2003年1月号 文型の教え方 (1) |
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ここは、本来現場の先生方から受けた質問に答えるコーナーですが、今回と次回は趣向を変えて、「文型」をどのように捉え、教えていったらいいかについて書くことにします。というのは、長年、中高校の日本語教師の皆さんと接する中で、文型の教え方についていろいろと感じることがあるからです。それは、文型を学んだり教えたりする時に、「文法的意味」のみを重視し、その「機能的意味」や「文化的意味」を考慮していない人が多い、ということです。なぜ「文法的意味」だけでは不十分なのか、「Vている」を例として、一緒に考えてみたいと思います。まず、今回は「Vている」の文法的意味について取り上げます。 基本篇 皆さんはこの文型をどのように教えていますか。中学の教科書では「Vている」に関して、最初の段階では、次のような用法が取り上げられています。その文法的意味について考えてみましょう。
問題1:次の(1)~(6)の文は、A、Bの例文のうちどちらにあたりますか。
A:張さんは手紙を書いています。 B:あそこに財布が落ちています。 (1)父はさっきから本を読んでいます。 ( ) (2)銀行は閉まっています。 ( ) (3)ドアに鍵がかかっています。 ( ) (4)鈴木さんは隣の部屋で待っています。 ( ) (5)雨がザーザー降っています。 ( ) (6)申さんも研修会に来ていたそうです。 ( ) 答 (1)A, (2)B, (3)B, (4)A, (5)A, (6)B Aは「動作・作用の進行(継続)」を表しています。この時、「継続動詞」、つまり、ある時間継続して行われる動作・作用を表す動詞が使われます。例えば、「書く」「話す」「笑う」「泣く」「歩く」「流れる」などです。話し手の眼前のことを表すことが多いです。 Bは「結果の存続・状態」を表しています。「死ぬ」「倒れる」「消える」「(電気が)つく」など、瞬間的な動作・作用を表す「瞬間動詞」が使われます。動詞の持つ意味によって使い方が異なってきます。 応用篇 「Vている」の用法について、もう少し細かく分ける方法もあります。
問題2:次の(1)~(14)はa~gのどれにあたりますか。考えてみてください。
a.動作・作用の進行(継続)/b.結果の存続・状態 c.習慣、繰り返し/d.経験 e.主体の状態・性質/f.職業/g.完了 (1)近藤さんはコンピューター会社に勤めています。( ) (2)張先生は今、事務室でお客様と話しています。 ( ) (3)香港は港としての条件に恵まれていました。 ( ) (4)あっ、小鳥が死んでいる。 ( ) (5)祖父は毎朝、公園を散歩しています。 ( ) (6)会議はもう始まっていました。 ( ) (7)子供の時、いろいろな夢を持っていました。 ( ) (8)桜の花が風に吹かれて吹雪のように散っている。( ) (9)桜の花が一面に散っている。まるで絨毯のようだ。( ) (10)あの子は母親と顔がよく似ている。 ( ) (11)私が李さんを紹介しようとしたら、ほかの人がもう紹介していました。 ( ) (12)ワールドカップでブラジルは、8年前にも優勝しています。 ( ) (13)テレビのアナウンサーをしている相原さんです。( ) (14)1ヵ月平均500人の人が交通事故で死んでいます。( ) 答 (1)f, (2)a, (3)e, (4)b, (5)c, (6)g, (7)d, (8)a, (9)b, (10)e, (11)g, (12)d, (13)f, (14)c a 「動作・作用の進行(継続)」にあたるのは(2)と(8)です。(8)がわかりにくいと思いますが、目の前で、桜の花が強い風に吹かれて、散っている様子を表しています。この様子を日本語では「花吹雪」といいます(絵1)。 絵1「桜の花が散っている」 b 「結果の存続・状態」にあたるのは(4)(9)です。(9)は散った桜が地面に落ちて、絨毯のように見える状態を表しています。(8)と違って、桜が散ったあとの様子に視点があります(絵2)。 絵2「桜の花が一面に散っている」 c 「習慣・繰り返し」にあたるのは(5)(14)す。(4)の「死んでいる」は死んだあとの状態を表していますが、⑭の場合は1ヵ月平均にすると500人位の人が死んでいるという繰り返しを表しています。普通「習慣、繰り返し」を表す場合、「毎日」「毎月」「毎年」などの言葉が付くことが多いです。 d 「経験」にあたるのは(7)(12)です。過去に起こったことを回想的に述べ、それが何らかの形で現在と関わりを持っています。今年のワールドカップで優勝したブラジルは、8年前にも優勝したことがあるという経験を表しています。 e 「主体の状態・性質」にあたるのは(3)(10)です。これは形容詞の性格に近い、形容詞的動詞といえます。このような動詞は、普通「Vている」「Vた」「Vていた」の形で使います。例えば、「山がそびえている」「優れている人」「ばかげた話」「恵まれた環境」などがあります。 f 「職業」にあたるのは(1)(13)です。よく「毎日、会社に勤めています」と言う人がいますが、「勤める」に「毎日」が付くと不自然です。「勤めています」は動作の繰り返しではなく、ずっとその状態が続いていることを表しているからです。 g 「過去」にあたるのは(6)(11)です。「Vていた」の形で、過去にすでに完了していることを表したり、「Vている」の形で、未来のある時点で完了していることを表します。 このような「文法的意味」については、よく試験などに出され、比較的取り組みやすいと思います。しかし、実際の場面での話し手の発話意図などを理解し、円滑なコミュニケーションを図っていくためには、これだけでは不十分です。違う視点が必要になってきます。 次回は「機能的意味」と「文化的意味」について、考えていきたいと思います。 加納陸人
文教大学教授/『日語』日本側主任編集委員 |