2019年の「SEOULでダンス・ダンス・ダンス」(DDD)は、これまでの参加者(OGOB)にもスタッフとして加わってもらい、参加者に寄り添ってもらうだけでなく、OGOBたちがその後どんな進路選択をしたのか、DDDがどのような意味をもっていたのか、話をしてもらう場を用意しました。
このプログラムは日韓の民間財団である国際文化フォーラムと秀林文化財団が共催し、「さまざまな価値観をもつ人たちがいることを知り、一緒に何かをすることに興味関心が広がる」、「もっと韓国語、日本語を学びたくなる」等を目標に設定しています。
今年は、日本から20名、韓国から18名の計38名の中高生がダンス活動やチームロゴ制作、舞台衣装準備のほか、起床から就寝までの5日間の共同生活を通じた交流を行いました。
ダンスづくりは自分たちで
このプログラムでは、日韓混合のグループに分かれてダンスを練習し、4日目には本番のステージにあがります。短いスケジュールの中、ダンスは自分たちで計画し練習し完成させます。チームロゴから、ダンス音源、衣装、メークにいたるまで、発表会のステージでダンスを披露するために必要なことはすべて仲間と協力して準備します。大人がするのは、場を用意し、参加者の安全を守ることぐらい。手や口を出したくなるようなこともぐっとこらえて見守ります。すると、「自分の好きなことには真剣になれるが興味のないことは避けて通る」と言っていた中高生も、好きなことのために好きではないことにも向き合うようになります。伝えにくいことも伝えようと努力するようになります。今年は、OGOBの協力や助言も得て、最初から最後まで自分たちで考え、作ることができる場づくりに努めました。
日本側参加者の事前研修(8月14日/秀林外語専門学校)
韓国での5日間を助け合いながら安全に過ごすことができるように、渡航前の注意事項を確認するとともに参加者間の関係構築を目的とする事前研修を、日本側参加者20名に向けて実施しました。参加者が決定してから集合するまでの間の約1ヵ月半、全員がSNSでの交流を通じて自己紹介やグループでの話し合いを重ねていたので、すぐに打ち解けた様子でした。遠方から上京する生徒の中には睡眠不足で体調を崩すものもいましたが、翌朝にはみな元気に渡航できました。
日韓合同オリエンテーション(8月15日/金熙秀記念秀林アートセンター)
日韓の参加者38名が初めて顔を合わせ、まずアイスブレイク活動を行いました。その後、事前に決まっていたダンスチームに分かれて、チーム名、チームリーダー、発表会で踊る曲を決め、練習会場や本番までのスケジュールの確認などを行いました。その後、発表会場を下見しました。真っ暗なステージにライトが照らされ本格的な舞台が目の前に現れた瞬間、参加者からどよめきがおこりました。続いて第2回プログラムのOGOBで、プロダンサーになった二人のソロステージに歓声があがりました。公演のあと、グループ毎にステージの奥行きや横幅を確認しました。
最後には、会場内のギャラリーで昨年度プログラムの記録写真展を鑑賞しました。写真を見つめる参加者の表情は、これからソウルで始まる5日間のプログラムに少し緊張した様子でした。
ダンス練習・買い物活動(8月16日/Seoul Youth Hostel、東大門)
本プログラムにダンスのコーチはいません。今年は、プロダンサーとして活躍するOGOBがスタッフにいたので、アドバイスを求めるグループもありましたが、手取り足取り教えてくれる誰かがいるわけではないのです。メンバー一人ひとりが力を出し合い自分たちの手でやるしかないのです。練習計画の立案やダンスの音源編集、チームロゴ制作、衣装準備、そしてダンス練習など、仲間と自分がやれることを出しあいながら進めます。そこで大切になるのがことば。ひとりひとりの力を結集するにはコミュニケーションが欠かせません。自分と違う他者とのやりとりは友だちとの気軽なおしゃべりとは違って勇気もいるし、時間もかかります。しかし、自分が大切にしていることやこだわっていることのために、勇気を出して相手に伝えながら練習に臨みました。
午後は、発表の衣装を揃えるために地下鉄で東大門のショッピングモールへ出かけました。ファッションはダンス作りにおいて重要な要素で、自分たちのステージのための衣装選びに皆が真剣でした。そしてここでもことばは欠かせません。なぜなら自分が身につけるものでも、それはチームの衣装であり、自分勝手に選べないからです。遠慮がちな日本からの参加者たちも、ここでは少し積極的になったようにみえました。
