環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。
といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。
▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。
2021年、6月に開催された第4回目のテーマは、すべての生き物にとって欠かせない「水」を自力で調達する方法。川から水を引く、井戸を掘るといった採水方法と比べて、地理的な条件に左右されず、初期投資も小さい方法としてテンダーさんが実践するのが雨水の利用です。たかが雨水と侮るなかれ。日本ではちょっとした家の屋根に降る雨量は、人ひとりぶんの生活用水と同等の量になるのだとか。
いくつかのタンクとそれらをつなぐ配管類さえあれば、雨水を溜めるのは簡単。しかし、それだけでは空気中や屋根に積もった汚れも一緒にタンクに入ってしまいます。そこで取り入れるのが、降り始めの汚れの多い雨だけをカットする「ファーストフラッシュ」という機構です。シンプルだけど効果の高いシステムで、自宅の屋根を水源に変えます!
目次
1.場を共有する「よろしく&スマートシステム」
世界中に散らばる参加者をオンラインでつなぐ本講座。
オンライン通話特有の、通常ならノイズ低減のために参加者のマイクをミュートする場面で「できればそれはしたくない」とテンダーさんが語りかけるところから講座が始まりました。
「この講座では基本的に誰かをミュートにしません。現実の世界では、その場にいる人をいきなりミュートすることはあり得ないし、たとえできたとしても、誰かの発言には価値があって別の誰かの発言は価値がないってことを場で共有することにもなる。とはいえ、みんながあまりに自分の立てる音を気にしないと、ノイズで話が聞けなくなるので、今日は自分の出す音とリアクションに自覚的であってほしいのです。
みなさん、よいですかー?
………
……
… そう、こういう場面!!
呼びかけには返してもらえないと、わかっているかいないか、楽しいかそうでないかをオンラインでは共有できないんです。だから、現実に場を共有したときのように反応を返しつつ、自分の立てる音のことも意識してください」
しかしそれでも、オンラインではどうしてもうまくいかないこともある、とテンダーさんが取り出したのが1枚のボードでした。
「これは秘密兵器の『こちらはよろしくやってます。』ボード。今日はみなさんがご家庭から参加しているので、子供が泣いたり、隣家の犬が家に入ってきたり、庭のビワをお隣さんに食べられたり、といったことがあるかもしれません。そんなときはこれをカメラの前に置いてください。そうすると技術的なトラブルが起きているのか、単に離席しているのかがこちらにわかる。今日の講座は録画をしているので、後からゆっくり自分のペースで再生できます。だから、疲れちゃったり、諸般の事情がある人は無理をしないで『よろしくやってます。』ボードを掲げてください。ようござんすか?」
そして、大人の参加者にはもうひとつお願いがあります、とテンダーさん。
「この講座は本来、中高生向けのものです。こういったワークショップで起きがちなのが、年配の人が若年者に教えてあげようとする現象です。でも、プロセスのすべてに学びがあり、失敗にさえ学びがある。だから若者たちが試行錯誤をしていたら、いきなりゴールに連れていこうとせずに温かく見守ってほしい。私はこれを『スマート先輩システム』と名づけました。中高生が本当に困ったり、危ないときにだけ介入してください。それが『スマート先輩システム』です。今、事務局の手で、ZOOM上の大人参加者のお名前末尾が勝手に『スマート先輩』に変わっていってます。それではみなさん、始めましょう!」
2.雨水タンクをどこに設置する?
