多摩美術大学デザイン科卒業。株式会社武者デザインプロジェクト代表取締役。NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構理事長、JDB(日本デザイン事業共同組合)副理事長等を務める。Gマーク・グッドデザイン賞など受賞多数。
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザイン(UD)とは目標であり、それに向かって努力することが必要です。
アメリカの建築家ロンメイスは自身が車椅子を使用していて、障がい者にとってより使いやすい建築を設計し世に問いましたが、新居購入層にはいかにも障害者向け住宅のイメージが残り、特注仕様も多いため高価で売り上げは伸びませんでした。しかし彼は諦めず自分の理想を実現させるためにどうすればいいか考えたとき、もっと広くたくさんの人にとって使いやすい建築をして、その中に障がい者も含めばいいと考えた。そして彼が考え抜いて生み出したのがユニバーサルデザインの7原則です。それは世界に、そして日本にも建築界から広まりました。
原則1:誰にでも公平に利用できること
原則2:使う上で自由度が高いこと
原則3:使い方が簡単ですぐわかること
原則4:必要な情報がすぐに理解できること
原則5:うっかりミスや危険につながらないデザインであること
原則6:無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
原則7:アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること
(引用 http://www.udit.jp/report/ud_7rules.html)
ユニバーサルデザインとの出会い
ユニバーサル(UD)の先進性に気づいた知人がユニバーサルデザインフォーラムという組織を立ち上げて、たまたま僕にもその情報が入ってきた。大学卒業後、僕自身は家庭日用品の会社で、とにかく安全にこだわったデザインを担当してきたから、なんの違和感もなく、広めるべきじゃないかと思った。
2000年当時アメリカでミレニアムコンペというUDのコンペがあり、一眼レフカメラのレンズフィルターケースを出品し入賞したんだ。
屋外では一眼レフカメラのフィルター交換の際、片手はカメラを抱えるため片手で開閉ができるようにしたんだ。中のフィルターがカタカタ動かないように凹凸を作って引っかかるようにしたり、何度も開け閉めしても耐えられるようポリプロピレンを使って蝶番をつくった。この蝶番は100000回くらい耐えられる。
普通ポリプロピレンだと少し曇ってしまうんだけど中のレンズがよく見えるようにしたくて、プラスチックを流し込むときに、流し込む入口(ゲート)を普段1つのところをレンズ部専用のゲートを加えて薄肉成形にすることで透明度を上げたんだ。
ユニバーサルデザインによる食品機械向けのツマミ
これはステンレスなんだけど、どういう訳でこういう形になっているかというと、食品を作る工場では1日の作業が終わった後、機械全体に汚れているところがないように洗浄する必要がある。普通のつまみは高圧洗浄水が当たらないカゲ部分ができてしまうので、洗い残したところに細菌やカビが発生して、それが原因で不良品になることもあり得る。その洗い残しをなくすために、洗いやすい形のツマミをつくった。そういうコンセプトでつくったツマミってないじゃん、普通は回しやすい・滑りにくいで作られてるから。
つまんでみると気持ちいいでしょ?
