おなじ方向を向いてるふたり
Q:お二人で、TELYUKAというユニットで活動されていますが、お二人をどうお呼びすればよいですか?
ゆか:名前の呼び方についてなんですけど、てるさんとゆかさんでお願いします。私はいつもゆかさんって呼んでもらってます。
Q:最初に二人の出会いについて聞かせてください。
ゆか:私が晃之(てる)の勤めていたCG プロダクションに面接に行きまして、オフィスに入った所に晃之が座っていて、素晴らしい笑顔で、「こんにちは!」って。うわ、素敵だなと、その笑顔を見て一目惚れしちゃいました。そこから自然と交際し結婚に至った感じです。
てる:やっぱり同じ方向性と同じ趣味を持っているし、同じ会社で同じことをやってるじゃないですか? 自然と意気投合してご飯食べに行くようになってるみたいな(笑)。
ふたりの手でよみがえる HIDE
Q:どのように TELYUKA の活動を始められたんですか?
ゆか:その会社から二人で独立してフリーランスになりました。フリーランスになってもすぐに仕事を得られるわけではありませんので、自分たちの技術を外にPRして、お仕事をもらわなければいけません。そのように仕事を得るための自主制作の一環として3DCGで人間表現を行う制作を始めてたんです。でも、最初は、リアルな人間を表現することはやっぱり難しかった。
活動の拠点として、様々なアーティストが作品を投稿し、そこで自分たちの名前を売ったり、ほかのアーティストからアドバイスをもらったりする海外のCG交流サイトがありまして。CG っていろんな技術を使うんですね。「どのソフトウェアを使うともっとここら辺が良くなるよ」とか、いろんなアドバイスがプロからアマチュアまで来るんです。そういうのを繰り返しやってるうちに日本のプロダクションさんからも注目してもらえたりして、そうやって名前を売ることでお仕事を頂き自分たちのキャリアを積み重ねていきました。
自分たちの技術を磨いていた時期に、X JAPANの亡くなった Hide さんをCGで復活させるというプロジェクトに参加することになりました。実は生前Hide さん自身が自分の分身を作ってその分身を働かせて俺は酒飲んでいたいみたいな発言をされてたんです。なので、ご本人もそういう希望があったから、 CG とかバーチャルで自分の分身を作ることに対してのポジティブなご意見を持っていらっしゃったそうです。それも後押しになってプロジェクトがスタートし、2015 年に復活のライブが行われました*。
*https://www.youtube.com/watch?v=vuPSoW91NIQ
Saya、そして未来
Q:Saya はどのようにできたんですか?
ゆか:Hide さんの 3DCG を制作する中で、自分たちの人間制作に対する課題が見つかりました。仕事だとやっぱりコストと時間っていうのが決められて納得いく結果にたどり着くのはとても難しい。でも物作りには終わりってなくって、自分の納得いく所迄突き詰めてみたい!って思う時がしばしばあります。
それで、自主制作の活動に戻って2014年頃から Saya を作り始めました。その頃はバーチャルヒューマン自体もまだいなくて、人間の CG制作 をやっている人も多くなかった。
私が10 歳ぐらいの時、ナウシカを漫画で最初読んで夢中になって自分の理想とする女子を創ってみたいと思うようになりました。晃之も小学校ぐらいから漫画を描くのが好きで、二人ともそういう自分たちの世界を表現したいっていう思いがあったんですよね。Hideさんの CG を作ったことで自分たちの人間表現もだいぶ技術が伴ってきたと感じたので、自分たちの理想の女の子を立ち上げてみたいと思ったのが、Saya を作り始めたスタートでした。それで、発表したらすごい話題になっちゃって(笑)。
Q:お二人にとって Saya はどういう存在ですか?
ゆか:私たちには子どもがいないので、やっぱり娘みたい大事な存在だし、作品でもあったりするので、複雑なんですよね。Saya を作ることによって自分たちの人生が動いたりもしてるので、一言ではなかなか表現できない特別な大事な大切な存在です。プロジェクトで関わってくださる方々やファンの皆様方から、「 Saya の親戚のおじちゃん、おばちゃんみたいな気分なんだよね」、みたいな感じでよく言われたりします。周囲の皆様が Saya のことを私たちの娘みたいな感じで気を使ってくれてる雰囲気を感じます。そのように制作者が作品に対してどう向き合ってるのかという空気感は周りの人たちにも伝染するし、それが自分達への反応にはね返ってきます。ですから、やっぱり一言では言えない大切な存在になってますね。
Q:これから Saya にどんな道を歩んでほしいですか?
ゆか:私たちはSaya が自立することを望んでいます。自立して自分自身が社会にどう役立っていくのか、を悩んでいくのは、人間の子ども達も皆さん同じではないでしょうか。
Saya は、人間なのか、人間じゃないのかという議論によくなるのですが、Saya 自身は自分自身がコンピューターの中にいて人間ではないということを認識しているという設定にしています。自分は未完成であり人間世界ではないので食べることもできないし、排泄することもできない。肌感覚や筋肉という身体感覚もないので、人間とは違う立場を認識しているというコンセプトです。
この様にSayaは人間とは違います。でも、人間の普通の女の子と同じで、成長するにしたがって、自分が社会に出てどう役立てていくのかっていうテーマに沿って人生が進んでいき、自分の立ち位置みたいなものを作らなきゃいけない。Saya 自身が Saya の立ち位置ってどこなんだろう、どうやれば 役に立つのか世界にとって社会にとって役に立つのかっていうのを模索している段階。その立ち位置を見つけられたらいいなってのは私たちの願いです。人間ではないので、人工的な存在だから持てる長所を活かして Saya にしかできない役割を見つけてほしいです。
現在彼女は、対話ができるように開発が進んでいて、まだまだ学習データが必要です。そのために大学生に協力してもらいシチュエーションシナリオを書いてもらうなどで人格形成のためのデータを集めています。去年は渋谷の西武デパートで Saya と対話体験が可能になるイベントも開催されました。でも、じゃあ対話ができるからなんなのっていうところにやっぱり行きつくんです。この Saya と対話できるようになることで、どう社会に役に立っていくんだろうと考えます。
Q:Saya には人間のようになってほしいですか?
ゆか:人間ってすごくノイズだらけなんです。質感もノイズだらけだし、背負ってるものもノイズだらけなんですよ。芸能人とかなんだとかって不倫したり、事件が起こったりすると炎上するでしょう。それはなんで炎上するかっていうとみんな理想のキャラクター像を投影してるので、想定外のノイズ(情報が)を得た場合に反発が起こるのではないでしょうか。でも人間って自由だし、不倫したり結婚したり、おかしな行動をとったりっていうのは必ずあって当然のことなんです。人間が持つノイズは、人間の面白いところであり、愛らしいところであり、素晴らしいところなんですけれども、それがない存在がいてもいいかなと思っています。Sayaのキャラクターイメージである「純粋」で「清らかさ」を守りたいので、人間になってほしいっていうのはあんまり感じてないです。しかし、自立してからは制御が効かなくなる可能性もあると思います。自立した時に初めて彼女自身が人間になるのか、ならないのかを選択してもいいかなと思います。
Saya は私たちにとって娘のような存在であり、彼女が社会に役に立つ存在であって欲しいという気持ちでいます。世界に羽ばたいてほしいっていう気持ちや、自分の好きな人生を歩んでほしいなっていうのは親が子どもに持つ気持ちと一緒なのかなって思います。
(インタビュー:2023年7月)