1999年10月号 「あなた」の使い方 |
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全日制普通高級中学教科書『日語』の第2冊第1課(7頁)の本文に、「しかし、『あなた』は、特別な場合を除いて年が上の人には使えない言葉です。」という文が出ています。この「特別な場合」とはどんな場合を指しますか。 |
日本語では、人を呼ぶ時一般に人称代名詞を避ける傾向があります。特に二人称の「あなた」はかなり限定的に使われることばです。年上の人が年下の人や同輩者に向かって使うことはある程度許容されます。例えば、先生が生徒を「あなた」と呼んでも差し支えありません。しかし、生徒が先生を「あなた」と呼ぶと先生に不愉快な感じを与えます。年上の人を呼ぶ時は「あなた」の代わりに「苗字+さん」や職位名を使うことが比較的に多いです。 では、『日語』の「特別な場合」とはどんな場合があるのでしょうか。例えば、会議や討論会などで、それまで相手を「~さん」と呼んでいた人に向かって、机を叩きながら「何言ってるんですか、あなたは」と言う場合があります。これは議論が激しくなり、ついに喧嘩状態に発展し、お互いに距離が生じた時の言葉です。もともと「あなた」は「むこう」や「あちらのほう」を表す方向代名詞で、のちに二人称として使われるようになったといわれています。したがって、上の場合「あなた」を使うことによって、相手を冷たく突き放し、相手との距離を保った言い方になるのです。 一方、アンケート調査などによく見られる「あなたはどう思いますか」という使い方は、不特定多数や抽象的な感じを与え、特に抵抗はありません。「あなた」の一般的な使い方といえます。また、夫婦間の会話で妻が夫を「あなた」と呼ぶことが多いです。「ねえ、あなた」「あなた、そのネクタイ、すてきよ」というように、甘えや親しみ、軽い敬意を込めて使います。 加納陸人
文教大学教授/『日語』日本側主任編集委員 |