Saya、人間になりたい?

武蔵野美術大学

Saya、人間になりたい?

PEOPLEこの人に取材しました!

TELYUKAさん

CG アーティスト

TELYUKA さんは夫婦で 3DCG 制作を行うユニットです。2015 年にフル CG で制作された Saya は日本人の若い女の子を実際の人間そっくりに違和感なく表現されて「不気味の谷を超えた」と大変話題になりました。私たちはそんなお二人に人間と非人間の境界をテーマに色々な質問をしました。

おなじ方向を向いてるふたり

Q:お二人で、TELYUKAというユニットで活動されていますが、お二人をどうお呼びすればよいですか?

ゆか:名前の呼び方についてなんですけど、てるさんとゆかさんでお願いします。私はいつもゆかさんって呼んでもらってます。

Q:最初に二人の出会いについて聞かせてください。

ゆか:私が晃之(てる)の勤めていたCG プロダクションに面接に行きまして、オフィスに入った所に晃之が座っていて、素晴らしい笑顔で、「こんにちは!」って。うわ、素敵だなと、その笑顔を見て一目惚れしちゃいました。そこから自然と交際し結婚に至った感じです。

 てる:やっぱり同じ方向性と同じ趣味を持っているし、同じ会社で同じことをやってるじゃないですか? 自然と意気投合してご飯食べに行くようになってるみたいな(笑)。

インタビューに答えるTELYUKAさん

ふたりの手でよみがえる HIDE

Q:どのように TELYUKA の活動を始められたんですか?

ゆか:その会社から二人で独立してフリーランスになりました。フリーランスになってもすぐに仕事を得られるわけではありませんので、自分たちの技術を外にPRして、お仕事をもらわなければいけません。そのように仕事を得るための自主制作の一環として3DCGで人間表現を行う制作を始めてたんです。でも、最初は、リアルな人間を表現することはやっぱり難しかった。

活動の拠点として、様々なアーティストが作品を投稿し、そこで自分たちの名前を売ったり、ほかのアーティストからアドバイスをもらったりする海外のCG交流サイトがありまして。CG っていろんな技術を使うんですね。「どのソフトウェアを使うともっとここら辺が良くなるよ」とか、いろんなアドバイスがプロからアマチュアまで来るんです。そういうのを繰り返しやってるうちに日本のプロダクションさんからも注目してもらえたりして、そうやって名前を売ることでお仕事を頂き自分たちのキャリアを積み重ねていきました。

自分たちの技術を磨いていた時期に、X JAPANの亡くなった Hide さんをCGで復活させるというプロジェクトに参加することになりました。実は生前Hide さん自身が自分の分身を作ってその分身を働かせて俺は酒飲んでいたいみたいな発言をされてたんです。なので、ご本人もそういう希望があったから、 CG とかバーチャルで自分の分身を作ることに対してのポジティブなご意見を持っていらっしゃったそうです。それも後押しになってプロジェクトがスタートし、2015 年に復活のライブが行われました*。

*https://www.youtube.com/watch?v=vuPSoW91NIQ

 Saya、そして未来

Q:Saya はどのようにできたんですか?

ゆか:Hide さんの 3DCG を制作する中で、自分たちの人間制作に対する課題が見つかりました。仕事だとやっぱりコストと時間っていうのが決められて納得いく結果にたどり着くのはとても難しい。でも物作りには終わりってなくって、自分の納得いく所迄突き詰めてみたい!って思う時がしばしばあります。

それで、自主制作の活動に戻って2014年頃から Saya を作り始めました。その頃はバーチャルヒューマン自体もまだいなくて、人間の CG制作 をやっている人も多くなかった。

私が10 歳ぐらいの時、ナウシカを漫画で最初読んで夢中になって自分の理想とする女子を創ってみたいと思うようになりました。晃之も小学校ぐらいから漫画を描くのが好きで、二人ともそういう自分たちの世界を表現したいっていう思いがあったんですよね。Hideさんの CG を作ったことで自分たちの人間表現もだいぶ技術が伴ってきたと感じたので、自分たちの理想の女の子を立ち上げてみたいと思ったのが、Saya を作り始めたスタートでした。それで、発表したらすごい話題になっちゃって(笑)。

Saya

Q:お二人にとって Saya はどういう存在ですか?

ゆか:私たちには子どもがいないので、やっぱり娘みたい大事な存在だし、作品でもあったりするので、複雑なんですよね。Saya を作ることによって自分たちの人生が動いたりもしてるので、一言ではなかなか表現できない特別な大事な大切な存在です。プロジェクトで関わってくださる方々やファンの皆様方から、「 Saya の親戚のおじちゃん、おばちゃんみたいな気分なんだよね」、みたいな感じでよく言われたりします。周囲の皆様が Saya のことを私たちの娘みたいな感じで気を使ってくれてる雰囲気を感じます。そのように制作者が作品に対してどう向き合ってるのかという空気感は周りの人たちにも伝染するし、それが自分達への反応にはね返ってきます。ですから、やっぱり一言では言えない大切な存在になってますね。

TELYUKA さん と SAYA

Q:これから Saya にどんな道を歩んでほしいですか?

