初めての海外で受けた衝撃
Q:なぜ日本語教師をめざしたのですか?
中学生の時にオーストラリアに二週間ほど、派遣する子どもを学校側が探していました。そこで、私は「やりたい!」と思って応募しました。私だけ海外に行ったことがなかったので、私を選んでいただけてオーストラリアのニューカッスル市に行きました。その時に日本語教師に出会い、高校の中で、日本語が勉強されている、勉強している子どもたちがいるってことを見て、日本語教師という職業があることも知りました。「ええ、小さな島国の日本の言葉を勉強してるの?!なんで?!」って最初はそんな出会い方だったんですよね。日本語を教える人がいるんだとか学ぼうとしてくれる人がいるんだってことを初めて知ったんです。最初は英語が嫌いだったんですけど、これをきっかけに好きになって、英語を話せることと日本人であることを活かせたらいいなって考えるようになりました。それで日本語教師になってみたい、英語力を活かせるかもしれないという理由で日本語教師をめざし始めたんです。
無駄になる経験ってひとつもない
Q:日本語教師になるまでの経緯を教えてください。
日本語の勉強ってすごく広くて深いっていうことを大学に入って知ったんですね。ああ、難しい。私の頭では知りたいと思うのに、理解が全然追いつかない…って思ったんです。大学生になって初めて私は挫折を経験しました。なにか学んでも、学んでも、足りない。自分で合格点が出せる理解度に全然到達できていないって思って。それが尾を引いていて、就職活動時期に差し掛かっているころにすごく悩みました。このまま日本語教師になれるのかなと考えるようになり、こんなに苦しいなら一回離れてみようと思いました。でも教えるっていう仕事からは離れたくないと思っていたので、教えることができそうなお仕事を一生懸命探しました。
そして大学卒業後はインストラクターという、薬剤師の先生や事務の方にコンピューターの操作方法を教える仕事をしていました。それからコールセンターで色んな全国各地のお問い合わせに答える、教えることをしていました。それで初めて医療の世界を知り、難しいことがたくさんあることがわかりとても大変でした。その後、25歳の時に結婚して、夫と一緒に東京へ引っ越して、自宅の近くで見つけた小さな会社で営業事務と社長秘書の仕事をしました。それから2011年に、日本語教育能力検定試験を受けて合格したんです。そのあとすぐに日本語学校を探し始めたのですが、そうこうするうちに子どもを授かりました。しばらく子育てに専念していましたが、2016年頃に社会と繋がっていきたいと思うようになり、2017年の7月からフリーランスの日本語教師として活動を始めました。そして、2019年5月に一般社団法人やさしいコミュニケーションを設立していまに至ります。
Q:日本語教師以外のお仕事の経験は今の仕事に活かされていますか。
もちろんそうですね。これまでの経験がなかったら今きっと苦労しているんじゃないかなと感じます。
コールセンターであれ、インストラクターであれ、社長の秘書であれ本当にそれぞれの経験が今のやさしいコミュニケーション協会の業務のなかですごく活きていると思っています。例えばコールセンターのお問い合わせでは、パソコンにどんな不具合があるのかという探る力も磨いてきたので、頂いた画面のスクリーンショットを見ただけで、問題点に気づき対応ができたりとか。あとは小さな会社で社長秘書を経験させてもらったからこそ、ビジネスでのルールが分かったりとか。
学生のみなさんには、興味あることだったらなんでも、今すぐに挑戦してほしいと心から思っていて…。無駄になる経験って多分一個もないんじゃないかなって私は思っているんです。財産だと思ってなんでもチャレンジしてほしいと思います。
やさしい日本語との出会い
Q:やさしい日本語の出会いについてお聞きしたいです。
ある日夫と子どもと駅のホームにいたときに、韓国人の男性が夫に「すみません」って声をかけたんですね。「この電車は国際展示場に行きますか」と日本語で言い始めていたのに、夫が「May I help you?」って言っちゃったんですよ。その時「あれ、なんで日本語ですみませんって言ったのに、なんで英語で言ったの?」と思ったんですが、私は両手に子どもたちの手があったので、じっと見てました。結局その男性も英語で話し始めて、ずっと英語でやりとりしていました。無事解決できたのでいいんですが、ただ彼のチャレンジを無駄にしてしまったんじゃないのかと思い、あとで夫に、「日本語で話しかけられていたの気づいた?」と聞いてみました。そうしたら「いや、わかんなかった」って言われて。日本人は外国人に日本語で話しかけられても、そのことに気づきにくいみたいなんですよね。外国の人だと思った瞬間に、英語で話さなきゃいけないと思って、英語で話し始めちゃう人が多いのかなと思いました。だから日本語を話したい外国人にとって、日本で日本語を話す機会が意外と少ないのでは?と思い始めたんです。これは日本語教師として、残念なことですし、せっかく学びたいと思っている人が、日本語を話す機会が少ないのは申し訳ないなって思っていました。そのことについて色々調べていたら、観光客にも日本語で挨拶しよう、話そうよと提案している吉開章さんのやさしい日本語の講演を見つけて、内容に「そう!それそれ!」と共感したんですね。それがきっかけで、やさしい日本語っていうのがあることに気づいたんです。それがやさしい日本語との最初の出会いです。
その人にあった話し方を
Q:留学生や外国人とコミュニケーションをとるうえで、大切にしていることってありますか。
その人のことをよく観察することがすごく大事だと思ってます。それから日本語力が高い人達にはいつも通り話すというのを心がけています。逆に「この人にはサポートが必要だな。言ったことが理解できてないな。行動できてないな。」と感じる時は支える必要があるので、その人のことやその人が話している日本語、性格や年齢を考慮しながら、話し方を調整していくことが大事だと思います。
外国人に直接、情報を届けよう
Q:これからどんなことをしたいと思われていますか。
これからしたいことは、正直たくさんあります。今取り組もうとしていることがあって、2020年11月24日から、NPO法人きずなメール・プロジェクトさんが主催する外国人に妊娠・子育てに関する情報をやさしい日本語でメール配信をするというクラウドファンディングに挑戦しています。私はそのプロジェクトメンバーとして関わっています。
在留外国人がメールを登録するだけで無料で、妊娠・子育てに関する情報が書かれているメールを受信することができるんです。私は外国人に直接、情報を届けられることってすごく価値のあることだと思っています。YouTubeもウェブサイトも外国人が自主的に探して、見に行かないと出会えない情報なんですね。でもメールだと、直接自分のところまで届くんですよ。直接外国人に情報提供ができるサービスなので、このプロジェクトが成功することを祈っています。応援したい!と思ってくださる方がいらっしゃいましたら、応援していただけるととても嬉しく思います。
【きずなメール】安心を言葉にのせ孤育てを防ぐセーフネット強化を
実践してもらえるように伝える
Q:最後にやさしい日本語を伝えていく際に自分の中で大切にしていることって何ですか。
やさしい日本語を使えるようになってほしいなと思い、医療関係者や区役所の方など様々な方に向けて講座を作っています。特に医療現場の方は外国人とのコミュニケーションに困っています。命を取り扱う場所なので、必要な情報を外国人から聞き取ることをとても大切にしていらっしゃいます。患者さんと関わろうという気持ちは、みなさんお持ちです。医療の人々が外国人とコミュニケーションをとれる方法を効率的に学んで、最短距離で実践できるように、私はやさしい日本語のことを伝えていきたいと思っています。あとはお伝えする内容もできるだけ現場に近いことを選んで、お話しするようにしています。
(インタビュー:2020年11月)