クレープと芸術の融合
店を開いた契機は? 何故美大の隣に開いた? 店名の由来は?
大野さんは店を開く前に、様々な仕事をしていた。元々、飲食店を経営しようと思っていたので、会社に勤めている期間は、開業資金の貯金と、将来の経営ビジョンを考え、学ぶ期間と考えていた。一番やりたいと思っていたのは、見た目の美しいデザート部門で、特にフランスのクレープに惹かれたという。このクレープというデザートの美味しさを沢山の人に体験してもらいたくて、この味を人々に伝えたいと思ったのだそうだ。このような考えで店を開いたと大野さんは話した。そして、この場所で店を開くきっかけを聞くと、小さい頃から芸術に憧れを持っていた大野さんは、武蔵野美術大学という有名な学校の存在を知っていたので、幾つかの候補地の中から武蔵野美術大学の隣に自分の店を開くことにしたと話してくれた。
ある日、武蔵美の近くにある店を視察しに来た。この緑の植物に囲まれていて、ミステリアスでまるで森のなかに生えたような建物を見つけた。一目惚れしてしまった。時期が良くて元のオーナーさんが店を譲りたいと思っていた。そして自分のイメージにぴったりなお店としてこの場所に決めた。
この扉を開けると、静謐で神秘的な世界が広がる
ところで、「アネモネ」という店名をつけた理由というと、アネモネという花は、ギリシャ神話の中で、「愛する人を信じて待つ」という意味が込められているからだ。人生は落ち込んだり、ピンチに遭ったり、理由もわからずに憂鬱になってしまったりなど、いろいろな悩みを抱いたりもするが、そんな時にこの店に来ることにより、しばらく悩んでいることを忘れ、また、ゆったりとくつろぐ雰囲気で傷を癒すなど、この店は肉体的なエネルギーだけではなく精神的なエネルギーも補給できる場所を提供することを目指している。
店のインテリアとオーナー
元々安田さんと大野さんは芸術に関する物事に深い興味を持っている。そして、旅行と日常生活の中でも葉書と飾り物をコレクションするのが好きだから、結構自分が気に入ったものを飾っているという。前の店の店主のインテリアが残っている部分もある。この店を開いてから、武蔵美の芸術祭があるたびに、また隣の朝鮮大学の美術科がイベントを行うたびに、店の中に美術のコレクションも少しずつ増え、今のような様子になってきた。
よく武蔵美の学生たちが店に来るので、常連の学生たちとの交流も徐々に深くなってきた。多くの学生たちがこの店の雰囲気と親切なオーナーが好きで、個性的で情熱のある客の中にはオーナーの店がどんどん良くなるようにと望んでいる人もいる。そして、自発的にインテリアの小物をデザインして店に譲った人もいる。例えば花束、切り絵作品、ポストカードなど。
店を経営する時一番大変なことと一番嬉しいこと
店を創設した時期は2015年3月30日。それから2年半ほどが過ぎた。もとより、毎日順調なわけではない。自分が好きなことをやっているので、なんのピンチにせよ頑張れば、解決できない難題は存在しないと大野さんは信じている。しかし、この店はほとんど近所の人と学生にしか知られていないので、学生たちの制作や課題が多くなって皆が自分の作業にこもっている時や、雨の日は、お客様がなかなか来ないと大野さんは言った。お店もそれほど広くはない故に、席を待つこともよくあるのだが、優しい学生さんは待っていてくれるので、いつも心地良くのんびりできるスペースをお客様に提供できるよう、頑張っているという。
うまくいかないことに遭うことはかならずあるし、嬉しい出来事も様々あると大野さんが笑いながら話した。それは、お客様が自分の手作りデザートを食べると、美味しくて喜ぶ笑顔になることである。これも大野さんがお客様になるべく持ち帰りせずこの店この場で召し上がって欲しいと思う理由である。それから、毎日多くの学生と出会って、自分のことを彼らとシェアしたり、話し合ったりするので、生活のことや美術に関する知らない知識を学ぶことができたという。これは元々芸術に興味がある大野さんと安田さんにとって、非常に勉強になったという。
優しい武蔵美の学生さんも「美味しかったです」というようなメモを書き残して、一日中忙しくて疲れたオーナーたちの心を温めてくれる。
未来に対する望み及び今までの宣伝イベント
