生理のバリアをなくす—大阪大学MeWプロジェクトの挑戦

大阪大学

生理のバリアをなくす—大阪大学MeWプロジェクトの挑戦

PEOPLEこの人に取材しました!

アインさん

大阪大学国際協力学研究室研究生

月経に関する話題は、長い間、社会的なタブーや偏見の対象となってきました。しかし、月経は誰にとっても日常の一部であり、それを自然なものとして受け入れる社会が求められています。大阪大学で発足したMeWプロジェクトは、このような月経に関する課題に向き合い、学内外でその重要性を訴える取り組みを行っています。教員と学生が一体となり、無料の生理用品を学内に設置する活動を中心に、月経がある人々の生活をサポートするためのさまざまな活動を展開しています。本記事では、MeWプロジェクトのメンバーにインタビューを行い、その活動内容や意義について詳しくお話を伺いました。

Q:MeWプロジェクトについて簡単に知らない方々のために紹介してもらえますか。

MeWプロジェクトは、大阪大学で教員と学生が協力して活動するプロジェクトです。このプロジェクトの主な目的は、学内の女子トイレやALLジェンダートイレに無料で生理用品を配布することで、月経がある人が快適に学校生活を送れるようにすることです。

Q:MeWプロジェクトという名前の由来を教えてください。

「MeW」という名前は、「Menstrual Well-being」の頭文字を取ったものです。この名前には、月経に関する理解を深め、社会全体での意識向上を目指すというプロジェクトの理念が込められています。

Q:生理用品のディスペンサーに生理用品を入れるだけではなく、他にどのような活動がありますか。

MeWプロジェクトは学内活動だけにとどまらず、学外でもさまざまなイベントを行っています。たとえば、国際女性デーを記念した、国際シンポジウムの「学校における月経をめぐるヘルスプロモーション」を実施いたしました。また、Menstrual Hygiene Dayを記念して、大阪大学人間科学部のカフェでイベントを実施しました。このような取り組みを通じて、学外の人々とも連携しながら月経に関する意識向上を図っています。最近では援助団体と意見交換を行い、月経用品の提供や教育における新たな可能性を模索する活動も行っています。

Q:学内での生理用品の提供や配布方法について具体的に教えてください。

生理用品はMeWディスペンサーを通じて配布されています。このディスペンサーは、1枚ずつ簡単に取り出せる設計になっており、利用者が気軽に使えるよう工夫されています。設置場所としては、人間科学部の場合、共用部や個室にそれぞれ配置されています。現在では吹田キャンパスだけでなく、豊中キャンパスでも設置が進んでおり、学内全体で利用できる環境が整いつつあります。こうした取り組みは、学内の多くの関係者の理解と支援を受けて実現しているものです。

Q:MeWプロジェクトを通じて、大阪大学はどのような成果を目指していますか。

MeWプロジェクト自体は大阪大学人間科学研究科の一研究プロジェクトという位置づけです。それは月経がある人々が月経に妨げられることなく、学校や社会で活躍できる環境を作ることです。この取り組みを通じて、月経がもたらす困難を軽減し、学生たちが学業や活動に集中できるようにすることを目標としています。

Q:協力や支援はどのように行われていますか。

MeWプロジェクトは、学生と教員の協力によって運営されています。人間科学部の方々がボランティアとして生理用品の補充や運営に携わっており、人間科学部以外の学生も積極的に参加しています。また、ディスペンサーにはQRコードが設置されており、利用者の声を集めてデータ分析を行い、サービスの改善に役立てています。また、大阪大学D&Iセンターや、各部局の事務部の方のサポートで、学内の設置が広がりました。

Q:性教育の改善を促進するためにMeWプロジェクトはどのような取り組みをしていますか。

性教育と月経教育は別の分野ですが、MeWプロジェクトは月経教育に特化しています。性教育は避妊や生殖健康、LGBTなど幅広いトピックを含む一方、月経教育は月経に関する諸問題に焦点を当てています。MeWプロジェクトは、月経教育を通じて月経に対する正しい知識と理解を広める活動を行っています。このような取り組みが性教育の一部としての役割も果たすことがあります。

タブーとされる月経―変わるべき認識について

Q:月経とは、どうしても他人に話せないタブーな話題だという意識があると思いますが、この意識に関して変わって欲しいことがあれば教えてください。

皆さんは、生理中つらい時相談する相手はいますでしょうか。それとも男性の方々に、生理に関して相談してもらった経験はありますか。普通の人はこの質問に「いいえ」と答えると思います。急に生理がくると辛い経験をするのは誰にとってもありうることです。私の個人的な意見ではありますが、生理が、みんなにとってオープンに話せる話題になったらいいなと思っています。 また、皆さん「月経」と「生理」という単語の違いは知っていますか。この生理という単語は、実は隠語です。月経は医学的な、テクニカルな用語なんですが、それに対して生理は隠す言葉ということです。私の母国ベトナムでもそうですが、こんな感じで月経に関するタブーはいまだに残っていますね。「今生理でこんなにつらいのに誰にも話せる相手がいない」とか、「生理の話をして気まずくなったらどうしよう」と悩んでしまうことがよくあると思います。今後、生理痛も頭痛みたいに気軽に、自由に話せる雰囲気に変わるといいなと考えています。

