公益財団法人国際文化フォーラム

ソウルでダンス・ダンス・ダンス報告

ダンスダンスダンス2020をOnline開催!

オンライン交流にチャレンジ

9回目となる今年度のプログラムは、10月25日から11月23日までの間の計7日、日本の高校生8名、韓国の高校生9名が参加してオンラインで実施しました。これまで韓国ソウルを会場に4泊5日の合宿形式で実施してきましたが新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、今年度は対面交流を実現することができませんでした。そこで、初の試みとしてオンラインで日韓混成の三つのチームにわかれて、ダンス動画作品を制作、発表するという内容で開催しました。


日程表

午前午後
10/25 (日)
10:00-16:00
オリエンテーションチーム名、ダンス楽曲検討
11/1 (日)
10:00-16:00
ダンス練習・動画素材制作昼食会、オンラインショッピング
11/15 (日)
10:00-16:00
OGOBと交流昼食会、ダンス練習・動画素材制作
11/20 (金)
17:00-18:30
発表リハーサル・動画編集
11/21 (土)
10:00-16:00
発表準備・ダンス動画編集昼食会、動画編集・作品完成
11/22 (日)
14:00-19:00
発表会準備・リハーサル、
発表会、懇親会
11/23 (月)
17:30-19:00
振り返り

VRを活用してオンラインで対面交流

交流には、参加者が場やテーマを共有し相手と自然にやりとりが生まれるような環境が重要です。オンラインでは、参加者が相手と対面していると感じられるような状況をいかにして用意するかが課題となります。そこで注目したのが、VR(ヴァーチャルリアリティ)です。PCやスマートフォンの音声通話やテレビ会議システムでは得られない臨場感でやりとりすることができる魅力があります。近年は映像を視聴するだけでなく、話したい相手に近づいたり話しかけたりするなど自らの意思で他に働きかけることができる機種が手軽に利用できるようになりました。特にプログラム序盤で初対面の参加者が互いに関係を築くところで活用したいと考えました。

VR機器 Oculus Questのヘッドセットとコントローラー

活動の記録

10/25 VR交流

VRChat(VR用のSNS。ソーシャルVRサービス)に、それぞれが選んだアバター(VR上での自分の姿となるキャラクター)で集合しました。まずOGOBスタッフの進行で、チーム別に自分が得意だと思うことを紹介しあいながら役割(ダンス指導、動画編集、ロゴ制作、通訳、ファッション、その他)を決めたり、チーム名を考えたり、動画作品のダンス楽曲について相談したりしました。

VRは、参加者が機器になれていないことやシステムのトラブルなどで接続に時間がかかりましたが、ひとたび場に集えばオンラインでも確かに対面して交流できると実感しました。


☆最終的にきまったチーム名とチームロゴ

6pink
Bomble B


TWINKLE

11/1 VR交流&オンラインショッピング

この日、VRChatでの活動からZoom (PCやスマートフォンで利用できるテレビ会議システム)での交流に移行しました。全員で一斉に顔出しした後、チーム毎に昼食をとり、午後は作品に必要な衣装等をオンラインショッピングで購入する活動を行いました。

VRChatからZoomへと交流の場を変えたところで発話が減り、参加者間の関係に変化が生じたように見えました。同じオンラインといっても、使う機器によって求められるコミュニケーションが違うことに気づかされた瞬間でした。VRChatでは身振り手振り、立ち振る舞い、対人距離など言語外のメッセージがコミュニケーションを支えていましたが、Zoomではことばに依存する割合が高く、会議のような1対多のコミュニケーションになって個人的なやりとりが難しいように見えました。

VRのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「VRChat」で交流する参加者の様子

11/15 OBOGと交流&ダンス練習・動画制作

午前中、チームに分かれて、プログラムOGOB3人の話を聞く時間を設けました。少し前まで同じように高校生としてプログラムに参加した先輩から、進路や将来の夢につながるきっかけとなったできごとやエピソードを紹介してもらう時間でした。午後は、動画作品のためのダンスの練習や撮影、動画の編集の時間としました。

