環境活動家のテンダーさんは、生態系の再生と人びとの日常の困りごとの解決を同時に可能にする技術や仕組みを研究し、世界の人たちと共有しています。この連続講座ではその一部をおすそ分けしてもらいます。
といっても、ただテンダーさんの手法をなぞるわけではありません。一人ひとりが手を動かし、つぶさに観察し、得た情報と自分の知識を照らし合わせ、思考を働かせ、仮説をたてて実験することをたっぷり体験します。それは、お金や消費社会といった既存のシステムの構造を知っていく道のりでもあり、自分の生きかたをオルタナティブな視点から考える機会にもなるかもしれません。
▶︎ このオンライン講座の趣旨は「テンダーさんのその辺のもので生きるオンライン講座、はじまるよ!」をご覧ください。
軽く、丈夫で、便利であるものの、分解しにくいその特性が環境や生物に悪影響を与えることがわかってきたプラスチック。テンダーさんはプラスチックを再利用することで、環境への負荷を軽減する「プレシャスプラスチック」という世界的な活動に加わり、プラスチックの活用を考えてきました。今回の講座ではその技術をお裾分け。ゴミとして捨てるしかなかったプラスチックも、それぞれのプラスチックの性質を知れば、再び道具として復活します。
目次
1. プラスチックを扱う前に
「皆さん、日本の水道水は10万人に1人ががんになることを許容した商品であることをご存知でしょうか? 水道法にはそういう風に書いてあります。なぜ10万人に1人ががんになることを許容するかというと、無限にコストをかけることができないから。
ものすごい高価なフィルターや施設があれば、より有害性の低い水を届けられるかもしれないけれど、その場合、水道水のコストはぐっと上がっちゃう。仮にそんな水をつくれても、住民の10%しか買えなければ意味がない。安価に多くの人にとって極めて安全性の高いものを提供するという水道法の目的が満たせなくなる。
だから、ほどほどのコストで、ほどほどの綺麗さを得られるバランスをとる、というのが水道水のあり方なんです」
もうひとつ付け加えておくことがある、とテンダーさんは続けます。
「当たり前のことだけど、水道水の事情を知っていても知らなくても、毒性は変わらないんです。知っていて対策する人も、知っていて対策しない人も、知らなくて対策しない人もいる。でも、そもそもの『水道水の毒性自体』は何も変わらない。それが今日の話の前提にあります」
「水道水を例にあげることで何が言いたいのかというと、毒性のないものを得るのはめちゃめちゃ大変だっていうこと。そもそも毒物って何かというと、16世紀のパラケルススという学者はこう言っています。
『全てのものは毒だ、その量のみが毒を毒じゃなくす』。
例えば塩は大さじ13杯で致死量。水だって20L飲むと人は死ぬ。量が毒を決めるっていうのが、現代的な毒っていうものの考え方の基礎でした。
……だったんです。
だったのですが、、、
……というところから今日の講座は始まります」
「さてはて、皆さんのお手元に4層で中に活性炭が入ったマスクは届いていますか?
プラスチックを溶かしたときに出る有害とされるようなものは、おおむね活性炭で吸着できます。鼻や顎には隙間ができますが、今日やる作業では溶かした瞬間に地域住民全員全滅! みたいな猛毒のガスは出ません。もっと言うと、厚労省なりの試算からすれば、溶かして出るガスの毒性はほとんどない、と言えるレベルです。
しかし、国や企業が出している安全基準が本当に信頼できるものなのかっていう話もあって、ここ20年ぐらいの研究によれば、どうやらプラスチックの中に入っている有毒成分は、パラケルススが言った『量が毒を決める』っていうルールを無視している可能性がある。
だからマスクをお守りとしてつけてください。たぶん日本に暮らしてメディアを見ていたりすると、身の回りに毒って無いような印象で日々を過ごしていると思うのですが、俺は全然そんなことはなくて、毒だらけだと思っている。それを実感して欲しいっていうのも、今回の講座にはあります。
何も危険なことに皆さん巻き込むつもりは全くないけど、1度体験してみてもいいことだと俺は思っています。嫌なときはもちろんやめてください。今日は具合が悪いから見るだけにしよう、でも全く構いません」
2. プラスチックってなんだ?
