マスク研究との出会い
Q:マスク研究家になろうと思ったきっかけはなんですか?
研究者になれたらいいな、と子供の時思っていたんですけども、大学院くらいまではなれるのかどうか分からなかったですね。就職は選択肢がいっぱいあるじゃないですか。だから研究者になるのもあるし、普通にメーカーとかで技術職になるっていうのもあるし。まあ、理系は理系だと思ったんですけれども。今の前の職場が労働科学研究所っていう所なんですけど、そこは日本で初めてマスク研究を始めた研究所なんですよ。
日本とマスク研究の歴史
Q:日本のマスクの歴史はどれくらいですか?
一昔前の日本では石炭や鉱物の採掘現場があちこちにあって、そこでは粉塵がすごかったんですよ。穴を掘って行って、穴の中でさらに掘っているわけだから、そこに粉塵が舞って、それを吸い込んで肺に詰まって死ぬ人がいっぱいいたんですね。だから、作業者は将来的に息を吸っても空気が体に回らなくなって死ぬ、というのが当たり前の労働だったんですけど、そこでマスクをつけて粉塵を吸い込まないようにしたのが日本のマスクのスタートなんですね。もうちょっと時代がおりてきて、感染症が海外から日本に来た時に一般の人もマスクを付けだして、だんだん普及してきて、今は一般人が一番マスクをつけている時代なんですよ。今までは特別な仕事をしている人しかつけてなかったんですよね、マスクなんて。10年前だと日本でマスク付けてたら「あの人なんだろう。」という感じだったんです。ほんとここ10年くらいで国際的な感染症がいくつもあって、MERSとか、2年前の鳥インフルエンザとか、SARSとかがわりと日本の近くの韓国とか中国であって、花粉症、PM2.5もあって、っていうので一般市場にマスクが出るようになって、最近では可愛いマスク、柔らかいマスクとかもいっぱい出てきて今に至ります。今はフィルターだけではなく、顔にぴったりくっ付くような工夫がされているんですね。呼吸器防御って言います。こんな風にマスクにも歴史があるんですよ。一般のマスクはここ10年ぐらい、産業用のほうはもっとずっと昔から。
マスクと国民性
Q:日本以外にもマスクを日常的につけてる国はありますか?
韓国の人もファッションや風邪予防としてマスクをつけているし、ベトナムとかはバイクが非常に多いから、粉塵がすごくて、予防用のマスクみたいなのがあるんですけど、環境的にきれいな場所なのに、マスクをいっぱい付けているのって日本人ぐらいですよね。日本のマスクは性能がいいから中国の人が爆買いして帰るらしいです。多分日本人って手洗いとうがいも他の国の人に比べるとよくするんです。元々、衛生意識がすごく高くて、今ではなんでもないときにでもマスクをする人がどんどん増えています。そのように日本人が綺麗好きだってことと、マスクをつけると安心できるっていう説もあるんですね。あと、日本人っていろいろなものを工夫してどんどん可愛いものを作ったりとか、いろいろなバリエーションを増やしたりするのが得意ですよね。それに上手くはまったのかなという感じはしますね。まあ、ただ単に環境的にPM2.5とか、付けなきゃって思わせるようなものが身近で発生したからかもしれないですけども。
産業用マスクの用途
Q:N95の認定を受けたマスクははどのような場所で使用されているんですか?また、N95とはなんですか?
これは工場とか、産業用で使っているマスクなんですけど、最近一般にも出始めています。需要があるので、この N95 っていうのはね、感染病棟とか結核病棟といったところで、ウイルスなどを吸い込んでしまうと大変危険なので、看護師さんとかが使うマスクの認定なんですよ。これはね、ちゃんと付けるとウイルスを99.9%以上とカットするものなんですけど、ちゃんと付けなかったら全然意味ないんですね。工場で使うマスクの一番軽いタイプなんですね。作業に入る時につけて、終わったら捨てるタイプ 。ダースベーダーみたいになるやつは、あれは使い捨てじゃなくて、フィルターのところだけいっぱいになったら捨てて替えるんですよ。
マスクの使用理由
Q:最近のマスクをつける理由をどう見ていますか?
労働現場だと、マスクをつける理由って体に悪いものを吸いこまないのと、自分が病気の時に他の人に移さないためなんですね。でも、そうした理由ではなくて、すっぴんを隠すため、つけたほうが安心するという理由でつけている人もいるし、風邪予防でつけている人もいて、理由はいろいろですね。まあ、つけると安心するっていうのはそれが無いと仮に家に引きこもっちゃうよっていう人がマスクすることでちょっと外に出やすくなったりするんだったら別に全然いいと思うんですけど。ある意味ファッションですよね。日本独特だと思います、ああいう様なのは。多分ざわちんあたりからファッションマスクが広がってきたんじゃないのかな、っていう気がしているんですけど、その前はそんなマスクでファッションとかゆう考え方自体がなかったですよね。なんで、これもすごく最近の新しいマスクの使われ方。商品とかもそこでぶわーって増えましたね、女の子向けみたいなのが。 いままで出てこなかったけど、そうゆう欲求はあったんだと思うんですね。
※ ざわちん – ものまねメイクで有名な芸能人。また、彼女はものまねメイクをする際マスクをよくつけている。
マスク研究者としての経験
Q:マスク関連で行った場所、普段では経験できないことはありますか?
