仙人が私を銭湯に導いた
Q:「銭湯設計」に興味を持ったきっかけは、何ですか。
もともと自分がサラリーマンの建築士をやっていた時に給料が安かったので、お風呂なしのアパートに住んで普通に銭湯を使っていたんです。その時は普通にただのユーザーとして使っていました。住んでいた場所の周りに色んな銭湯がありまして、日替わりで色んな銭湯に行ってたんですよ。それで、銭湯いいなあと思ってたんですけれども、そのうちに土日になったら、ちょっと遠くの銭湯、ほかの知らない銭湯に行ってみようということで、ちょっと遊び感覚で友達だったり彼女だったりと行くようになりまして、足立にキングオブ銭湯って言われている大黒湯という昔ながらの銭湯があるんですけれども、そこで仙人のようなおじいさんが僕のとなりに座ったんですね。ふつうの百円ショップでちっちゃいな籠を買ってその中にシャンプーとかを入れて持ってくると思うんですけれども、その仙人みたいなおじいさんは、スーパーマーケットのかごの、でかいやつを持ってきてボーンと置いて、僕は思わず、見ちゃったんですよ。そしたら二カッと笑ってここはいいだろうって話しかけてきたんです。そのうちにボディータッチとかも始まって、しかもさりげなく。まあびっくりしたんですけれども、そのおじいさんと話したことによって、ちょっと何かが閃きまして、あ!銭湯やったらいいじゃないかと思うようになったんですよ。その時友達と行ったんですが、なんかそんな人がいたんだけどって話したら、友達は気づいてなくて、こんなおじいさんと仲良くなったら銭湯の仕事とかできるようになるのかなと勝手に思って、そこからちょっとこうひらめいたというか、銭湯やったら面白いんじゃないかなと思ったんですね。
銭湯設計の勉強は自ら
Q:どのような方法で、設計の勉強をしましたか。
最初はフィールドワークをして、周りに銭湯がいっぱいその時はあったとお話ししたんですが、自転車で色んな銭湯に回って、こんな感じでいろんなスケッチをずっと描いてためたんですね。リサーチをして、他の業態だったらいろんなその設計資料として売ってると思うんだけど、売ってなかったので、自分で勉強しました。こんなことをやってまして、大体この銭湯のプランとか大きさとか分かってきたら、自分でスケッチを始めました。自分が調べてから、プランとスケッチとか書きまして、色んな案とパンフレットを作って、このスケッチブックを持って色んな銭湯を回って、銭湯を作りませんか、やりませんかと言って回ったんですよ。以前は「1010」というフリーペーパーが公衆浴場組合から発行されていまして、この編集部に私のアイデアスケッチを紹介していただいたのです。その時点でアイデアスケッチは何枚もできていたので「ケンタローの夢銭湯」というタイトルで掲載していただけることになりました。そして早くもその掲載の2回目に、「掲載の内容に共感したので銭湯の改修設計のお願いをしたい」というお話を足立区の大平湯さんというお店からいただきました。とても運が良かったと思います。これをきっかけに銭湯設計をさせていただくようになりました。はじめは仕事の依頼が継続しませんでしたが、徐々に継続的に設計依頼をいただけるようになり、現在に至ります。
プロジェクトは心から産んだ子供たち
Q:今までデザインしてきた銭湯の中で、最も好きなプロジェクトを教えてください。
プロジェクトそれぞれコンセプトを立てて、オーナーさんの性格もみんなさんいろいろ違うし。どのプロジェクトも思い出深いですし、どのプロジェクトも一所懸命にやってたから、どれが一番好きとか言えないですね。例えば自分の子供だとしたら誰が好きなのか言えないんじゃないんですか。本当に自分の子供のように。設計やってる人は、そういうとこが少なくともあると思います。
第三者としての視点
Q:客と設計士としての視点は違うと思いますが、どんなことが違いますか。
やっぱり自分だったらこうするだろうなとかというのは非常に思ったりはしますけれども、まあ、でも自分が設計してない銭湯が世の中にいっぱいありますので、やっぱり人が作ったのを見てそれはそれで勉強になりますね。この人はこういう風にやるんだとか、あ、こういうところはいいなとか、ここはだめだなとか。まあ、いろいろ第三者の視点でお客さんでもないし、自分が設計していくわけでもなくて、第三者の目で見るようなポイントも色々とあると思います。