「皆さん、これはなんですか?」
<参加者> 「ペットボトル」
「それじゃあ、今見せているこれは何ですか?」
<参加者>プラスチック。
「なるほど、プラスチック。それでは、これ何ですか?」
<参加者>「プラスチック」
「じゃあこれはこれは?」
<参加者>「塩ビ管?」
「え! 最後のはプラスチックじゃないの!? どれもこれもプラスチックって呼んでいるのは、
『どうやってうちにくる?』って聞かれて『乗り物で行く』と答えるようなもの。自転車か、車か、飛行機か、わからない。大ざっぱすぎるの。
例えば、ペットっていうのはポリエチレンテレフタレートっていう、化繊のポリエステルと似た材料です。だからペットボトルをリサイクルして衣服にしたりする。今見せているピッチャーの素材はポリプロピレンです。PP。
このマヨネーズの袋もポリプロピレンって書いてある。表記を見るとボトルはポリエチレン、キャップはポリプロピレン。
ポイントは、ポリエチレンとポリプロピレンは毒性が低いこと。だから食器や赤ちゃんが使うものに多く、世界で最も生産されているプラスチックでもある。ペットのポリエチレンテレフタレートも有毒性はない、あるいは低いとされています」
「なぜか塩ビ管は具体的な名前になりましたね。雨水タンクの講座で使ったからかな。塩ビっていうのはPVCと書きます。ポリ塩化ビニル。これはすごくややこしくて、塩ビ管もそうならお風呂に浮かべるアヒルのおもちゃも塩ビなんですよ。水道管は硬質塩ビ。お風呂のアヒルや柔らかいシートの大部分は軟質塩ビ。事務机の上に敷く透明なシートも、消しゴムも塩ビです。ただし、硬質塩ビと軟質塩ビはまるで違う特性を持っている。
硬質塩ビのうち基本的に水道管として使われているものは、燃やせば塩素ガスが出るけど燃やさなければほぼ無毒。しかし、軟質塩ビはフタル酸エステルという添加物が入っていて、発がん性や生殖毒性が疑われている。プラスチックはいろんな用途に合わせて紫外線に強い添加物や硬さを変える添加物、お互いにくっつかないための添加物を足す。そして、問題はその添加剤に毒性が強いものがあるってことなんです」
見せておきたいものがある、とテンダーさんが取り出したのは、ポリスチレン製の弁当の蓋。ここにマヨネーズをつけて加熱すると……マヨネーズが付いている部分が溶けて穴が空きました。
「ポリスチレンを加熱して高温になると、ひしゃげます。みんなもお弁当をレンジにかけて、容器がグニャグニャになったことがありますよね? そんな温度になったときに油分が付着していると、ポリスチレンは溶けてしまう。溶けるだけならいいけど、そこに食べ物がくっついていたら、ポリスチレンから溶け出した何かも一緒に口にすることになる。
そして、ポリスチレンについては、毒性を疑う資料がある。
フィンランドではポリスチレンの工場で働く女性の流産の割合が国全体の約2倍になったという報告がある。カナダにはプラスチック工場の中のスチレンの関連作業者76名だけが流産発生比率が1.5倍になったっていう話がある(→資料)。日本でもスチレンは生殖毒性を示す証拠が認められていて、政府がGHS*1 という区分でスチレンの生殖毒性を1Bに分類*2しています」
*1
GHSは、2003年7月に国連勧告として採択された「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)のこと。化学品の危険有害性を世界的に統一された一定の基準に従って分類し、絵表示等を用いて分かりやすく表示し、その結果をラベルやSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)に反映させ、災害防止及び人の健康や環境の保護に役立てようとするもの。GHS文書は2年に一度改訂されている。
*2
EUのCLP(GHSをベースにEU域内の化学品の分類、表示、包装について定めた規則)では、生殖毒性は区分2に分類されている。
3. プラスチックの見分け方
「プラスチックを見分ける簡単な方法は、本体やラベルを見ること。海外のものはしっかり書いてある。
1番がこれはペットね。ペットボトル。PETとかPETEとかPETGなんかもある。添加物の種類によって変わります。
2番がHDPE。ハイデンシティポリエチレン。高密度ポリエチレン。水や空気を通しにくい素材です。
3番がPVC。塩化ビニルね。水道管。
4番がローデンシティ、低密度なビニール袋とか低密度のポリエチレン。
5番がポリプロピレン。
6番がポリスチレンです。ポリスチレンはお弁当の蓋とか。
7番OTHER。これ以外のすべて。ちなみにOTHERはめちゃめちゃ種類あります」
「対して日本の表記。ここにさ「プラ」、「PS」って書いてあるのが見える?
