保育士への道の始まり
Q:保育士になったきっかけはなんでしょうか。
うちの母親が保育士で、家に母が保育園で使っていた壁飾りとかがいっぱいありました。父親は車の販売をしていて、自分が小さい頃も、ほとんど家にいないし、朝が早いし、帰りは遅かったので、お休みの日などは保育園に遊びに行かせてもらっていたようです。それで、小さいうちから子どもと接したり、関わったりするのが楽しいなと感じていて、気が付いたら、母親の背中をおいかけたような感じで保育士になっていました。
Q:一日の仕事内容を簡単に聞かせてください。
まずは8時半に出勤して、子どもを受け入れる準備をします。そして、子どもがお父さんやお母さんと来たあとは、遊んだり、折り紙やお絵描きなどの製作遊びをしたりします。これで午前中は終わります。
お昼ごはんは子供と一緒に給食を食べます。そしてお昼寝したあと、3時からおやつ、4時になると、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんが子どもたちをお迎えにきます。
Q:子どもがお昼寝しているとき何をしていますか。
今日あったできごとを「日誌」という、報告書のような書類に書いたり、あとは保護者がいろいろ困りごとなどを書いてきたりするので、それに返事を書きます。あとは年間行事に関する製作の準備ですね。今は七夕が近いので、七夕の製作を準備しています。
仕事の幸せと悩み
Q:仕事で一番大変だったことは何でしょうか。
自分にとって大変なのは、言葉を小さい子向けにくだいて話すことです。大人同士だと通じても、子どもだともう少しやわらかく伝えたり、細かく伝えたりしなければなりません。その説明の仕方がたぶんあまり得意ではないので、子どもに通じる話し方というのが今一番苦労しているところだと思います。
Q:幸せだと思われるときはありますか。
一緒に遊んでいで、もう一回やろうとか言ってくれるのはすごく楽しいですね。ニコニコしてくれるのも、すごくうれしいです。子どもと一緒にいると、自分も一緒に成長できるのはいいところだと思います。
Q:先生は男性保育教諭さんとして保護者とのやりとりで難しいところはありますか
「ママ」ならではの悩みっていうのはちょっと難しいところはあります。どちらかというと、今の育児の主体が「ママ」が中心なので、深い悩みになってくると入りにくいところはありますね。でも、自分にも結構相談してくれるので、自分なりに答えるようにして、お母さんたちが何でも相談しやすくなるようにしていますね。
Q:先生もお子さんがいらっしゃるとのことですが、ご家庭でもこども園でも、子どもと接するときにどのような方針を持っていますか。
仕事でこども園にいるときは自分の中では「お兄さん」でしょうか。一緒に遊んでくれる「お兄さん」、家だと「パパ」ですよね。でも、時には家でも「お兄さん」の面もあり、仕事でも「パパ」の面もありますが、やはり仕事場だったら、一緒に遊んでくれる、「お兄さん」のほうが子どもにとって無邪気に遊ベる存在のような気がします。難しいですね、そこは。けじめじゃないけど、「お兄さん」すぎでも、子どもにとってよくないところがあり、時にはだめだとはっきり伝えなきゃいけないこともあるし。でも、子どもと一緒になって遊びたい気持ちとどちらも自分の中にあります。「先生」でいなきゃいけないところと子どもととことん一緒に遊んであげる「お兄さん」でいたいところもあって、難しいところがあります。
Q:転職したい、または今のお仕事を辞めたいと思われる時はありますか。
辞めたい?自分の中ではないですね。そうですね。でも、40歳、50歳になっても、保育教諭をしているイメージは自分の中にはないですね。もうちょっと年を取った時に、子どもたちにとって今のように「お兄さん」でいられる自信がまだない。そこはまだイメージがわかないです。ただ、今これを諦めたいという気持ちは特にないです。
育児はお母さんだけのものではない
Q:最近よく耳にする言葉に、「イクメン」と「イクボス」*というのがありますが、ご存知ですか。
「イクボス」という言葉は初めて聞きますね。こういう言葉がでてきて、少しでも男性の育児参加が増えていけば、子ども自身はもっと楽しいんじゃないですかね。お母さんと子ども、1対1の関係よりは、お母さんとお父さんと子ども、2対1のほうが楽しさが増えていくと思います。家族でお父さんの愛も大切だと思います。お母さんとはまた違う刺激があって、お父さんなりの楽しさがあり、逆にお父さんなりの厳しいところもあったりすると思うんで、一人の子供にいろんな目線があれば、子供が楽しかったり、いろんなことを覚えていくと思います。
*「イクボス」:職場で、育児している男性を支援する上司のこと。
Q:先生は育児の中でお父さんの役割についてどう思われますか。
役割と言われると難しいところがあります。例えば、おむつ替えはお母さんの仕事ってわけではなく、お父さんがやってもいいものだと思うんです。お父さんがそんなふうに育児に参加することによって、お母さんに時間ができて、その間お買い物に行けたり、お出かけできたりします。もし、そのような育児の仕事が全部お母さんがするものだというふうになってしまうと、お母さんはずっと子どもと付きっきりで大変なので、もう少し自由時間ができるようにしてあげるのはいいことですよね。
卒園してもまた会える
Q:毎年卒園式に参加されていると思いますが、どのような気持ちになりますか?