裸になるのを怖がらないで
Q:銭湯という日本文化が外国人には、どんなふうに伝わっていますか。
それは僕が外国人じゃないのでよくわからないです。でも、外国人で利用している人の話とかインタビューとか目にすることはありますが、やっぱりそれはとても特殊な形で、特色になる文化だと思いますので、外国人はなかなか銭湯に入る機会が少ないですね。あの、西洋にはほとんどないですよね。でも、面白がって日本らしさっていうのを感じてもらっているのではないかという風には思います。もし日本に興味を持って、日本に訪ねて来たら、ぜひ銭湯に入ってみてください。やっぱり裸になるのは外人、特に西洋人にとってちょっとハードルが高いが、実際に使ってみたらすごく楽しいです。私は外国のプロジェクトがあるので英会話の授業を受けているんですけど、その先生から、自分はちょっと裸になるのは苦手だから、行ったことはないと言われましたけど、まぁちょっとそのハードルを超えて、実際に利用してもらいたいなと思います。
設計する時先に念に入れていること
Q:銭湯設計をする時、先に念に入れていることは何ですか。
お店それぞれにコンセプトを作ってやっていきます。そのコンセプトと特性というのは地域柄とオーナーさんの意向、社会の中で銭湯がどのように扱われているのかというのを合わせて考えます。社会の中で銭湯がどう扱われているのかは10年前からとは違いますけど地域性とオーナーさんが考えていることはそれぞれ違いますので、それをどうアレンジして取り込んで行こうかを先に考えます。
私の理想の銭湯とは
Q:今井さんのために銭湯を作るとしたら、どんな銭湯を作りたいですか。
木造の開放感の高い銭湯ですかね。今の建物はほとんどリフォームなので、建て替えようとすると、上にマンションとか入れて、マンションと合わせてビジネスモデルになります。新築の場合ほとんどコンクリート造りになるんですけど、できれば木造で新築するというパターンを自分のためにやってみたいです、そういうオーナーさんが出てきてくれるのが今の夢のひとつです。
3つのモード転換
Q:銭湯に行った際、一般人に相違して銭湯設計士の視点として今井さんは何を見ますか。
私は普通に銭湯が好きな利用者として、たまにちょっと遠いところも行って、知らないところを訪ねて、観察もしたりします。行く場所によって、モード、つまり見る視点も変わります。例えば今日は「研究モード」、それからただの「利用者モード」、自分が作った作品に行くのは「チェックモード」で入ります。他のお客さんはどんなことをしてるのか、使いやすそうに使ってるのか、オーナーさんがちゃんと掃除してるかのも全部見ます。やっぱり自分の作品は綺麗に使ってもらいたい気持ちがあります。行った時ほとんど誰にも気づかれず黙っててお客さんの反応に耳を傾けます。銭湯が建ったばかりの時期で、知らない人から「ここいいね〜」みたいな褒め言葉が耳に入るのは癒されます。他の物件は、例えば住宅、多くても一人か二人の場合が多い、家族ぐらいのモチーフですね。プライベートのが多いので、そんなことは起こらないです。これも銭湯設計の一ついいところだと思います。デザインした銭湯はどこかの知らないおじちゃんから褒めてくれるのは、銭湯デザイナーとしての密かな楽しみですね。苦労が報われる瞬間を実感します。
私にとっての銭湯デザイン
Q:今井さんにとって銭湯設計というのは、何ですか。
一つのライフスタイルというか、ライフワークですかね。ライフワークとして、その銭湯皆さんに使ってもらうことによって、世の中のギクシャク、ちょっとの嫌な感じとかを解消してもらう。日常生活のリラックススペースなので、東京の雰囲気が変わったりとか、たくさん利用すればたくさん利用するほど、多少社会が柔らかくなっていくと思っています。他の面からでも、銭湯をベースとして、いろんなところで温浴施設をやっていきたいなっと思っています。
(インタビュー:2016年6月)