公益財団法人国際文化フォーラム

学校のソトでうでだめし報告

南薩地区中学国語教員研究会(鹿児島)の「聞き書き」講習に協力しました

2024年7月30日に鹿児島県日置市で実施された「南薩地区中学国語教員研究会」で、「聞き書き」をテーマに講習が行われ、TJFはこれに協力しました。

TJFは聞き書き作品を多く出版している作家・塩野米松さんを講師として派遣しました。塩野さんが聞き書きについてお話した後、参加した国語教員12名は3グループに分かれ、こちらで想定した人物への質問を考えるワークをしてもらいました。

聞き書きの魅力

塩野さんは『木のいのち木のこころ―天・地・人』『手業に学べ』『失われた手仕事の思想』『木の教え』など多くの聞き書き作品を出版されていますが、聞き書きを始めたきっかけは、ある雑誌の企画で法隆寺の西岡常一棟梁に取材にいってお話を聞いたときのことだといいます。「この話を自分という器でくみ上げたら、くみ上げた分の量しか読者には伝えられないんじゃないか、『1000年の木を切ったら1000年もたにゃあ宮大工としてはあきまへんなあ』ということばをそのまま使えば、ぼくの解釈を入れずに済むんじゃないか」と考え、「ぼくが海の水をおちょこでくんで皆さんにお分けするよりは、海の水をそのまま味わってもらう方法はないかと思って、聞き書きという方法を使いました」と語りました。

塩野さんは、聞き書き甲子園(毎年約100名の高校生が山や海の名人に聞き書きをするプロジェクト)の第1回から講師を務めているほか、中学校などでも聞き書きの授業で講師をしています。

中高生は親や先生以外の大人から仕事や人生の話を詳しく聞いたことがないことが多く、職業についてもほとんど知りません。聞き書きに行くと、目の前で仕事や生き方について語ってくれる人がいる。それがどういうことなのかと塩野さんは話を続けます。「いまは新聞でもテレビでもさまざまなニュースが流れる。戦争が始まると、戦争はいけないという、さまざまなことをまとめていってくれて答えとしてはわかったような気になるけれど、戦争とはどういうものなのかということを考えるチャンスはなかなかない。それが、新聞やラジオでいっていたのとは違って自分で聞いた本当のことばとして、ものを考えるときのひとつの基準になる。その基準になる人にお会いして話を聞くチャンスをあげることができるなら、中高生にとってとてもいいものだろうと思う」と、中高生が聞き書きを行う意義について語りました。

自著を読み上げながら、「聞き書き」とはどういうものなのかについてお話する塩野米松さん

質問をつくる

「絵描きさんは筆で描く、彫刻家は粘土で塑像をつくる、聞き書き作家は何をするかというと、質問で人物を描く。質問を上手に作れれば、答えが山ほど返ってくる」と塩野さんが語るように、質問は「聞き書き」の基本です。各グループにはこちらで考えた架空の人物の情報を渡しました。用意した情報は、氏名、年齢、職業、住んでいる町のみ。これらを頼りに、グループ内で、①生い立ち、②仕事、③家族・環境について質問をつくる担当を決め、各自でポストイットに思いつくまま質問を付箋紙に書き出したあとは、グループで質問を整理し、質問する順番を考えて模造紙に付箋紙を貼ってもらいました。どのグループも模造紙に貼り切れないほどの質問を整理するために白熱した意見交換が見られました。

グループごとに具体的な質問を読みながら、何を聞きたいと思ったのかを発表し、そのあと塩野さんからフィードバックを受けました。

例えば、77歳女性の和菓子屋さんへの質問として挙がったのは、家族構成や、生まれたときの町(伊集院)の人口はどれぐらいだったのか、どのようなところだったのか。夕食などに何を食べていたか、どこで買い物をしていたか。仕事については、従業員数や何年にできたのか、ライバル店や看板商品は何か。お師匠さんは誰か、会いたい人は誰かなどなど。それに対して、塩野さんは、和菓子屋さんは素材がまずあって、それから技術の問題が出てくるので、和菓子作りの工程をひとつだけ丁寧に聞くといい。どんな場合でも例をひとつでも挙げてもらうと原稿がふくらむ、とヒントを話しました。
そして、質問を考えるときにいろいろと想定していくけれど、想定と違った答えが返ってきたときこそチャンスで、質問の数が増えていく、と続けました。

参加者の感想

参加した方々からは、「新しい学びをすることができました」「よどみなく聞き取りやすい話し方をされる塩野さんに感銘を受けました。生徒に取り組ませてみたいと思いました」「聞き書きの質問作りの視点や聞き書きの手順を初めて知りました。職場体験学習や話す聞くの領域で活用できそうな内容でした」「実際に質問する立場に立ってその難しさを実感しました。授業にも応用してみたいと思います」「あの文章は『聞き書き』だったんだと思うものが浮かびました。どういう手順で聞き書きの文章が書かれているのかを知ることができて勉強になりました。相手を想定してたくさんの質問(質問の順番も含め)を考えることもやってみると面白く、国語の授業において『話すこと・聞くこと』の学習でも活用できると思いました」などの感想が上がりました。

事業担当:千葉美由紀


事業データ

南薩地区中学国語教員研究会に協力

期日

2024年7月30日(火)

場所

日置市中央公民館

講師

塩野米松(作家)

参加者

中学国語教員12名