日本との出会い
イギリスの大学を卒業した後、演劇の勉強をしていました。その時の友人が武道をやっていたので、私もその影響で武道をやるようになったんです。武道は演劇の勉強に繋がるんじゃないかと思って。それで夏休みに、新体道の先生が日本に来るから日本で稽古をしないかって誘われました。外国は子どもの頃の旅行以来行っていなかったんだけど、面白そうだなと思って。だから日本に行きました。
なんか東京ってすごいごちゃごちゃした町で、古いものと新しいものが交じり合っているじゃないですか。その時日本語も分からなったけど、何かここで出来るんじゃないかと思いました。イギリスは歴史がすごい重く感じて、新しいことするのは難しいなあと思っていて。
日本の骨董市で見つけた着物
日本に訪れた時に骨董市に行きました。そこに並べられていた着物を見て、布、模様、色に魅力を感じました。絹だからすごく深く色を染められて、華やかに見えるんですね。木綿とかポリエステルよりも光沢があって、色に深みがあるし、しなやか。
着物の魅力について知るうちに、「着物の本を出版したい」って思うようになりました。着物に出会ってから3、4年経った頃かな。出版社に手紙を書いたんだけど、みんなに「着物の本は売れない」って言われた。「インドのサリーの本もあるし、アフリカの布の本もあるし、じゃあなんで着物の本は売れないの?」私は納得できなくて。分かってくれないんだったら、もっともっと勉強しようと思って、日本に住みながらイギリスの大学で勉強しました。その時に、「ドレスボディカルチャー」っていうシリーズの本をたくさん読みました。この本には芸能ファッションとか、インドのリサイクルとか、世界中のファッションについて書かれているシリーズがあって、「大学の博士課程とったら私の本もここに入れたい!」って思いました。博士課程が終わってからこの夢を叶えることが出来たんですけど、本を出すって決めてから20年が経っていました。
勉強しながらの日本での生活は大変だった。毎朝5時に起きて2時間勉強して、子どもを学校に行かせたら私も仕事に行く。今は大学で着物の文化背景や歴史、着付けの授業をしていますが、最初は英語の先生として雇われていたんです。仕事が終わったら買い物してご飯作って、それからまた勉強。すごい大変だった。
ファッションの勉強ってどんな勉強?
西洋では、ファッションは西洋でしか起こっていない現象と考えられているんだけど、それは正しくないと思う。だからその理由を明確にするために、ファッションとはどんなものであるのか勉強しました。ファッションから見られる要素と、着物の歴史を比較するんです。ファッションには、①「大きな産業であること」②「古いものより新しいものが大切」③「実用的よりも形が大切」④「グループ行動として発展し流行りが生まれる」⑤「自己表現」という5つの要素があると私は思っています。
例えば「実用的よりも形が大切」という要素で考えてみると、“十二単”は絶対実用的ではないんですよね。人間を動けなくするし、とても苦しい。実用的じゃないけれど形に意味があって、これは日本のファッションです。
それから枕草子を読んでみると、すごく服装についてうるさいです。その時代の服の着方についての批判、袖の切り方とか、裾が短いとか。その時の流行だったんですよね。これは「グループ行動」の要素です。
だから日本のファッションは洋服と一緒に入ってきた訳じゃないんです。昔から流行もあったし、新しいものを大切にしていました。
人々をひきつけるこだわりの着こなし
着物のスタイリングを考える時に1番大切にしているのは、色の組み合わせ。色を綺麗にまとめるようにしています。あとは四季を意識すると楽しいです。これは洋服にはない楽しさ。だから2018年に出したスタイルブックは、四季のスタイリングを紹介したんですね。梅とか桜、クリスマスツリーと一緒に撮ったり。
でも、「やり方が分からない」っていう人が結構いました。だから次のスタイルブックでは、着物と小物だけを置いて撮ったページを入れました。このスタイリングはこのパーツで出来ていますよって分かるように。帽子やイヤリングのページもあります。
それから、着物は“ルーツがあるファッション”です。環境があることで植物が育つ。その植物から着物の糸が作られるし、また別の植物では色を染めたりする。こうやって着物はどんな環境や植物から作られたのか、ルーツを知ることが出来る。これが着物の良さの一つだと思います。
活動を通して感じるやりがい
2年前に、丹後ちりめんの大使として選ばれたので、着物の職人達と色々な活動ができています。やっぱりメーカーさんに信頼されていないと私の活動は出来ないから、この出来事は私にとって大切。
時々道で「いつもインスタ見てます」とか声をかけてくれることもあって、すごく嬉しい。この間も、電車から降りたら若い女の子が後ろからトントンってしてきたんです。振り向いたら、何も言わないで携帯を見せてきました。そこには、「私は病気を持っていて、話すことが出来ません。Miss Sheila wears kimono. I love kimono. One day, I want to wear the kimono like miss sheila.」と書いてあった。泣きながら見せてくれて、その時最近出版した本の付録をたまたま持っていたので、はがきのセットをプレゼントしました。私に会うだけでこんなに感動してくれる人がいるなんて。びっくりした。
着物文化を伝えたい
着物文化を守りたいっていう人は結構います。でも“着物文化を守る”=“ファッションを楽しむ”だと私は思うんですよね。着物を博物館にしまったり、買ってはいけないと言う人もいるけど、着物は生まれてきた時から「文化」じゃない。「ファッション」です。だから親しみを持って欲しい。だから来年、また本を作る予定です。着物の歴史についてじゃなくて、着物のファッションについての本。着物をファッションとして楽しむ人が増えていけるような本を作るために、職人さんも紹介しながら作りたいと思っています。新しい織物とか、新しいやり方をしようとする職人さんがたくさんいます。
1番大切にしたいのは、日本の若い女性。若い人はお金がなくて着物が買えないかもしれないけど、結構着物に興味ある人が多いと思うんですよね。着物の授業を大学でしているけど、これは必修じゃないから、学生はとらなくてもいい授業なんです。でも毎年70人以上がとってくれています。だから学生はすごい興味あるって感じてる。若い人に、こんな素晴らしいものがここにあったんだよっていう話を伝えたい。素晴らしい染め織り文化がここにあるから、これが無くなって欲しくない。
(インタビュー:2021年11月)