テンダーさんからは集水システムの概念図と、購入するべき素材のリストが事前に配布されていました。この絵とともに、自宅のどの雨樋から水を集めるかを考える宿題も出されていました。屋根に降った雨は樋へと流れ込み、垂直方向に水を落とす「縦樋」のパイプで排水されます。今回作るシステムは、この縦樋を切って途中に接続することになります。
「さて、ご自宅のめぼしい雨樋をチェックしてもらっているはずですが、みなさんそれは首尾よく済んでいる? 縦樋にシステムを接続する高さを決めて、もう切っているかしら?」
≪参加者≫ 「切ってないです」「まだでーす」
「良かった! 先に出した指示では『縦樋を切っておく』と書いたんだけど、全体のシステムができてから切ってもいいなと思い直していたので。それでは、ご自宅の縦樋とそれを切る位置を心の中に思い浮かべてください。それを想像しつつ見てほしいのがこの組み立て図。システム全体は横幅が1mぐらい、奥行きがたぶん30~40㎝、高さが最大1.5mぐらいになります。目的の場所には置けそうでしょうか? 実際にどう納まるかは、組み立ててみないとわからないので、とりあえず今はそれなりの大きさになるぞと覚えていてください」
3.塩ビ管の秘密。どんなパイプを選ぶ?
「それでは次のステップ。パイプを切ってつなげていきます。まずはこの赤い(茶褐色の)塩ビ管『HTVP50』を手に取ってください。これは硬質塩ビ管です。それでは、ご唱和ください。硬質塩ビ管!」
≪参加者≫ 「硬質塩ビ管!!」
「HTは『High Temperature』高温に耐えられるという意味。『VP』はビニールパイプです。今日は塩ビ管用語が次々に出てくるので、みんながんばってついてきてくださいね。ところで、雨水システムでは温度が加わることは基本的にはありませんが、なぜわざわざ耐熱を使っているかというと……塩ビ管はVP30(内径30㎜)までしか飲み水に対応していないから!
今日はVP25をメインに使いますが、30より太い40、50、75、100ってなっていくと、飲み水を運べない管になっています。なぜ飲み水は運べないかというと、毒性のある鉛が入っているからです。鉛は今ではカドミウムと同じぐらい危ないとされています。鉛がたくさん入っているのが太い塩ビ管なの。もう、みんなビックリして言葉も出ないだろう!
……だけど塩ビ管でも、赤いHTVP50は鉛が入っていない。
だから飲料用途で太い塩ビ管を使いたかったら、値段が高い赤いほうを使うしかない。今回は飲み水として使うために、太さが必要なパーツには赤い塩ビ管を使っています」
「それでは、HTではない飲み水用のパイプを見てみましょう。このVP25をよく見ると『JIS K 6742』って書いてありますよね。『JIS』とは日本の商業的に作られる物の規格で、『K 6742』っていうのは塩ビ管の区分なのね。そして今日使う6742はここに「*」って書いてあるじゃん。これ、漢字の『水』なんだよ! 模様じゃなくて。
JIS規格の飲み水用のパイプには水って書いてあるんです。もちろん番号から調べても『JIS K 6742』は飲み水に使えるってわかる。昔はVPWって書いてありました。『ビニールパイプ ウォーター』で、飲み水用。そして、JISの表で『6741』を見てみると、そのナンバーだと鉛が入っていることがわかります。物の安全性を知りたいときにまずJIS規格を見るという手があります。そうすると、使われた素材がわかることがある」
「なぜ鉛を気にするかというと、鉛は水によく溶けるから。そして、太いパイプになんで鉛が入っているかというと、こちらは飲まない水を通す用途に使われるから。塩ビ管を長持ちさせるには添加物が必要なので、飲まない用途の液体を通すパイプには鉛を加える。飲み水を通すVP25は、鉛の代わりに値段が高くて毒性の低いスズなどの金属を入れている。ちなみにこの塩ビ管の厚みが薄いやつを『VU管』っていうんだけど、「薄い」のUだからね。「ビニール 薄い」でVU管。ウソじゃないです。ローマ字表記なんだよ!」
塩ビ管の秘密を知ったら、いよいよ実作業へ。ノコギリで塩ビ管を切り、切り口のバリを取ってつないでいきます。
