銭湯を世界に
私は東京外国語大学銭湯同好会の会長をつとめている、スペイン語学科4年山田尚史です。この銭湯同好会は2年前に僕を含めて3人で作りました。僕は愛知県出身で、上京してちゃんと銭湯に行って、銭湯は体を洗うだけでなく、人と裸でつきあう人情の溢れるいい場所だな、とその時そう思いました。同時に多くの銭湯がつぶれていく現状も知りました。今日本では一週間に一つの銭湯がつぶれています。過去、2000軒もあった東京内の銭湯が現在は600軒に減ってしまいました。
そこで僕たちの力で銭湯のためになにか出来るのではないか、と思いました。僕を含め、今の若者達は生まれたときから家に風呂がついています。だからわざわざ銭湯に行く必要性を感じなくなりました。でも、実際行ってみたらとてもいい場所だと思うに違いない。絶対誰かは一回行ってはまるようになる。だから、同好会を作ってまだ銭湯に行ったことがない若者達に少しでも足を運んでもらえるきっかけを作ること。それが目標の一つです。
また、僕は東京外国語大学に通っていて、色んな言語を使う人、色んな国から来た留学生に出会いました。そこで多様な文化を経験し様々な生き方と触れ合いました。だから、そういう地の利を生かして、日本の銭湯を世界に発信していくことです。
つまり、若者と外国人の方々という新しい客層を銭湯に組み込んで銭湯を持続可能な構造にしたい、それが僕らの最終的な目標です。
銭湯同好会の活動
まだ行ったことがない人のために「一緒に行きましょう」というきっかけを作る活動をしています。月に一回は銭湯ツアーに行くことにしています。東京だけで600軒もあるので本当に種類が多いんです。”5千冊の漫画がある銭湯”とか、”浅草にあるお寺みたいな銭湯”といったようにジャンルも様々です。
ついこの間根津神社に行ってたい焼き食べて、その後銭湯に入って、そこからご飯を食べに行きました。このようなことをします。銭湯を日常の一部に組み入れることで日常を豊かにしよう、という試みでした。銭湯に入って終わりじゃない、銭湯プラスαでなにかしよう、というつもりでした。
あとまだ一度しかやってないんですが、銭湯合宿もやっています。ただ単に銭湯を発信するだけじゃ独りよがりになってしまう、ということから始めた活動です。つまり銭湯の現状を知ることです。
そこで実際銭湯を経営している方を訪ねそこで泊まりその銭湯の裏側を見せてもらうなどのことをやっています。この前京都に行って東京の銭湯となにが違うかを学びました。
重要文化財になっている銭湯も!
銭湯は昔ながらの建物が多く、銭湯の建物自体が国の重要文化財になっているところもあります。お寺ではなく実際に商売をやっているその建物が重要文化財になっているのは少ないがこんな経歴でやっているかっこいいお風呂に入るのが魅力的だと思います。
あと北千住の宝井にキングオブ縁側というところもあります。お風呂に入って出ると縁側が見え、広くてかっこいいです。その建物の良さもあるしたいてい銭湯は立地のいいところにあるので、銭湯ついでに町ぶらできます。つまり銭湯プラスその街を楽しめます。
一回の銭湯は10回の飲み会に匹敵する
場所によって雰囲気も違うし、電気風呂や外風呂、天風呂などお風呂自体を楽しみ方はあるのも魅力的ですが一番魅力的に感じるのは人情です。銭湯の番台の人や他人で世代が違う人と話す機会はなかなかないのに話せる機会があります。
私の知り合いの人は「一回の銭湯は10回の飲み会に匹敵する」といいました。そのくらい銭湯は壁がなくなったように人間関係がよくなる魅力的な場所です。
銭湯の現実
現在、一週間に1軒の銭湯がなくなっていると言えるほど銭湯の数が減っています。銭湯を運営する方がいなくなり、引きつぐ人が足りないのが今の第一の問題です。引きついでもほぼ赤字。
町の人々が必要だと言ってくれてやっと延命しているのが現実なんです。
お風呂、行く?
銭湯の利用者はご年配の方が多く、若者はなかなか見られないのが現状です。若者が銭湯に行かないのはなぜか。僕が考える理由は三つあります。一つは利用料。同好会では東京都内の460円で入れる銭湯を中心に活動をしているんですけど、若者たちにはお風呂に入るための460円も少し高いです。二つは銭湯のイメージ。昔のもの、古っぽい、きれいじゃない、など若い者にとって銭湯はあまりイカしたイメージをもっていません。若者を呼び込むにはそれもまた変えらなければいけないポイントなのかなと思います。最後は手ぶらで いけないことです。銭湯にはお風呂セットが無料で用意していないところが多く、持参しないといけないのです。 これらの問題を解決するために銭湯を変化させるのはなかなか簡単ではありません。また、仮に変えられて銭湯に機能性や流行を取り入れられたとしても、それは僕が好きな銭湯だと言えるのか?それを追求するあまりに、銭湯に温かみや人情が失われてしまうのではないか?と思ってしまいますが、銭湯にたくさんの人を呼ぶために銭湯が変化を起こしていけないはずがありません。それに、人情なんて言うものはあいまいで、出現条件すらわかりません。銭湯はどんな形態でも銭湯だし、昔ながらの銭湯、デザイナーズ銭湯、天然の温泉がでる銭湯。みんな違ってみんな同じ銭湯なんだなと最近は思います。
同じ人間や!
外国の人に銭湯を知らせることは日本人の若者に銭湯を広げることより難しいです。今銭湯の文化が存在するのは東アジアぐらいで、裸で同じ風呂に入るは他の国では想像できない風景です。
そのため部員である外国の人も銭湯の文化にびっくりすることがあるらしいんですね。その理由としては何より文化の違い。同じ風呂に入るのに対する考え方が違うから驚くのも当たり前です。
でも、そんな彼らも一度銭湯を経験したらきっと好きになるはずだと確信します。最初は恥ずかしいかもしれませんが、何もない状態で向き合うと人種、世代、言葉を超えて同じ人間だということに気付くはずです。僕はそう思います。想像以上に親密になってリラックスできる素晴らしいものが銭湯です。
銭湯の未来、僕らの未来
繰り返しになりますが、僕が思う銭湯の魅力は「人情」です。人と人が世代や文化の壁を超えて裸でコミュニケーションする場所。僕ら銭湯同好会はその人情を大切にし、より多くの人々の銭湯の魅力を発信していきたいです。
(インタビュー:2016年6月)