カラーユニバーサルデザインとの出会い
慈恵医科大学で教授をやっている岡部正隆という高校の後輩がいて、前段となるカラーバリアフリー活動に僕を誘い込んだ。彼と当時東大の伊藤啓が同じP型同士意気投合しカラーバリアフリーを提唱した。例えば、学会でプレゼンテーションをするときに自分たちは一般色覚の人にわかるように一生懸命苦労してパワーポイントの資料を作っているのに、一般色覚の人はそういった配慮をしてくれないので見てもよくわからない。そう言って不合理というか不平等というか、声を上げていきたいよねというのが2人の始まりだった。
2人は学会の中で、どんな風にプレゼンテーションを作ればいいかを考える仲間を作り始めた。そこで彼らが言い出したのは、学会での論文発表で、観客の中にそれを評価するレフェリーがいる。そのレフェリーの中に男子が20人いるとしたら割合としては1人は色弱者の可能性がありますよ。プレゼンテーションがよく分からないかもしれないので、我々のいう色の使い方や表現の仕方をやってみませんかってみんなにオープンにしてプレゼンテーションの方法を広めていったわけ。そうするとみんなに分かる可能性があるならそうした方が良いよねと学会の中では徐々に広がった。
そこで次にデザイナーの手を借りたいねということになって、いきなり同窓会のメールから岡部が僕を見つけて電話してきた。話を聞いた時に、僕はUDをこれまでやってきていたのに、色弱のことは聞いてはいたけれどよく分かっていなかったのはなんでだろう、そう考えていると1つの結論に達した。それがね、美術大学にいたからだった。今は色弱の人も入れるけれど僕らの時代は入れなかった。周りに一般色覚しかいなかった。そういう大学で育って社会に出てきたというのが色弱の人のことをよく分かっていない理由だった。それで、そこの反省も含めてどっぷりここに足を突っ込んでしまった。
赤と緑の識別
人間の持っている3錐体*は、赤錐体・青錐体・緑錐体。色弱の人の中でP型、D型というのは赤と緑に特性を持っている人たちで、赤と緑の識別がしづらい。そこで、赤と緑の色を少し調整するとP、D型の人たちにも識別し易くすることができる。その特性は主に男性に現れ、日本においてP、D型は男性の約5%(約305万人)、女性を合わせると約320万人と言われている。その他に青に特性を持っているT型の人は10万人に一人(先天性)とかなり少なく当事者の声も伝わりにくいのだけど、今後NPOとしても研究を充実させていきたい。
P、D型の人たちは、真紅っていう赤と真緑色が混同しやすいので、赤はオレンジに近づけて緑は青に近づける。そうすると黄色と青の分量を彼らはよくとらえるので、これは赤だな、これは緑だなという予想がつくようになる。C型(一般型色覚)のように見えてるわけじゃないけど、これまでの経験値から緑というのはこういう感じだよなというのがわかる。その想像ができるような色合いにする。
*人の網膜にある3つの錐体細胞で、色を知覚している。
色の見方を体験できるアプリ
色のシミュレーターってアプリをぜひ入れて使ってみてほしいです。うちのNPOカラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)がソフトの基になるアルゴリズムを研究開発したんです。
一般色覚者と色弱者のP、D、T型の人の見え方の違いがわかるんです。これはあくまで強度の人ね、弱度の人じゃなくて。赤と緑が判別しにくいのがわかるでしょ?
JISの安全色
色弱の人は、これまでの経験値から、あー、葉っぱの緑っていうのはこういう感じだよなというのはわかる。自然物についてはもう生まれながらたくさんの経験をしているから予想がつくんだけど、人工物としていきなり登場した看板とかは、何色かがわかりにくい。そういう時に、ああこれは緑だなということがわかる色になっているといいと思う。
実は、去年の5月、業界関係者と共に長年携わっていたJISの安全色の改定版を発行することができた。これは日本中の色んな表示の基本で大きな改定としては18年ぶりかな。これから新規のものは、この色に変わっていく。時間かかるけど。新JISの安全色は、カラーユニバーサルデザイン手法で調整しバランスを取った表示色であり、世界的にも優れたものであるからISOに上程しようとしている。
地道な積み重ねの大切さ
デザイナーは自分がやったデザインを基本、気に入るわけ。気に入るんだけどそれを次の日もう一回見直すと、これでいいのかとか、これよりもっといいのはないかと考える。で、また、それを否定して、そして次に行く、そういう繰り返し繰り返しを飽きずにやって行かないと、いいものにはならないよね。特にプロとしてなら地道な積み重ねに基づいた理論構築ができていれば平気なんだけど、ただ流行っているから、トレンディだからだけだとプレゼンテーションではそれは脆く崩れる。
あとはUDをやるんだったら、人には体力の差とか、身長差、性差、人種別等の個体差が必ずある。そういう差があることを知って認めて、できるだけ多くの人にとって使いやすく、「差」を感じにくい共用範囲を自分なりに設定できるようになってほしい。感覚も大事だけどUDを説明するにも客観的数値を大事にしていかないといけない。学術論文やネット検索等の情報を探しに行く能力、比較できる能力も必要だね。
君たちはこれからいくらでも様々な情報にアクセス可能だし、本当に色んな勉強出来ていいよね。
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構
https://www2.cudo.jp/wp/
(インタビュー:2019年5月)