「寸法を測ったらノコギリで切る。どうしても、切り口はザラザラになります。でも、ザラザラだと使う上で困っちゃうので、はみ出しているバリを取ります。そこで使うのがバリ取り器。くぼんでる側と、出っ張ってる側があるのはわかる? 出っ張ってる側が塩ビ管の内側のバリを取るもの、こうやって入れてちょっと力かけて回すとバリを取ってカドの面取りができる。今度はくぼんでる側を当てて回すと、外側のバリが取れる。
なんでバリを取るかというと、パイプを継手に挿入したときに外側にバリが出ていると、バリがパイプを傷つけてそこから水が漏れちゃうから。だから、外側に一切出っ張ってないようにしたい。それでは、必要な塩ビ管を切り出して、バリを取りましょう」
4.汚水と清水を自動切り替え「ファーストフラッシュ」
塩ビ管を切り出したあとに作るのは「ファーストフラッシュ機構」の核心部のフロートバルブです。汚れが多い降り始めの雨がメインタンクに溜まらないよう、降雨開始直後の雨をカットするのがファーストフラッシュ(=初期排水)の役割。
降雨開始直後の水がカット用タンク(「2. 雨水タンクをどこに設置する?」の図「雨水システム組み立て図」の右部分のタンク)に溜まり、そこに溜まった水に押し上げられたピンポン玉がパイプを塞いで弁となり、パイプが塞がれたあとにきれいな水だけが分岐先のメインタンク(青色)に流れる仕組みになっています。
「今から作るのがこの雨水システムの一番重要なところ。ファーストフラッシュするためのフロートバルブです。それではみなさんご唱和ください。ファーストフラッシュ!」
≪参加者≫ 「ファーストフラッシュ!!」
「ファーストフラッシュは自動弁で行ないます。ピンポン球を硬質塩ビ管に入れてその上下を異径TSソケットではさみこむ。これをシステムにつなぐと硬質塩ビ管のなかでピンポン球が上下して弁になります。異径TSソケットの内径よりもピンポン球のほうが大きいから、ピンポン球は流れ出ません。だけど、ピンポン球をそのまま入れると、水流に押されて下側の異径TSソケットを塞ぐことがある。塞ぎたいのは下側ではなく上側だから、ピンポン球が下側の異径TSソケットを塞がないようにスペーサー*を作りたい。そこで使うのが針金です。お手元のVP25に針金を6周巻いてください、大体でいいし、歪んでも構わない、これには精密さはいらないです」
*部品と部品の間に空間をつくるための器具
「針金を巻いたら1段目だけグワッて広げて、硬質塩ビ管に入れる、こうすれば針金がスペーサーになって、ピンポン球が下側のパイプを塞ぐことがない。でも、下のタンクに水が溜まったときには浮き上がって上側のパイプは塞げる。下のタンクのバルブを開けて水をジャーって流したら、ピンポン玉もストンと落ちてファーストフラッシュ機構もリセットされる。そんな仕組みです」
針金が作れたらピンポン球とともに硬質塩ビ管に入れ、上下から異径TSソケットではさみこみます。ここで新たな秘密道具が登場しました。
「普通はネチョネチョの塩ビ管用接着剤で固定するんだけど、それには有機溶剤っていう体に悪いものが入っていて、塗ったらすぐにギュッて入れないと固まっちゃう。そこで今日お届けするのは、俺が発明したスペシャルな塩ビ管の接合方法です。
皆さんお手元にフードグレードシリコンスプレーをご用意ください。これは食品を製造する工場で使われる潤滑剤で、食べ物に入ってもまあまあ許容できる、といったスプレー。皆さん試しに、どこかにひと吹きしてみて。メチャメチャ滑るから。シリコンスプレーは開けづらい障子とか夫婦仲とか、うまく動かないものの潤滑をしてくれます」
「この潤滑力を使って、深く押しこんでいきます。硬質塩ビ管の外側にシュって軽く吹いて、異径TSソケットをかぶせ、上から全力でグッと押す。こうしたらもう取れない。塩ビ管の継手は内部にテーパーがついています。だから強い力で押し込むとテーパー部で潰れてピタッと密着する。この接合にシリコンスプレーを使うと、慌てて作業しなくても大丈夫だし、飲食用途にも使えるし、抜きたくなったら、思いっきり木槌で叩けば外れます」
「ここの接合で注意したいのが針金とピンポン球の位置。入れたらどっちが上かを覚えとかないといけない。だからマジックペンで、上に来る側に「上」って書いたほうがいいと思う。シリコンスプレーして、針金を入れて、ピンポン玉を入れて、ギュッと接合して、上下を記してください」
5.フロートバルブとタンク類を接続して完成!
