2004年4月号 日本語の難しさ(3)―授受表現から「依頼」の表現へ― |
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前回と前々回、授受動詞の「もらう」「あげる」「くれる」「~てもらう」「~てあげる」「~てくれる」のそれぞれの特質と、基本的な使い方について説明しました。今回は、「~てもらう」「~てくれる」を使った「依頼」の表現を見てみましょう。
例1~4はいずれも、主語が「本を借りたい」と思っています。しかし、例1の「~たいです」は、自分の要求を伝えているだけです。また、例2の「~てください」は直接的な依頼です。例3は、質問の形で相手の意向を聞いています。例4の「~てもらえますか」は、自分の要求を伝えると同時に、質問の形で相手の意向を聞いています。この時、「~てもらう」は、「~てもらえる」という可能の形になることに注意してください(下の表参照)。例3と例4は、本を貸すかどうかの判断を相手に委ねているので、丁寧な依頼になります。さらに、「くれる」の尊敬語「くださる」、「もらう」の謙譲語「いただく」を使うと、より丁寧になります。
例5の「~てくださいますか」、例6の「~ていただけますか」は、人に何かを依頼する時の丁寧な表現としてよく使われます。特に、目上の人に頼む時には、「~たいです」や「~てください」は失礼な表現になるので、この「~てくださいますか」「~ていただけますか」を使います。「~ていただけますか」は、「いただく」の可能形「いただける」を疑問形にした表現です。 さて、「~てくださいますか」「~ていただけますか」は、肯定の疑問形です。これに対して「~てくださいませんか」「~ていただけませんか」という表現があります。これらは、否定の疑問形ですが、否定の意味を含んでいるわけではありません。いずれも丁寧な依頼の表現です。例5と例7、例6と例8をそれぞれ比べると、否定の疑問形を使った例7、8のほうが、より丁寧な表現と言えます。しかし、実際の会話の中では、ほとんど同じように使われていますので、使い分けを気にする必要はありません。
敬語表現を含んだ依頼としてもよく使われる重要な動詞です。しかし、授受動詞の使い方を初級で十分に理解できなかった生徒は、上級になっても授受動詞がうまく使えず、敬語が正しく使えないことになります。ですから、先生方は生徒に、授受動詞について順を追って説明してください。 本田弘之
杏林大学助教授 |