学会でいろんなとこに行きます。そのひとつが、国際呼吸保護学会です。これは、マニアックな呼吸保護に特化したようなマスクメーカーとマスクを研究している人が、世界中から集まる学会なんです。工場で使うマスクよりもうひとつハードで、災害現場でつかうマスクっていうのがあるんですね。テロのときとか、フィルターを背負って危険な現場に一番最初に入る人が使うマスクなんですよ。だから、粉塵も化学物質も全てのものを防ぐ、それなりのボリュームがあるフィルターを背負っているんですね。
また海外に行ったり、色々な経験をしました。例えば、2年前の年末に「マツコの知らない世界」というTV番組に出ました。そこで仕事の幅がすごく増えました。ここ3、4年で色々やってみようかなと思いだし、今まで行ってなかった学会にも行きました。そして、来た仕事は出来るかなあとは思わずとりあえず受けています。たまに「あー、やっちゃった」っていうハラハラは増えたけど、初めてやることが多かったからだと思うんです。でも、広がる事が多いからやってみるもんだなと思います。なので、他人がやってみないかということはなんでも引き受けてみようと思っているんですよ。
マスク研究の将来
Q:今はどんなマスクを開発中ですか?
一般用のマスクの性能を上げようとしている途中なんですよ。一般人が使い出したのも最近だし、性能の改良を始めたのも最近なんで。目的に合わせてマスク選んでほしいんですよ。マスクの性能はよくなってきてるんですけど、付け方が難しかったりとか、ちゃんとつけてもあんまり防御効果のないマスクが市場に出たりしているんです。ちゃんと付ければ99%カットしますっていうマスクじゃなくて、大体の人がざっくり付けても50%くらいカットしますよっていうマスクがあるといいなって思ってるんですよ。いまメーカーさんと一緒に開発実験中です。
Q:マスク開発においての失敗はありますか?
マスクの開発に関わり始めたのは、10年くらい前だったけど、もとは労働者が使うマスクがメインでした。そこから、一般の人もマスクを使うようになってきました。私は子供がいるのですが、子供用のマスクってすごい少ないんですよ。子供に使えるマスクを、子供被験者にして、こうゆういろんな産業のマスクで実験をやってみたんですけど、ちゃんと付けられないんですね、大人でも説明書を読んでも分かりづらいじゃないですか。子供は全然わからないですね。でも震災が起きたら呼吸器の防御をまずやってあげないといけないのって子供なんですね。子どものほうが細胞分裂がはやいから、同じ粉塵を吸ってもガンになりやすいんですよ。
Q:将来的にどんなマスクを作りたいですか?
産業用のマスクで、ゴムの面体のものですが、マスクの中に汗がたまってしまいます。鼻に当たる部分ををね、ぎゅっと抑えるんで、メガネの人がメガネが浮いたり、なにかしらつける人に対する負荷があるんです。ちょっと息苦しかったり暑かったり、そうゆうのを我慢してつけるものなんですね、今のところ。なので、ストレスフリーのマスクがそのうち作れるといいなって。
伝えたいこと
Q:マスク研究者として、学生に伝えたいことはありますか?
いまね、マスクいっぱい売ってるじゃないですか、みんな多分、こう引っ掛ければ完了と思ってると思うんですけど、そうじゃないんですよ。マスク自体は良くなっても、人がそれをちゃんと理解して付けられないと、その性能が出せないところが面白いなと思っています。すごく良いマスクですよと言ってメーカーさんが出しても、つける人が付け方が難しくて分からなくて適当に付けたら全然意味がないので。
まず自分のサイズにあったもの、それからつけたあと自分の顔にちゃんと合うデザインを選んでほしいですね。人は顔全然違うじゃないですか。日本人のようにぺったりしてたり、ほりが深い人もいるでしょ。だから、それぞれ合う合わないがあって、それをね、自分で調整しないといけないんですよ。調整しなおす、くらいちゃんとつけて、初めて性能が出せるものなんですよ。だから、私がみなさんに伝えたいことは、自分に合ったサイズのマスクを見つけて、正しいマスクの付け方をして、ウイルスをカットしてほしいということです。
Q:個人的に、学生に伝えたいことはありますか?
最近は、女性は結婚して家庭に入りたい人が増えてると聞いています。本当ですか?「なんてもったいない!」と思います。ぜひ、一生働くくらいの気持ちを持って、仕事をしてほしいです。仕事って、楽しいですよ。嫌なこともありますし、嫌な人にも出会いますが、それ以上に楽しいことの方が多いです。仕事か家かなんて考えずに、両方手に入れて下さい。社会の制度が整うまでなんて待っていたら、おばあちゃんになっちゃいますからね、自分の周りにいる人には誰にでも助けてもらうくらいの気持ちで、欲張りになって頑張ってほしいです。
(インタビュー:2017年6月)