フロートバルブが完成したら、あとはタンクとパイプ類を接合するだけ。タンクから吸水口を伸ばし、その吸水口と塩ビ管を可動性のあるビニールパイプでつなぎます。「パイプ類とタンクの間に可動域の大きいホース(ここではEVA製のフラットホース)を使うと、水を捨てたりする作業がやりやすくなるし、据え付けの自由度も高まる」とテンダーさん。
縦樋からの受水部分に使うのは、ジョウゴと金網です。ジョウゴのすぼんでいる側に自己融着テープを巻きつけて外径を大きくしたら、塩ビ管にぐっと押し込んで固定します。続けてジョウゴの広がっている側に金網をつけ、落ち葉などがタンクへ入らない構造に加工します。
「金網はジョウゴの口に対して並行になるよりも、斜めに設置できたほうがいい。水流に対して金網が斜めだと、流れてきた落ち葉などを外側に排出する力が生まれるから。水流を正面で受けると、金網に落ち葉が張り付いちゃう」
ジョウゴとフロートバルブの間で分岐させたら、分岐の先をメインタンクへと接続します。メインタンクの給水口のところにも分岐を作り、その先に塩ビ管を伸ばしてオーバーフローした水を逃せるようにしておきます。これにて雨水タンクの基本形が完成! あとは参加者それぞれが自宅の状況に合わせてカスタマイズを施すことになります。
今回はシステムを組む技術を学ぶのが目的のため、ファーストフラッシュをカットするタンクに小さいものを使っていますが、実際には、それぞれの屋根の大きさに応じてタンクの容量を変える必要があります(大きい屋根はファーストフラッシュの量も多いので、それをカットするタンクも大きくする必要がある)。そして、メインのタンクを大きくすれば、屋根で受けた水の大部分を貯水することができます。
6.「安全な水」を考える
システムが完成したところで「ちょっとショッキングな話になる」と前置きしてからテンダーさんは雨水利用の話を始めました。
「今日作ったシステムでみなさんは雨水を溜められるようになりましたが、実際にそれを飲むには、かなりの知識、あるいは度胸が必要です。それでは雨水への理解を深めるために『毒』の話から始めましょう。
まず前提となるのが『毒は量』であること。塩を例にとると、体重60kgの人の塩の致死量はおよそ30g。梅干1個に含まれる塩分がおよそ2gだから、人によっては一度に梅干しを15個食べると死んでしまう。言い換えれば梅干しには急性毒性がある。同じように水は20ℓ飲むと死にます。水も毒なんです。だけど、塩も水も生きていくために必要で、それ自体がいいとか悪いじゃない、摂取する量が問題です」
「水道水はいろんな基準が決められていて、鉛はどのぐらい含有していい、トリハロメタンや塩素はこのぐらいならいいと法律で決められている。その水道水の基準がそもそも信頼に足るのかどうかはわからないし、測れないぐらいの微量でも塩素を摂取したくない人だってもちろんいるでしょう。だけど国の法律としては飲料水にはある程度の基準があり、俺が作っている雨水タンクも一応それに則ろうと思っています。これが2つめの前提です。
俺が今回の講座で選んだ材料は、基本的には全て水道用に使えるものです。唯一、EVAのホースは水道用ではなく農業用水用っていう基準になんだけど、EVA自体がわりあい安全な物質なので、まぁ大丈夫だろうと判断しました。それこそ『量』の問題として」
「さて、ここで質問です。雲があって雨が降る、あなたの家がある、地面がある、排水溝がある、川がある、車が停まっている。雨水が一番綺麗なのはどこでしょうか?」
≪参加者≫ 「雲のすぐ下?」
「そう! なぜなら雨水は地表にある水が蒸発して雲になり、落ちてくるものだから、一度蒸留されている。ほとんど何も入ってないはずなのね。
それが降ってくる間にいろんなものを吸着する。たとえば、空気中の微生物。それから俺が住んでる鹿児島では、桜島があるから火山灰や酸性雨の元となる物質なども拾います。工場やディーゼル車が出した酸性雨の元もいっぱい入る。つまり雨は、大気中の汚れをつかまえながら落ちてくる。あなたの家の屋根に降る前に、雨は大気の汚染を一回流しているんです。