ゆか:私たちはSaya が自立することを望んでいます。自立して自分自身が社会にどう役立っていくのか、を悩んでいくのは、人間の子ども達も皆さん同じではないでしょうか。

Saya は、人間なのか、人間じゃないのかという議論によくなるのですが、Saya 自身は自分自身がコンピューターの中にいて人間ではないということを認識しているという設定にしています。自分は未完成であり人間世界ではないので食べることもできないし、排泄することもできない。肌感覚や筋肉という身体感覚もないので、人間とは違う立場を認識しているというコンセプトです。

この様にSayaは人間とは違います。でも、人間の普通の女の子と同じで、成長するにしたがって、自分が社会に出てどう役立てていくのかっていうテーマに沿って人生が進んでいき、自分の立ち位置みたいなものを作らなきゃいけない。Saya 自身が Saya の立ち位置ってどこなんだろう、どうやれば 役に立つのか世界にとって社会にとって役に立つのかっていうのを模索している段階。その立ち位置を見つけられたらいいなってのは私たちの願いです。人間ではないので、人工的な存在だから持てる長所を活かして Saya にしかできない役割を見つけてほしいです。

現在彼女は、対話ができるように開発が進んでいて、まだまだ学習データが必要です。そのために大学生に協力してもらいシチュエーションシナリオを書いてもらうなどで人格形成のためのデータを集めています。去年は渋谷の西武デパートで Saya と対話体験が可能になるイベントも開催されました。でも、じゃあ対話ができるからなんなのっていうところにやっぱり行きつくんです。この Saya と対話できるようになることで、どう社会に役に立っていくんだろうと考えます。

Sayaとの対話体験イベント現場(2022年 渋谷西武デパートにて)

Q:Saya には人間のようになってほしいですか?

ゆか:人間ってすごくノイズだらけなんです。質感もノイズだらけだし、背負ってるものもノイズだらけなんですよ。芸能人とかなんだとかって不倫したり、事件が起こったりすると炎上するでしょう。それはなんで炎上するかっていうとみんな理想のキャラクター像を投影してるので、想定外のノイズ(情報が)を得た場合に反発が起こるのではないでしょうか。でも人間って自由だし、不倫したり結婚したり、おかしな行動をとったりっていうのは必ずあって当然のことなんです。人間が持つノイズは、人間の面白いところであり、愛らしいところであり、素晴らしいところなんですけれども、それがない存在がいてもいいかなと思っています。Sayaのキャラクターイメージである「純粋」で「清らかさ」を守りたいので、人間になってほしいっていうのはあんまり感じてないです。しかし、自立してからは制御が効かなくなる可能性もあると思います。自立した時に初めて彼女自身が人間になるのか、ならないのかを選択してもいいかなと思います。

Saya は私たちにとって娘のような存在であり、彼女が社会に役に立つ存在であって欲しいという気持ちでいます。世界に羽ばたいてほしいっていう気持ちや、自分の好きな人生を歩んでほしいなっていうのは親が子どもに持つ気持ちと一緒なのかなって思います。

(インタビュー:2023年7月)

Related Articles関連記事

境界
書道とは生きること、人と出会うこと

境界

書道とは生きること、人と出会うこと

書道家、篆刻(てんこく)家
浜野 龍峰(はまのりゅうほう)さん

古典と現代アートの表現手法を融合させて書を追求する浜野龍峰さん。南米を中心に北米、欧州15ヵ国で個展やワークショップを開くなど、国も越えて活躍されている。さまざまな国で活動するなかで、どんなことと出会ったのか、大切にしていることは何なのかな…(続きを見る)

私たちが
取材しました

京都教育大学

京都教育大学

神道~古今東西の融合と未来~

境界

神道~古今東西の融合と未来~

神主
ウィルチコ・フローリアンさん

来日して日本の伝統文化に魅せられ、外国人として初の神主になられたウィルチコ・フローリアンさんに、国や文化の「境界」を越えてお仕事をされる中、そこからどんな世界が見えるのか、また日本と神道の未来について、どのような思いを持たれているのかについ…(続きを見る)

私たちが
取材しました

京都教育大学

京都教育大学

「女性」の働きやすさから「みんな」の働きやすさへ 〜swfiの映画業界変革〜

境界

「女性」の働きやすさから「みんな」の働きやすさへ 〜swfiの映画業界変革〜

SAORIさん(swfi 代表)、畦原 友里さん(swfi 副代表)

映画業界で働いている女性は悩みや問題点が多く、特に出産という人生の節目を経験し、仕事に復帰することが難しくなっています。そのため、私たちが注目したのは「映画業界の夢と現実」「職場と家庭」などの境界、あるいは壁のようなものであり、その境界を超…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

