公益財団法人国際文化フォーラム

日韓の校長交流報告

互いのことばの学習と交流を実現するために

TJFはこれまで、日本にとって大切な隣人・隣国のことばである、韓国語の教育と韓国における日本語教育をサポートする事業を実施してきました。その中で、高校生に互いのことばの学びあいと交流の機会を提供するには、学校のリーダーの理解が欠かせないと考え、2015年度に日本の校長の韓国派遣及び現地での交流プログラムを開始しました。その後、プログラムを通じて深まった交流の重要性に対する理解が、実際に高校生の行き来や協同活動につながるには校長同士で何度か顔を合わせるとともに、その間のやりとりが欠かせないことに気付きました。2018年度は、8月4日(土)~8月7日(火)の日本の校長派遣につづき、11月21日(水)~24日(土)に韓国の校長及び教員19名(校長9名、教頭1名、教員9名)を招聘し、学校間交流についての可能性などについてやりとりしました。

※校長派遣プログラムはこちら

大人の交流が、今、欠かせない。

近年、外国人労働者の受け入れ拡大が決まり、ますます社会の構成員が多様化することが予想されています。多言語多文化共生社会を生きる高校生にとって自分とは異なる言語や文化を背景とする人と対話し、伝わらない経験を重ね、伝えたい気持ちを育むために、実際の交流を通じた学びがかつてないほど重要になっています。学校をベースとした交流の場を用意するのは校長先生をはじめとする先生ですが、多くの校長先生は交流の重要性を理解しているものの体験によって育まれる実感が伴っていないことで、決断しにくくなっていると感じました。今、交流が必要なのは、大人である先生です。まずリーダーである校長先生が交流することにより、高校生の交流は実現すると考えました。
今年度も、日本の高校で韓国語を学ぶ生徒、日本に留学中の韓国の学生や韓国語を使って活躍する社会人、日本の高校の校長および教員の先生と交流する場を作りました。更に、今回ほとんどの学校で校長先生に日本語の先生が同行していたので、それぞれが希望する日本の高校等を訪問できる自由時間も設けました。

韓国語を学んでいる日本の高校生との交流(初日/蒲田女子高等学校)

日本の高校生がどのような想いで韓国語を学んでいるのか、実際にことばを交わしながら、日本の高校生と韓国の高校生の交流について考える機会になればと考え企画しました。
蒲田女子高等学校の鈴木一彦先生による学校説明の後、3つのグループに分かれ、生徒会役員と韓国語学習者数名の案内で学校を見学しました。ちょうど部活動の時間で茶道部や吹奏楽部などの様子を垣間見ることができました。見学の後、会議室で他のグループを案内した生徒との交流の時間も設けました。韓国に対する関心と、韓国の高校生と交流したい気持ちの大きさに少し驚いた様子でした。

参加者の感想

「高校入学前からの生徒自身に目標があり、学校はその夢をかなえる支援を行う環境を整えているところがとても印象的だった。」

キャリアコース(フード&ファッション)のヘキセンハウス(お菓子の家)作りについての説明を受ける韓国の校長先生方

高校の先生との交流(2日め午前/東京都立王子総合高等学校)

まず校長の宮嶋淳一先生から、東京都立王子総合高等学校の特徴の一つであるグローバルランゲージ構想(2学年時に第二外国語として韓国語、中国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語の中から選択必修する制度)などについて説明を受けたあと、3つのグループに分かれてそれぞれ教員の案内で学校見学しました。その後、各グループに教員数名が加わり昼食交流会となりました。学生時代に韓国語を学んでいたことがあるという英語の先生など、韓国に興味関心のある先生方にご参加いただきました。

参加者の感想

「学校のカリキュラムが特殊であることは理解した。特に生徒の学習に向かう姿勢が自立的であることに感銘を受けた。そのための環境やカリキュラムなど参考になった。」

自由時間(2日め午後)

今回、ほとんどの校長先生に日本語教師が同行しており、事前に連絡した学校を訪問したり、次回生徒を引率して来訪する場所の下見をしたり、国際文化フォーラムを訪問したり、それぞれのニーズにあった時間としました。

日本で活躍する韓国語人との交流(3日め午後 その1/出版クラブ)

韓国から日本の大学に留学している学生6名と、日本で仕事をしている社会人4名に協力を依頼し、学校ごとに交流しました。なぜ留学したのか、留学生活はどんなものか、留学終了後何をしたいとおもっているのかなど、先生方の質問に真摯に答えてくれました。また、韓国語を使った仕事とその暮らしぶりを日本で暮らす社会人の方から聞きました。交流しながら自分の学校の生徒の未来を考える機会になればと企画しました。

参加者の感想

「なぜ日本の大学に進学したのかを韓国生徒から直接きけて大変参考になった。自分の高校の生徒の進路指導の役にたつと思う」
「就職を直前に控えた留学生(大学3年生)とも交流できたらよかった」

学校ごとにわかれたテーブルで交流

日本の高校の校長等との交流(3日め午後 その2/出版クラブ)

韓国側10校19名の高校の校長等教員と、日本側11校15名の高校の校長等教員が交流しました。顔をみれば思い出す人たちと、和やかな雰囲気の中で会は進行しました。2016年度参加者の東京都立杉並総合高等学校倉本武雄校長先生から、プログラム参加がきっかけとなり美林女子情報科学高等学校との学校間交流協定を結んだことや、翌年1月には10名の生徒の訪問を受け入れたことなどできる範囲の交流を進めてきたことが報告されました。また、来年度には同校の生徒を韓国へ派遣することも発表されました。他に、今年度参加の東京都立足立西高等学校と誠庵国際貿易高等学校の間で交流が進められるという方針も表明され、これから交流を考えている参加者にとって大きな刺激となりました。

参加者の感想

「交流をもとめているのは大都市の高校ばかりではない。地方の高校で交流が行われるような取組みが必要だと思う」
「学校間交流が1対1でなければならないという考えが漠然とあるようだけれど、複数校の希望者が1校と交流する形もあるのではないか」

今後の展開

二度の交流を終えた後、さっそく2019年1月末には今年度の参加校である世賢高等学校(韓国)が拓殖大学第一高等学校(日本)および東京都立芦花高等学校(日本)を校長含9名の教員の先生が訪問しました。また、桂南高等学校(韓国)は、神奈川県立座間総合高等学校(日本)と交流に向けてやりとりをはじめており、来年度、桂南高等学校の生徒が座間総合高等学校を訪問する準備が進んでいます。他にも草堂高等学校(韓国)と光教高等学校(韓国)は共同で日本の学校を訪問することを企画中で、日韓校長交流プログラムをひとつの契機に次々と交流に向けての動きが始まっています。
一方、今年度のプログラムの中で、地方の学校に交流がおきにくい課題が指摘されました。確かに、日程や交通費などを考えれば日韓双方とも交流先は大都市にある高校が選ばれることが多く、実際本プログラムにおける成果も同様でした。今後、地方にある高校に交流を起こすための工夫を検討していきたいと考えています。

(事業担当:中野敦)

事業データ

韓国の校長招聘プログラム

期間

2018年11月21日(水)~24日(土)(3泊4日)

場所

東京

主催

公益財団法人国際文化フォーラム

助成

韓国国際交流財団

協力

国際交流基金ソウル日本文化センター、東京韓国教育院、神奈川韓国綜合教育院

輸送協力

ANA

参加者

韓国江原道、京畿道、ソウル特別市、水原市、大邱広域市の10校19名の高等学校校長と教員