PART1 先生の授業
キーワード「多様性」
Q:先生が担当している「現代キャリアデザイン論Ⅰ」の授業では様々な課題を出していますが、何か印象に残っている課題はありますか?
現代キャリアデザイン論Ⅰの授業には、いくつもの課題があります。順位はつけられないですけど、印象に残っている課題は「20の私(注1)」、「人生双六(注2)」、「授業PV(注3)」です。
「20の私」は性別、学部、出身、など「私は__です。」に単語を埋めていくワークですが、人によって書く内容が多様です。性格(内面)を書く人もいれば、外見を書く人もいるし、属性を書く人もいます。そこに「私は日本人です。」と書く学生はほとんどいないですけど、受講生の中に外国人留学生がいて「私は台湾人です。」とか書くことによって、他の日本人の学生は「あ、そうだ、私は日本人だった。」と気づきを得ます。日本人が留学生から学び、気づきを得るところはすごく印象的だったなと思っています。
また、自分の人生を双六の形式で描くワークである「人生双六」も同じように、人によって全然違います。例えば仏教を信じている人だと、輪廻転生という人生の終着点が「死」ではないような宗教観を反映させた人生双六がたまに見られます。日本人の多くはあまり宗教を意識していないので、そういう宗教的な死生観に触れる契機になるという意味でも人生双六は面白いです。
人生双六は僕自身も15、6年前にやったことがありますが、今の僕のように子どもが三人いるとか全然想像もしていなかったし、まさか大阪大学で自分が学生に人生双六を作らせているとも思っていなかったので、予想もしていなかったことが人生では起きるんだなと思います。
そして、授業紹介動画を作成するワークである「授業PV」に関しても人によって作品のテイストが随分と異なります。外国のCM動画を使ったパロディ作品を作ってくれる留学生が結構いるのですが、日本人とはまた違ったセンスで作られた留学生の作品は、面白いなと思います。例えば、外国のコロコロクリーナーみたいな商品のCMに字幕を付けて授業PVにするアイデアとか、日本人とは違った視点で物事を見ているのがわかるので、印象深いです。
*注2:人生双六とは、自分の人生を双六(サイコロを振って進むゲーム)で表現し、これまでの人生を振り返り、これからの人生を展望するための課題である。
*注3:授業PVとは、現代キャリアデザイン論Ⅰの授業を振り返るための課題である。受講するかどうかを迷っている人たちを対象と想定して作成する動画である。
PART2 キャリアセンターでの仕事
キーワード「現実」
Q:キャリアセンターで働くことになったきっかけはなんですか?
卒論のときから大学生の理想の生き方に関する研究をしていたことがきっかけです。仕事選びとは選択です。見えない選択肢は選べないけど、知っていれば選ぶことができます。その選び方とか、よりよい選択のための理論とか方法論とか、そういったことを教えたいと思ったのがキャリアセンターに就職した理由のひとつです。
Q:仕事を選択するときに、気を付けた方が良いところはありますか?
仕事選びって、自分に合いそうな選択肢を横並びにして、その中から選ぶものです。ランキングの上位から選ぶんじゃなくて、自分に合ったものを選ぶといいと思います。その選び方を僕が学生の時は誰も教えてくれませんでした。今の学生もなかなかそこで苦労しています。
Q:留学生の就職の特徴や困難は何ですか?
日本語が話せる外国人留学生は企業が欲しがるので就職に苦労しませんが、日本語ができない外国人留学生は苦労します。そして、就職したとしても、日本独特の文化の問題があります。例えば、終業時間。五時までしか仕事しなくていい、アフターファイヴは自分の自由だというふうに考えて行動していると会社の中で浮いてしまうかもしれません。権利としてはそうだし、実際に労働契約書とかにはそう書いてあるかもしれないけど、日本の悪しき慣習として先輩が帰っていないのに新人が先に帰ったら、ちょっと生意気に見られる、といったことがあります。そういう日本企業の文化が留学生の就職(定着)にとっての困難になっていると思います。
PART3 先生の大学生活
キーワード「経験」
Q:先生が大学時代に頑張ってきたこと、やっておいたらよかったと思うことの話を聞かせてください。
大学1年生の時は体育会系の部活に入っていて、部活が中心の大学生活でした。でも色々あって2年生の夏に部活を辞めました。辞めた後に今度は友達とバックパックの外国旅行をしたり、バイクで京都や岡山に行ったり、いろんなことをしました。バンジージャンプとかスカイダイビングとかヒッチハイクとか、珍しいことも結構やったんですね。就職も内定をもらっていたし、研究もしっかり、先生について調査にも行かしてもらっていました。
Q:「内定をもらった」とおっしゃっいましたが、実際先生は大学院に進んだとお聞きしました。就職の代わりに進学を選んだ理由があるんですか。