夕食の後、OGOBから話を聞く機会を設けました。プログラムをきっかけに、その後どんな進路選択をしたのか、プログラムにどのような意味があったのかなどが紹介されました。ダンサーになった人や、医者を志して医学部に進学した人、韓国の大学に留学した人など、選んだ道や影響を受けた体験は各者各様でしたが、参加者は、一人ひとりの話に興味深そうに耳を傾けていました。中にはOGOBに自分の進路について相談する参加者もいました。
練習・リハーサル・練習(8月17日/Seoul Youth Hostel、明洞)
直前に迫った発表会に向けて、朝からどのグループでも熱のこもった練習が行われました。まだまだ納得のいく踊りができないのに、疲れで思うように体が動かないなどチームに焦りと不安が広がっていました。昼食は宿泊先から徒歩圏内の明洞の街中で食べました。食後に、街を散策する時間を設けたのが気分転換となったようで、参加者の表情に明るさが戻りました。
その後、宿舎の会議室でダンス発表のリハーサルを行いました。3つの部屋に分かれて2チームごとに互いにアドバイスし合い、課題を明らかにしたり、自分の不安も出したりしました。その後、仲間と力を合わせてしあげの練習に夜遅くまで取り組みました。
ダンス公演(8月18日/金熙秀記念秀林アートセンター)
宿舎から発表会の会場である金熙秀記念秀林アートセンターまでバスで移動し、ダンスの最終確認をしたあと、メイクしたり、用意した衣装に着替えたり、本番に向けて最後の準備を進めました。会場には参加者の友人や家族、過去の参加者たちがかけつけてくれました。100席用意した座席は全て埋まり、後方に補助席を出すほどでした。
今年も、来場者が待ち時間に退屈しないよう、開会までの間、会場内のギャラリーで2018年度プログラムの記録写真を展示した写真展を見てもらったり、ステージのスクリーンで期間中に撮影した写真を投影したり待ち時間も楽しんでいただけるように準備しました。今年は、発表会前日までの参加者のダンス練習や共同生活の様子をOGスタッフが撮影し制作した動画を上映し、発表会のオープニングを盛り上げました。
発表は、1:Carpe diem/2:사흘(サフル)/3:BANANA/4:나나이스(ナナイス)/5:Cool Guys/6:DFRIENDの順番で行いました。韓国日本語教育研究会賞はDFRIENDSが、ANA賞はCarpe diemが受賞。そして会場から最も多くの票を集めたBANANAが2019年度の優勝チームに輝きました! 日韓の生徒が同じチームの中で、一人ひとり違う個性を発揮し、作りあげた舞台に満員の客席からお惜しみない拍手が送られました。
新しくチャレンジしてみたいこと(8月19日/Seoul Youth Hostel)
最終日、ソウルでの4日間を振り返り、そして新しくチャレンジしてみたいことを考える時間をもちました。提出されたシートには、「自分の意見を勇気をもって相手に伝えること」をこれからの目標に掲げる参加者が多かったのが印象的でした。誰かと何かを一緒に作り上げるとき、自分の希望を叶えるためにも、共通の目的を達成するためにも表現することが欠かせないことに気づいたからではないでしょうか。
そして別れの時。バスの出発予定時間を過ぎても抱き合い、離れられない参加者の姿がありました。寂しさは濃密な時間の証です。この縁がこれから先も続いていくことを切に願っています。
今後の展開
今年度のダンス・ダンス・ダンスでは、初めてOGOBをスタッフに加えて実施しました。参加者に年が近く、同じプログラムを経験し、社会で活躍する先輩の姿やことばは、参加者に寄り添い励ましてくれました。また、自分とは違う他者と向き合いながら協働するにたるテーマと、活動に真剣に取り組める環境は、参加者がプログラム中に幾度となく直面する課題を越える力になりました。今後も参加者に寄り添い、真剣になって交流できるプログラムになるように工夫したいと考えています。
(事業担当:中野敦)
事業データ
SEOULでダンス・ダンス・ダンス2019
2019年8月14日(水)~19日(月)(5泊6日)
韓国・ソウル市
(財)秀林文化財団、TJF
秀林外語専門学校、韓国日本語教育研究会、TJF
(公財)日韓文化交流基金
高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク(JAKEHS)
ANA
国際交流基金ソウル日本文化センター
(株)HANATOUR JAPAN
1名
5名(看護師1名含む)
韓国語を学ぶ日本の中高生
北海道、青森県、福島県、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、岐阜県、滋賀県、大阪府、広島県、長崎県より20名(高校生15名、中学生3名/女子18名、男子2名)
日本語を学ぶ韓国の中高生
江原道、ソウル市、仁川市、京畿道、世宗市、忠清北道、大田市、忠清南道、慶尚北道より18名(高校生15名、中学生3名/女子15名、男子3名)