ゴミからものをつくってお金を稼ぐことができるようになると、どういうことが起きてくるのでしょうか。まずは実際に、プラごみからものをつくってみました。
プラスティックについて知る
ペットボトルを手に取ったテンダーさんが、プラスティックという素材について説明します。
テンダーさん 「(キャップを指して)これなに?」
参加中学生 「ポリエチレン?」
テンダーさん 「お! いい線いってますよ。これはポリプロピレンです。ご唱和ください。ポリプロピレン!」
みんな 「ポリプロピレン!」
「これはなんですか?」と聞かれて「プラスティックです」というのは答えとしては不十分だとテンダーさんは言います。
「グレタ・トゥンベリわかる? うちではトゥントゥンって呼んでるんだけど、彼女が飛行機に乗るのはよくないって言ってるじゃん。それをさ、たとえば乗り物に乗るのはよくないって言ったら、『タクシーも自転車も人力車もだめなの?』って話になる」
「だから、今日からペットボトルキャップのことをプラスティックと呼ばずにポリプロピレンとお答えください」
ペットボトルのラベルの部分はポリエチレンかポリプロピレン、ボディ部分はPETでできています。ポリプロピレンとポリエチレンは基本的に安全で、燃やすと水と二酸化炭素になります。
ポリプロピレンでできているレジ袋を4枚ほど重ねてアイロンをかけると丈夫な「生地」になるとテンダーさんは言います。テンダーさんがレジ袋やゴミ袋からつくったバッグやカードケースを見た中高生たちは、「色がきれい!」と驚いていました。
ペットボトルキャップを溶かしてつくった角材も登場しました。触ると、とても硬くてしっかりしています。ちなみに、日常生活で身近なプラスティックには、ほかにお弁当の容器によく使われているポリスチレンがありますが、催奇性や発ガン性があると言われているそうです。
アクセサリーづくりに挑戦
このワークショップでは、ポリプロピレンでできているペットボトルキャップを使って、ピアスやペンダントなどのアクセサリーづくりにチャレンジしました。
細かく刻んだペットボトルキャップを金属の枠のなかに山盛りにし、アイロンで押さえつけて溶かし、最後にカッターで形をととのえます。
作業の間にも、随所でテンダーさんからお役立ち情報が入ります。
■「物には融点があります。溶ける温度。ポリプロピレンは200℃前後で溶けます。(下に敷く)クッキングシートは、紙にシリコンが吹きかけてあります。シリコンの耐熱温度は230℃、アイロンはマックスで大体200℃なので、シリコンは耐えてくれます」
■「おれがおススメするすごい重要なものづくりのルール。1回めから完全な成功を求めない。さっきの(ボールのワークのときの)上達の曲線あったじゃん。最初はとにかく下手でもいいから始めて、ガッと上達したほうがやる前に悩むより早いんだよ」
■ 思ったような形にならなくてどうしたらいいかという相談に、
「みんないいことを教えてあげよう! プラスティックの語源は、ギリシャ語のプラスティコスで、自由に再成形できるって意味なの。温めて溶かせば何回でもやりなおせます」
■ 自分がこれをつくって売っても問題ないかという質問に、
「オープンソースだから、世界中のすべての人が自由にやったらいい。みんなアルバイトをやめるんだ! アルバイトは自分で商品をつくれない人がやる手段だからね。自分で売り物をつくれる人はつくって売れば、そのほうがもうかるし、早いよ」
中高生たちは、楽しそうに作業に熱中し、ときどきお互いの作品を見せあったりしながら、オリジナルのピアスやペンダントを完成させていました。
人の挙動が変わる
テンダーさんは、ペットボトルキャップからピアスをつくったように、ゴミから売れる物をつくることで、人の挙動が変わってくると言います。
たとえば、ダイナミックラボではピアスを1500円で販売しています。両耳分のピアスをつくるのにペットボトルキャップが2個必要だそうです。
テンダーさん 「じゃあ、ペットボトルキャップ1個100円で買い取りますっておれが言ったらどうする? まあ、普通、売ろうとか、集めとこうとかになるわけ」
人がプラごみやアルミ缶を拾わないのはその必要や理由がないからで、「環境を守るために捨てないでください」と言うのではなく、拾う理由をつくるか、拾う理由をつくるための道具をつくることで、構造が変わってくるとテンダーさんは考えています。
テンダーさん 「要は、お金がいろんなシステムの重要ポイントに入っているの。お金は他のものと交換できるから。ゴミが他のものと交換できるようになったら、ゴミがお金と同じふるまいをするのね」
テンダーさんは、今、ゴミと日照(太陽の光)から暮らしに必要なものをつくろうとしています。誰でも手に入るゴミと日照から自分に必要なものがつくれるようになるほうが、「お金があれば大丈夫」な世の中よりやさしい世の中だと考えているからです。