それでは、その雨があたる屋根では、どんな汚染が考えられますか?」
≪参加者≫ 「PM2.5!」
「あぁ、それを拾うのは空気中のほうが多いかな。屋根の汚染は……例えば、鳥の糞や猫の足跡。ほかには雨樋で朽ちた落ち葉など。屋根の上って意外といろいろなものが溜まっていく。鳥のフンがあるんだったら大腸菌がありそうだし、落ち葉から腐葉土ができたらレジオネラ菌も入りそう。そんな想像ができる」
「これらに加えて、汚染源には屋根材がある。酸性雨なんかで溶けだした屋根材です。問題は、これ。俺が調べた限り、絶対に安全な屋根材といえるものはない。アスベストを使っていない瓦屋根の安全性が高い、といえるくらいかな。よく屋根に使われるガルバリウムでも、無塗装の場合は亜鉛がめちゃくちゃ出る。亜鉛自体は人の体に必須でそんなに毒性が高くはないものだけど、それでも屋根から致死量ぐらい出る。
そして同じ屋根材でも工場地帯に近いところと、内陸部では溶出する濃度が全然違う。ガルバリウムがクロメート塗装されたものなら、それにはクロムっていう重金属が使われている。そして六価クロムには毒性がある。今はもうクロメート塗装は屋根にほとんど使われないようだけど、もし古いガルバリウムにクロメート塗装が使われていた場合には、その屋根を流れた水はもう飲まない方がいい」
「今、雨水を溜めて飲む本を書いているんだけど、その本を書く中でわかったのは、家の材料は食品衛生基準をとっていないということ。俺たちの文明は、自分の口に入らなければ何を入れたっていい、って考えでデザインされていて、それによって世界はすごく汚染されている。でも人間の家を経由した水を他の生き物は飲むし、虫だって摂取するし、その連鎖は続いていく。みなさんには雨水タンクを持つことと、その底に溜まる水を見ることで、その文明の質を考えて欲しいと思っています」
おどすつもりはなかったのだけれど、と言いつつ、テンダーさんは溜めた水を安全に使う方法も教えてくれました。ひとつは、自分でできるパックテスト。市販のテストでも手軽に銅、亜鉛、マンガン、ニッケル、カドミウムなどの含有量を調べられるそうです。より詳しく知りたい場合は専門機関にサンプルを送って水質検査を受けるのも一案だ、とも。
水質を調べるほかに、安全性を自分で高めるというアプローチもあり、その場合は水を活性炭で濾過したり、煮沸するとよいそう。多くの有害物質を吸着できる活性炭で濾してから煮沸すれば、有害物質と生物的な汚染をある程度回避できる、とテンダーさん。
≪参加者≫ 「飲む自信がなければ、洗濯に使うのはどうなんですか?」
「もちろん使える。俺も汚れが多く入る屋根から集めた水は、飲料水ほどのきれいさが求められない作業に使っています。でも『自分で飲む』までいって、初めて世界の汚れに対して、自分の中にリアリティが湧く。自分が飲もうと考えて、初めて材料を調べるし、つながりを調べるし、雨水がどこに流れていって誰が最終的に負担を受けているのかを考えられるようになる。だから、自分が飲むとしたらどうなんだろうかって考えながら雨水システムを使ってほしい」
「テンダーさんのその辺のもので生きる」オンライン講座では、希望する参加者は講座終了後もオンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。
このオンライン講座は、2023年3月(予定)まで続きます。
▶︎ 全講座のスケジュール
▶︎ これまで実施した講座のレポート
– 第1回「アルミ缶を使い倒そう」
– 第2回「棒と板だけで火を起こそう」
– 第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
– 第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
– 【前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (テンダーさん執筆) new!
