自分の「美しい」を発見しよう!

武蔵野美術大学

自分の「美しい」を発見しよう!

PEOPLEこの人に取材しました!

長谷川義太郎さん

「文化屋雑貨店」の元オーナー

東京・渋谷には40年も歴史がある雑貨店があった。それは、普段人が買えない「雑貨」を世界中から集めてきたり、自分で制作したりする有名な老舗「文化屋雑貨店」だ。長谷川さんは日本で「雑貨」という概念を掲げ、日本、更に海外のファッション、ものづくり、物流の分野まで多大な影響を与えた。しかし、この店は昨年閉店した。私たちは、この雑貨店が売ったものの中に、キモカワを感じたものをいくつか見つけた。今年7月に神田で開催された再生イベント「第1回文化屋雑貨点」で、オーナの長谷川義太郎さんと会い、彼に人生観・価値観、独特な解釈を教えて貰った。

直接、お客の反応が知りたい

Q:店を開いたきっかけは?

それはね、ちょうど経済の過渡期だったこともあるんですよ。中国も今そうですけど。新しい考え方とか、それからテクノロジーみたいなものが出てきた時に、どんどん変わっていくじゃないですか。そのきっかけみたいなところに私はいたんですよ。その時に、もっと自由に生きたいなと思った。それで、広告代理店の仕事より何かをストレートに出せる仕事をしたいと思った。ストレートに出せば、お客さん、クライアントの人たちは、それに対して答えてくれるわけ。自分が何かを出しても、広告の作業は、自分のところに戻ってこない。結果が何なのかわからないわけなんですよ。デザイナーがこう机でやっていて、営業が持っていって、それから代理店にいって、テレビで使われたり雑誌で使われたりしても、自分たちには結果が戻ってこない、デザインは。だけど、自分たちが実際に売れば、売れればオッケーという事じゃないですか。おまけにお金もくれるわけですから。直接、お客の反応がわかるわけですよ。だからそういう作業をやろうと思って、文化屋雑貨店を始めたんです。

神田で開かれたイベント「文化屋雑貨点」。
「点」は雑貨に興味を持つ人々が交流できるスポットという意味だ。

今回のイベントのポスターである。長谷川さんの信念である「売れるものより、売りたいものを」も書いてある。

売れるものより、売りたいものを

Q:店のコンセプトは、「売れるものより、売りたいものを」ですが、「売れるもの」と「売りたいもの」の違いは何ですか?

それは多分生き方の問題なんですよ。例えば仕事だとか、ある意味ではデザインとか、色んなそういうものよりも、自分の生き方なんです。じゃあどういう事なのかに突ったら、売りたいものの考え方を持ってる人は、売りたいという考え方で全部の毎日をすごさなきゃいけないじゃないですか。

例えば何かの材料を見つけるにしても、売れるかどうかで判断する。そうじゃなくて、自分が売りたいものを考えたら損するかもしれないわけですよ。だけど、売りたいものを掴んで来ないと、世の中に自分の考えを出す事が出来ないわけですよ。売れるものを掴んで帰ってきたら、それは自分の考えじゃないものです。だけどお金は儲かるわけです。そういう事の違いをはっきりさせないといけないです。だから、 僕らはもうお金がいらないです。つまらないもん。
それの違いがわからないと、社会で生きていて、すごく損する。早くつかんだ方がいい。自分の生活とか自分の考え方とか、それを早く掴む。

自分の進む道がわからない時、四角に立つといいと語る長谷川さん。

汚くて、危ない道へ行くぞ

Q:自分がやりたいことをまだ見つけていない時はどうすればいいでしょうか?

まず、四角に立つことです。そうすると、どっちに行こうか進む道がわからない。そしたらね、一番大変な道、一番汚い道(笑)、そっちに行ったら坂がたくさんあるぞ。だったら、そっちの方に向かう。一番簡単な坂の下る方には行かない、自分の中で。

常に人生というのは、一番大変な方向に行けばいい。一番簡単な道に行ったら、だんだん落っこちていく。楽な道に行っちゃ絶対ダメ。だから、そっちに行ったら犬に噛まれそうだったら、そっちに行く。そうすると自分の頭の中で、じゃあこの犬に懐かせるためどうしようか色々な事を考えていく。それが人間の進歩だね。だから、一番大変な道、一番汚い道、例えば一番給料が安いところ、何か面白そうな仕事が見つかったらそっちに行くべきだ。大変な道に行った方がいい。毎日楽な事をやってどんどんフヨフヨになる。それよりも、遠いところにどんどん行くわけ。

店を経営する時一番大変だったこと

何にもなかった,だって好きなことをやっていたから。

店の経営で大変なことなんてなかった、だって好きなことをやっていたからと語る。

明日を考える

Q:店を経営以来、一番記憶に残ったものは?