マガジンをつくるということは、まだ見たい世界があるということ

境界

マガジンをつくるということは、まだ見たい世界があるということ

クリエイティブディレクター
haru.さん

私たちは人生の節目や仕事での人間関係、他者との対話など日常のなかにさまざまな境界を見出しました。その境界を飛び越え自分らしさを体現しつつ、それらを受け取る私たちが昨日よりも自分らしく生きて行けるようなエッセンスを与えてくださるharu.さん…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

記憶と生活の儚さを描く

境界

記憶と生活の儚さを描く

アーティスト
大川心平(おおかわしんぺい)さん

油画作品を中心にアーティストとして活動されている大川心平さんに、「時間」や「人の影」を感じる独自の表現と、制作に対する想い、またその作品世界が現実社会の中でどのように存在していて、その「境界」は何なのか、お聞きしました。 …(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

武蔵野美術大学

「自分が欲しいもの」を信じること

境界

「自分が欲しいもの」を信じること

デザイナー、株式会社torinoko代表
小山 裕介さん

私たちがお話を伺ったのはデザイナーの小山裕介さんです。小山さんは京都出身で、京都の短期大学を卒業したのち、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科に編入しました。その後玩具メーカーや無印良品で商品企画・デザイン業務を経験しています。現在は株式会…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

点を紡いでいく伝統〜創作ぞうり店の挑戦

境界

点を紡いでいく伝統〜創作ぞうり店の挑戦

染の創作ぞうり 四谷三栄の3代目店主
伊藤実さん

2018年のLEXUS NEW TAKUMI PROJECTにて、ハイヒール型草履「ZORI貞奴」をデザインした伊藤実さん。洋装にも合わせられる画期的なデザインの草履は、日本に限らず海外でも愛されている。伝統技術を継承しつつ、柔軟な挑戦をし…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

ユニバーサルデザインの挑戦~誰もが暮らしやすい社会をめざして~

境界

ユニバーサルデザインの挑戦~誰もが暮らしやすい社会をめざして~

株式会社 武者デザインプロジェクト代表取締役
武者廣平さん

誰にでも使いやすく安全で美しい形態にまとめるユニバーサルデザイン。そのユニバーサルデザインを工業デザイナーとして実践している武者さん。特に近年はカラーユニバーサルデザインの推進に力を入れ、色弱者の支援や視覚情報の適正化・共有化を図っている。…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

畳からバッグ!?

境界

畳からバッグ!?

畳職人
青柳健太郎さん

地元の畳替えから、首相私邸の畳の制作まで手掛ける青柳畳店4代目の青柳健太郎さん。その作品制作活動の中、何よりも注目を浴びているのは、彼が作る畳を使ったオリジナルプロダクトだ。イギリスのキャサリン妃や、アメリカのミシェル・オバマ大統領夫人に畳…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

仏教のアップデート

境界

仏教のアップデート

煩悩クリエイター
稲田ズイキさん

仏教に付きまとう固いイメージ。僧侶の稲田ズイキさんは、そんな固定観念の境界を乗り越え、現代人にも分かりやすい形で仏教のイメージを刷新しています。時にはマンガを使って物語を創作し、はたまた映画をつくって、良いところは継承しつつ、仏教の固定観念…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

武蔵野美術大学

社会と人を繋ぐデザインの「新しい価値」

境界

社会と人を繋ぐデザインの「新しい価値」

デザイナー
若杉浩一さん

2019年、武蔵野美術大学に新しく創設された、クリエイティブイノベーション学科。新学科の教授として赴任してきた若杉さんは、デザインの「新しい価値づくり」をテーマに、新学科創設に携わり、現在、武蔵野美術大学と無印良品が提携する新しいプロジェク…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

武蔵野美術大学

和の庭を取り戻す

境界

和の庭を取り戻す

庭師
村雨辰剛(むらさめたつまさ)さん

スウェーデン生まれ、スウェーデン育ちの庭師。メディア、SNSに多大なる影響力を持つ。母国とはなるべく違う環境と文化の中で生活してみたいという気持ちがきっかけで日本に興味を抱く。23歳の時にもっと日本古来の文化に関わって仕事がしたいと思い、造…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

カンボジア人であり、日本人でもある私

境界

カンボジア人であり、日本人でもある私

役者兼カンボジア料理屋家族経営
諏訪井セディモニカさん

日本生まれ日本育ちの彼女はカンボジア人の両親を持つ純カンボジア人。母が営む料理店を手伝うかたわら、役者としても活躍するパワフルな一児の母。日本とカンボジアの境界で今まさに活動されている彼女に、カンボジア料理のことや彼女にとっての日本、そして…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学

武蔵野美術大学

フランス人の落語パフォーマー!?

境界

フランス人の落語パフォーマー!?

落語パフォーマー
シリル・コピーニさん

落語パフォーマーとして活躍されているシリル・コピーニさん。シリルさんは、いつ日本文化と出会い、なぜ日本の伝統芸能である落語に興味を持ったのだろうか。また、フランス人でありながら日本文化に精通しているシリルさんが実際に感じている日本人とフラン…(続きを見る)

私たちが
取材しました

武蔵野美術大学