中国の中等教育では第二外国語として日本語を導入する学校が増え、学習者は11、783人に上ります(国際交流基金、2017)。しかし、その履修形態は必修クラブや課外活動などが多く、学習時間も隔週1回から週3回程度とさまざまです。TJFが大連教育学院と共同で制作した教材『好朋友』は第二外国語の授業での使用を想定していましたが、それでも担当する教師は自分のクラスにあわせて使い方を調整する必要があります。
そこで、「教科書『を』教えるから教科書『で』教える」をテーマにした日本語教師研修を2017年3月に上海で開催しました。中国各地から50名を超える日本語教師が参加しました。
参加者からは、「どのように教科書を使っていいかずっと迷っていましたが、今回の研修を通して少しわかるようになりました」「(以前は教科書をそのまま教えることしか考えていなかったが)教科書を『調理』できることを認識しました」といったコメントが寄せられました。
これからの日本語教育と『好朋友』
林洪
北京師範大学外国語言文学学院日文系准教授
OECDが2003年に「キー・コンピテンシー」を打ち出したのをはじめ、多くの国と地域が絶えず変化する社会のニーズに対応できる力を育てることを教育目標として掲げてきました。中国では2016年9月に『中国学生発展核心素養』が発表されました。すべての面でバランスよく成長した人物となることを目標に、生徒が生涯にわたって自身の成長と社会の発展に寄与するために必要な品格、能力、価値観は何かを示しています。これを受け、現在『普通高中日語課程標準』(日本の学習指導要領に相当)の改訂が行われており、私も関わっています。
改訂にあたって、日本語を使った実践活動は以下の4つの要素を含み、3つのステップで進めていくことを提唱しています。4つの要素とは、活動の導入としてのテーマ、学習の軸となるシチュエーション、文脈のあるテクスト、そして日本語の使用の動機づけとなるタスクです。また、3つのステップとは、「知識を整理し理解する」「表現しコミュニケーションする」「探究し知識を構築する」です。
第二外国語としての日本語教材『好朋友』は、OECDの「キー・コンピテンシー」を参考にしつつ、『日語課程標準』を熟慮したうえで、ストーリー漫画を教材の中心においています。そして、各課のテーマに関連する漫画の一場面を選び、その場面の中心となる日本語の表現を提示し、コミュニケーションを展開しています。また、提示されたタスクに取り組むことで、生徒は言語の知識や運用スキルを学習するだけでなく、分析する・検討するなど思考力をつけるように設計されています。
こうした教材のデザインは、『日本語課程標準』が求めている「核心素養」の育成と日本語を使った実践活動のニーズに沿うものだと考えています。
事業データ
中国中等日本語教師研修
2017年3月24日(金)~25日(土)
中国・上海
(公財)三菱UFJ国際財団
中国中等日語課程設置校工作研究会、中国教育学会外国語専業委員会日本語部
上海市工商外国語学校
林洪(北京師範大学外国語言文学学院日文系准教授)、武田育恵(日本語教育専門家)
53名
※事業報告書『CoReCa2016-2017』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。