日本は世界のルールにのっとってないのですごくリサイクルしづらい。先ほど説明したようにポリスチレンは有毒性が疑われているプラスチックです。でも、お弁当の蓋に使われています。ポリスチレンの見分け方はすごい簡単。握ったときにクシャクシャクシャって音がする。そして、ポリスチレンは指でちぎれる。ポリスチレンは常温で割れたりヒビが入るのも特徴です」
「ペットボトルがある人は握ってみてください。ペポン、ペポンって音がするでしょ? それがペット。豆腐の器などに使われるポリプロピレンはペットに音が似るけど、折り曲げると白濁する。厚みのあるものは必ず透明じゃなくなっていくのがポリプロピレン。
ポリプロピレンとポリエチレンは見分けは難しい。見た目ではほぼ判断できない。ご家庭での利活用にあたって重要なのは、ポリスチレンは有毒なのでリサイクルしづらい*。ポリプロピレンやポリエチレンは使える。ペットは扱いにくい。だから、今日は主にポリプロピレンとポリエチレンを扱います」
*一般にはリサイクルされている。ダイナミックラボではしない。
4. プラスチックと温度の秘密
「さて、プラスチックの見分けで使う簡単なやり方はアイロンを使うこと。一般的なアイロンはだいたい200℃位まで行きます。高中低の目盛りで中にすると、だいたい150℃前後位になるでしょうか。そしてこれがサーモカメラ。これで測ると……温度は150℃です。ペットボトルキャップをあてるとネチョーっとはならないけどちょっと変形する、ってことはペットボトルキャップはポリプロピレンだ、とわかる。ポリプロピレンは160℃前後でネチョっとしはじめる。
そしてポリエチレンは140℃前後でネチョっとするから、150℃のものに当てるとどちらかわかる」
<参加者>「あ、融点が違うってこと?」
「いい言葉が出ましたね。プラスチックではガラス転移点とビカット軟化点というのがあります。ちゃんと説明すると難しくなるのでイメージで言うと、樹脂にはゴムの状態とガラスの状態と2種類ある。ビカット軟化点というのはプラスチックが柔らかくなる温度で、ガラス転移点は固くなる温度。ポリプロピレンは常温がゴム状態だから、曲げると割れずに変形する。ポリスチレンは常温がガラス状態なので割れちゃう、みたいな理解です。ポリプロピレンのガラス転移点は確か0℃だったので、冷凍庫に入れてから叩いたら割れるかもしれない」
「そしてここで取り出すのがポリエチレンの袋。これは150℃で溶けちゃうんだよ。ほら。それでは130℃前後で当ててみると……ちょっと変形するけど溶けるというか柔らかくなる。つまり、ビカット軟化点。今、皆さんはビカット軟化点を目の当たりにしていますよ!
こんなふうに、ポリプロピレンとポリエチレンがあったときは、溶ける温度によってそれが何かを大まかには判別できます。しかし、これを大量のプラスチックごみに対してやるのは大変なので、産業的には赤外線を当てて返ってくる光の周波数分布で素材を判別するプラスチックスキャナーが使われています」
5. リサイクルして、何を生み出す?
ぜひ見て欲しいものがある、とテンダーさんが見せたのは、ダイナミックラボにあるプラスチックを再利用するための機材を集めた部屋。なかにはプラスチックの破砕機や、プラスチックを砕いたペレット、射出成型機などが並んでいます。
これらの機器の大元のアイデアは「プレシャスプラスチック」という、プラスチックのリサイクルを推し進める世界的な団体が考え出したもの。団体の趣旨に共感したテンダーさんは、オープンソースの設計図からそれぞれの機器を自作して使っています。
「プラスチックの語源はギリシア語のプラスティコスという言葉で、可塑性のある、作り直せる、っていう意味なんです。プラスチックは大量生産大量消費の代表選手のように扱われていますが、本来は何度でも使えるのがプラスチックなわけです。
それをもう一回プラスティコスに変えて行こうぜ、っていうのが『プレシャスプラスチック』というプロジェクト。オランダのデイブ・ハッケンスさんが立ち上げ、プラスチックをリサイクルする機械や技術のノウハウを公開するオープンソースプロジェクトです。これが今、世界で最も成功したハードウェア・オープンソースの事例と言われています。そしてダイナミックラボが日本で最初に取り組み、プレシャスプラスチックジャパンとして活動を始めました」
「この部屋の見どころは射出成型機なんだけど、みんなが目を惹かれるのはこっち(写真左)。
砕いたペットボトルキャップのペレット(粒)を保存している棚。カラフルでしょ?
