やはり、味はムシできない

武蔵野美術大学

やはり、味はムシできない

PEOPLEこの人に取材しました!

角田健一さん

Bistro RIKYU オーナー

角田さんは21歳から2年間飲食関連の専門学校通い、一度は飲食業も離れるも、神奈川県茅ケ崎市のレストランで10年以上シェフを務める。とあるイベントで昆虫食に触れたことを機に、2022年2月に地元である藤沢市に、昆虫食も扱うカフェ&ビストロ「Bistro RIKYU」をオープンする。そんな角田さんは、敬遠されがちな虫料理が市民権を得るべく、今日も新たな虫料理を生み出し続ける。

虫と僕らの現在地点

僕は「共生」というテーマで考えると、昆虫と人間はどんどん共生しない方向に向かっているなというのを感じます。今の時代、家に住んでいて虫が入ってくると自動的に拒否しようとしてしまう。ゴキブリが家に入ってきたら殺すか逃がす。蚊が入ってきたら潰す。それが、当たり前の感覚になっていますよね。でも、その感覚が代々受け継がれたら、子どもたちは蚊を潰すし、ゴキブリも殺してしまって虫を拒否してしまうのではないかと感じています。人間の文化は虫によって生かされている面もあって、虫がいなければ人類の今までの生活はできなくなる。人間が嫌っているゴキブリやダンゴムシでさえ、彼らの分解が環境の循環に必要なので、今の虫を拒否しないような世の中になっていくのが僕の望むところですね。

昆虫食はイメージが悪い!

昆虫食を扱っていて、駅前のおしゃれなマルシェで販売して感じたのですが、本当に昆虫への反応が悪いということです。ジビエのハンバーガーと昆虫のクッキーを一緒に売っていた時に、ハンバーガーを買おうと思って並んでいた人が、隣の昆虫クッキーを見て、「やっぱり買うの辞めます」みたいな状況を実際に目の前で経験しました。やはり世間の昆虫食へのマイナスのイメージは強いです。始めた頃はとにかく皆さんに食べてほしいという思いでしたが、最近は食べてほしいというよりも、昆虫食に興味がある人に知ってもらえるように心がけています。今まで昆虫に触れていなかった人が、昆虫を食べるのはなかなか難しく、昆虫が嫌な人はどうしても昆虫が嫌なので意識を変えることは難しいです。

姿のままの料理しかない

僕が昆虫食の店を開く前、2021年頃に東京駅で色々な昆虫食の店が出るイベントがありました。そこに興味があって行ってみようと思い、その会で蜂の子を食べた後、イベントの関係者の方々と参加希望者10数人で二次会をしました。その場で虫料理が振舞われたんですが、食べてみた僕の感想は「美味しくないわけじゃないけど、素揚げや焼いただけのものしかない」というものでした。味は悪くないけど、一般の人が一口食べるかと考えると嫌だろうなという見た目だったし、虫という食材は、もっと提供の仕方や調理の仕方で美味しくできるはずなのに、なぜ素揚げや焼いただけの状態で食べるのだろうかという疑問を抱きました。

料理人の昆虫食

なんとなく調理しようとすると、揚げるだけとか焼くだけとかになってしまう。例えば、僕だったら、蜂の子はフォアグラや白子に近いなっていう感想がパッと出て来て、白子のムース作ったことがあるから蜂の子でもムースを作ってみようとか思う。そういう発想が出てくるのは今までの料理人をやってきた経験があるからだと思いますね。あとは、カメムシ。これはパクチーに香りが似ていると思ったら、グリーンカレーに入れてみるとか、刻んでハーブやソースの代わりに入れています。

炙り帆立と蜂の子、カリフラワーのピューレ、フレッシュトマトのソース

料理人だからできたこと

この前デュビア(食用ゴキブリ)を、たまたま養殖している人に頂いたんですよ。一応食べてみたら意外とおいしかったです。そこでデュビアの使い方をいろいろ研究してみました。今はスモークする時につける液につけてからオーブンでローストしたものを使っています。そうするとすごくチーズ臭が強くなって、デュビア特有の臭みが気にならなくなります。魚介の臭みを抜くためにハーブと一緒に塩漬けして、それをローストする工夫は、もともと料理人の知識として持っていたので、デュビアも同じように加工をしたらより美味しく食べられると考えました。

まったく分からない食材で、新しい調理法をすることはあまりないですけど、今までやったことのないことをやってみようかなっていうチャレンジはたまにありますね。例えば、昆虫をデザートに使用したこともあります。「セミフレッド」っていうアイスケーキがあるんですけど、「蝉のセミフレッド」っていうダジャレが言いたいがために作りました。基本的には最初は、今までの経験の中にあるものや、やってきた何かに置き換えて、味が分かったら、新しい料理に変えていくという形ですね。

ローストした白デュビアとバンブーワームとシーザーサラダ

昆虫料理は発明

まずは昆虫を入れずに頭の中で既存の料理を作ってから、そこにどうやって昆虫を入れていくかという作り方をしています。だから料理として普通に成立するものを作っています。昆虫を扱っていて、逆に普通の料理の方に持っていくものもあるので、昆虫料理として作ったけど、逆に昆虫じゃない違うハーブで作ってみようかということもありました。

昆虫食の面白さというのは、他の食材よりも今までに食材として利用されている例がほとんどないところです。豚肉を使って初めて何かを作ったとしても、近いものとか、ほぼ同じ料理が既に作られています。でも、昆虫で料理をしようと思って検索してもレシピが出ることはない。「この料理、多分世界で初めてだな」ってキッチンの隅っこで思っています。新しい料理が毎日見つけられるんですよ!これも昆虫食の魅力かもしれないですね。

           

やっぱり味が大事

昆虫食のお店を経営していて、料理がおいしくなかったら二度目はないということを考えていています。昆虫の見た目のインパクトと面白さで、一回目は食べてもらえます。見た目が気持ち悪いと言いながら食べるのは、エンターテイメントとして面白いから成り立っています。でも、もし味が悪かったら、もう一度自分のお金使って食べに行くかと言われたら行かないです。昆虫食を食べてもらうキッカケは美味しさじゃないですが、また食べてもらうには絶対に美味しさが必要だなと思います。僕が望むのは今の虫を拒否しないような世の中になっていくことなので、美味しい昆虫食を通じて世間に何かしらのメッセージを訴えかけていけたらなと思います。

(インタビュー:2024年6月)