公益財団法人国際文化フォーラム

ときめき取材記報告

リアルな日本社会とつながる

2016年度にスタートした「ときめき取材記」。大学などで日本語や日本事情を学ぶ学生たちが、それぞれの興味関心から何か一つテーマを決め、それに関係する人にインタビューしてまとめた記事をTJFのウェブサイト「ときめき取材記」で発信するプロジェクトです。

2018年度は国内外あわせて5校がプロジェクトに取り組み、8本の記事がウェブサイトに掲載されました。授業の枠が日本語か日本事情か、対象が留学生のみか日本人と留学生の共修かなど、学校により異なりますが、インタビューを中心とした一連の活動のなかで、学生たちはリアルな社会とつながります。インタビューの依頼ひとつをとっても、メールの書き方を調べたり、引き受けてもらうためには何を書けばいいのかを考えたり、試行錯誤しながらの挑戦です。また、TJFのサイトに公開されることで、学生たちには自然と責任感が芽生えます。

学生たちは、テーマについて考え、インタビュイーを探すときに、日本の社会や文化を多面的に見ることになります。そして、インタビュイーから、時にはグループのメンバーから、思いもかけなかった視点や意見を聞き、自分と異なる考えの存在に気がついていくのです。

一方でウェブサイト「ときめき取材記」には多様な視点や考えが集まっていきます。さまざまな人の生き方を紹介することで、枠にはまった日本ではなく、変化を続ける今のリアルな日本の一面を伝えることになり、さらに、多様なバックグラウンドをもつ学生によって企画・発信がなされることで、日本の多面性を提示することにつながります。

また、複数の学校が同時に取り組んでいることもこのプロジェクトの特長です。TJFではウェブ上にプロジェクトに取り組んでいる教師のグループをつくり情報共有しています。また2018年度は、TJFが提供する資料の有効性を検討したり、実践過程で生じた問題や課題、その解決法などについても情報交換したりする勉強会を開きました。

「ときめき取材記」ウェブサイトから一部抜粋

テーマを設けることで思考が広がる

三代 純平
武蔵野美術大学准教授

本校では「日本事情」をキャリア教育の一環と位置づけ、キャリアについての視野を広げることをめざして「ときめき取材記」プロジェクトに取り組んでいます。2018年度は、「アートな仕事」というテーマを設定しました。アートを学ぶ学生たちに、仕事について考えてもらう機会になればと思ったからです。

4 ~ 5人のグループでインタビューの企画書をつくる過程で、それぞれのグループに「アートな仕事ってそもそも何なんだろう?」と問いが起こりました。「アートな仕事って必ずしも芸術に関わる仕事だけじゃないんじゃないの?」という意見が出るなど、テーマは想像以上の広がりをみせました。そして、この問いへの思考はインタビューで深まっていきました。インタビューで予想とは全く違う話を聞いた学生たちは大きな衝撃を受けて帰ってきます。それから「文字起こし」で話をじっくり聞き直すなかで、インタビュイーのことばの裏にあるものに思考を巡らせていきます。テーマを設けることで、そのテーマ自体への問いが生まれ、思考が広がっていったのです。その結果、日本社会をより多角的に見ることにつながったようです。

私は、授業を通して多様性の価値に気づくところに、「日本事情」の意味があると考えています。そのうえで、新しい文化を発信できるようになることをめざしています。「ときめき取材記」はまさに、「日本事情」の今あるべき姿を体現できる教育コンテンツだと感じます。今後多くの学校に広がり、教員の横のつながりが生まれることで、プロジェクトの質も高まっていくはずです。

※事業報告『CoReCa2018-2019』に掲載。所属・肩書きは事業実施時のもの。

「ときめき取材記」ウェブサイトはこちらから