プラスチックのゴミを集め続けて得た理解のひとつが、色の力。色は人の行動を左右する力を持っている。仮に、このキャップが全部白や黒だったときは、人の目が留まったりしない。
プラスチックが安くてカラフルであることが、プラスチック問題を引き起こす大きな要因になっていると思う。
カラフルだと手にしたくなり、安いから簡単に捨てる。リサイクルしたものでも、やっぱりみんな、綺麗なもののほうが好き。
例えばこれ(写真下)はうちで作ってるペットボトルキャップのアクセサリーで、1個あたりペットボトルキャップを2つ使うんだけど、これの価値は色とストーリー、プラスチックがリサイクルされたっていうこと以外にどの程度あるのかな、と考えたりもする。
色もストーリーも、人間の側の理由なんです」
「日本のプラスチックのリサイクルの現場はエコでいいじゃん、アップサイクルいいじゃん、レベルで終わりがちです。日本でもプレシャスプラスチックやダイナミックラボの取り組みにヒントを得た人や会社が、漂着ゴミからカラフルな器を作ったりしてるんだけど、『ゴミをリサイクル』ってストーリーを売り物にしがちです。
中には関東の会社で、鹿児島の漂着ゴミを集めて素材にする、なんてところもあるけど、鹿児島から燃料を使って遠隔地に輸送して成型し、それをまた燃料を使って送り返す、となると何のためのリサイクルなのか、となる。
それに、プレシャスプラスチックは個人の利益のためじゃなく、世界的な問題を解決するためにオープンソースの設計図を公開して共有している。日本のリサイクルに取り組む人は、アイデアをもらいながらオープンソースにタダ乗りして儲ける人が多い。プラスチックはただリサイクルすればいいというものではない。何のためにリサイクルするのかは常に問われると思う」
「プレシャスプラスチックがすごいのは、今まで高価だった射出成型機を2〜3万円の材料費で作れて、ゴミから別のものを生み出すところ。砕いたプラスチック片を上から入れ、温度調整機能のあるヒーターで熱し、アームを押し下げて溶けた状態のものを金型に流し込んで新たな製品を作り出す。
一般的な工場では、これもより高性能なものが使われているだけで、プラスチックの成型の基本は、俺が自作したものと同じです。
そして、プラスチックを大量生産できるようにした立役者こそ、この金型。金型があるから、同じ大きさ、形のものを安価に大量に作り出せるようになった。
今まで金型は1個100万円もして、保管時は金庫に入れておく、みたいな世界だったんだけど、金型をアルミで作ればアルミ缶などのアルミごみから自力で作れます。俺はそうやって作っています」
6. プラスチック工作・実践編
6-A. ポリスチレンをプラ板にする
「さて、プラスチックの基礎知識を頭に入れたところで、いよいよプラスチックの再利用のワークショップです。素材はポリスチレン。さっきも言ったとおり、毒性があることが疑われるので、やりたくない人はしなくてもOKです。こんな感じで平らな部分を切り出したら、マジックペンで絵を描いてください。絵を描いたらオーブントースターか電子レンジのオーブンモードに入れると、ぐっと縮みます」
加熱しておもしを載せて成型すること数分、ポリスチレンの板は縮んで、そのぶん厚みが増しています。もちろん、描いた絵もひとまわり小さくなっています。昔ながらの子供の遊び、プラ版と素材も遊び方もまったく一緒、とテンダーさん。
「結局、プラ板で何が起きているかって言うと、これが元の厚みなんですよ。商品になる前のお弁当の蓋の厚みに、熱したことで戻る。だから、もとから分厚いポリスチレンの場合はそんなに変わらないってことになります。それではみなさん、実践してみて」
<参加者>「加熱時の換気は気にしたほうがいいですか? あと、レンジやオーブンでポリスチレンを熱したあと、料理に使っても大丈夫でしょうか……?」
「たぶん大丈夫……というか皆さん、ふだんお弁当をレンジにかけてるでしょ?」
<参加者>「そうだった!」
グループに分かれてプラ板を作ってみると、仕上がりはまちまちに。うまくいった人、丸まってしまった人、丸まったけれど、力技で成型した人……。
「こういう熱成型は、勢いと時間勝負。でも、失敗しても大丈夫。素材はプラスティコスだから、熱して何度でも整えればいいんです」
6-B. ペットボトルから化学繊維
ポリスチレンのプラ板の次に取り組むのは、ペットボトルから作る化学繊維と、ポリエチレンの袋を素材にしたカードケース。
前者はペットボトルのかけらを熱して、溶けかかった瞬間につまんで一気に引き伸ばすと、細く透明感のある繊維ができました。手作りの化繊!