11/20 作品制作の進捗確認とアドバイス

製作途中の各チームの作品を皆で視聴しました。その後、動画編集や配信を専門にするスタッフやプロのダンサーから「複数の楽曲で作品構成するなら曲と曲の間の展開に工夫をするといい」「ダンスの振り付けはいつもより大きくしたほうが動画では見栄えがいい」などのコメントをもとに、チームにわかれて作品の見直しや作品上映前のチーム紹介の練習、制作スケジュールの確認を行いました。

過去のプログラムでスタッフは、参加者の自発的な活動をサポートする見守り役に徹してきました。しかし今回、交流を活性化するため、各グループに配置したOGOBスタッフが積極的に活動をリードすることにしました。OBOGスタッフのリードは、Zoom上の交流に安心感を生み参加者間の発言を促しました。ツールによって、交流の場づくりには異なる配慮が必要であることを実感するできごとでした。

Zoomの様子

11/21 作品完成

発表会を翌日にひかえ、どのチームも動画作品制作のための作業時間を必要としていました。そこで、午前午後1回ずつの動画編集進捗確認と発表会でのチーム紹介などの確認・相談の時間だけ作って、早めに解散しました。解散後も動画編集を担当する参加者を中心に夜遅くまで作業が続きました。

同じ目標を共有し、ゴールを目前にしたところで、一気に参加者間での対話と協働の作業が進みました。発表会に作品制作が間にあうのか心配だったチームも、驚くほど完成度の高い作品と発表会の準備を整えて、ただただ驚くばかりでした。

11/22 発表会

初めてのオンライン交流の末、完成した3つの作品が参加者の紹介のもと披露されました。最初に登場したのがチーム「Bomble B」。続いて、「6pink」「TWINKLE」の順に、参加者によるチーム紹介、ダンス動画作品の披露、プロダンサーからのコメントが行われました。投票の結果、チーム「TWINKLE」がもっとも多くの票を集め優勝しました。発表会の見学者からは以下のような感想が寄せられています。

  • オンラインでもしっかり友情が育まれ、参加した一人ひとりがかけがえのない経験をできたことがよくわかりました。
  • 高校生同士はもちろんのこと、主催者と高校生たちとのコミュニケーションがよく取れている様子がうかがえて、いいなと思いました。ただ、やはり直接の交流ができればもっといいのにな、と思いました。
  • どのチームの発表も、工夫を凝らし素晴らしかったです。また、力を合わせて作り上げた様子が伝わってきました。
  • 今回、このコロナウイルスが流行っている中でのオンラインの交流はとても難しかったと思います。ですが、生徒さん達の発表を見てクオリティの高さにとても驚きました。皆とても楽しそうにしているのが感じられて私が参加した際のdddを思い出しました。
  • オンライン形式をうまく活用した発表に驚きました。
  • 今回は動画編集という、例年と異なる技術が求められたと思うのですが、どのチームも素晴らしかったです。
  • コロナ禍の中、一生懸命準備して作品まで仕上げたところがよかったです。
  • オンラインでうまくいくのか心配していましたが、とても素敵な作品をみせていただきました!実際に顔をあわせて行う交流に比べて難しいことがたくさんあったと思いますが、発表会はとても楽しめました。
  • 話をするときは初々しく可愛らしく思いましたが、ダンスはどのチームも迫力があり、個性が出ていて、色々なところを工夫をして作ったんだなと感じました。

作品は、前日よりもさらに洗練されていて、1週前の交流の様子からは想像できないほどのしあがりでした。あまり活発なやりとりが見られなかったグループも、スタッフのいないところでしっかり交流が行われていたようです。見学者からも「楽しめた」という感想と、「交流の様子が伝わった」というコメントが届きました。そして「参加者の笑顔が印象的だった」と好評をいただくことができました。

Boble B(左)、TWINKLE(右)
6pink(左)、優勝チーム:TWINKLE(右)

11/23 振り返り

最終日、約1ヵ月におよぶプログラムについて振り返りました。「コロナのせいで会えなかったのは残念だったけど、いつか実際に会いたい」「先生に勧められて参加したけれど、期待以上で楽しかった。」「VRなど今までに経験したことのないことができて楽しかった」「グローバルに活動できる機会が増えたらいい」など最後に、ひとことずつプログラムに参加した感想を話してお別れしました。

