将棋の志―将棋を指す意味

横浜国立大学

将棋の志―将棋を指す意味

PEOPLEこの人に取材しました!

本川卓佐(もとかわ たくさ)さん

横浜国立大学3年生、将棋サークル「若葉会」主将

本川さんは横浜国立大学の将棋サークル若葉会の主将を務めています。将棋ソフトについての考えや将棋の普及のために必要なことなどを聞きました。

横浜国立大学の将棋サークル、若葉会

Q:若葉会を簡単に説明してください。

将棋サークルですから基本的に将棋を指します。学期中は週に2回会って活動をして、希望者は週末を利用して大会に参加しています。サークルの中には色んな人がいて、大きく2つに分けられます。将棋を頑張りたい人と、将棋を通して友達を作りたい人。若葉会は両方応援しています。

Q:若葉会の前にも、横浜国立大学に将棋サークルがあったと聞きましたが、なぜなくなったんですか。若葉会が創設されたのはいつですか?

前にあったサークルは人数不足でなくなりました。今もOB会に行くと前のサークルの人に会えます。若葉会が創設されたのは6年前かな。創設した先輩とは少しの時間の差で会えませんでしたね。

将棋を指す理由

Q:本川さんが将棋を始めたきっかけは何ですか?

私がまだ4歳だったころのことです。母親が出産で病院に入院しました。その時に病院に行って母に将棋を教えてもらいました。

Q:小学生のころから全国大会で何度か優勝や準優勝をしたと聞きましたが、全国大会に出ようと思った理由は何ですか?

私の家は昔、ゲームやテレビみたいな遊びが禁止でした。ジャンクフードや漫画などもダメで、一番の楽しみが将棋でした。それで平日学校が終わったら5時間、休日は12時間くらい将棋を指しました。
それに小さいころ行ってた将棋教室では、同世代でも熱心にやってる人が多くて自分も真剣に将棋を指すようになりましたね。全国大会に出たのもそういう理由だと思います。

Q:同世代の人たちの影響が大きかったと。

そうですね。同世代の人がいるかいないかの差は大きいと思います。特に子供の頃は友達が大会に出ると言ったら自分も出たくなるものですからですね。
私自身も同世代間の交流もあって自然に全国大会まで挑戦することになったんだと思います。

Q:最近の将棋界は人が指した手を分析してくれる将棋ソフトの影響を大きく受けていると思いますが、それについての普段の考えを教えて下さい。

ソフトに関しては色々な意見があると思います。一つ確実に言えるのはソフトによって将棋への理解が深まったということですかね。どういう手がいい手なのか、それともどういう手がよくないのか。
しかし私はそういう傾向が正直好きではありません。ソフトを使って、最初にどういう手を指すかを研究してアマチュアのレベルは非常に上がったと思います。序盤に限ってはプロとアマの差がだいぶ少なくなっているほどです。その分ソフトを使って研究をするのが大事になっています。
研究していない人は勝てないのが今の状況です。考える将棋から覚える将棋に変わっているのです。
今まで町道場などでおじさんたちが扱っていた面白い戦法が、いい手、悪い手で区切られて、どんどん使える戦法の数が減っています。幅が狭くなると言ってもいいかもしれません。
その点で私は将棋ソフトによって変わってゆく傾向は好きではないと思っています。
でもこれから将棋を始める人にはあまり関係のない話かも知れませんね。

対戦前の将棋盤

将棋の普及

Q:それでは将棋の普及についてはどう思いますか?

将棋の普及には種類が二つあります。一つは強い子の育成で、もう一つが初心者数を増やすことです。
プロ棋士になれる候補の子供や大会で成績を残す人たちを育成するのも一つの普及だと思います。強い子供たちを育てるために日本将棋連盟も頑張っていて、研修会、奨励会などの育成組織を運営したり、普及指導員を幅広く受けたりしています。
二つめは初心者数を増やすことですが、その方法はまた別です。テレビやメディアで興味を引く人たち居ますね。藤井聡太君と加藤一二三先生みたいな。そういう話題性を持っている人たちが活躍して有名になるのも将棋の普及においてすごく大事だと思います。もう一つ大事なのは日常に将棋を溶け込ませることですね。将棋を指しながらお酒を飲める将棋バーや学童みたいに。学童は放課後家に保護者がいない小学生を対象とした施設です。家に保護者がいない時遊べる施設といえば分かりやすいと思います。こういう学童に将棋を教える人がいたり、将棋の盤と駒が置いてあったりしたら、初心者がもっと増えると思います。

Q:動物将棋みたいな子供向けの将棋や将棋を主題としたアニメなどについてはどう思いますか?

すごくいいと思います。動物将棋は私たちにとっては少し物足りない気もしますが子供たちが遊ぶにはすごくいいと思います。動物将棋は今は有名ですけど最初はあまり有名じゃなかったんですね。日本将棋連盟が普及に頑張ってくれたおかげで今こんなに有名になったのです。
アニメがきっかけで将棋を始めたという人もいますね。将棋が日常生活に溶け込んでいくという意味ですごくいいと思います。

Q:他に初心者が関心を持ちそうな将棋のイベントはありますか?

神奈川県の三浦三崎で開催される三崎マグロ大会ですかね。優勝すると大きいマグロが一本もらえる大会です。若葉会も毎年参加しています。サークルのみんなと行って参加しました。優勝はできませんでしたけど小さいマグロはもらえましたね。最近他の地域でも特産品を配る大会が流行っています。滋賀県ではメロンを配ったり、神奈川県ではさっき言ったマグロを配ったり。こういう大会も面白いと思います。

将来、そして主将として叶えたい夢

Q:今将棋を教えるアルバイトをしていると聞きました。将来将棋関連の仕事をすると思いますか?

アルバイトは大学生の時にするものですから、自分の経験したことがないアルバイトに挑戦した方が面白いかなと思いました。それに自分の知識を活かせるのもメリットでしたね。
将来将棋に関連する職に就こうとは思ってないです。結果的に関係するところに就くかも知れませんけど今は将来のことは考えていません。

Q:今、主将を務めていますが、中学高校ではどうでしたか?

熱心ではありませんでしたが、中学高校でも将棋部に入っていて、ずっと主将をやっていました。

Q:主将としてプレッシャーなどを感じたことはないですか?

感じます。主将の仕事は勝つことです。強い人が選ばれるんですから勝たないと意味がないですからね。
特に団体戦ではプレッシャーと責任をすごく感じます。チームが勝てばいいんですけど自分のせいでチームが負けちゃった時。責任を感じますし、プレッシャーも大きいです。
強い人が強いのは勝てるからです。ずっと負ける人はそう強いと言えないわけです。強い人が主将である以上、主将のあるべき姿は勝ち続けて皆を盛り上げることだと思います。

Q:「これだけはやりたい」というサークル内での夢はありますか?

団体戦で全国進出するのが夢です。 クラスがA、B1、B2、C1に分けられていて、Aクラスの上位2位まで全国に行くことができます。若葉会は前はB2クラスだったから全国進出は最初から無理だったのですが、今はB2からB1に、B1からAクラスに上がりました。
今度の団体戦では全国に行くことはできなかったのですが、Aクラスに残留することが確定しましたので、これからもチャンスはもちろんあると思います。私が卒業するまで1年半、3回大会が残っていますが、その3回の内に関東大会で優勝して全国大会に行くことが目標です。

(インタビュー:2019年5月)