6-C. ポリエチレン(ビニール袋)からカードケース
後者は細かく切ったポリエチレンをクッキングシートで覆い、アイロンをかけて1枚のシートにします。シートにしたあとは型紙に合わせて切り出し、カードケースに仕立てますが、注意したいのが素材の選定。ポリプロピレンとポリエチレンの見分けが肝心だ、とテンダーさん。
「何でこれを判別する必要があるかって言うと、最初にお見せした通りポリプロピレンとポリエチレンは融点が違うので、同じ温度では溶けない。一番よい方法は『PP』や『PE』と書かれた表記を探すこと。食品包装に使われているのはポリプロピレンが多いですね。ポリエチレンはあんまり高温にするともうみるみる縮んでいくので、思っていたデザインにしにくい。ポリプロピレンでやるんだったらポリプロピレンのみ、ポリエチレンでやるんだったらポリエチレンのみをお勧めします」
カードケースづくりは時間をかけられたぶん、ほとんどの人が成功しました。
工作編を締めくくるのはアクセサリー作り。ペットボトルキャップから切り出したペレットでペンダントトップを作ります。
6-D. ポリプロピレンからアクセサリー
「アクセサリーの枠と、クッキングシートと台をご用意ください。用意する間に、アイロンの目盛りを強にして温めておきます。一番高い温度でいいと思います。アイロンが温まるまでに、枠の中に砕いたペットボトルキャップのペレットを入れる。枠から少し盛り上がるくらいでいいです。そして、アイロンが熱くなったらクッキングシートで覆ってアイロンでプレス! ペレットを溶かしてぴったり枠に収まるように調整します。溢れちゃったらアイロンで角をゴリゴリやれば、余計な部分が切り落とせます。それではやってみよう!」
アクセサリー作りで難しいのはペレットの量の調整。枠より高く盛り上げても、溶けて隙間がなくなると枠より低くなってしまうことに皆さん苦戦している様子。
「細かい部分は最初に密に盛ると欠けにくくなります。枠の高さよりも肉が痩せたら、新たにペレットを追加して表裏を返しながら熱してください。これを私は「追いプラ」と呼びます。追いプラを続けると、あるタイミングで高さがぴったりになります。クッキングシートを剥離剤がわりに使っていますが、裏技としてアルミ缶から切り出した板で押さえると、表面がもっとツルッと仕上がります」
7. プラ製品の直し方
「さて、ここまでにポリエチレンからプラバンを作り、PETから紡績し、ポリエチレンを溶着し、ポリプロピレンでアクセサリーを作りました。体験した通り、プラ製品はプラスティコスなので、壊れたものも直せる」
そう言うとテンダーさんは、陽に焼けたポリプロピレンの板を取り出しました。表面は劣化してささくれています。
「これをどうするかというと、ヒートガンで炙る! よく見てください。色が変わってきたの、わかりますか?」
<参加者> 「おぉー!」「色が青くなった。」
「炙ることで、表面のザラザラが溶けて埋まるんですよ。ポリプロピレンは紫外線があたると表面から脆くなっていくんだけど、炙るとそれがもう一回ふさがるんですよね。
炙る以外の再生の手段が、クレポリメイト。これはプラスチック復活剤などと呼ばれている艶出し材です。シリコンと対紫外線剤が入っていて、驚くほど表面が綺麗になります……が、対紫外線剤は大体有毒ですね」
もうひとつ、ポリプロピレンの根本的な直し方としてテンダーさんが紹介したのが、プラスチック溶接でした。市販のポリプロピレンのシートを短冊状に切り、つなぎたい部分と一緒に短冊をあぶって溶かすことで、割れなどを補修できるといいます。
「これ(プラ溶接機)はガスの火が出るんじゃなくて、500~600℃の熱風が出ます。くっつけたい対象の両方を炙って、短冊を押し付けながら肉を盛っていく。ポリプロピレンと同様に、ポリエチレンとか塩ビはできるけど、他のプラスチックではうまくいかないこともありますね」
8. プラスチックをめぐる思想
