2005年1月 本当のこと、本当の感動 |
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私たちの学校は、上海市に隣接する浙江省平湖市にあります。当市は、ここ数年来の経済開発区への投資と企業誘致政策の甲斐あって、今では、40を超える日系企業に4万人に及ぶ雇用があります。したがって、日本語話者の需要も高く、現在、当校の日本語科では750人の生徒が勉強しています。 教師の大半は20代で、『ひだまり』で紹介されている教授法の新しいアイデアを興味を持って読むとともに、授業に生かす工夫を重ねています。そのような中、教師1年目の気鋭の2人が、18号で紹介された「写真を使った授業づくり」についての感想を編集部に送ったところ、20号で紹介され、記念に岩波ジュニア新書『レンズの向こうに自分が見える』が送られてきました。 この本は、大阪府立大手前高校定時制課程で教鞭を執っている野村訓先生が、写真部の活動を通して指導し、不登校などの経歴を持つ生徒たちが、生きる自信と自分自身を取り戻していった過程を彼らの写真や手記を交えて紹介したものです。本には、現代の日本社会に翻弄された高校生の苦しみや喜びが率直に描かれており、また、文章も読みやすいものなので、当校の3年生4人に読ませてみました。すると、同世代である主人公たちが力強く立ち直っていく様子に心を打たれ、引き込まれるように読み、それぞれ感想文を書いて持ってきました。いずれも苦労の跡が見える文章でしたが、日本の同世代の生き方に自分自身のそれを照らして共感し、これからの人生に対する気持ちが述べられていたので、野村先生に伝えたいと、ひだまり編集部にお願いしました。 数日後、早速野村先生から返事をいただきました。感想文をじっくり読んだこと、写真部の生徒さんたちにも読んでもらったこと、学園祭で展示し多くの来場者に紹介したことなどが書かれていて、生徒たちはその返事を喜んで読みました。 私たち教師は、生徒たちが日本と日本語に少しでも深く興味を持ち、進んで勉強するように、日本の現実を表現した、胸を打つ教材を求めています。『レンズの向こうに自分が見える』は、まさにこの条件を備えていました。野村先生は、返事の中で、「本の中身は現実の内容のごく一部です」と述べられていました。しかし、情熱と愛情を持って自分と向かい合う野村先生に自分を理解してもらい、自分の個性を認めてもらって立ち直る大手前高校の生徒たちの姿に、彼女たちは自分自身の経験をダブらせ、本に書かれた以上のことまで感じ取って、精一杯感想文を書いたに違いありません。私は、これを機に、中国と日本の高校生の新しい輪ができ、中国の高校生たちのこれからの人生と日本語学習に役立つことを願っています。 平湖市職業中等専業学校
中島 宏 |