安田さんと大野さんが望んでいるのは近隣住民たちにこれから更に知られて、また地元だけでなく、他の地域の人たちにも自分の店へ足を運んでいただくことである。そのために、宣伝イベントやチラシの制作に取り組んでいる。
小平市には地元の商店の発展を促すために、「家族を大切にしよう」というような企画があり、もし家族と一緒に来ると、サービスを受けられるというようなイベントが毎月行われている。小平市の市報にそのイベントのことを載せている。これは小平市の方針である。店も毎月ポジティブな態度で参加していて、第二と第四の土曜日に、サービスを提供していると安田さんは話してくれた。
また、武蔵野美術大学の学生自治会の学生たちの依頼で、学校の刊行物の中に店の紹介も書いてある。店のtwitterやfacebookやホームページで、最新の情報をアピールしていると安田さんが言った。
他の喫茶店との違うところと料理に対する主張
悠々閑々と日常の悩み事までも忘れられるような食事場所を提供するのは、オーナーたちのコンセプトの一つでもある。大野さんは日本の会社でデザート作りを学んで、また台湾へ教えに行ったことがある。日本に戻ってから、安田さんと一緒に検討し、お店を開くために、十分に準備した。特徴的なセールスポイントは、コーヒーの淹れ方である。安田さんたちはコーヒーやお茶を楽しむ際、ポットのそばに必ず砂時計を置いている。なぜこのようなものがついているのだろう。砂時計付の喫茶店もあるけれども、今までも理由がわからなかった。疑問を投げかけた。答えは、砂時計は「抽出時間」という意味であり、コーヒーの場合は、約4分ほど後に飲むのが最も美味しいのだが、砂時計は3分しか計れない。そこで、1分はまず厨房で計って、1分経つと、お客様にポットと砂時計を渡す。砂時計の砂が下に落ちきった時にコーヒーの美味しさもピークになる。また、紅茶の場合は、お湯を入れてから3分後に注ぐと美味しいので、そのまま3分間を客自ら計ってもらい、その抽出時間を待つという時間経過自体も楽しんでもらえるよう、砂時計をつけたのだと安田さんは話してくれた。
また、大野さんはフレンチプレスコーヒーという淹れ方を取り入れている。他のコーヒー屋の場合は、機械でやってしまったり、マシンボタンを押して、オートメーションで淹れたりすることが多い。今日本で主流なのは、ドリップ系という紙でこすような淹れ方だ。
しかし、フレンチプレスを使うと、コーヒー豆の油脂などの味が漏れずに全部出てくる。これは濾過していないので、コーヒー豆の本来の味やコクが全て味わえる淹れ方だ。例えば紙で濾過すると、油など様々なものが取れるから、スッキリした感じがでる。一方、フレンチプレスでは、まろやかな味わいがポットの中で保たれるが、濾過しないため、美味しくない豆を使うと、そのまま美味しくない味になってしまう。豆にもこだわって、美味しいコーヒーができるようにしていると安田さんは話す。
感謝の気持ちを花束の形に込めて
クレープとガレットは二つともフランス北西部のブルターニュが発祥で、さまざまな食材を包んで折り畳んで食べる。日本でも店内で提供されるクレープは扇子の形で作られている。ところが、オーナーたちはクレープに対する理念があって、提供する時の形にこだわったと言う。それは、クレープによって思いを伝えることである。もしクレープ自体が花束のような形に仕上げられていれば、お客様に感謝の気持ちを込めて、一人一人に花束をあげるように、自分たちの思いをそっと手渡せるのではないかと考えたのだそうだ。客から見ても、このクレープの綺麗な外見に魅せられるたびに、作り手の意気込みが感じられる。それに、季節によって、クレープも時期限定で旬の果物を使い、毎月違った食感を楽しめるように工夫している。
また、ガレットは紀元前からある素朴な家庭料理だ。ガレットには、主にそば粉が使われている。クレープの原型とも言われている料理である。お客様に伝統的なフランスガレットを味わってもらえるように、オーナーはガレットを伝統的な作り方で作っている。毎月新しい味のガレットを販売しているという話も聞いた。これは「アネモネ」と他のクレープの専門店との違うところの一つでもあるだろう。今後もオーナーたちは笑顔で、人々のために優美な雰囲気をもたらす「アネモネ」の扉を維持し続けるだろう。
(インタビュー:2017年6月)