「これからプラスチックについて俺が考えたことを話します。すごく複雑な内容ですが、物事自体が複雑なので、そういうものだと思ってほしい。そして、希望に満ち溢れた話でもありません。話した内容をどう判断するかもお任せします。
まずは、プラスチックの添加剤の話から。この地球では木材は腐るし、紫外線はいろんなものを劣化させるし、物に好きな色を無制限に付けられるわけではないし、一つの材料を好きなだけ柔らかくしたり硬くしたりできない。硬さに応じた重さがあり、物の性質に応じた色がある。それが地球のありようだと俺は思っています。そして、添加剤はそういうことを無視したり超えていく試みなのだと思う。それをした結果、多様な色と形をした紫外線で劣化しにくいものが大量に作られ、大量に廃棄されている」
「人間はとても脳の力が弱いので、深く考えることと、望まない結果について誠実に考えを深めることが難しい。紫外線で劣化しにくいものを作ってしまったら、紫外線で劣化しないまま環境にどんどん、どんどん、どんどん蓄積するってことまで考えて、プラスチックを生産できるほどは賢くなかった。今やっと『いや、それじゃあ問題だろう』という人たちも現れ始めて、SDGsでプラスチックどうしよう、ああしようこうしようっていう話にもなってきているところなんです」
「さて、ここで最初にお話ししたパラケルススの『量が毒を決める』という言葉を思い出してください。
アメリカのワシントン州にピュージェット湾という海があって、そこに棲むギンザケは一時期ほぼ壊滅したことがあったんですね。膨大なお金と時間をかけた研究の結果、大雨が降った後にサケが死ぬことがデータの蓄積で分かり、最終的に車のタイヤに含まれている耐オゾン剤「6PPD」が原因であることがわかった。「6PPD」自体はサケに対する毒性はないんだけど、「6PPD」がオゾンと反応して「6PPDキノン」という物質に変化すると0.8μg/L、1L当たり100万分の0.8gでギンザケの半数致死量になることが分かった。科学者たちが何人も集まって、潤沢な資金を使って、原因物質をたくさんの化学物質の中から見つけ、しかもその物質が道路上で変化した結果毒になったとわかるまで十数年かかっている」
「パラケルススの話は、この今俺の左にあるグラフ*のように、毒物の量が増えれば増えるほど毒性は上がるっていう認識だったんですよ。かつ、少ない方に関しては無害性量、LOAELと呼ばれる考え方があって、何ミリグラムまでは一切毒を発生しない、といった考え方をする。それがパラケルススの『量が毒を決める』っていう話の毒性学の基礎だった。
しかしプラスチックの添加剤に使われる内分泌かく乱物質達はどうやらそうじゃないようだとわかりはじめた」
*『Nature ダイジェスト』2013年1月号に掲載された記事「環境ホルモンをめぐる攻防」内のグラフ「奇妙な容量 ー 反応曲線」の「単調な曲線」をご参照ください。
「代表的な例がBPA。ビスフェノールAです。
透明な屋根材として使われるポリカーボネートは、ビスフェノールAを固めたものです。あとはトマトの缶の内側の、缶が酸化しないためのコーティングもビスフェノールA。食品に接するところにも使われていたけど、フォムサールっていう学者さんたちが調べていくと、ビスフェノールに関しては25μg/Lの時に一番毒性が上がってその後下がることがわかった*。他の毒とはグラフの描き方が違う。研究では高容量では細胞死も起こるそうです。でも、政府や大企業の中には低容量仮説を否定する人たちもいる」
*『Nature ダイジェスト』2013年1月号「環境ホルモンをめぐる攻防」
「『危険性がわからないから、近づかない』という対処法もあると思う。その時にすごく重要なことは、俺たちが直面している人生の危険はマイクロプラスチックの中の内分泌かく乱物質のみなのか、ということ。
今日みたいにポリスチレンとポリプロピレン触った、ポリエチレンの雰囲気がわかるようになったって繰り返すなかで、『あっ、添加剤っていうのがあるんだな』、『添加剤っていうのは環境ホルモン物質を含むんだな』などと扱える知識が増えることで理解が及ぶようになっていく」
