2004年1月 導入を考える(1) |
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今回は導入についてお話しします。未習の語彙や文型を示して、意味を理解させる段階を導入といいますが、媒介語(中国の場合は中国語)を用いる方法と用いない方法の二つがあります。コミュニケーション能力の向上につなげるためには、初級の段階から、できるだけ媒介語を用いないで導入したほうがいいと言われています。その大きな理由は、言葉の形と意味を、媒介語を通さず、具体的な場面・状況の中で直接的に結び付けることによって、理解が深まり、定着しやすいと考えられているからです。また、媒介語に頼らないことで、少しずつ日本語で考える習慣が身についていくとも考えられています。ただし、導入する学習項目によっては、媒介語なしで教えるのが難しいものや誤解を生みやすいものもありますので、注意が必要です。 日本語だけで行う導入媒介語を用いない導入でよく使われるのは、実物(「レアリア」ともいいます)や模型、写真パネル、絵カードなどの教具です。これらの教具を使った導入方法は、生徒に与えるインパクト[印象]が強く、集中力を高めることができますが、導入できるのは、だいたい具体的な物や動作、状態に限られます。例えば、「宿題」や「有名」などの言葉は、この方法で導入するのはかなり難しいと思われます。 媒介語を用いない導入で、特に注意が必要なのは、提示の仕方によっては、生徒が意味を十分理解できなかったり、誤解したりする恐れがあるということです。例えば、「とけい」という言葉を教える場合、自分が身につけている腕時計を示しただけでは、「とけい」の意味の一部分しか表しておらず、正確に意味を伝えたことにはなりません。ですから、この場合は、腕時計とともに、置き時計や掛け時計なども同時に提示しなければなりません。しかし、そうなると、準備が大変ですから、結局、実物より絵カードを用いたほうが効率的だということになります。 また、「大きい」という形容詞を導入する場合は、黒板に大きい円を描くだけでは不十分です。その横に小さい円を描いて、初めて「大きい」という意味が確定するのだということを知っておくべきです。そして、「長い」を、実物の鉛筆で導入する場合も、「長い」鉛筆と「短い」鉛筆を用意しなければなりませんが、その際、できるだけ2本の鉛筆の太さや色も同一にしておく配慮が必要です。 「こ・そ・あ・ど」や「あります」、「あげます/もらいます」などの文法項目を導入する際には、実物が効果的です。しかし、特に、「あげます/もらいます」を、実物のやりとりだけで導入する場合は、「渡します/受け取ります」や「貸します/借ります」と誤解されないように導入しなければなりません。「あげます/もらいます」が「気持ち」のやりとりであることを理解させるために、「もらう」動作のあとに、「ありがとう」という言葉を付け加えたり、「貸します/借ります」と混同しないように、やりとりする物を、「貸し借り」の可能性のある「本」ではなく、「花」や「食べ物」にするなどの方法が考えられます。 媒介語を用いない導入の場合でも、意味の理解不足や誤解を避けるため、また、生徒の不安を取り除くため、授業後に、日本語と媒介語を書いたリストを渡すこともあります。いずれにしても、生徒の負担が大きくならない程度に、媒介語を用いない導入を取り入れて、生徒のコミュニケーション能力を向上させるよう努めてください。 山口敏幸
(国際交流基金派遣日本語教育アドバイザー) |