もともと僕は高校の先生になろうとしていました。僕は島根出身なので島根県の高校教師になろうと思っていました。会社に入ったら「お前はクビ!」と言われそうな生意気な性格だったから、公務員がいいと思っていたんです。
でも、高校の先生は県の教育委員会に所属するので自分が進学校じゃない高校に赴任したら就職する生徒のことも教えないといけないと気づいて、その時に自分が就職活動を一回もしていないのは良くないんじゃないかと思って、3年生の2月ぐらいに思いつきで就職活動のイベントに参加してみました。でもリクルートスーツを持っていなかったから、成人式の時に使ったスーツ(金ネクタイ)で、茶髪のロン毛のまま会場に乗り込んで「やべぇ、俺めっちゃ浮いてる(汗)」みたいな感じになりました(笑)。でもその時、会社も意外と金儲け目的だけじゃなくて、「人の役に立つことをして、お金を稼ぐ」もので、お金を稼いで税金として国に納めてそれがまた社会に還元される、そういうことを知ってビジネスも別に悪くないな──と思いました。
当時は教育系の会社に二つだけエントリーして、A社は「教育はビジネスです。お金を儲ける方法を考えてください。」とか言われたから、僕は当時青くて「教育は金儲けじゃない、こんな会社自分から願い下げだ!」と行くのをやめて、 もうひとつのB社は「面白い授業で子どもに勉強を教え、彼らの夢とか可能性を最大限に広げるんだ!」という熱意あるプレゼンだったので、僕も「そうだ、そうだ!」と共感して、トントン拍子で内定も出たんですけど、島根では無名の会社だったので親が否定的な感じでした。それで、しょんぼりして高校に教育実習に行ったら、「家島君がなろうとしている社会(地理歴史・公民)の教員は、国語・英語・数学のような受験に必須の科目でもないから採用人数も少ないし、若い人よりも年配の人の方が年齢や経験の分だけ有利だし、どうせ校長・教頭になるときに専修免許が必要になるから、大学院に行ったら?」と先生に言われ、大学院の勉強を始めて、京都大学の大学院に2月に受かりました。配属先も決まっていたんですけど、内定先の会社の人に謝って、大学院に行くことになりました。
大学院でこうなりたいなという研究者の先生・先輩と出会って、受験のことしか教えない高校の先生よりも、人生のことを教えられる大学の先生になろうと思って、大学の教員になりました。だから研究がしたくて大学教員になったというよりかは、元々教師になりたくて、それを高校じゃなくて大学でやることになったという感じですね。
Q:先生の今までの経験をふまえて、先生が大学生に戻ったら何をやりたいと思いますか?
もし僕が今大学生に戻ったら、 ホテルとか、結婚式場とか、そういう社会人のマナーが身に付くようなアルバイトか、留学をしてみたいと思います。大学院生で初めて3ヶ月半シカゴに行ったんですけど、その体験がすごく大きかったんです。学部生の時に留学していたら、もっと早く海外に目を向けていたなと思います。
PART4 大学とは?
キーワード「意義」
Q:大学の意味とは何ですか?
大学は人生の夏休みと例えることができると思います。日本人と外国人は違うかもしれないですけど、日本の夏休みと言うと2ヶ月ぐらい、長いです。長いから何でもできそうな気がするけど 、それなりに宿題も出されていて、計画的にやっていかないと何もできないままに夏休みが終わります。最後の方で宿題ができていなくて、すごく焦ります。大学はそれと一緒です。大学生活4年間の過ごし方というのが、実は夏休みの過ごし方と近くて、のんびりなまけていると、あっという間に時間が過ぎて最後に焦る人生になってしまいます。大学4年間をすごく計画的に活用して、色々経験できた人は多分その後の人生でも計画的に色々な事を経験できると思います。 その後の人生を左右する大事な期間というのが大学時代だというふうに思っています。
Q:留学生が活用できる大学のリソースにはどんなものがありますか?
色々ありますが、例えば、学費の免除などの学生支援があります。申請すれば免除になるとしても、知らなかったら申請できなくて免除にならないです。なので、そういった活用できるリソース(資源や支援)を知ることは、すごく大事だと思います。それを知るためには、やはりその大学の先生とか事務の人とかと仲良くなることだと思います。もちろん自分で調べるのもいいけど、アンテナを張って調べるということを意識していないと、その情報があっても自分が見えていなかったら選べない、利用できないじゃないですか。なので、視野を広げておくマインドが大事かなと思っています。具体的な方法は学生センターやキャリアセンターに情報があるので、そこをチェックするとか、阪大の教職員に人脈を増やすとかすればいいのかなと思います。
Q:最後に大学生の皆さんに何かアドバイスをしてくれますか?
知らない選択肢は選べないので、ぜひ視野を広げて、選択肢を増やしてください。
(インタビュー:2020年11月)