「ゴミだから価値がない」と思い込んでしまうのではなく、「材料」だと考えれば、ポリプロピレンやポリエチレンは身のまわりでたくさん手に入るとテンダーさんは言います。
*プラスティックやアルミ缶からものをつくる考え方や方法については、ダイナミックラボのウェブサイトをご覧ください。https://sonohen.life/
*プラスティックについては、Precious Plastic Japanのページも情報満載です。https://sonohen.life/precious-plastic-japan/
問題を問題にならないところにシフトする
システム思考には、「作用と副作用を分けない」、そして、「問題は変えられない。その代わり、問題が問題にならないようにシフトさせることはできる」という考え方があります。
ニワトリの絵を描きながら、テンダーさんが説明してくれました。
テンダーさん 「ニワトリが世の中にアウトプットするものってなんですか?」
みんな 「卵」「肉」「二酸化炭素」
テンダーさん 「すばらしい! ほかに、見ため、鳴き声、体温、おなら、メタンガス、おしっこ、臭い、脚で地面を掘る、草をついばむ、羽も出すね。ニワトリはこういう習性をもつ生き物です。じゃあ、『ニワトリかわいいー。カーペットの上で飼おう!』ってなる?」
みんな 「なんない」
テンダーさん 「なんで?」
みんな 「臭いがやだ」
ニワトリは臭いもするし、尿も糞もします。カーペットをむしってしまうかもしれません。
テンダーさんは、今の世の中は、肉と卵だけ欲しくて臭いや尿はいらないというふうに、作用(肉と卵)と副作用(臭いや尿)を分けて考え、副作用を低く見積もってしまいがちだと言います。作用と副作用を分けない考え方の例として、システム思考から派生したパーマカルチャーの話をしてくれました。
オーストラリアで始まったパーマカルチャーは、重力や水や動植物の習性をつかっていかに楽をして身のまわりの問題を解決していくかということを考えるそうです。
そのアイディアのひとつが、ニワトリの習性を利用して畑用の土をつくるチキントラクターです。軽くて持ち運べるニワトリ小屋で、床はありません。
チキントラクターを地面に置いてその中でニワトリを飼うと、草をついばみながら、窒素が含まれる尿や糞を出し、羽毛を落としてくれます。ガソリンで動くトラクターを使わなくても、草刈りも、地面を耕すのも肥料やりも、全部ニワトリがやってくれるのです。しかも、卵も肉も生産してくれる。2、3週間したら豊かな土壌になるので、今度は隣に移すと、またそこを栄養たっぷりの土にしてくれます。
チキントラクターのアイディアなら、ニワトリの習性を必要なものと不要なものに分けることなく、すべていかすことができるのです。
プラスティックの時代
海の底をドリルで抜いて地層を調べるコアテストでは、この80年くらいプラスティックの一種、ポリエステル繊維の堆積物が大半を占めるようになったそうです。1万年後の人たちが今の時代の地層を見たら「プラスティックの時代」と呼ぶだろうとテンダーさんは言います。
今の中高生たちが生まれる前に、大量のプラスティックが地上に存在する状況をつくったのは大人たちで、次の世代は望む望まないにかかわらず、プラスティックの時代を生きざるを得ません。
テンダーさんは、先人としてなんとかしなきゃいけないという思いで、活動を続けています。
一生役にたつ内容だった
ワークショップ終了後、テンダーさんがプラごみからつくったマーブルカラーのきれいなピアスやタイルなどの製品をスタッフたちが熱心に眺めるのを横目に、ある高校生がぽつりとつぶやきました。「作りかた知っちゃったから買わない」。
お母さんに勧められて参加した中学生は、「一生役にたつ内容だった。今まで参加したワークショップはその場だけで終わりって感じだったけど、テンダーさんのワークショップは家に帰ってからもできることだった」と感想を話してくれたそうです。
*報告記事を書くにあたり、ダイナミックラボ のウェブサイトのほか、以下の書籍を参考にしました。
『地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵』(デニス・L・メドウズ、ドネラ・H・メドウズ/ダイアモンド社)
『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか? 小さな力で大きく動かす! システム思考の上手な使い方』(枝廣 淳子、小田 理一郎/東洋経済新報社)
(事業担当:室中直美、宮川咲)
事業データ
「しょうがない」を乗り越えろ! 構造を理解し解決を配置するシステム思考実践―ゴミ拾いで稼ぐには
2019年11月9日(土)
TJF事務所
TJF
テンダー(小崎悠太)さん・環境活動家、ダイナミックラボ運営
https://sonohen.life/
中高校生15名