「だから触れて知るプロセスは必要だと思う。プレシャスプラスチックは、それ自体が問題を解決してくれる錦の御旗ではなくて、俺たちがあまりにプラスチック愛がなさ過ぎて、プラスチックは使い捨てみたいに扱ってきたことに対して、こうやればもうちょっとそういう材料とも仲良くなれるよ、という切り口としてすごく有効です」
「プラスチックのはらむ危険性を指摘する有名な本では『塩ビ管はフタル酸エステルを含むから危ない』と警鐘を鳴らすものがある。しかし、水道用の塩ビ管は規格としてフタル酸エステルを含まないことになっている。もっと言うと、実験研究用途で使う水を運ぶ、水道水よりはるかに要求の高いことに使える塩ビ管がホームセンターで買えたりもする。警鐘を鳴らしたいあまりに、調べずに嘘を書いてしまっている。
プラスチックだからダメ、塩ビ管だからダメなわけじゃなくて、一個一個見ないと危険性はわからない。本当に気になるんだったら、添加剤を一個ずつ調べていくしかない。もちろん、見たり調べてもわからないことは無限にあるのだけど。
重要なのは『自分たちは何も知らない被害者なんです』といった態度ではなくて、自分で調べること。今は環境省の出している資料だって、海外の論文だっていくらでも読める。英語を読めない人には機械翻訳がある。その気になればあらゆる言語の情報にアクセスできる。手にした情報を指針にして何をチョイスするか。それがプラスチックの時代だと思っています」
「今日は、毒の話から始めて、目の前で立ち上る微量な添加物を気にしながら講座を行いました。
でも、今日扱ったプラスチックに含まれる物質よりも圧倒的な量の毒性のある物質が、日夜、空や海に流されている。そして、そっちのほうが社会にとって今のところ影響が大きいと俺は思う。でも、そこにアクセスするためには最低でも今日ぐらいの話を一人ひとりが理解しないと議論もできない。道のりが長いんです。あまりに生産する側と使う側の距離が離れすぎていて、今はまだ議論ができない。だから議論のテーブルまで一緒に歩いていきましょうよっていう講座でした!」
9. 講師コメント
「テンダーさんのその辺のもので生きる」オンライン講座では、希望する参加者は講座終了後もオンラインコミュニティ「Discord」で、復習の成果を共有したり、わからないところを質問し合うことができます。講座を体験した人たちが知恵を交換する自主的なコミュニティが形成されていくことを目指しています。
このオンライン講座は、2023年3月まで続きます。
▶︎ 全講座のスケジュール
▶︎ これまで実施した講座のレポート
– 第1回「アルミ缶を使い倒そう」
– 第2回「棒と板だけで火を起こそう」
– 第3回「3D設計と3Dプリントを覚えて、必要なものを作ろう」
– 第4回「雨水タンクを作って、水を自給自足しよう」
– 【前編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第5回「システム思考を身につけて『しょうがない』を乗り越えろ!」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 【後編】 第6回「その辺の草からロープを作ろう。ロープができれば暮らしが始まる」
– 秋の特別編「その辺のもので生きるための心の作法 〜『正しさ』を越えて」 (テンダーさん執筆) new!
– 第7回「プラごみから必要なものを作る」
– 第8回「キッチンで鋳造を始めよう!」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第9回「鉄工を身につけて強力なストーブを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第10回「きみのためのエネルギー。 実用パラボラソーラークッカーを作って太陽熱で調理する」(テンダーさん執筆) new!
