2003年10月号 暗唱から会話へ(2) |
---|
今回は、生徒が自由に考えながら話ができるようになるための練習方法についてお話します。まず、前回取り上げた高校『日語』第1冊第11課の会話文をもう一度見てください。
選択権を与える練習この会話文を使って、いくつかの選択肢の中から生徒に自由に選ばせて会話をさせるという、選択権を与える練習法を紹介します。 ●練習例1
この時、「民俗博物館」以外の行き先を選んだ場合、生徒はそこまでの道順に合わせて、暗記した会話文の一部を適切な表現に変えて言わなければなりません。例えば、行き先として「中学校」を選んだ場合、会話文の(1)の「民俗博物館」を「中学校」に変えると同時に、(3)の「左」を「右」に変えなければなりません。また、行き先として「病院」を選べば、さらに、(2)の「突き当たり」を「交差点」に変える必要が出てきます。また、「スーパー」を選べば、もっと難しくなります。(1)を「スーパー」、(2)を「交差点」、(3)を「右」、(4)を「少し」、(5)を「右側にあります」というような表現にしなければなりません。 地図aこのように、この練習では、生徒は自分で自由に行き先を選んで、表現を考えながら会話をするのです。教師は、それぞれの行き先までの道順について日本語でどう言うか事前に確認し、学習していない表現を使う場合などはあらかじめ教えておく必要があります。 生徒の自発性をもっと引き出すためには、生徒に行き先の場所を自由に決めさせて会話をさせる方法もあります。具体例を紹介します。 ●練習例2
この練習では生徒による選択の自由度は増えますが、教師は、予測できない答えが出てきたりすることもあるので、指導が難しくなることを覚悟しなければなりません。 インフォメーションギャップを利用する練習次に挙げる練習法は、インフォメーションギャップ(情報の格差)を利用した練習法です。これは、現実の社会で行われるコミュニケーションではお互いに知っていることをわざわざ質問することはなく、一方が知らないことを、もう一方に質問するのが普通であるという考え方から生まれた練習法です。地図を使った練習例を紹介します。選択権を与える練習で使った地図と同じものですが、今度は、A4サイズぐらいの大きさのものを2枚使います(別紙参照)。この2枚を使って、ペアワーク(2人ずつの練習)をさせるものです。 ●練習例3
さらに生徒に自発性と達成感を与える方法として、行き先の場所を生徒に自由に書き込ませる方法があります。 ●練習例4
このペアワークという練習法は、全員いっしょに行うことができ、生徒全員に話す機会を十分与えることができるという利点があります。しかし、半面、教師が生徒の会話をすべて細かくチェックできないという欠点もありますから、十分な注意が必要です。 以上見てきたように、適度の選択権を与えながら、あるいは、コミュニケーションギャップを利用しながら、さらには、生徒の自発性や達成意欲を刺激しながら、生徒に自分で考えながら話す練習をさせていくことによって、生徒は少しずつコミュニケーション能力を身につけていくことができるようになるのです。 山口敏幸
(国際交流基金派遣日本語教育アドバイザー) |