Q:なぜ日本を出ることを決断されたんですか?
昔から海外(特に北米)のライフスタイルにすごく興味があって、洋画や洋楽からもかなり影響を受けて、憧れていたからです。家庭の事情で米国に数年滞在したこともあり、子育てを考えた時にちょっと日本では窮屈すぎるなあって思ったんですね。子供の個性を尊重しないような校則、いじめ・不登校の問題とか、子供がすごくいろんなプレッシャーの中で生きているなって感じますね。私も主人ものびのび育てたいっていう理想がありまして。いろんな国に興味があったんですけど、北米だったら英語圏なので、生活がしやすいかなと思って。
Q:カナダでの暮らしについて少し教えていただけますか?
カナダで仕事や子育てをしたいと考えて、とりあえず私は大学に行くことを決めました(卒業後に就労ビザを申請できるので)。最初は留学ビザを取って大学へ行きはじめたんですけど、カナダは移民の受け入れを積極的にやっている国なので、主人がBCPNP(ブリティッシュコロンビア州移民特別プログラム)に申請して一年ちょっとで永住権が取れてしまったんです。永住権があれば、どこでも自由に働けるうえに大学の学費も安くなり、子供の学費も高校卒業まで無料になります。カナダは移民国家でMulticulturalism (多文化主義) を実践しているため、英語圏では比較的暮らしやすい国だと思います。私が住んでいたバンクーバー郊外は、自然が豊かでアジア系のレストランやスーパーもあって便利でした。永住権が取得でき、ビザなどの心配がなくなりひとつハードルを乗り越えましたが、大学の方は続けて、仕事と子育てをしながら卒業しました。
大学の方では、主に国際関係・カナダの移民政策などの社会科学や教育について学びました。アサインメントの量が多く週7日追われていた感じです。勉強以外にもCO-OPプログラム*に応募して8ヵ月ぐらい仕事もしました。初めてのカナダでのお仕事で、それが本当に嬉しかったですね。このプログラムは大学に在籍しながら就労するっていう形で、大学に企業から求人が来るんですね。もちろん、プログラム(要GPA)や求人への応募は競争になりますが、無給のボランティアやインターンとは違い、学生にとってはいい条件で雇用してもらえるんです。
日本だったら、大学を卒業して、学歴で判断されることが多いけど、カナダでは実践的なスキルっていうのがすごく重視されるんですね。なので、どんなにいい大学を出ても実務経験がなければ雇ってもらえないんですよ。北米の大学では、学生が卒業後困らないように、そういったプログラムを用意して学生をしながら就労できるっていうシステムに力を入れているような感じです。CO-OPがうまくいけば、学生は卒業後の雇用が約束されるし、雇う側は優秀な人材を早めに確保することができます。北米では、優秀な人材は大学生のうちから争奪戦です。
*CO-OPプログラムとはカナダの大学等で行われているプログラムの一環で、コースの中に研修(日本でいう有給インターン)が組み込まれているプログラムのこと。
Q:カナダで長く生活していて、楽しい経験をされたと思うんですけど、日本に戻ってこられた理由はあったんですか?
仕事がしたい、子育てがしたいって、その先全然考えてなかったんですけど、一生いるつもりはなかったんです。日本にいつ戻るかは考えていなかったんですけど、コロナがあったり、やはり家族の近くにいたいなあっていう思いはあったので。娘が大学を卒業して安定した仕事につけたのを区切りに帰国を決めました。私は引越しを何度も経験していますが、この海外引越しは半年以上かかり今までの人生で一番大変でしたね。
Q:海外で暮らして感じたギャップはありますか?
職場文化の違い
私がすごく文化の違いを感じたのは、実は大学ではなくて、仕事を始めてからの方が多かったですね。私は日本でも少し働いた経験があったので、いわゆる職場の文化というのがあまりにも違うなあと思いました。カナダ人は家庭を大事にするので、ワークライフのバランスがとても良かったです。働きすぎ・まじめすぎはあまり評価されません。
特に、上に立つ人はユーモアがあり、対人関係スキルに秀でた人が多かったと思います。仕事の面では厳しかったですが、あまり上下関係は意識せずにジョークを言いながらみんな普通に話していました。一番良かったなと思うのが、いい仕事をしたらすごく褒めてくれるんですよ。時々デスクの上にThank youカードやミニギフト(花とかお菓子)が置いてあったりして。そういう時は嬉しくてもっと頑張ろうと思いますね。このあたりはモチベーションの上げ方がすごく上手だなって思いました。
日本の驚異的な治安の良さ
去年日本に帰ってきて、家の前に高い電動自転車が普通に置いてあるのを見て、日本って本当に治安がいいんだなって改めて思いました。北米は、薬物中毒・ホームレスが社会問題で、窃盗・車上荒らしなどが頻繁に起きていますが、日本では常に周りを警戒する必要がなく安心です。北米だったら、外に何も置けないけど、日本は自動販売機がどこにでもあります。
どこかに忘れ物をしても高い確率で戻ってくるって優しい国ですよ。一度旅行中にJRの駅に買ったばかりのダウンジャケットを忘れてしまったのですが、誰かが駅員さんに届けてくださって、駅に問い合わせをした時にお願いをしたら、滞在先のホテルまで宅配便で送ってくださったんです。あの時は感動しましたね。
もちろんカナダにも困っている人を見かけたら助けてくれる親切な人が多いけど、最近は、社会全体が悪くなった感じがします。不動産の高騰、異常なインフレ、ヘイトクライム、オーバードーズ(薬物過剰摂取)の問題など。スーパーでの万引きも増えています。カナダは第二の母国なので、昔みたいに暮らしやすい国に戻ってほしいですね。
Q:相談室のお仕事を引き受けた具体的なきっかけは何ですか?
