。そして違いはあらたな発想の契機となり、参加者に大胆な発想を促しました。最後にグループとしてことばにした発表「未来の地球ーこんな地球にしてみたい」でも、参加者それぞれの思いを色で表現し、説明しました。結果、込められた想い、イメージはひとりひとり違うことを伝えることができ、より未来の地球のイメージの多様性を表現することに成功しました。
参加者の声
私は人と話すことが苦手なうえに知識量も全然ないので「難しそう、ついていけるかな」ととても不安でしたが、実際に行ってみるとグループディスカッションが多かったり、海外の人や他校の人など普段関わることのない人達の発想や意見を聞くことが出来て、とても楽しかったです。
地震や洪水、煙害全てに今までの地球の動きや人間と地球の関わりが関係してたり、自分の国の反対でとても遠い地域の問題でも地球全体に影響していて地球全体の問題なんだということがわかって、地球そのものや人間と地球の関係の歴史も含めて全て繋がっているんだと感じて面白いと思いました。
全て面白かったといいたいところですが、特に、今まで地球の未来について地球温暖化やグローバルな問題から考えることはあったものの、色という観点から考えたことがなく、実は最初、「こういう考え方で本当に地球の未来を考えられるのかな?」と、少し思ってしまっていた自分がいました。しかし、実際やってみると、自分の中で眠っていたイメージが色で表すことでどんどん生まれてきて、最終的には仲間と今までの自分だったら考えられないような未来を創造することができて、大変面白いと感じました。
新たな観点で地球を理解することが出来ました
今まで地球は繋がっていて各国が影響しあっていると聞いてもあまり実感がなくて言葉で落とし込んでいました。でも今回の講座に参加してライブで各地の天気を見たりSPHEREを使って地震や津波が地球の裏側に影響を及ぼすのを見たり自分の目で見て地球は繋がっていてある国の影響が違う国に被害を与えているのを見ることができてひとつの地球に住んでいて各国や人が影響しあっているのを実感することができて面白くも嬉しく思いました。私は自分で描いた絵を否定されたことが何度かあって、最初地球に感じた色を塗って自分のイメージを伝えるのが怖かったです。でもみんなが頷いてくれたり、いいね!と言ってくれたり自分のイメージを受け入れてもらえたことがすごく嬉しかったです。少し克服できた気がします。みんなのそれぞれのイメージを聞いてそんな想像をしたのか!という新たな発見もたくさんあって面白かったです。地震や自然災害などは仕方がないことだと思っていましたが、私たちが地球との会話を怠ったことが原因だと新たに知ることができました。
プログラムの今後
地球講座は2021年度より開始し、他事業とのコラボレーション企画も含めると過去6回開催しました。7回目となる今回、これまでどおり世界各地のレポーターとオンラインでつなぎながらも、東京に会場を用意し実施しました。
地球講座は、興味関心や考え、価値観など多様なひとたちとのつながりを実現するあらたな文脈づくりに取り組むプログラムです。12月に開催予定の地球講座 The COREは、オンラインプログラムとして企画し、国内外から参加者を募り、地球をテーマに十分にやりとりができる環境づくりをめざします。
地球講座は関係性の構築において、知識理解を前提にせず、感性や感覚を相互に尊重しながら多様な視点を取り入れ、参加者同士が共鳴し合いながら新たなアイデアを生み出す場づくりを目指します。地球の未来に向けた共同作業を促進し、人類に閉じず、地球上のあらゆる生き物と共生する社会観で、グローバルなコミュニティを考える機会を発信していきたいと思います。
(事業担当:中野敦、森亮介、宮川咲)
事業データ
地球講座 The LIVE ー地球の仲間とであい、地球の今をつたえあい、地球の未来を紡ぐ
2024年6月22日(土曜日)16:30-20:00
LIFULL Table (東京都千代田区麹町1-4-4 1F)
TJF
特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)
竹村眞一/特定非営利活動法人ELP (Earth Literacy Program)代表、京都芸術大学教授
タビン ジュバエル アーロモ (2017年度TJF主催事業参加者)
亀井麗 (2017年度TJF主催事業参加者)
7人(東京の高校生/5名、神奈川の高校生/1名、埼玉の高校生/1名)