公益財団法人国際文化フォーラム

学びの探究とデザイン報告

探究とPBL―その歴史と関係性(探究する学びに踏み出そう【前編】)

「探究する学びに踏み出そう―実践の分析とデザイン」は、新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、オンラインでの実施に切りかえ、予定通り3月15日に開催しました。休校への対応など学校現場も混乱を極めるなか、全国から約30名の先生方にご参加いただきました。

講師の稲垣忠・東北学院大学教授による探究とプロジェクト学習(以下、PBL)についてのレクチャー、情報活用型PBLの考え方に基づき探究的な学びをデザインするワークショップ、実際に情報活用型PBLに取り組んだ先生方の実践報告がおもな内容です。

初めてのオンライン実施となったワークショップでは、情報活用型PBLをデザインする作業は個人(オフライン)で、教科別グループや全体での意見交換はオンラインで行いました。参加者が作成した活動デザインは稲垣先生が運営するRubric Bank*に掲載されています。

今回は、レクチャーと実践報告に焦点をあててレポートします。情報活用型PBLのデザインの具体的な方法は、2018年度の報告記事や稲垣先生のウェブサイトをご参照ください。

・2018年度報告記事
https://www.tjf.or.jp/information/4955/

・稲垣先生のウェブサイト
http://ina-lab.net/special/joker/pbl/

*Rubric Bank
https://mmt4.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/


稲垣先生のレクチャーでは、探究とPBLの歴史、互いの関係性などについて説明がありました。参加者の多くが両者の概念や関係性を整理できてよかったとアンケートに書いています。以下、稲垣先生のレクチャーから内容の一部を要約・編集してご紹介します。

稲垣忠・東北学院大学教授

探究もPBLも古典

新学習指導要領で注目される探究学習は新しい概念ではない。アメリカの教育学者デューイ(1859-1952)が、探究のプロセスについて研究したのが始まりとされている。1938年に発行したLogic: The Theory of Inquiry(日本語訳題は『行動の論理学〜探求の理論』)では、以下のように言及している。いわゆる問題状況(何か困った状態、もやもやしている状態など)に対して、こういうことなのではないかと仮説を立てたり、解明するための計画を立てたりして実際に検証していくこと。その一連の過程が「考える」ということであり、「探究」である。

日本でも、明治時代にはすでにデューイの考え方が入ってきており、大正自由教育や第二次世界大戦後のコア・カリキュラムをはじめとする戦後新教育もその流れを汲むものである。2000年頃の「総合的な学習の時間」導入期にもデューイの思想が盛んに取り上げられた。

一方、PBL(Project Based Learning)はデューイの弟子のキルパトリック(1871-1965)が、「学習者が明確な目的をもった問題解決」として1918年に体系化した「プロジェクト・メソッド」に起源がある。こちらも、すでに100年以上前から行われている方法である。キルパトリックは、思考を働かせる際に明確な目的を設定する重要性を主張した。

学習指導要領の探究

平成30年改訂の高等学校学習指導要領では、「総合的な探究の時間」の設置とともに、「古典探究」「地理探究」「理数探究」等の「探究」を含む科目が設置された。この「探究」の概念は、平成20年改訂版の総合的な学習の時間の解説で提示されたものである(下図)。「課題を設定」した後、その解決のために「情報を収集」し、集めた情報を「整理・分析」し、得られた知見を「まとめ・表現」するという行為が繰り返される学習活動のプロセスを「探究」と表現している。

学習指導要領の探究 <小学校学習指導要領解説総合的な学習の時間編(平成20年6月改訂)より>

PBLは探究のバリエーションのひとつ

探究が、デューイのいう問題状況に対して試行錯誤することだとすると、図の四つの領域が考えられる。PBLもそのひとつである。

<稲垣忠・東北学院大学教授作成>

「自然発生的な探究」は、素朴に疑問に思ったことをどんどん自分で調べて突きつめていくこと。学校教育では少ないかもしれないが、日常生活にたくさんある。「思索的な探究」は、いわゆる哲学的な探究である。「学術的な探究」とは、大学の研究者がやっているような探究、あるいは自然科学的な研究を指す。そして、「PBL」は、学習者にとって意味のある目的、社会にとって意味のある問題を設定するのが特徴である。

なお、PBLとSTEMまたはSTEAMが同義であると誤解されることがあるが、STEMとSTEAMは問題解決の題材やプロセスに、ScienceやTechnology、Engineering、Art、Mathematicsを持ち込むことである。つまり、学び方というより、学ぶ題材や内容のことであり、その手法としてPBLが採用されることが多い。

今なぜ探究とPBLなのか

VUCAとSDGsを手がかりに考察してみる。
現代社会の特徴を表すキーワードとして、よくVUCAが挙げられる。

要するに、これから世の中がどうなるかわかりづらい時代に入っているということだ。デューイやキルパトリックの時代も、第一次・第二次世界大戦や世界恐慌がおこるなど、決して安定していたわけではない。その頃も、自分の頭で考えることが大事だと言われ、探究やプロジェクト・メソッドのような考え方が出てきた。同じようなことが、今また非常に重要だと言われている状況である。

国連が掲げるSDGsは、世界的な問題として、個人や国を超えてさまざまな人たちが協力して考え、実行していく「持続可能な開発目標」である。探究のなかでもPBLは、何かしら目的をもって実行するところまでを含む概念なので、SDGsにもつながりがもちやすい。今求められている学び方のひとつと言っていいのではないか。

【後編】「情報活用型PBLと実践―「切実感」をともなう試行錯誤」に続く

(事業担当:室中直美、宮川咲)

事業データ

「探究する学びに踏み出そうー実践の分析とデザイン」

期日

2020年3月15日(日)

場所

オンライン

主催

TJF、探究スキル研究プロジェクト

助成

JSPS 科研費19K03009

講師

稲垣忠・東北学院大学教授(教育工学、情報教育)
https://www.ina-lab.net/

アドバイザー

稲原教子・元アメリカンスクール・イン・ジャパン教諭

参加者

小中高校の教員 29名(うち、ワークショップ参加者18名)