今、大阪では万博を控えていて、留学生も含め世界中から多くの方が来られます。大阪が国際都市として変わっていくのを肌で感じているんですけど、国際化にはまだほど遠いと思っていて、大阪の国際化に少しでも貢献したいなあっていう思いでした。この仕事を選んだのも自分の希望にちょっと近いかなと思って、むしろ故郷・大阪に貢献するっていうのをやっていきたいなと思います。
Q:この仕事のやりがいを一番感じられる時って、例えばどんな時ですか?
海外留学という夢を叶えた(日本人)学生さんから、留学先で様々なことを学び充実した生活を送っているとの報告を受けた時は嬉しいですね。学生の成長は私のモチベーションになっています。日本ではできない体験から多くのことを学んで視野を広げてもらいたいです。また、留学生の方が無事に大学を卒業して卒業証書を見せに来てくれる時も嬉しいですね。私も経験しましたが、母国語ではない言語で大学を卒業するのって本当に大変なんです。文化も風習も言葉も違う環境で、留学生の皆さんは相当な努力をされていると思います。
Q:外国人が最も悩んでいることは何ですか?
コミュニケーションかなって思いますね。大阪の国際化の問題になってくるんですけど、外国人にもわかるように、中国語とか韓国語とか英語で看板とか案内などがありますよね。でも、実際、何か不具合や不測の事態の時に英語の対応ができる人は少ないなって思うんですよね。よく留学生から大変だと聞くのは、郵便局で手続きをする時ですね。本当にチューターがいないとコミュニケーションは大変だなと思うんですよ。日本のシステムは複雑な上に、外国の方に対しては少し説明不足というか、もう少しコミュニケーションの面で改善しなければと思います。これは国際都市大阪の一つの課題だと思います。
Q:これから海外に留学しに行く日本人学生が知っておくべきことって、例えばどんなことがありますか?
知っておくべきことは、日本を出ると、当たり前だと思っていた文化的な価値観っていうものが崩されるっていうか、カルチャーショックを体験することがあると思うんですね。異文化の中で価値観のズレはどうしても発生してしまうけど、自分の中の文化的価値観っていうのは大事にしつつ異文化を理解する、相手を受け入れるっていうことを大事にしてもらえたらいいなと思いますね。
海外に出たらわかると思いますが、日本は本当に治安の良い国で人が優しい。例えばアメリカだと英語で話すのは当たり前で、英語を話せない人たちに対する配慮はあまりない。TOEFLなどのリスニングテストみたいに外国人が理解できるようにゆっくり話してくれる人なんてめったにいませんし。わからない時はハッキリわからないと言って、その場しのぎでイエスというのはやめた方がいいです。
それから、「危機管理」の話になりますが、自分の身は自分で守る、自分の持ち物は必ず肌身離さず持つということを徹底してもらいたいです。大阪大学では、交換留学などで海外へ出発する学生向けに危機管理オリエンテーションを実施していますので、留学予定の学生は必ず受けるようにしてください。
Q:最後にこれからインバウンドで日本に留学しに来る人達へ一言、お願いします。
ぜひ日本に来てください!大阪に来てください!大阪大学には、様々な国際交流科目や国際交流プログラムがあります。日本は食べ物もおいしいですし、最新テクノロジーから伝統文化、サブカルチャーも楽しめます。それから、四季がはっきりしているので、夏は暑くてちょっとつらいですが、冬は雪の降る所に行けば、雪景色はすごく綺麗ですし、北海道から沖縄まで各地の風習とか文化も楽しむことができます。本当に美しい国なので、ぜひ楽しんでほしいと思います。
(インタビュー:2023年11月)