送り出すのですごく寂しい気持ちもあります。また、卒園するときにはこども園の中では上だった子たちが、小学生になると、一番下になるわけですから、大変ですが、頑張ってほしい気持ちになります。
Q:子どもたちが卒園しても、また会えるチャンスがありますか。
そうですね、ここではあります。このこども園は学童*がつながっていたり、一年生との交流会というイベント会があって卒園した子が遊びに来てくれたり、逆にこども園から学童のほうに遊びに行けたりするイベントがあるので、小学校生活も頑張っている姿が見られたりします。これはけっこう独特なものですね。新町はとても小さい町で、町全体がいろいろな形で人と人との繋がりがある所なので、そのイベントを通して町全体で子どもを見ましょうというような考えが強いです。
*「学童」:小学校の空き教室や公民館などを利用し、共働きやひとり親の家庭などの児童を放課後一定時間預かる仕組みで、学童保育のこと。新町かぜいろこども園には、この学童保育の施設も併設されている。
子どもの想像力が刺激になる
Q:毎日お子さんと一緒に遊んでいて、自分も若くなれる気がすることがありますか。
ああ、あると思います。大人になると、物事を一つとしてしか捉えられないものですよね。たとえば、葉っぱ1枚にしても、大人だったら、葉っぱでおしまいですよね。でも、子どもにとっては、その葉っぱ1枚がいろいろなものに変わります。お店屋さんごっこのお金に変わったり、葉っぱ2つを持ってきて、蝶々だよとかっていったりする想像力が子どもにはいっぱいあります。そのようなとき、ああ、子どもたちがこうやってものを見ているんだって知り、すごく刺激をもらえて若くなれる感じがします。
本当に何も考えず、わぁーっと走ったり、這って遊んだりできる子どもと一緒にいられるっていうのは自分にとって楽しいことです。やっぱり大人だと「裏」をいろいろ考えてしまうものです。これをしたら洋服が汚れちゃうから、ちょっとにしようとか、ここまでしたら帰りの車の運転は大変だよなぁって考えたりしてしまうことが子どもにはないから、とことん遊んで、ぼーっとしたりするのは、子どもと一緒にいて楽しいところです。
Q:さきほどおっしゃたように、子どもと一緒に成長しているということですね。その中で子どもから一番学んだことは何でしょうか。
はい、いろんなことを学んでいると思います。考え方が全く違ったり、大人は頭が固くなっているから、子どものほうが単純な分いろいろな発想があったり、想像力があったりするので、とても楽しいですね。
Q:最後に、男性保育教諭になりたいけれど、まだ迷っている若者たちにアドバイスするとしたら、どのようなアドバイスがありますか。
アドバイスなんて、できる立場ではないですが、なんでもチャレンジするのは楽しいと思います。いろんな悩みがあったり、いろいろ大変なことがあったりするとは思うんですが、したいと思っているなら、しないで後悔するより、とりあえずやってみてほしいです。そうしたら楽しいこともいっぱい出てくると思います。
(インタビュー:2018年6月)