2000年10月号 「ご」+「名詞」の使い方 |
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高校『日語』第1冊第3課「ロボット」に「退院おめでとうございます。」という文が出てきます。同じ課のほかのところには、「お仕事」「お体」という言い方が出てきますが、これと同じように「ご退院」としたほうがいいのではないでしょうか。 |
質問者には、「ご」をつけることによってより敬意を高めたい、という気持ちがあるのではないかと思います。確かに文法的には正しいのですが、ここでは「サッチャン」の立場やキャラクター〔形象〕も配慮しなければなりません。 サッチャンは、だれからも親しまれており、明るくてかわいい子どものようなロボットです。敬語を使いすぎると、かえって親しさが薄れます。職場などで上下関係がある場合は別ですが、日本人は親しくなるにつれて、あまり敬語を使わなくなります。逆に親しくないから敬語を使う場合もあります。敬語は互いの距離を示す表現です。それで、サッチャンのキャラクターを考慮し、敬語は必要最低限度におさえました。例えば、本文に「どうもありがとう。それじゃ」とあります。敬語を使わないで、サッチャンのかわいらしさを表しています。「お仕事が終わりました」の「お仕事」は美化語ですが、この場合は「お」をつけたほうが柔らかく、サッチャンのイメージに合います。 「退院おめでとうございます。お体を大切にしてください」 この文は、ていねい語の「おめでとうございます」に、尊敬語の「お体」が続いています。同じ文に敬語が続くと、あまりにもていねいすぎ、サッチャンの持つ親しさがなくなってしまいます。また、「ご」は漢語的で硬い感じがします。それで、「退院」には「ご」をつけませんでした。 加納陸人
文教大学教授/『日語』日本側主任編集委員 |