今回のプログラムでは、積極的に表現することの大切さをキーワードに振り返る参加者が例年に比べて多かったのが特徴でした。特に、PCやスマートフォンのテレビ会議システムを利用した場は、声を出すことがとても重要であることがわかりました。声を出し画面に向かって身振り手振りしなければ、いないも同然と見られてしまうし、思ってしまう心理的不安定さがありました。オンラインで安心して交流できる場づくりは今後の課題です。

オンライン交流の可能性と課題

VRについて

VRのSNSアプリをつかった交流は、オンラインでも対面交流が可能であることを確信する体験でした。海をこえて日韓の高校生が、場を共有し、すぐとなりに立っているかのような感覚の中やりとりすることができました。相手がどちらを向いて立っているか、身振り手振りはあるか、さらにはどんな姿のアバターを選んでいるかなど、そのひとつひとつが表現として発信されていて、言語に依存しないですむ環境だったのです。対面交流にはそのような特性があることに改めて気づかされました。
ただ、ログインに時間がかかって開始が遅れてしまい、スケジュールを変更せざるを得なくなってしまうという課題もありました。通信やシステムの状態が不安定で、安心してプログラムを進めるにはもう少し技術の進展が必要と感じました。また、乗り物酔いと同じようにVRでも三半規管が刺激されて気分が悪くなってしまうことがあります。機器の重さで頭痛を感じる参加者も若干名いて、長時間の利用を避ける必要がありました。

VRからPC・スマートフォンへ

当初、VRを利用した交流で関係構築が進み、その後のPC・スマートフォンを利用した活動を円滑にすると考えていました。しかし、機器を変えたとたんそれまでに築いた関係がリセットされてしまったかのようにやりとりがなくなってしまいました。VRを使いアバター姿で交流した時間が、後につづくPCやスマホによるリアルな姿の交流を活性化するとは限らないことを実感しました。同じオンラインでもツールに応じた場づくりや参加のための準備が必要であることがわかりました。

今後について

オンライン交流は、今回のようなウイルス感染拡大のような環境的要因ばかりでなく、身体的、経済的な理由等で移動が難しいひとたちに出会いと学びの機会を提供する可能性があります。また、オンラインを現実の生活を便利にするためのツールとばかりとらえるのではなく、もうひとつの現実とみなし真剣に考える必要があります。インターネットを主な社会生活の場とする状況が拡大する中、オンラインの交流は、これからを生きる若者に欠かせない体験ではないかと考えます。実際に移動し、顔をあわせて行うこれまでの交流と共にますます需要が高まっていくだろうと推察します。今後も、VRなど新しいテクノロジーの活用も考えながら、身近なテーマで体験できる交流の機会を提供していけたらと考えています。

(事業担当:中野敦)
                         

事業データ

ダンスダンスダンスOnline2020

期間

2020年10月25日(日)、11月1日(日)、15日(日)、20日(金)、21日(土)、22日(日)、23日(月)(計7回)

場所

オンライン

企画・主催

財団法人秀林文化財団、TJF

実施

秀林外語専門学校、韓国日本語教育研究会、TJF

協力

高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク

後援

国際交流基金ソウル日本文化センター

メディアディレクター

山泉貴弘(映像ディレクター)

動画作品制作配信支援およびプログラムスタッフ

星音<しおん>(バーチャルYouTuber)

テレビ会議システム運用支援およびプログラムスタッフ

坂本悠(大学生)

ダンス技術支援およびプログラムスタッフ

齋藤宣世(ダンサー)

プログラムスタッフ(プログラムOBOG)

朝田航太(2017年度参加者、大学生)
キムミンソ(2017年度参加者、大学生)
阿部萌花(2018年度参加者、専門学校生)

参加者

韓国語を学ぶ日本の中高生
京都府、岡山県、広島県より8名(高校生8名/女子8名)
日本語を学ぶ韓国の中高生
江原道、ソウル市、仁川市より9名(高校生9名/女子8名、男子1名)