– 【前編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【後編】 第11回「交渉を学び、こころざしを護る」(テンダーさん執筆)
– 【前編】 第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 【後編】第12回「生き物の輪に戻るためにドライトイレを作ろう」(テンダーさん執筆)
– 第13回「当たり前を変えよう、大切なものを守ろう」(テンダーさん執筆) new!
[取材・執筆 藤原 祥弘]
[編集: テンダー]
[事業担当: 室中 直美]
事業データ
「プラごみから必要なものを作る」(テンダーさんの「その辺のもので生きる」オンライン講座第7回)
2021年12月26日(日)
オンライン
TJF
テンダーさん(環境活動家、生態系の再生と廃材利用のための市民工房「ダイナミックラボ」運営)
https://sonohen.life/
中高校生〜大人 30名(日本、オーストラリア、スイスから参加)
井上美優さん、堀江真梨香さん、南平直宏さん、松尾郷志さん、森下詩子さん
私は環境活動家として16年、プレシャス・プラスチックを5年続けてきた中で、つまるところ2つの問いを持つ/もしくは自覚的であることが、問題を捉えるうえで最も重要な指針だと思っています。
それは、
「目的は何か?」 「対価は何か?」
の2つです。
例えば、「プラスチックが生産されるようになって、中流階級が発生した」という話を私は聞いたことがあります。それまでは手作業による一点ものばかりだった世の中では、たくさんの道具を持つことそれ自体が富であったわけです。プラスチックの登場により安価で機能を満たす道具が大量に生産され、それによって中流階級が生まれたと。
「人々の暮らしのレベルを底上げすること」が目的だったら、プラスチックの誕生は肯定されるものになります。むしろ、人々の暮らしをここまで底上げした発明は他にないかもしれません。そしてその対価は
・「平易に分解されないためにゴミとして長期間残る」
・「野生動物が誤飲し、死ぬ」
・「プラスチック自体や添加物が、毒性を含む可能性がある」
などとなります。
ここで発生する第一の問題は、目的を満たすためにプラスチックを暮らしに取り入れた人が、直接対価の全てを引き受けるわけではない、ということです。野生動物はプラスチックの恩恵をおそらく何一つ受けないが、対価を肩代わりさせられ続けています。
この時に、それは「倫理として」、あるいは「社会正義(social justice)として」やってはいけないことだ、と思える人が多ければ、問題は収束に向かうでしょう。
もしくは一歩だけ譲歩するならば「目的と対価が見合わないからやめよう」という論点も成立するでしょう。
ところがおそらく、我々人類はそのどちらにも考えは及ばずに「安いからいいじゃん」くらいの感覚でプラスチックを使い続けているのが現状だと思います。
プラスチックは、採掘された原油から金型によって成形され、大量生産と大量流通の仕組みによってあなたの元までやってきます。
それはいわば「 外部化の極み」であり、自分のできることを増やし、たくましく生きようという姿勢とは真逆のものです。大量生産のプラ製品があなたに発しているメッセージは以下の通り。
「あなたは何もできるようにならなくていい。
なぜなら作るのがバカバカしいほど、安く私を買えるから」
ところが、そんな外部化の極みであるプラスチック製品に、工芸としての切り口を与え、自分のできることの領域に組み込もうとする試みがプレシャス・プラスチックなのだと私は思います。一言で言えば「とんでもなくクール」です。
そのプレシャス・プラスチックでさえ、日本では「なんかかっこいい」「新しい」「アップサイクル」「エシカル」程度の文脈で消費されています。
この文脈の目的は「新しい消費を先取りすること」、
対価は「問題を解決できないこと」
プレシャス・プラスチックへの人々の、特に日本の人の関わり方は、私には「環境問題に対する誠実さの試金石」のように思えてならないのです。
環境問題は自己実現のためのツールではなく、自分よりも幼い人々が明日をどう生きるか、そもそも生きていけるのかを、これまで好き放題やってきた者たちが自己を顧みて責任を取ることでもあります。それがどうして、後進の未来を奪っておきながら、好き放題やってきた自分たちの自己実現や名誉欲を満たすことに、なお使おうとするのか。
ここまでお付き合いいただいたみなさんには、今後何か引っかかるリサイクルやエシカル、アップサイクルといった事例を見かけたときは、ぜひご自身にも、相手にも問うていただきたい。
「それをやる目的は何か?」 「その対価は何か?」