青い世界との最初の触れ合い
今の仕事は子供のときの夢だった。けれど、子供のときはイルかではなく、魚のほうだった。小学校の3年生のとき両親から水槽をもらって、魚に興味を持つようになっていった。高校の後、専門学校へ進んだ。この学校では犬や猫に限らず、様々な動物について勉強することができた。その中で、私は、イルカがただの動物ではなく、もっと人間と親しい存在であることを学んだ。そして、夏休みのときは水族館でショーのアシスタントとして採用していただいた。動物にえさをやったり、トレーニングのお手伝いしたりイルカと接することによって、イルカに関する仕事をしたいということが分かった。
青世界に入ってみて…
水族館で働き始めた頃の気持ちは今の気持ちとは少し違う。
その時海洋生物と接した経験のない私はアザラシやイルカを見るたびに「どういう生き物なんだろう」と考えてばかりいたのだ。でも、時間がたつにしたがって、一歩一歩「あ、そういうところもあるんだな」と分かってきた。
この仕事は夢のある仕事と同時に責任の重い仕事。かわいいとかわいがるばかりではなく、生き物の命を預かる仕事だ。
イルカは人間の言葉を分かっている!?
イルカは人間の言葉を理解していると思われがちだが、実はイルカには人間の言葉は届いていない。何故かと言うと、イルカは非常に高い音と非常に低い音しか聞き取れないからだ。水族館のイルカはみんな愛称があるけれど、たとえ愛称で呼んでも、反応しない。だから、ショーやトレーニングのとき飼育者たちはジェスチャやサインを使う。飼育者たちは自分の体を使って、イルカに何をしてほしいかを説明する。新江ノ島水族館のイルカは約40種類のサインが分かる。サインを覚えるのにどれぐらいかかるのかはサインや種類によって違う。新しいサインを覚えるためには5分しかかからない場合もあれば、一年ぐらいかかる場合もある。
長い間イルカたちと仕事をしてきて、イルカと心が通ったことが何回もある。たとえば、トレーニングのとき、ジャンプだったり、挨拶だったりやってもらいたいなと思って、やってくれたら心の距離が縮まったのを感じる。そして、採血するとき、イルカたちは我慢して、協力をしてくれたりすると、とてもありがたいと感じる。
子供のように
新人のときは「どういう風に伝えれば、理解してもらえるのか」というのが一番難しかった。サインを行動につなげるという作業はスムーズにうまくいくときもあれば、全然進まないときもあるから。
一番苦労するのはイルカにとって痛いことを見るとき。
たとえば、腸の温度を測るときは30センチぐらいのひも状センサーを入れる。そのときは、イルカたちは耳鼻科へ行く子供のように嫌がるけれど、おなかをキューと上にしてくれて、我慢している。
シリアス+パル=パーシー
2017年8月に私たちの水族館でパーシーという子イルカが生まれた。パーシーの母イルカは、シリアスというイルカなんだけど、出産しようとしていたときは私には非常に大事な用事が入ってしまって、「ちょっと待ってね、もうすぐ帰るから」と言って、その場を離れた。時間がどれぐらいたったのかはもう覚えていないけれど、結構経った。帰ったときシリアスは出産せずにまるで私を待っていたかのようだった。「お待たせ、もういいよ」と口に出した瞬間、シリアスは出産してくれた。そのときは「もしかして、わたしのことばがわかったりとか…」と思った。
「パーシー」の名前はお客様に考えていただいた。シリアスとパル(父イルカ)をあわせて、パーシー。
育メン
水族館では子イルカが生まれたら、父イルカとあわせないようにするのが普通である。それは何故かというと、子イルカが生まれたら、父イルカは嫉妬しちゃって、子イルカを追いかけたり、殺してしまったりするからだ。けれど、パルはイルカにしては不思議な行動を取っている。追いかけたりしないだけではなく、ちゃんとパーシーの面倒を見てくれる。パルはまるで育メンだ。
まるで人間みたいじゃない?
イルカには人間と同じように様々な感情がある。怒っているときとかは頭から爆発するような音を出したり、仲間とけんかをしたりするのだが、うれしいときはもう一回ジャンプをしたり、水をバシャーっとかけたりして、よく自分の感情を表してくれる。
人間の場合は顔の表情で気持ちが分かる場合が多いけれど、イルカの場合は顔の表情がそんな分かりやすくない。けど、目の表情でよくわかる。うれしさだったり、寂しさだったり、目にはよく出る。
(インタビュー:2017年11月)
2019-5-24