Q:こあら村は始まってもうすぐ20年ですが、大田区で事業を立ち上げた経緯についてお聞きしたいです。
朝子:もともとここが、前理事長、高山久子さんのおうちで。彼女の熱意に私たちが引っ張られて、ずっとやってきたんです。ちょうど始めた頃、公園デビューとかでお母さんたちがすごく苦しそうでした。公園や児童館でできあがってる関係に入っていけずに、さまよってるお母さんがいる。「うちに遊びに来ない?」っていう関係にはすぐなれないから、「あそこにみんなで遊びに行けるところあるんだって」って、公園代わりに寄れるところがあったらいいねって始めました。蓋を開けてみたら、ちょうど全国で同時多発的にそういうムーブメントが起こってたんです。
Q:活動内容や時間はかっちり決めずにやってきたんですか。
朝子:内容や時間を決めてしまうと、赤ちゃん連れの方が遠慮されたり、お昼寝してると来られなかったりする。だから、どなたがいつでも来られるように、とにかく月、水、金の10時から4時までは場を開けていました。新型コロナの影響で、今は様変わりしていますが。
家事とか育児って、報酬も褒められることも一切ないですよね。でも、一日ずっと赤ちゃんと一緒に過ごすのはとても大変なこと。大人とお話が全然できないっていうのもね。ここに来れば、同世代の、似た生活をして同じ悩みを持ってる方たちと気楽に話ができる。ただお喋りするだけが、すごく大事なことなんです。
邦子:どこかに悩みを相談に行くんじゃなくて、ちょっと吐き出せるだけで、子育て中の悩みなんて大体すっきりする。だけど、その場所がないっていうね。夜泣きでへろへろになってるお母さんに「大変だね、今だけだよ」って言ってあげるだけで、トンネルの中にいたのがちょっと出口が見えるみたいなね。
令子:私自身、同じことで大変な思いをしてきた人たちに「大丈夫だよ、もうちょっとだよ」とか「今つらいよね」って言ってもらえると、それだけで頑張れました。ほかにもお母さんたちから、病院とか幼稚園とか、この地域の情報を得たり…。
朝子:そうやって何も決まってなくて、自由にお話するっていうのがこあら村の魅力かなって思います。あるときは、お子さんが私たちと遊んでいる間、ずっと隅っこで本を読んでるお母さんもいました。だから、もう二度といらっしゃらないと思ったのですが、その後足繁く通ってくれました。
令子:利用の仕方は人それぞれ。でもそれでいいんですもんね。
Q:お話を聞いて、何も決めない「ノンプログラム」がこあら村の特徴の一つと分かりましたが、ほかにはどんな特徴がありますか。
朝子:スタッフがちょっとおせっかいなんです。以前法子さんと区の子育て支援に見学に行ったんですけど、公的機関ということと、コロナ禍でもあり、スタッフの関わりに限界があるようで、親子がぽつんぽつんとしている印象でした。一方で、こあら村は割とおせっかい。そして、おせっかいを受けても大丈夫なお母さんたちがいらっしゃいます。
邦子:こあら村では、心配事があれば聞いてあげられる関係をつくりたいと思っています。ここに来ているお母さんたち同士「力を合わせて子育てしたいな」って思っていても、ちょっと二の足を踏んじゃうことがあるんです。そんなときは私が「子どもの預け合いしてみない?」とかってちょっと言ってみてます。私たちが直接助けられなくても、お母さん同士の助け合いが生まれるから。こっちのおせっかいがあっちのおせっかいを生む、みたいな。
Q:活動をする上で、大切にしていることは何ですか。
邦子:押しつけないことです。子育てこうあるべき、お母さんこうあるべき、みたいな感じにならないように喋ろうと思ってます。同じことを表現するにしても、正しいことが人を追い詰めることってあるじゃないですか。お母さんたちはただでさえ追い詰められちゃってるから、追い詰めないようにって。
令子:ツイッター上で話題になった「母親ならポテトサラダぐらい作ったらどうだ」問題とか、離乳食は手作りしなきゃいけないとか、そういう偏った情報を得ることっていっぱいあるし、それを発信する人も今いっぱいいるでしょう。それを見てると「私って何にもやってない」とか「できない私はダメなんじゃないか」とか思ってしまう人もいる。
朝子:だからここでは、お昼をみんなで食べるときも「買ってきたら?」みたいに言います。
令子:もちろん、手作りのものを持ってきたい人は持ってくればいいし。無理してやることじゃないですよね。
邦子:そこが気楽で来てくれてるのかな、結局。そういう雰囲気だけはつくれたのかな。遊びに来るお母さんが「あ、子育てってこれでいいんだ」って思ってくれたらいいなと思います。
Q:もともと子どもと一緒に通っていた令子さんにとっては、こあら村はどんなところですか。
令子:今、マンションが建つと、そのマンションの子たちがみんな同じ小学校に行きますよね。つまり、年収も価値観も似た家庭の子どもたちが集まるんです。いろんな人と出会える場っていうのは必要ですね。小学校では、クラスが変わって仲のいい友達と離れると「この世の終わりだ」って言うんですよ。大人からしたら信じられないですけど、子どもにとってはクラスが一番で、そこでうまくいかないと学校が嫌いになってしまう。何かあったときに、学校以外の友達がいるというのは大切だと思います。ここに来れば、学校のことは関係ないし、楽しく遊べる。
邦子:実際、学校ではちょっと鼻つまみ者みたいな子も、こあら村だと活き活きしています。自分の通ってる学校では今、自分のポジションに苦しんでるかもしれないけど、ちょっとでも、ここにいる数時間だけでもそうやって過ごしてくれたらいいかなと。私たちもそんな思いです。
Q:最後に、若い人たちに向けてメッセージがあれば、お願いします。
朝子:私はぜひともこういうことに参加してほしいなと思います。一緒に、行動してほしいなって。若い方の力は、大きいんですよ。すごく。子どもたちも勇気づけられるし、憧れなんですよね。
邦子:私たちスタッフも嬉しくなっちゃう。手伝うっていうよりも、いてくれるだけでいいんです。そしてきっと大人になったときに、今の私たちが言ってることが、分かるんだと思います。私も学生時代にボランティア活動をいっぱいしたけど、その場で出会った大人に言われたことを、今、噛みしめることがすごく増えてきました。そうやって循環していくためにも、ちょっと勇気を出して、近づいてみてもらったら嬉しいかなって。亀の甲より年の功ってこともいっぱいあります。おばちゃんたちも案外、いろいろ知恵を持っているので、それにふれてほしいな。
(インタビュー:2021年11月)