2003年1月号 作文指導について(3) -段階的作文指導の勧め- |
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作文指導について述べる前に、まず下の例文1~9を見てみましょう。
上に挙げた文にはすべて誤りがありますが、どこに間違いがあるかわかりますか。例文1~4は形容詞の活用の間違い、例文5~7は動詞の使い方の間違い、例文8は助詞の間違い、そして、例文9はそれらが複合した3つの間違いがあります。これらの間違いは、ごく初歩的なものです。 上の例文はすべて、5年間も日本語を一生懸命勉強してきた高校3年生が書いた作文の中にあった文です。長い間勉強している生徒でも、このような「初歩的な誤文」を書いてしまうことがよくあります。それはなぜでしょうか。 初歩的な間違いの原因を考えよう「初歩的な誤文」を書いてしまう原因は、中国の「作文指導」の考え方と関係があるのではないかと思います。中国で「作文指導」というと、「名文」をまねて、かなり長い文章を書かせます。読み手を感心させる「うまい文章」や「美しい文章」を書くことが、作文指導の目標です。 このような作文指導の考え方が、日本語の作文にも影響していると思います。中国では長文の読解能力が十分についた学習者でなければ、作文を書くことができないと考えられているようです。中国各地の学校を訪問して、「作文指導をどのようにしていますか」と質問すると、「まだ初級なので、作文は書けません」「作文を教えるほど、日本語がうまくありません」「初級中学では、作文を指導するのは無理です」という答えがよく返ってくるのは、そのためでしょう。 上級になると、長い作文を書くように生徒は要求されます。しかし、自分で文をつくる練習をほとんどしたことのない生徒は、上に挙げたような、ごく初歩的な間違いをしてしまうのです。 作文指導の考え方を見直そう「日本語が上達すれば自然に文章が書けるようになる」という考え方は間違いです。例えば、日本語を「話す」練習は、初級の最初から始めなければなりません。「日本語の知識」が豊かでも、初級から「話す」練習をしていなかった人は、簡単な会話もできなくなってしまいます。「書く」練習もそれとまったく同じです。初級から始めなければならないのです。会話の指導が、「やさしい文型」から「むずかしい文型」に、「短く簡単な会話」から「長く複雑な会話」に進むように、作文の指導も、初級レベルから積極的に取り組み、段階的に進めなければならないのです。 生徒に文を作らせようでは、初級レベルでの作文指導は、どのように行えばいいのでしょうか。初級の作文指導は、「長い文章」を書かせることではありません。まず、「短い文」を、正しくつくる練習をさせることが必要です。例えば、教科書に出てきた「文型」を使って、生徒に文をつくらせます。この時大切なのは、教科書の文をそのまま覚えさせることではなく、教科書に出ていない文を自分でつくらせることです。 中国には、教科書の文はよく暗記しているのに、自分で文をつくらせるとできない生徒がたくさんいます。これは、初級レベルで教科書を暗記させることに集中しすぎているためなのです。外国語を「コミュニケーション」の道具にするためには、自分で考え、自分の言葉で表現する訓練をしなくてはなりません。これは、「話す」時も「書く」時も、まったく同様なのです。 したがって、文型を学習者に覚えさせようとする時に、「教科書の文を暗記してきなさい」という宿題を出すよりは、「この文型を使って短文を10文つくってきなさい」という創造的な宿題を出すほうがずっと効果的です。単純な暗記は「文型を覚える」だけの効果しかありません。しかし、短文を創作することは「文型を覚える」ほかに、「自分で考えて書く」ということになり、コミュニケーション能力の養成にもつながるのです。また、教科書に出てきた単語を暗記させるだけでなく、辞書を使って単語を調べさせることも必要です。 このように、はじめは一つ一つの「文」を創作することから始めます。そして、次に、その文をつなぐ練習をします。この時に注意しなければならないのは一文の長さです。日本語では、長い文を書くことは簡単にできますが、長くて読みやすい文をつくるのは非常に難しいのです。したがって、「短い文を書いて、それを上手につなぐ」ように指導します。簡単な文でも、つなぐ言葉を使って文を書く練習をすれば、長い文でも上手に書けるようになります。そして、それらの文をまとめることによって、「文章」をつくれるようにしていきます。さらに、そうしてできた「文章」を内容のまとまりによって「段落」をつけ、「段落」を組み合わせれば「作文」が完成します。これが、「段階的な作文指導」という考え方です。 作文指導の目的を明確にしよう今までの作文指導では、「名文」を書くことを重視していました。しかし、何のために「名文」を書くのか、という目的がなかったように思います。だから、生徒も先生も作文を書くことに熱心ではなかったと思います。では、何を目的にすればいいのでしょうか。 私は、今後の作文指導の目的は、やはり「コミュニケーション」だと思います。なぜなら、すでに世界は「インターネット時代」に入っているからです。インターネット上には、さまざまな情報がありますが、そのほとんどは「文字」情報なのです。また、インターネットを使えば、世界中の人々とコミュニケーションができますが、その基本はEメールを「書くこと」です。インターネットが、今後の世界でもっとも重要な、コミュニケーションの「場所」になることは間違いありません。そして、その「場所」で、コミュニケーションをするためにいちばん必要な能力は、「読む能力」と「書く能力」なのです。 今、中国の外国語教育は「会話」が中心になりつつあります。もちろん、会話指導を重視することは必要です。しかし、同時に「書く」ことも重要です。「6年間も日本語を勉強してきたのに、簡単なEメールも書けない」などということになっては困ります。だから、今、「コミュニケーション」のために、「段階的な作文指導」を考える必要があるのではないでしょうか。 本田弘之
杏林大学助教授 |