公益財団法人国際文化フォーラム

ときめき取材記報告

留学生が気になる人にインタビュー

2016年8月に、学生がさまざまな人にインタビューして発信するウェブサイト「ときめき取材記」をオープンしました。学生が興味のあることをテーマに選び、そのテーマに関連する人に考えや生き方をインタビューして、まとめた記事を掲載するというものです。

2016年度、記事づくりに取り組んだのは、武蔵野美術大学で「日本事情」を受講した留学生21人。選んだテーマは、「銭湯」と「キモカワ」。日本の銭湯文化を知りたい、「キモイ」と「カワイイ」という正反対のことばがひとつになった「キモカワ」が人気を集める秘密を解き明かしたいと留学生たちは思ったのです。「銭湯」と「キモカワ」に関連する人たち3人ずつにインタビューし、考え方や生き方など内面に迫りました。

人を通した文化発信

TJFは、くりっくにっぽんウェブサイトの「My Way Your Way」コーナーで、日本で話題になっていることをテーマとして取り上げ、そのテーマに取り組む複数の人にインタビューしています。ひとつのテーマをさまざまな角度から見て、人を通して文化を紹介することがねらいです。

こうした発信を留学生が行うのが「ときめき取材記」です。留学生ならではの視点でテーマや人を選び、インタビューすることで、TJFの日本発信に新たな一面が加わりました。また、学生はテーマ選びからインタビュー、記事作成の過程で、日本で気になっている文化を多面的に見たり、多様な文化を感じたり、さらに、日常生活ではなかなか話すことのない生き方についてインタビューしたことで、さまざまなことに気づいたようです。

2017年度は国内の複数の大学や日本語学校、ニュージーランドの大学などでも「ときめき取材記」に取り組んでいます。

社会・文化をつくる―「ときめき取材記」の試み

三代純平
武蔵野美術大学准教授

2016年度より「くりっくにっぽん」の学生版、「ときめき取材記」に取り組んでいます。個人の生き方から日本文化にアプローチするという「くりっくにっぽん」の理念に共感し、インタビューを取り入れた授業実践についてTJFに相談したことをきっかけに、「ときめき取材記」プロジェクトは動き出しました。

今、私が感じている「ときめき取材記」プロジェクトの可能性は、大きく二つあります。一つは、学習者が主体的に文化をつくるということです。従来のインタビュー学習は、聴くことに重きが置かれていました。無論、聴くことは非常に重要です。しかし、プロジェクトでは、聴いたことをウェブサイトで発信することが求められます。自分たちの感じた文化を発信し、新しい文化の創造に寄与することができる。これが、「ときめき取材記」のもっともおもしろいところであり、これからさらに追求していかなければならないところでもあります。

もう一つは、「ときめき取材記」という場が多くのつながりを生むということです。インタビューに応じてくれた方々、記事を執筆する学生、そして読者をつないでくれるのはもちろんですが、それに加え、今回、記事を見て、多くの教師から問い合わせがありました。自身の実践に「ときめき取材記」を取り入れたいと考えている方々です。

教師間の連携を通じて、「ときめき取材記」はさらに充実した学びの場に発展していくでしょう。これからも「ときめき取材記」がさまざまなつながりを生み、一人ひとりの小さな声をすくい上げながら、新しい文化を描いていくことになると思っています。

「キモカワ」は、キモイの? カワイイの?

「キモカワ」というのは「気持ち悪いけど可愛い」の略語である。1990年頃から、個性を区別しようとする若者に使われ始めたが、時代によって「キモカワ」の概念やトレンドも変わっていき、今もよく耳にする。「気持ち悪い」と「可愛い」、この完全に反対になっている二つのことばを一つに混ぜて使うことに驚いた。その「キモカワ」の正体を探るため3人の「キモカワ」エキスパートにインタビューした。

自分の「美しい」を発見しよう!
(長谷川義太郎、元文化屋雑貨店オーナー)
自分のやりたいことを貴徹する
(森拓馬、イラストレーター・グラフィックデザイナー)
A C 部だから作る
(安達亨、板倉俊介、デザイングループAC 部)

銭湯の魅力ってなんだ?

私たち留学生は日本に初めて来たとき、毎日お風呂に入る日本人を見て、お風呂や銭湯の文化に驚いた。外国にはない銭湯について日本人はどのように考えているのか興味をもった。銭湯はその人の人生にとってどんな意味があるのか、銭湯設計士や銭湯芸術家、銭湯をこよなく愛する大学生の3人にインタビューした。

せんぱいのトライ
(今井健太郎、銭湯設計士)
私、ウエハラ、銭湯に活力を与える
(ウエハラヨシハル、銭湯芸術家)
人と人をつなぐ銭湯
(山田尚史、東京外国語大学銭湯同好会会長)

学生の感想

  • 日本に住んでいても周りに興味をもたず、空気の流れのまま住んできたことに気づきました。「そういえばそんな違いがあったんだ」とか「これは違うことだけじゃなくて文化の一部分だった」とかを考えることができました。
  • いろんな国から来ていた友だちと一緒にインタビューを準備して、国によって違う考え方をもっていることに気づき、がんばってみんなの意見をなるべく聞き、合わせるようにしました。
  • あまり深く考えてなかったが、キモカワという意味自体が人によって解釈も違うし、いい意味に捉えてない人もいたので大変だった。
  • 美大生として鋭い観察力をもっていると自負していたがまったくそうではなかった。本気で銭湯のことを思い、心配している山田さんのことを思うと恥ずかしくて仕方なかった。自分はそこまでまじめになったことがあるのか。行動を起こし何かを変えようとしたことがあるのか。……山田さんは、何かを変えたいなら自分で動くしかないということを私に教えてくれた。
  • 文化を理解するには直接人に会ってみることが大事だと思う。
  • 世界のどこでも同じく、取り上げる対象を尊重し、インタビューする前にちゃんとその人のことを調べることが大事だ。長谷川さんにほかの国と比べて日本の文化が違うところは何かを聞いたら、彼は日本はただの普通の国だと答えてくれた。たくさん共感したのは、同じ人間だから、共通の感覚や気持ちがあるということだ。

※事業報告書『CoReCa2016-2017』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。