Q:持続可能な発展に関心を持たれた特別なきっかけはありますか?
特別かどうかはわからないですけれども、今まで、人間というか、人類が追及してきた社会経済活動が、そもそも持続可能ではないということで、私個人としては、私たち人間が自分たちに課さなければいけない課題と言いますか、義務と言いますか、個人レベルでも、私たちがそれぞれやっていかなければいけないことだという風に思っているので、そうした意味で、興味がありますし、もちろん国連で働いていたというのも、大きな理由のひとつであると思います。
国連での経験
Q:国連で仕事をなさっていた時、印象的なエピソードなどはありますか?
ひとつあげるとしたら、ラオスで仕事をしていた時のエピソードです。当時は、公式には、49の民族グループが存在するとされていました。多くの少数民族が、山の奥の方に住んでいて色々な公共サービスとかにアクセスできなかったりとか、教育とかもあまり受けられなかったりとか、あとは、政治とかにもあまり参加できなかったりとか、言語がそもそも違ったりとかの問題がありました。そういう中で、私のプロジェクトのひとつとして、民族の今までの習慣とかをなくすのではなくて、これからも、リスペクトして行こうという内容の報告書を発行しました。その時に、恐らく国でも初めてだと思いますが、49の民族の代表が全員同じ場所に集まって、平和的に共存して、一緒に頑張っていこうというようなイベントがありまして、それが印象に残っています。
Q:国連で仕事をなさった後、教授職を選ばれた理由は何ですか?
国連で働いた経験は特別なことだと思います。しかし、国連で働いた後で大学院に戻ろうと思った理由は、何かの形で国連での経験を後世に残したいと思ったからです。私の経験、知識で次の世代、若い世代の方々に伝えられることがあるんじゃないかというのは常に思っていました。国連で働いてた時も、アメリカだったり、日本に帰ってきた時も大学生向けに、ゲストレクチャー、ゲストスピーカーみたいなこともたくさんしましたし、人に自分の経験、知識っていうのを伝えるということが元々好きだったのかなという気がします。
持続可能な発展
Q:憲法学者でもいらっしゃるそうですが、持続可能な発展と憲法には関連がありますか?
もちろんです。SDGsって一般市民の方々には、多分、環境とか貧困とかそっちの方に目が行きがちだと思うんですけど、SDGsの目標の中で何が一番大切か考えると、私は憲法だと思います。なぜなら、憲法というのは、その国の一番大切な道しるべだと思いますから。国がどういう国でいたいのか、どういうビジョンがあるのか、どんな形で社会を作り上げていくのか、そういったことが全て書かれているのが憲法です。もちろん、国がどうやって機能していくのか、そのシステムが記されているのも憲法です。また、国民の人権について書かれているのも憲法ですし、それがないと他の法律というのが存在できません。なので、そういう意味で、憲法と持続可能な開発というのはもう本当にお互いにとって、欠かせない存在だと思います。そうした観点から、SDG16として、「平和と公正をすべての人に」という法の支配関連のSDGが採択されたことは喜ばしいことですし、大変重要であると感じています。
Q:持続可能な発展に関する世界の動向はどうですか?
正直、あんまり良くないです。今2024年なので、5〜6年は残っていますが、正直なところ、ほぼ全世界で2030年までにSDGs全てを達成するのはもう無理だという風に私個人的には思いますし、実は国連も関連報告書内でそう認識しています。SDGsを成し遂げるためには、皆さんの日常生活、ライフスタイルを劇的に変えていかなければいけないんです。そこが世界レベルでも今あまりうまくいってない最大の理由のひとつなんじゃないかと思います。
Q:持続可能な発展について望ましい方向性はありますか?
それを達成するためには、私たちの個人レベルでも意識して自分たちのライフスタイルを変えていかなければいけないです。それはもちろん国レベルでもそうですし、世界レベルでもそうですし、いろんなレベルで私たちの生活を変えなければいけないんだと認識して、それを実践するのが重要です。
例えば、環境の話で言うと、自動車の燃料が、ガソリンではなくて電気とかになってたりとか、そういう意味で、電車とかも燃料を変えていかなければいけないというふうに思います。なので、もちろん、運転するなとか、電車に乗るなとは言わないですけど、そういう根本的なところで変えていかなければいけないと思います。そして、無駄を減らしていくということは、やっぱりいろんなレベルでやっていかなければけないと思いますし、そういうことが起こってほしいなと思います。このままだといずれは私たちが住む地球がなくなるかもしれないですし、それは次の世代、その次の次の世代に本当に失礼なことだと思います。私たちが今楽しむことができるこの環境を次の世代、次の次の世代にも楽しんでもらわなければいけないと思うので、私たちの意識を変えていかなければいけないのではないかと思います。
(インタビュー:2024年4月)