声優としての歩み
Q:声優になろうとしたきっかけはなんですか?
実は、私が声優になろうとした頃が声優という仕事がバックグラウンドから注目され始めた頃で、声優の雑誌に載せたり、コンサートをやってステージで歌を歌ったりするのがメディアに出始めたんです。今は当たり前になりましたけど、「そういえばこのような仕事もこの世にはあるんだね、ちょっとやってみようかな」というのがきっかけで、本当に軽い気持ちでした。歌やコンサート等をしたいとは思いませんでしたが、単純にふわっと「声優」というものに興味を持った感じですね。
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舞台に立っている浅川さん(左)
Q:特に印象に残っている作品やキャラクターはありますか?
どの作品もキャラクターもとても大事ですが、ここ15年ぐらいで自分を助けてくれたという意味ではやはりFateのライダーとボーカロイドのルカというキャラクターにすごく助けられたなという感覚があって思い入れが強いですね。
2010年頃に初めて海外のアニメイベント、アニメEXPOロサンジェルスにゲスト出演しました。当時アニメ等は今みたいにストリーミングでいつでも見られるわけではなく、DVDが向こうで日本より遅れて出ていたので海外のファンの方との間にアニメ情報のタイムラグがあり、何の話をすればいいか、私が出演したどの作品をどこまで知っているのかが分からなかったんです。そんな状況でしたが、ルカとライダーは海外で知名度が高く、話をした時にみんなすごく喜んでくれました。
その中でもライダーの出るFate/stay nightは映画にもなったり、ゲームにもなったりしたので、そのおかげで海外の人とかが「ライダーをやってます」と言うと、みんな最初は「誰この人」という顔をしてた人も、「わー」と言ってくれました。ライダーが代表作として知れてくれたので、なんか、起死回生できたというか、すごく思い入れが強いです。
あと、ルカはクリプトン社のキャラクターボーカルシリーズでは特に初めてボーカロイドで英語を話すキャラクターだったので、海外の人が待ってましたというのもあったし、私も英語の勉強をしていたので、「英語が少しできるよ」というのを海外というか、インターネットも通じて色んな人に私のスキルの一つが英語だということも伝えられたので、ルカには、私のプロモーションをしてもらったし、感謝する心もあって思い入れが強いですね。
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海外イベントに出演している浅川さん(左)
Q:先ほど英語の話をされたのですが、英語の勉強を始めたのもルカの役を担当したことがきっかけですか?
いいえ、逆で、英語は中学生の時の塾の英語の先生がとても良い先生だった事で得意教科となり、高校生の時に「英語喋ったらかっこいいな」と思って、普通に英会話学校に通って、ほんのちょっとだけ得意にはなったんですけど、海外に行ったこともないし、そこで終わっちゃったんですね。「ちょっとだけ得意だよ」ぐらいのまま23歳ぐらいに声優としてデビューして、他に特技がないからそれを特技として書いていました。30何歳かぐらいから声優業界が大分スタイルが変化して、声優としての芝居の技術以外に他にも何か強い特技がないと生き残りづらくなってきちゃったんですよね。でもそこで一からギターとかダンスとかを始めても仕事上の即戦力にはできないから、英語をブラッシュアップするしかないと思いました。結果として、ボーカロイド・ルカを担当する事ができ、海外イベントへの出演に向けて英語でXを始めるきっかけとなりました。
Q:声優として今まで大変だったこと、ターニングポイントは?
「お芝居のことだけを考えなさい」、極端に言うと「余計なこと考えるな」と「きちんと芝居できる声優になれ、お芝居のことだけ」と言われてきたのに、18年くらい前から業界が変わってきて、ショービジネスっぽくなってきたのです。そうすると、今度、お芝居ができるだけじゃ、仕事を取るのが難しくなってきたように感じました。芝居しかやってきていなかったので、ポンと放り出されてしまった感覚になりました。さらにオーディションに年齢制限がつく事も多くなったのか、「今まで通りでは生き残るのが厳しくなってきたな」と感じ始めるようになりました。幸いにも当時のマネージャーさん達ががんばってくれたおかげでなんとか仕事は続けられましたが、確実に「業界のスタイルが変わってきたな」と、自分にとって初めての焦りを感じました。しかし時代の変化って大事だし、特にショービジネスの世界はどんどん様変わりしていくのは当然の事ですから、柔軟に自分の気持ちとスタイルを変え、「何か声優としてのプラスアルファを見つけよう」と考えました。そこが、私としても、多分業界としても、結構ターニングポイントだったのではないかなと個人的には思います。
大学生としての「浅川悠」:偶然に訪れたチャンス
Q:大学に行こうと思うようになったきっかけは何でしょう?そして、実際に大学生になってみて思ったことと違うところはありますか?