– 第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(テンダーさん執筆) new!
[取材・執筆:藤原 祥弘]
[編集:テンダー]
[事業担当: 室中 直美]
事業データ
「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第4回)
2021年6月6日(日)
オンライン
TJF
テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/
中高校生〜大人 29名(日本、オーストラリア、カナダから参加)
井上美優さん、木村真理子さん、堀江真梨香さん、松尾郷志さん
7.講師からのコメント
この講座を開催してから1年以上が経ちました。残念ながら地球の「水」を取り巻く環境は1年前より確実に悪くなっているように思います。昨今では、日本でも徐々に報じられつつある物質「PFAS(フッ素有機化合物のバリエーションの総称)」による、雨水汚染も話題になっています。
PFASは永遠の化学物質と呼ばれ、自然分解に数千年を要し、かつ人体からはなかなか排出されない特性から、接種すればするほど溜まっていき、免疫不全・循環器への悪影響があるうえに発がん性を疑われている物質です。身近なところではフライパンのテフロン加工や撥水用途やエアコンの冷媒、工業的には半導体製造のための冷却材(フロンガスの代替物)として世界中で使われてきました。
また、日本では米軍基地周辺で、高濃度のPFASが地下水から検出されていて、東京の調布市などでも問題となりました。大阪ではダイキンというエアコン製造会社の周辺で地下水がPFAS汚染されていて、住民の血中PFAS濃度が数十倍高くなる、ということも起きています。
どえらい話だけど、地下水だから雨水とは関係ないのでは?
初めは私もそう思っていました。ところが調べていくと、どうやら海水面でPFASはエアロゾル化(この場合はPFASの微小な粒子と空気の混合体)して雨水に混じるようなのです。田舎の雨水は都市ほどPFASが含まれないようですが、とはいえ人体からほとんど排出せず、かたや環境には放出され続けるならば、生きている限り身体に溜まる一方です。
こうなると、「地球にそもそも安全な雨水はない」ということになります。
であるならば、一歩後退して、PFASを活性炭で除去して飲む、ということであれば可能かもしれません。
幸いにも、PFASは活性炭で除去することができ、その活性炭も特定の焼却方法に則ればPFASを分解することができる、という研究もあります。ただ、PFASの研究はまだ始まったばかりなので、確たることはまだ誰にも分かりません。
年々、絶望的なニュースが増えていきます。人類が数万年ものあいだ連綿と続けてこれた雨水利用の智慧と技法を、2022年現在の私たちの文明は今後、断絶させることになるでしょう。
私たちは問われています。
PFASを生産・排出しないようにメーカーに働きかけるのか。働きかけるのであればオゾン層を破壊しない冷房用のガスは今後どうするのか。雨水を飲むならPFASを除去して飲むのか、そもそも飲まないのか。飲まないが他の生き物のために浄化をするのか、飲まないが数千年後のPFASが分解された世界のために技術は継承するのか。
なんにせよ、私たちが環境と、ひいては地球に暮らすヒトという営み自身から問われてることはいつも同じなのです。
それをするのは / しないのは 何のため?