Q:アインさんが留学生として、ベトナムと日本での月経教育の違いや、気づいたことがあれば教えてください。

初経という言葉があります。初めての月経という意味なんですけど、月経が始まってから月経を学ぶことももちろん重要ですが、私は月経が始まる前の準備するための教育の方が重要だと思うんです。だって、メンタル的な準備とか、生理用品の種類であったりとか、いろいろ勉強することが多いですからね。でも、日本に比べてベトナムでは、あまり大事にされていないというか…初経をしたら母親とかお姉さんから教えてもらうことが多いんでしょうね。学校のカリキュラムと教科書にそういう内容が全く載っていないんです。

なので、初めてのステップとして何より思春期の女の子に注目していかなきゃいけないと思います。そして先ほど言いました通り、まだタブーがあるので、女子の間だけじゃなくて男女の間で会話できるようにすることも大事になりそうです。

Q:特に日本に来て驚いたところはありましたか。

驚いた点は、まず公衆トイレがすごく綺麗なところです。私が学部生のとき、卒論を書くときにベトナムの方々から聞いたことなんですが、ベトナムにこのMeWディスペンサーができたら使いたいと思うかと質問したら、みんなが使わないと答えたのです。なぜかというと、ベトナムの公衆トイレはすごく汚いんです。その汚い空間にあるものを使いたいとは思えないし、しかも無料で何かを提供する活動について疑問を持つくらいらしいのです。それが日本とベトナムの一番大きな違いではないかと思います。そして、私は学部生の時、英語コースだったので生理が辛いときは気軽に「I’m on my period」と英語で言ったりしていました。私、今日生理だよという表現がこれだったんです。でも、ベトナム語ではこんな話、すごくしづらいです。なぜなら、ベトナムにこういうことを気軽に言える文化がないからなんですよね。私も、生理について研究しているのですが、ベトナム語で生理について話そうとするとなんだか違和感を感じたり気まずくなったりしてしまいます。どうやって表現すればいいんだろうーみたいな感じです。

Q:ちなみにこれは言語の壁、文化の壁どっちだと思いますか?

私は、言語の壁は、結局文化の壁からくるものだと思います。文化的にタブー化されているわけですから、言語的にもそういう経験を口にすることがなくなるので、どう伝えれば良いんだろうと迷ってしまうんでしょうね。

Q:MeWプロジェクトに参加しながら感じたこととして、日本とベトナム共通で改善していかなければいけないことがあるとしたら、何があるんでしょうか。

タブーの話になるんですけど、男女間の理解の格差の改善が大事です。あ、でもその前に、女性同士でも理解し合う必要があると思います。女性でも生理痛がひどい人がいればそんなにひどくない人もいます。そういうとき、つい「そんなに痛いの?」って女性同士でもうっかり傷つくことを言ってしまいますよね。なので痛みを理解しようとすることが大事です。

また話を戻しまして、男女間というのは全て理解しあえない関係でもありますよね。ある女性から聞いた話ですが、生理休暇制度の利用について。その職場では上司の9割が男性の方々で、所属していた部署では生理休暇をとっている女性は、彼女1人だったらしいです。もちろん生理休暇を許可する管理課の人も男性だったらしく、彼女が生理休暇を申し込もうとした時、先月と今月の申請日付が少しずれているじゃないかと、管理課の方から「嘘ついているんじゃないの?」と叱られたそうです。その状況は男性の方が、毎月同じ日に生理が来るということしか分かっていなくて、疑うしかなかったんでしょう。なので、月経教育というのは、男女一緒に受けさせるべきか、男女別で内容を異なるようにするかの議論が広まっていますよね。

Q:最後にこの記事を読んでいる色んな方々に向けて何か言いたいことがあればお願いします。

一番言いたいことは…できれば周りの月経を経験している人々に楽な雰囲気を作ってほしいです。女性同士でももちろんいいんですけど、男性の方々も、周りの人が月経で苦しんでいたら是非手伝ってください。もちろん難しいことではあるんですけど、皆さんの小さい心遣いが一番大事ではないかと思うので、自分ができることをして理解していけば私としてはすごくありがたいです。

(インタビュー:2024年11月)

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