アニメEXPOで、私の通訳をしてくれたアメリカ人で日本の大学で教授をやっている方と知り合い、友人になりました。その後、国際学部には日本のアニメ業界にすごい興味ある学生が多いから、その方々に体感のシェアをしてあげてくれてと言われたので、一度ゲスト講師として授業をさせてもらったんです。授業が終わってその友人と話していたら「大学行かないの?」と言われて「え?私でも大学なんて入れるの?」と思いました。それまでの私の人生に大学に行くきっかけが全然なかったので、考えたこともなかったし、その頃もう40も過ぎていたので、「大学生いいな、楽しそう。どうやって通うの?」って言ってたら、「え?いけるよ?いかないの?」「なんか勉強したいことある?」と色々話したことがありました。
それと別の時に、今は経済学者をやっている友達から、本当に(上記と)同じようなタイミングで、「悠ちゃん、大学行けば?」と言われたんですよ。私から言ったわけじゃないのに、「いけると思うよ。行きなよ」って凄くレコメンドされて、「ちょ…行っちゃおうかな?」その気になりました。だから友達のおかげですね。友達から言われてなければ、大学なんて考えたこともなかったし、仮に行きたいと思っても、どうやって行けばいいのかも分からなかった。行こうと思っても何をやるかも分からなかったし、だからお金がいくらかかるのかも分からないし、どこの大学に行けばいいのかも分からなかったです。でもなんか人生で初めてなんですよ。夢の話じゃなくて「大学行ってみなよう」、「悠ちゃんならいけるよ」って具体的に言ってくれたのもその二人なので…。友達がチャンスをくれたことと、ちょうど色々勉強したいと思った時期でもあったので「私勉強したいことあるんだよね」っていうところで決めました。
大学生の生活に関しては、最初に思ったのは、「久しぶりの学割を作らないと!」です。なぜかと言うと、私、高校が凄く偏差値の低い高校に通っていて、私の周りに大学に行ったことがある人がいなかったんですよ。なので、大学ってどういうものなのか分からないし、中・高校生みたいに時間割表もらって授業を受けていくのかと思っていたんですよね。ですが大学は自分で受ける授業を決めて時間割を組まないといけないし、何もかもが知らない事ばかりで本当に困りました。
そしてやはり年齢がね…。現役の子と全然違うので、思っていたのと違うと体感したこととしては、「覚えたことが入ってこない」、「忘れちゃう」っていうのもあったし、皆現役で大学入ってることもあって、当たり前の勉強を知っているけれど、私は学生時代に全然勉強をしていなかったので基礎的な事が全くわからないんですよ。日本の歴史とか、数学の基礎とか。あと、よく世の中の人がその「いくつになっても勉強はできる」って言うんだけど、「そんな簡単にできない!相当に厳しい!」と思ってます。ついていけないし、スピードも倍かかりますね。
でも年齢を重ねている分、色んな広い視野から物を考えられるかもしれないなっていう、メリットは感じていますね。色んな人との出会いや長い人生や仕事の経験などを有利に使って、何かユニークなことできるといいなって思っていますけど、それでもやっぱり大学での勉強はとても難しいですね(笑)。
現実に根差した助言:今から声優を目指すあなたたちへ
Q:今から声優を目指す人たちへのアドバイスをお願いしてもよろしいでしょうか。
あえて世の中で良く言われている事と少し別の視点で言わせてもらうと、声優って個人事業なんですよね。事務所に所属していても、社員ではなく個人事業主となります。(※所属事務所の形態によってはそうでない場合もあります。)ですので、基本は自分で確定申告しないといけないし、事務所無所属のフリーランスとして仕事をしていても同様です。なので、厚生年金や退職金もないし、労災もないです。今は私の時よりももっと若いうちに声優になる子が多いと思うんですね。だから、まだ健康だし、万が一の時の事を気にする子は少ないかも知れません。でも、極端な話、仕事中ケガしても誰もお金を払ってくれない。もちろんスタジオの責任だったらスタジオが払ってくれるかもしれないですけど、公的なものではないです。プラス、今はどんどんそのビジネスのスタイルが変わってきて、長くできる仕事って考えるのも難しくなってくる。年を取れば取るほど健康面も仕事の面でも不利なことが増える可能性があります。ですから、税金とか個人年金、退職後のための共済組合などを勉強した方がいいです。私はそういった事に非常に疎くて何もしていなかったのですが、幸いにも友人が「保険とかどうしてる」って言ってくれたおかげで、将来の備えは全て自分でしなくてはいけない事を知るでき、慌てて色々な保険等に加入しました。もし何も備えていなかったら傷病時や退職後など、業界からは何ももらえない業種ですので非常に危険です。
声優の体験学校にゲスト講師として行くと、学生さんは親御さんと一緒に来る場合もあります。その時、親御さん達にも言います。「個人年金とか、厚生年金とか、退職金とか、そういった事は声優事務所で教えてもらえない可能性があるので親御さんも一緒に考えてあげてください」と。基本的には個人事業主ですから、そういうことも勉強しておかないといけないという事も知っておいて欲しいです。
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ライブステージに立つ浅川さん(右)
(インタビュー:2024年12月)