2004年1月号 「の(ん)だ」の気をつけなければならない使い方 |
---|
前回、「の(ん)だ」の用法を取り上げましたが、今回は、具体例を挙げて、「の(ん)だ」の気をつけなければならない使い方について説明します。 「の(ん)だ」を過度に使用する誤用
自己紹介の場面で、例1の言い方を時々耳にしますが、不自然です。この場合は「私は中国のハルビンから来ました」と言うほうが自然です。「の(ん)だ」は何らかの話の前提や関連がないと使いにくいのです。しかし、中国の出身地が話題にのぼり、ハルビンから来たことを説明したり、理由を述べたりする場合には使えます。 「の(ん)だ」には「勧誘」の機能はありません。例2の言い方は、陳さんはコンサートには行かないのではないかという発話意図を含んだり、本当に行くのかと詰問するような印象を与えたりして、聞き手に不快な感じを与えるおそれがあります。 例3のように、「ようだ」などの話し手の気持ちを表す表現は、「の(ん)だ」といっしょに使えません。この場合「出かけているようだ」が正しい言い方です。 「の(ん)だ」を欠落させる誤用 接続関係で「の(ん)だ」を欠落させるケースがよく見られます。次の例を見てください。
例4は、「図書館で調べているのでしょう」と言わなければなりません。この場合、王さんのことを聞かれている前提があり、まだ戻ってこないという判断から、図書館で調べていることが理由づけとして述べられています。「図書館で調べているでしょう」は、「戻ってこないところをみると」の代わりに「今ごろ」を使った場合、推測のみを表します。この時は「の(ん)だ」は必要ありません。しかし、例4のように、何らかの理由づけや説明をする場合は、「の(ん)だ」が必要なのです。 例5は、「どうして日本語の勉強を始めたんですか」のほうが自然な言い方です。しかし、前回説明したように、「どうして/なぜ~のですか」を、話の前提がないのに使ったり、「の(ん)ですか」の部分を強調したりすると、詰問しているように聞こえることがあるので、気をつけましょう。 例6のように従属節を含む場合にも「の(ん)だ」が必要になってきます。この場合、「日本に行ったのですか」が自然な言い方です。 「の(ん)だ」の誤用の中で比較的多いとされるものが欠落です。上記の例文は、一部にすぎません。中国語には「の(ん)だ」に相当する標識がありませんから、学習者には混同が見られます。接続関係やどんな機能があるかをよく把握し指導していかなければなりません。そして、過度の使用や欠落には注意を払う必要があります。「の(ん)だ」をうまく使えば、特に話し言葉では、とても自然な感じの日本語になります。 加納陸人
文教大学教授/『日語』日本側主任編集委員 |