たくさんありますよ。記憶という意味ではね。でも、それは自分にとって過去のものなんですよ。大事にしてもしょうがないです。明日を考える方が面白いですよ。どんどん次から次を考えていけばいいですよ。今一緒にやっているお兄さん、あの人、31歳ですね。僕70歳ですね。だけど、同じ毎日闘っているわけ。だが、それは一番楽しい。だってお爺さんになったら何も出来ないじゃない? いろんな意味で、周りの人が相手にしてくれないの。だけど、やっぱり自分が上登っちゃってるといけないと思っているから、あなたたちみたいな人と話をすることができる。例えば過去の実績とか、それだけを考えちゃったら、自分の記憶の中に埋もれるだけになっちゃう。そうじゃなくて、自分自身は明日を考える。だから僕は店を閉めました。あいつに負けないようにしなきゃいけない。

他人と比べない

Q:周りのすごい人と比べて、自分にがっかりする場合はどうすればいいですか?

全然気にしなくてもいい。だってその人は明日死ぬかもしれないです。
それは自分も同じで、結局みんな同じ立場なのです。
それより自分自身がどう生きていくかを考えたほうがいいです。自分がやりたいことを探せばいいです。

大学時代

Q:大学時代、やりたいことを探すために何をしていましたか?

もし、今興味あるものがあったら、プロではなくてもいい、プロではなくてもいいけど、それを自分のものにするためには、なにが見つかるかどうか分からないけど、ただカメラを持って歩く。このやり方で動いていれば、自分が持ってる素質を開かせることができると思う。他の人から教えられるより自分でどんどん見つけていくのが一番いい。そうすると、自分の形ができ上がるのです。

店にある普段見れない不思議な雑貨。

日本のキモカワイイ文化には

Q:実は私たちはキモカワイイをテーマにして来ましたが、長谷川さんの本には、世間一般でいう「美しい」と思うものと違う基準で物を選ぶと書かれていました。

それは一番簡単な話で、うんこは何色ですか? 茶色ですよね。

でも茶色を見た時、うんこを想像しますか? 茶色というのは色ですよ。だから、そこに概念が入ると茶色がうんこに見えるわけですよ。一番美しいものが何なのかと言われたら、赤なのか白なのか黄色なのか、彩度が高いものか明度が高いものか……色って全部美しいですよ。でも、そこに概念が加わるから、汚い色に見えたり、臭ったりするわけですよ。そうすることによって、きれい、汚いができるわけですよ。本当は全部一緒なわけです。

だからキモカワイイっていうのも何かの情報によって作られたものですよ。本当は何もないですよ。ぼくらもそんなものを作ろうとしたのではなく、そこに影響を与えるような材料は出そうと思ってきました。それによって、社会で働く人たちややっていく人たちができ上がって来て、ある意味として、僕らはうれしかったですよ。
(私たちもよくわかりません)

金属のパーツを付けられ、飾りになった切手。

買う側と売る側の違い

Q:どんなものが美しいと思いますか?

だれかが良いものだと言っているものを見ているだけでは、クリエーターにはなれないです。そうじゃなくて、自分で見つけないとダメですよ。テレビで言っていることは絶対信用しちゃダメです。花火大会や桜が咲くとみんなで見に行くじゃないですか。あれはクリエーターじゃないです。見てもいいけど、結論は出さない方がいいですよ。そうじゃなくて、道の間から、一生懸命、芽を出しているタンポポの力強さが分からないとダメですよ。それが美しい。桜がチラチラ落ちていて、木の周りでみんなで酒飲んでいる光景が美しいと思うとダメですよ。あれは受ける側の人たちですよ。買う側の人。そうじゃなくて、自分で見つけるようにならないとダメです。美しいと感じるもの。自分の目で見るのが大事。それが「知る」ということです。それを続けていて、自分で判断して、受け入れることが大事です。すごい幸せなことです。

人間雑貨

Q:これからの予定は何ですか?

人間でしょうね。いわゆる人間雑貨みたいな感じ。今、ここに集まってくれている人たちが120人ぐらいるわけだけども、普通自分の友達を120人集めるのは大変でしょう。いないでしょう。これを分かり合ってくれる人がそれだけいるわけですよ。参加したい人たちが少なくとも1000人ぐらいいるわけですよ。それを今度は何かの方向性の違うものに向けているからもっと面白いものができるかもしれない。

ずっと自転車に座ったまま私たちと喋っていた長谷川さん。

(インタビュー:2016年6月)